Page 1 癌と炎症とは密接に結びついていることが知られている。癌局所

論文 内容 の要 旨
申請者氏名
薮
政彦
癌 と炎症 とは密接 に結びついていることが知 られてい る。癌局所 では免疫担 当細胞
が しば しば浸潤 してお り、慢性炎症 を誘発す るのみな らず、血管新生や組織 の再構築
L-23は p1
9と、I
L-1
2と共通 のサブユニ ッ トp40とで構成 され る-テ ロ
を誘導す る.I
ダイマーであ り、感染防御や炎症誘発、 自己免疫疾患に関与す る。近年、 I
L-1
7 産生
CD4+hel
perT (
Th1
7) 細胞 が I
L-6 と TGF-bによ り na‡
veT細胞 か ら分化誘導 され、
L-23が働 くことが報告 された。また 、I
L-23は癌組織で高発現 してお
その機能維持 に I
り、抗癌免疫 に関与す ると報告 されている。I
L-23は、血管新生や組織再構築 に関わる
I
L-1
7産生 を誘導 し、 I
L-23/I
L-1
7経路は癌 の成長促進 に関わると考 え られている。
当研究室において、肺癌細胞株培養上清が I
L-23
p1
9遺伝子の TLR リガ ン ド刺激依
存的な発現 を増強す ることを見出 した。私が構築 した ヒ トI
L-23
p1
9遺伝子 プ ロモー タ
ー領域 の レポー ター遺伝子ア ッセイ系によ り、当研究室で、乳酸が TLR リガ ン ド刺激
による I
L-23
p1
9遺伝子 の発現 を増強す ることを発見 した。同 じア ッセイ系 を用い、乳
酸の増強 メカニズムを解析 した結果、乳酸は I
L-23
p1
9のプ ロモー ター活性 を増強す る
Fk
B、C
RE
B、AP-1、I
R
Fのいずれ の転写因子 の活性化
ことがわかったOまた、乳酸は N
にも関与 しなかった。
乳酸 は抗原刺激 による I
L-1
7産生 を IL-23依存的に増強す る、 とい う興味深い現象
L-1
7産生-の乳酸 による増強作用 について解
を発見 した。次 に、本研究では、 この I
析 した。その作用機序 には、3段階のステ ップが存在す ると考 えた。① 抗原提示細胞
が抗原提示 を介 して CD4+T細胞 を活性化す る。② 活性化 CD4+T細胞か らのシグナル
と、乳酸か らのシグナル によ り、抗原提示細胞が活性化す る。③ 活性化 した抗原提示
L-1
7分泌 を促進す る。乳酸 による I
L-1
7産生
細胞 は CD4+T細胞 を ざらに活性化 し、 I
増強作用 メカニズムについて、次 に述べ る事柄 を明 らかに した。 (
1
)単球 ・マ クロフ
moryCD4+T細胞が増強作用 に必須である。 (
2) 乳酸は I
L-1
7産
ァー ジ と effector/me
生 CD4+
T細胞 の増殖 を抑制す るが、 I
L-1
7産生量は増強す る。 (
3) 乳酸 は Th1
7細胞分
化 には関与 しない。 (
4)ステ ップ② にお ける CD40か らのシグナル が抗原提示細胞か ら
のI
L-1
2/23p40産生 を誘導す るのに必要である。 (
5) この p40を含む既知のサイ トカ
L-23、I
L-1
2、及び I
L-1
2ホモ二量体ではな く、p40を含む未知 のサイ トカイ ン
イ ン、I
が増強作用 に関わ る。(
6)I
L-1
b産生はステ ップ③にお ける I
L-1
7産生の誘導 に必須 で
ある。
以上か ら、乳酸 は、I
L-23依存的、あるいは非依存的経路によ り、I
L-1
7産生の増強
に働 く炎症誘発 メデ ィェ一 夕-であることが示唆 され た。乳酸 は解糖 系の最終産物で
あるが、癌細胞 の転移や担癌患者 予後の悪化 との関連性が示 され てい るため、今後、
乳酸 によ り誘導 され るシグナル経路 を標的 とす ることは、癌の効果的な治療法 の開発
に繋がる重要な研究課題 とな り得 る。
論文審査結果 の要 旨
申請者氏名
薮
政彦
癌細胞は解糖系の恒常的な活性化 と TCAサイ クル の抑制 とによ り、乳酸発酵 を介 し
て乳酸 を高濃度 に生産 し、この現象 は "
Wa
rbu
rge
ffe
ct
'
'と呼ばれている.本論文は、
癌細胞 由来 の乳酸が免疫担 当細胞 の機能 に与 える影響 につ いて、特 に二つの点 に注 目
して解析 した成果 をま とめた ものである。第 1に、乳酸が Tol
卜1
i
kerec
e
pt
o
r刺激 に
DC) で誘導 され る I
L-23
p1
9遺伝子の転写活
よって単球 ・マ クロファー ジ ・樹状細胞 (
L-23
p1
9遺伝子のプ ロモ
性 を増強す ることか ら、ル シフェラーゼ遺伝子ア ッセイにて I
ー ター領域 と、乳酸のシグナル経路 について解析 した。 この研 究によ り、乳酸か らの
L-23
p1
9遺伝
シグナル を単球 ・マ クロファージが認識 し、TLR刺激 に よ り誘導 され る I
子の発現 を転写 レベル で克進 させ ることが明 らか となった。また、乳酸 は NFkBな どの
転写因子の活性化 には影響 しない ことか ら、乳酸か らのシグナル による発現増強は、
遺伝子発現 を誘導す る一般的な機構 、いわゆる転写因子がプ ロモー ター活性領域 に結
合 して転写 を誘 導す るといった機構 であることを示唆 した。
L-1
7産生 を増強
第 2に、乳酸がマ ウス腺細胞 において抗原刺激 によ り誘導 され る I
す ることか ら、 この増強作用機序 について細胞生物学的 に解析 した。その結果 、抗原
と乳酸 が共存す る場合 には、乳酸か らのシグナル を単球 ・マ クロファージが認識 して、
CD4陽性 T細胞 に I
L-1
7産生 を促進 し、この I
L-1
7産生の促進 に I
L-1
2/23
p40とい う分
子が関与す ることが明 らか となった。 しか しなが ら、 こ甲分子 を含む既知のサイ トカ
イ γ、I
L-23 (
p40 十p1
9)、 I
L-1
2p40ホモ二量体、 I
L-1
2
p70 (
p40 十p35) は乳酸 によ
L-1
7産生 の促進 には関与 しなかった ことか ら、
p40分子 を含む新規のサイ トカイ ン
るI
L-1
7産生の促進 に働 くことが示唆 された。また、乳酸は CD4
が CD4陽性 T細胞 か らの I
陽性 T細胞 か らの I
L-1
7産生 を維持 ・増強す る一方で、 I
FNg産生 を抑制 した. これ ら
L-1
7産生 を促進す ることによ り、メデ ィェ一 夕
の ことか ら、乳酸は抗原刺激 による I
- として炎症誘発 に働 く可能性 が考 え られ た。従 って、癌組織 内の微小環境 の よ うな
特異的な条件下では、乳酸は I
L-1
7産生 を促進す ることによ り、癌 の成長促進 に働 く
ことを示唆 した。
\以上の よ うに、本論文 は癌組織 内の乳酸量は頭頚部癌や子宮頚痛 において癌細胞 の
転移や担癌患者 の予後 との関連 を示唆す るもので、学術上、応用上貢献す るところが
少 な くない. よって審査委貞一 同は、本論文が博士 (
バイオサイエ ンス)の学位論文
として価値 あるもの と認 めた。