全訳 - 読売新聞

【全訳】
全国の廃校舎に「第二の人生」
少子化の影響で廃校となった小中学校の校舎設備が全国に点在している。だが、その
一部には、宿泊施設や工場として生まれ変わっているものもある。それらの施設に強い
関心を持つ読売新聞社の記者が、そのいくつかを実際にまわってみることにした。
宿泊施設
吉野川を見下ろす高台に立つ、高知県大豊町の旧川口小学校。緑色のとんがり屋根の
時計台が象徴的な木造校舎は築 80 年を超える。学校は児童不足で廃校となったが、2006
年に宿泊施設として再スタートを切った。
「どこか懐かしい感じでしょう」と、施設を運営する男性(49)が笑顔で迎えてくれ
た。
畳敷きで木製のちゃぶ台と布団が用意された児童室(もともとは高学年教室だった)
に案内された。黒板は以前のままで、壁には漢字表や世界地図が貼られていた。
荷をほどいて「校内」を探検すると、校庭にはバーベキュー場、校舎内には音楽室や
図書室を再現した部屋があった。利用者は、ピアノを弾いたり児童書を手に取ったりす
ることができる。
(2) ただ、夜になると私の宿泊している部屋は雰囲気がまったく変わった。だだっ広い
部屋に一人きり、廊下は真っ暗でちょっと怖かった。
「お手洗いへ一緒に行かない?」という声が聞こえた。隣の児童室(低学年教室)か
らの声で、そこには同県在住の女性 6 人組が滞在していた。
「職場の仲間と一緒に来ました。学校に泊まるのはなかなかできない経験になると思
ったので」と、滞在した女性の一人(33)は話した。「自分達が学校へ通っていた頃を
思い出し、会話に花が咲きました」
この施設を運営する男性は、かつては急流をゴムボートなどで下るラフティングのイ
ンストラクターだった。約 10 年前に、吉野川からほど近いこの町へ移住して来た。
彼の妻(48)は校舎の雰囲気に惚れ込み、宿泊施設として利用する許可を町から得た。
宿泊費用は 1 泊 4,000 円。夏場を中心に、年間 1,000 人前後がここに宿泊する。校庭
は地元住民の運動会や夏祭りにも使われる。宿泊客や地元の人々のおかげで校舎は再び
温かさと活気を取り戻した。
生徒の代わりに豚肉
統廃合のために閉校した秋田県大館村の旧山田小学校は、2009 年から生ハム工場とし
て再スタートした。1 階は事務室や加工場、2 階は肉の熟成室として利用されている。
校舎内に足を踏み入れると、独特の発酵臭を感じた。
熟成室に組まれた鉄パイプには、10 キロを超える塩揉みされた豚のブロック肉が数千
本もぶらさげられていた。
「校舎には大きな窓がたくさんあって風通しが良いでしょう。ハムの熟成にはぴった
りの環境なんですよ」と工場長の男性(54)は語る。
校舎の再利用は、地元出身の社長(83)が「故郷への恩返しに」と提案したものだっ
た。
耐震化も施され、工場創業の費用は、排水工事などを含めて約 7,000 万円だった。下
駄箱はそのまま利用している。
工場では、冗談で豚肉を「生徒」と呼び、出荷のことを「卒業」と言う。仕入れ時に
は、「今年の新入生は 1,000 人です」と言ったりするという。