巻頭言 森 正樹 土岐教授と私で大阪大学消化器外科学講座を担当させていただき、早くも 3 年が経過しよ うとしています。時日の経つのは本当に早いことを実感しています。 この巻頭言を書いていた 3 月 11 日に東北関東大震災が発生しました。未曾有の大災害で、 お見舞いの言葉もありません。2 万人近い、あるいはそれ以上の方々の貴重な生命を瞬時のう ちに奪った地震と津波は本当に凄まじいです。東北沿岸の太平洋海底で 500 キロメートルにわ たり、三カ所で連動する形で地震が発生したということで、このような地震の起こり方は全く の想定外だったということです。その想定外の災害は原発の事故をも引き起こし、世界的に深 刻な問題になっています。準備を怠りなくしていると思っても、人間の力や備えは自然の猛威 にかかっては全く無力ということを露呈しました。復興には多大の時間、労力、費用がかかる ことでしょう。そして被災者の身体的、精神的なケアーを長期にわたり如何に行うかが、医療 従事者に課せられた課題です。そのような深刻な事態にあってもわれわれは医師として、研究 者として、また教育者としての責務をそれぞれの持ち場で黙々と果たしていかねばなりませ ん。明るい日本を一刻も早く取り戻すために。 私は阪大消化器外科を担当するにあたり、「強い大阪大学消化器外科」を造りたいと言って きましたし、折に触れてその点を土岐教授と再認識しあっています。 「強い大阪大学消化器外 科」とは他大学からは「阪大はすごい」と言ってもらえること、仲間からは「阪大の仲間で良 かった」と言ってもらえるようにすることと思います。「阪大はすごい」と言ってもらうために は、国内外に情報を発信し続けること、それも抜きんでて発信し続けることが必要です。その ためには学会での発表、英語論文での発表が重要であることは折に触れて話して来ました。特 に英語論文を筆頭著者として発表することは何より大切です。スタッフは年 2 編、大学院生は 年 1 編を発信するように努力してください。一年で 1 編も英語筆頭論文が出ない人は、貴重な 情報を発信する義務を怠っているため、大学にいる資格がありません。自分自身の存在を大き くアピールして欲しいと思っています。 文部科学省や厚生労働省の科学研究費の採用にあたっては、プロジェクトの質・内容と遂 行力が客観的に評価されるようになりました。昔は作文が上手ければ採用された、ということ がありましたが、昨今は中間評価が厳しくなり、内容とともにその遂行力が厳しく評価される ようになっています。遂行力とはすなわち論文できちんと発表していることを意味します。で すからここでも英語原著論文が重要ということになります。英語論文をきちんと発表し続ける ことが、新たな研究費獲得の最重要ポイントになっています。患者さんの診療、学生教育、そ の他もろもろの医局用務などは、どれも大変な業務です。しかし大学にいる限りはそれに加 え、新しいことを考え、発表し続ける姿勢と実際に成果を挙げることが何より重要です。くど いようですが現在大学で頑張っている人は、あらためてこのことを認識するようにしてくださ い。 強い大阪大学消化器外科を造るもう一つの大事な点は新人確保です。元気の良い新人が沢 山仲間になってくれることは、教室の活気を生む上で何より重要です。医局長はもとより、医 局の皆さんは是非新人発掘に協力し、一人でも多くの知り合い、後輩に阪大消化器外科をアピ ールし、仲間になってもらうよう尽力してください。関連する多くの病院から医師派遣の依頼 がありますが、応え切れていない現状があります。地域の足固めが十分できてこそ、世界にア ピールできる余裕が生まれます。教室員が少ない中で世界へのアピールを力説しても空回りに なりますから。 「Act locally, think globally」です。 前回の同窓会誌にも書きましたが、具体的に頑張るに際しては、短期・中期・長期の具体 的目標と計画をしっかりと立てることが重要です。1 年後の自分はどうなっているか?5 年後 は?そして 10 年後は?その頃の自分を漠然とではなく具体的に想像してみてください。しかも できるだけ高いレベルの自分を想像してください。その想像した具体像の達成のためになすべ き事を考え、そして行動することが肝要です。目標達成に向けて最大限の努力をすることを期 待しています。
© Copyright 2024 ExpyDoc