Vol.139 企業年金豆知識

Vol.139
企業年金豆知識
2016.11
明治安田生命保険相互会社 総合法人業務部
東京都千代田区丸の内2-1-1
今回のテーマ:ポートフォリオ策定のアプローチについて
年金運用の世界では、年金制度の予定利率水
準(負債利回り)に合わせた期待収益率を持つ
ポートフォリオを策定して運用されることが
一般的です。しかしながら、実際の運用におい
ては、見込んだ期待収益率を獲得することは非
常に困難であることはご承知のとおりです。今
回は、一般的に用いられている最適化したポー
トフォリオ策定手法の限界と、リスクからアプ
ローチしたポートフォリオの策定について解
説します。用語解説コーナーでは「リスク要因
別の管理」について記載しました。
ここ数年は 2000 年ごろとほぼ同水準に戻ってい
ます。また、内外債券については、2000 年ごろよ
りもリスクが下がっています。その一方で、バラ
ンス運用のリスクは高まるという結果となって
います(表1ご参照)
。
【図1】各資産のリスク推移(60ヵ月標準偏差)
30%
25%
外国株式
20%
国内株式
15%
外国債券
10%
バランス運用
5%
1.はじめに
国内債券
0%
中長期的な資産運用を行なう年金運用におい
ては、モダンポートフォリオ理論に基づく最適化
したポートフォリオを策定することが一般的で
す。すなわち、運用対象となる各資産の期待収益
率、リスク、相関係数を用いて、目標とする収益
率に対して、最もリスクが小さくなるように資産
配分を求めることとなります。しかしながら、実
際には単年度では想定した期待収益率どおりの
実績にはならない、低金利環境において各資産の
期待収益率が低下傾向にある中でおのずとリス
クを高めざるを得ない、オルタナティブ商品の導
入により最適化計算が困難、といった悩みがある
のではないでしょうか。
次章以降、一般的な最適化によるポートフォリ
オ運用が困難となってきている背景と、もう一つ
の視点であるリスクコントロールからのポート
フォリオ策定アプローチについて述べます。
2.最適化ポートフォリオの限界
最適化モデルでは、各資産の期待収益率、リス
ク、ならびに資産間の相関係数を用いますが、こ
れらの昨今の傾向を見てみます。
図1は過去 60 ヵ月間の収益率の標準偏差、す
なわちリスクの推移グラフです。内外株式につい
ては、2008 年(リーマンショックの年)の乱高下
の影響により 2008~2012 年は上昇しましたが、
(注)・上記グラフは各時点から過去 60 ヵ月のベンチマーク収益率をもとに
したリスクです。各資産のベンチマークは、国内債券は NUMURA-BPI 総合、
国内株式は TOPIX(配当込み)、外国債券はシティ世界国債インデックス
(日本を除く円ベース)、外国株式は MSCI KOKUSAI(配当込み、円
換算)の数値を使用しています。
・バランス運用については、国内債券 34%、国内株式 30%、外国債
券 10%、外国株式 23%、短期資金 3%として毎年リバランスしたと仮定
して算出しています。
【表1】各資産のリスク比較
2000年3月
2015年3月
リスク上昇幅
国内債券
国内株式
外国債券
外国株式
バランス運用
3.5%
1.6%
-1.9%
17.8%
18.1%
0.3%
13.1%
9.4%
-3.7%
18.2%
18.3%
0.1%
8.2%
9.7%
1.5%
各資産のリスクが上昇していないにもかかわ
らず、バランス運用のリスクが高まっている理由
は相関係数に原因があると思われます。裏面図2
は、国内株式に対する外国株式・外国債券・国内
債券の相関係数の過去推移です。外国株式との相
関は 2008 年リーマンショック以降、0.8 レベルに
高止まりしています。また、外国債券との相関に
ついては、過去はマイナス相関でしたが、2008 年
以降は 0.7 レベルまでプラスに転じています。国
内株式、外国株式、外国債券の相関の高まりによ
り、資産全体の分散効果が低下し、これがバラン
ス運用のリスクを高めた原因と考えられます。
こうしたことからも分かるように、モダンポー
トフォリオ理論に基づくポートフォリオの策定
では、①各資産間の順相関の高まりにより分散効
果が低下してきている、②各資産の短期的なリス
クの高まりには対応できない、③オルタナティブ
