オフセット印刷の品質ではアートとは呼べない。 の登場によって ようやく4K 映像もアートとして成立する領域に達した。 ̶ メディアアーティスト・土佐尚子 土佐尚子さんは1980年代からメディアアー たとえば、さまざまな色が滑らかに混ざりあ ティストとして活躍し、現在は京都大学にて教 いながら立ち上り、草花のような造形を描く、 現につなげようとする土佐さんのクリエイティビ 授としてテクノロジーとアートを結びつける研究 土佐尚子さんの代表作のひとつ「Sound of ティが融合した結果ということができるでしょう。 切り取ることができる技術と、それをアート表 を使い、土佐さ を行なう、技術と表現のプロフェッショナルです。 Ikebana」 (写真) は、一見、高度にシミュレート その活動領域は、感情や文化、人の無意識と されたCGかと見紛うばかりの形状ですが、実 んのさまざまな作品を1冊の本にまとめあげま いった、従来、コンピューティング不可能と考え 際にはハイスピードカメラで撮影された「写真」 した。そのクオリティを土佐さんはどう評価し られていた領域をプログラムにより実現するなど、 です。こうした作品を作り出すことができるよう たのでしょうか? 多岐に渡ります。 になったのは、1/2000秒という一瞬を連続して 今回、 — [京都大学 教授] の評価をいただく 前にお伺いしたいのですが、一体、どのような 手法で、このような作品を作り上げているので 土佐尚子 N a o k o To s a アーティスト しょうか。 スピーカーの上に色をつけた液体をおいて、 スピーカーから音を出すと、振動によって液体 のようです。以前、オフセット印刷で本を作っ のでしょうか? そうした作品を印刷物にする 味などをデータ化、フィルタ化ができればおも たのですが、そのときは作品が暗くなってしまって、 ことをどのように捉えていますか? しろい。そうした時代の流れの中で、クオリティ が混ざりあい、複雑なマーブリングを描き出し 「印刷するとこんなものなのかな」とがっかりし 発表はおもに映像です。4Kハイスピードカメ ます。その一瞬のかたちを4Kハイスピードカメ ていたんです。それもあって、印刷ではなく、動 ラによって撮影された静止画の羅列から画像 ラで撮影するんです。大きなものに見えますが、 きも楽しめる映像で作品を見せることが多かっ を抜き出し、編集段階で色やコントラストを調 実際のサイズはほんの2〜3cmくらいですね。 たのですが、 によって、こ 私にとっては印刷の可能性は未知のもので かたちとフリークエンシー (frequency・頻度) と るのなら、映像作品を逆に本で見せることもで すが、映像の分野では入力が4K、将来的には いうパラメータによってコントロールされていて、 きるようになります。 8Kになる一方、出力に その設定によってかたちが変わります。その関 係性を分析し、アウトプットのひとつとしてアー — 印刷と ト作品にするというのが私が取り組んでいる文 制作の進めかたに違いはありましたか? 化をコンピューティングする研究テーマなのです。 で、作品集 のですが、なかなか思うような色にはならなかっ — では作品に描き出される色や形状は意図 のであればあるほど、きちんと再現したいと思 いますし、それがビジネスにもなっているプロフェッ の用 ずです。そうなると として出せるようになります。 一回でイメージ以上に出力されていたので、そ — 映像のほかに こからさらに色を詰めていくことができました。 る可能性を感じる分野はありますか? どの位置に、どういった色の、どのような素材 を置けばどう混ざりあうということは予期する — ことが可能です。たとえば、液体の粘性や特性 じるのはどのような部分でしょうか。 でよく出ていると感 ショナルな仕事なのであれば、なおさらそれは きれいなものでなければなりません。その際に、 一定のラインを超えてはじめて、自分の “作品 ” 途はもっと広がるのではないでしょうか。 でしょうか。 印刷と比べて、ストレスなく進められましたね。 私はアーティストですから、当然、作品には のようなものがでてきたことで、これまで印刷 したものではなく、自然にもたらされるものなの いえ、65%くらいはコントロールしています。 作られてどのように感じましたか? とは離れた場所にいた映画・映像分野からも、 では たんです。それが で作品集を こだわります。そこに映っているものが大切なも 作品を印刷物にしたいという要望が出てくるは 印刷では何度も色校正を出していただいた の魅力だと思います。 — 今回、 整して映像にしています。 こまで作品の色、かたちを描き出すことができ 音はサインウェーブ(sine wave・正弦波)の の高いオンデマンド印刷ができるというのが、 によ ひとつの方向性として学術資料としてのアー 今回、 によって、やっ とプリントがアートになるところまできたなと感 じました。正直なところ、いままでのオフセット カイブ出力があると思います。美術館の図録 印刷ではクオリティ面で “ 作品 ”として売るこ はもちろんですが、たとえば京都大学の博物 とはできません。あくまで作品カタログですね。 の表現力、再現 館にはさまざまな資料があります。デジタル しかし、 全体的にとてもよく色が出ていますが、特に アーカイブもありますが探すのが大変なんで 力なら、このプリントをアート作品と言える。 混ざりやすいものは中心よりも内側に置きます。 きれいに出ているのは赤系と黒ですね。黒はフィ す。そうしたときに図録としてプリントしておき、 はいわば、本をアート ただ、素材や色を複雑にしても、いい効果はで ルムの深い黒に近い印象を受けます。私の作 本としても見られるというのはいいですよね。 として売るということを可能にした、と言えるの を考慮して、混ざりにくいものは中心より外側、 ませんから、色は3色くらいにして、あとはミョウ 品のように背景が黒いものは、黒が締まらない ならば、オリジナルに近 バンを置いてみるなど、変化を与えています。 と見栄えがしませんから、これが再現できてい い色でプリントアウトとして残しておけますから るだけでもうれしい。彩度のレンジが広いぶん、 資料としても有効です。 — の出力の色につい 色にも奥行きを感じます。 てどのように感じましたか? 本当にすばらしい! 作品がまるでジュエリー — 作品の発表はおもに映像で行なっている ではないでしょうか。 私だけではなく、これで作品を作りたい、売 りたいという人は今後出てくると思いますし、こ あとはやはり出版。世の中の流れはオンデマ うしたハイクオリティ・オンデマンドによるアート ンドに向いており、読者の嗜好に合わせて作る 作品を取り扱う流通と組みあわされることによっ という時代になっています。ユーザーが好む色 て、より広まっていくのではないでしょうか。
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