連携 最前線 釧路孝仁会記念病院医療 (脳卒中) ネットワーク 早期の治療を可能にする遠隔診断 1秒でも早く適切な治療を行えば、後遺症を抑え、機能回復が期待できる脳卒 中。社会医療法人孝仁会が自ら中心となって北海道東部の脳神経外科医がい ない医療機関と画像転送ネットワークを構築し、専門医が遠隔診断する仕組み を運用している。その概要について、同会理事長の齋藤孝次氏に聞いた。 必要があります。 社会医療法人孝仁会 理事長 齋藤 孝次 それを実現するには、脳に異常の 氏 疑いがある患者さんを適切に診断し、 どのように対処するか決めることが重 要でした。そこで、構築したのが画像 転送ネットワークです (図2) 。まず、患 脳神経外科の専門医が 遠隔地の患者さんを診断 齋藤孝次氏 脳梗塞などでは、4時 者さんが運ばれた医療機関でCTなど 間30分 以 内 に 施 せ ば 効 果 が 高 い の画像検査を行い、その画像を釧路 ──北海道の釧路、根室 (釧根)地区 t-PA療法があります。それ以外でも 市内の医療機関にいる脳神経外科医 は特に寒さが厳しいため脳卒中の患者 脳卒中は早期に適切な治療を施すこ の下に送り遠隔診断します。 さんも多いことでしょう (図1) 。また、 とで、後遺症を軽減したり、リハビリ 具体的には、異常所見の有無と種 医療圏が広大だという特殊性もありま テーションでの機能回復の効果が高 類を診断し、脳神経外科への転院の すが、それらに対応した取り組みから まったりします。ですから、できるだ 緊急性を判断します。転院が必要と お聞かせください。 け早く脳神経外科の専門医にかかる 判断した場合は、手術など適切な処 置の準備をして患者さんの到着を待 ちます。 図1 釧根地区の脳卒中患者の推移 ■■ くも膜下出血 ■■ 脳内出血 このネットワークをスタートした ■■ 脳梗塞 ■■ その他の脳血管疾患 1995年当初は、検査結果のフィルム をデジタルカメラで撮影し直して電送 350 していました。現在では、DICOM画 300 像を直接画像サーバーに送れるよう [人] になったので一層スピーディーに遠 250 隔診断が行えるようになっています。 200 道東エリアでは、手術などが必要 150 な患者さんは脳神経外科の専門医が いる釧路市内の医療機関に運ばれま 100 す。しかも、これらの 医 療 機 関 は 50 9500km2と広大な医療圏をカバーし 釧路、根室、中標津保健所管内の脳卒中の患者さんの内訳を見ると脳梗塞の比率が高い。 02 Excellent Hospital 2010年 2009 年 2008 年 2007 年 2006 年 2005 年 2004 年 2003 年 2002 年 2001 年 2000 年 1999年 1998年 0 ています。釧路までの搬送時間が救 急車でも3時間以上かかるところがあ ります。 加えて、数少ない貴重な救急車が その管轄エリアを出てしまうと、他の 図2 脳卒中発症時の対応を早める「画像転送ネットワーク」 救急患者さんを搬送 できなくなり、 医師 知床らうす国民健康保険診療所 が付き添えば、 一時 的にですがそのエリアの 医療資源が減ってしまうことに 標津町国民健康保険標津病院 なります。ですから、搬送の必要性 中標津脳神経外科 を適切に判断しなければなりません。 釧路孝仁会記念病院、 釧路脳神経外科、 道東勤医協釧路協立病院 2009年には、搬送時間を短縮す るためにドクターヘリを導入しました。 救急車に比べておよそ5分の1の時間 で搬送できるだけでなく、集中治療 室並みの医療機器とともに医師や看 標津町国民健康保険 標津病院 主に釧根地区の公立病院と 画像転送ネットワークを構 築。 転送効率だけでなく、 セキュリティにも配慮したシ ステムだ。 町立別海病院 市立根室病院 釧路市 護師が搭乗するので、患者さんの収 容直後から初期治療を施せるように なりました。ドクターヘリの導入前に 図3 「地域診療情報連携システム」は回復期に対応 比べて救命率が向上しています。 旭川 医科大学 保険薬局 退院後に通う病院と 患者さんの情報を共有する 標津町国民健康保険標津病院 町立別海病院 市立根室病院 道東勤医協釧路協立病院 ──脳卒中の患者さんは急性期病院 で治療を受けた後も、機能回復のた す。回復期のケアについてはどのよう な対応を取られていますか? 齋藤氏 現在では、コンピューター や通信技術の向上に合わせて、ネッ トワークで共有できる情報量を増やし ています。地域診療情報連携システ 孝仁会グループ めのリハビリテーションなどが大切で 地域診療 情報連携システム 既往歴 現病歴 検査結果 入院治療経過 訪問看護 ステー ション 老健施設 服薬内容 釧路孝仁会記念病院 星が浦病院 釧路脳神経外科 中標津脳神経外科 知床らうす国民健康保険診療所 留萌セントラルクリニック 連携 病院群 急性期加療後に患者さんが入院、 通院する医療機関との情報共有を基本としているが、 保険薬 局や訪問看護ステーション、老健施設との連携も進める。 ムとして、患者さんの既往歴、現病 歴、入院治療経過、検査結果、服薬 うですが、予防の観点からの取り組み り組みも大切なこととして力を入れて 内容などをサーバー上に置いて、急 も行っていますか? います。 性期加療終了後も、患者さんが入院、 齋藤氏 釧根地区は冬の寒さが厳し ──釧路孝仁会記念病院には9人の脳 通院する医療機関と情報を共有でき いうえ、以前は塩分の摂取量が多い 神経外科医がいらっしゃいますが、ず るようにしています (図3) 。さらに、 食 生 活を送っていました。そこで、 いぶん充実していますね。 この情報共有を医療機関だけでなく 食生活の改善をはじめとした注意点 齋藤氏 根室や中標津、留萌などの 保険薬局、 老健施設、 訪問看護ス を孝仁会の広報誌やホームページで 関連病院も含めれば、13人になりま テーションなどとも行うことで、患者 市民のみなさまに伝えています。 す。ありがたいことに脳神経外科の さんに対する医療、介護サービスの また、釧路孝仁会記念病院内に高 専門医を目指したいと考えている医 向上につながると考えています。 度健診センターを開設し、脳卒中、 師が研修先として当院を選んでくれ 心疾患、がんの三大疾病を中心に、 ます。北海道に限らず、道外からも 人間ドックや企業を対象にした定期 やって来ます。ネットワークシステム 検診を行っています。 の進化に負けないよう、脳神経外科 ──釧根地区では脳卒中の患者数そ 発症後の治療やリハビリテーション 医はみな自身のスキルアップにも取り のものが減少する傾向をみせているよ だけでなく、発症そのものを減らす取 組んでいます。 脳神経外科医の技術向上と 脳卒中予防にも注力 Excellent Hospital 03
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