商品については最適化分析が困難、といった限界
があると考えられます。
*内容等についてのご照会は当社法人営業担当者にお願い申しあげます。
1.0
【図2】国内株式と他資産との相関(連動性)
0.8
国内株式と外国株式の相関
0.6
0.4
国内株式と外国債券の相関
0.2
0.0
国内株式と国内債券の相関
-0.2
-0.4
-0.6
(注)・上記グラフは各時点から過去 60 ヵ月のベンチマーク収益
率をもとにした相関係数です。
・各資産のベンチマークは国内債券は NOMURA-BPI 総合、
国内株式は TOPIX(配当込み)、外国債券はシティ世界国債イ
ンデックス(日本を除く、円ベース)
、外国株式はMSCI K
OKUSAI(配当込み、円換算)の数値を使用しています。
・相関係数は±1に近いほど強い正(+)負(-)の相関があり、0
に近いほど無相関を意味します。
3.リスク主導のポートフォリオ策定
もう一つのポートフォリオ策定手法として、リ
スクコントロール主導の手法があります。この手
法には、各資産のリスク量のみを考える簡便な手
法から、各資産(またはファンド)をリスク要因
別に分解して管理(用語解説コーナーご参照)す
る高度な方法まで様々あります。最も簡便な手法
は、各資産のリスクウェイト(=各資産のリスク
×組入比率)を算出し、これをコントロールする
ことによって資産配分を調整するという手法で、
資産間の相関や期待収益率は一般に考慮しませ
ん。具体的な手法としては、各資産のリスクウェ
イトを均等とするリスクパリティ手法などがあ
ります。
例えば、期待収益率を高めとした最適化ポート
フォリオでは株式の占率が高まる傾向にあり、場
合によっては株式のリスクウェイトが過半を占
め、ポートフォリオ全体の収益率獲得の成否のほ
とんどを株式に依存することとなります。こうし
たことを回避するために各資産のリスクウェイ
トを計測し、一資産のリスクに偏重することにな
らないようにコントロールするわけです。また、
この手法では、オルタナティブ運用を採用する場
合、他資産との相関係数が分からなくても、当該
ファンドのリスクが分かればコントロールが可
能となります。さらに、用いるリスク量の計測期
間を短期(短期間の標準偏差はボラティリティと
も呼ばれる)とすることによって、短期の変動に
対応することも可能となります。
その一方で、当該手法ではリスクウェイト中心
となるため自ずと低リスクの国内債券への資産
配分が増える傾向にあること、また、リスク量は
コントロールするものの、期待収益率の概念を用
いることができないといったデメリットもあり、
この手法のみでポートフォリオを策定するには
限界があると言えるでしょう。
4.おわりに
それぞれの手法には一長一短ありますが、年金
運用においては中長期的に制度予定利率を上回
る運用成果を目指すことから、期待収益率の設定
が不可欠であり、最適化によるポートフォリオの
策定が中心になると思われます。その上で、前述
のような限界への対策として、リスク主導のポー
トフォリオ策定の手法を一部取り入れることに
より、リスクウェイトを把握しておくことが現実
的な方法となるのではないでしょうか。高度なリ
スク主導の管理手法については未だ発展途上に
あり、実務的には困難なこともあります。しかし
ながら、少なくとも、実際に運用しているポート
フォリオの各資産のリスクウェイトがどの程度
の配分となっているのかを明確にすることは極
めて大切なことと思われます。
(文責:団体年金コンサルティング室 岡田)
用語解説コーナー : リスク要因別の管理
○リスク要因とは、各資産の収益要素を指します。
例えば、外国株式であれば外国株式と為替、国内
債券であれば金利とクレジット、というようにリ
スク要因毎に分解します。
○リスク要因毎の保有割合に期待収益率、リスク
を掛け合わせることにより、ポートフォリオ全
体に対するリスク要因の収益とリスクへの寄与
度を測ります。
○リスク要因毎に保有割合を足し上げ、各リスク
要因の保有量を計算します。また、リスク要因
毎の期待収益率、リスク、ならびにリスク要因
間の相関を求めます。
○リスク要因毎に寄与度が分散されていれば安
定的なポートフォリオであることが確認できま
す。
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