海外レポート メ キ シコ 編 日系、欧米系OEMの製造輸出拠点として メキシコにおける近年目覚ましい自動車産業の振興に伴い、国際 協力機構(JICA)では自動車産業サプライチェーンの強化や産業 人材の育成などにかかる支援を続けている。本稿では、日系企業の進 の ・9万台。世界 第2位の自動車 *1 る。ま た、輸 出 台 数 で は 世 界 第 4 位 出が相次ぐメキシコの現状についてレポートする。 繁栄を続けるメキシコの自動車産業 強化を目指し、現地中小企業におけ メキシコにおける自動車産業基盤の 始 し た 韓 国 勢のKIAな ど が あ る。 2016年にメキシコでの製造を開 ツ ダ、メ キ シコ で は 老 舗 の 独 V W、 *2 地点で進出日系 企業 数は 日系自動車メーカーの生産投資増 加に伴い、関連日系企業も相次いで メ キ シ コ に 自 動 車( 乗 用 車 )製 造 工 場 を 持 つ の は、米 ビ ッ グ 3 の G り、そのうち約8割が自動車産業関 月 場統合した結果、米国市場でのメキ M・ F C A・ フ ォ ー ド の ほ か、日 社とな カ国と自由貿易協定を締 NAFTAに関連する言及はない。 執筆段階までに) 、ト ラ ン プ 氏 か ら 可 能 性 を 示 し た が、選 出 後( 本 稿 の からの輸入品に高い関税をかける 明 し た。特 に、自 動 車 な ど メ キ シコ 約ではNAFTAからの脱退を言 らの離脱意向を既に表明し、選挙公 環 太 平 洋 経 済 連 携 協 定( T P P )か ラ ン プ 氏 は、政 権 移 行 作 業 の 過 中、 投資者にとって、巨大な米国市場 米輸出依存度も上昇し続けている。 額 は 年々順 調に 増 加 する一方、対 北 結する。これに伴い、メキシコの貿易 現在世界 資誘致を促進する政策を取っており、 メキシコ政府は1980年代から 自 由貿易を推 進し、国 内への外国 投 広範な自由貿易網 メキシコに進 出し、2015年 の2014年に ブラ ジルを抜 き、イ シコ製自動車のシェア・競争力は着 8 割 が 北 米 市 場 向 け と なっている。 実際、原産国別に米国自動車市場の シェア率 をみると、約7割 を占 める 米国・カナ ダ製を除き、日本 製 が1 割、も う 1 割 を メ キ シコ 製、そ の 残 りを韓国 製、ドイツ製で分け合って *1 いる が、2014年以 降はメキシコ *1 製( ・1%)が日本製(9・3%)を 車産業学科を設置するなどの取組み 名古屋市とメキシコ市の姉妹友好 関係を含む 都市で姉妹都市協定が 締 結され、大 学間 学 術 交 流にいたっ 校以 上で 締 結されている。ま た、アグアスカリエンテス州・グアナ ては 率がマイナスに転じた日本を超えて フアト州とそれぞれ経済交流に関す 世界 第 を憂い、NAFTAに懸 念を示 して 「NAFTA=米国 トランプ氏は、 企 業 の 国 外 移 転 =雇 用 機 会 の 喪 失 」 には、日産・マツダの拠点があり、自 いるように見える が、メキシコから る覚書を締結した神奈川県・広島県 位 と なった。ま た、年 齢 別 2 0 1 5 年、メ キ シ コ の 人 口 は 1億2、 701万人となり、人口増加 かう体力を残している。 けているかもしれない危機に立ち向 府総債務残高を上回り、今後待ち受 降大幅に改善された外貨準備高は政 ていたような急激なペソ安は今のと 北米のみならず、中南米地域のスペ イン語圏にも自由貿易協定網を活か して事業展開できる可能性がある。 ちなみに日本とは2005年に発 効した日墨(メキシコ)経済連携協定 が あ り、メ キ シコ か ら は ア ボ ガ ド・ オレンジ・豚肉・牛肉などの農産物 を中心に輸出され、日本からは自動 人口構成を見ると、 歳以下の年齢 動車産業の発展に伴い、親メキシコ、 修計画」では、毎年 名のメキシコ人 役 割 を 果 た している。ま た、同 研 修 の日 本 人OB・OGや、メ キシコ国 内に約2万人在住するとされる日系 人 は、進 出 す る 日 系 企 業 に 対 し、ス ペイン語のできる日本人人材を提供 している。 トランプ旋風が与える影響 米国次期大統領に選出されたト ない。 国の政策動向をじっくり見守るしか 実は厳然としてあり、しばらくは米 政策が米国民によって支持された事 し か し、今 回 の 大 統 領 選 を 通 じ、 トランプ氏の掲げる保護主義的経済 ろう。 は慎重に取り組まざるを得ないであ が予 想 され、NAFTAのテーマに 国内経済にも深刻な影響が出ること 出品に高い関税がかけられれば、米 える農産物も含まれる。これらの輸 あったり、米国民の豊かな食卓を支 メーカーに供 給 する自 動 車 部品で 車のみならず、米国内の自動車製造 低廉で豊富な労働力を提供すると同 JICAでは、質の高い産 業人材 を必要とする自動車部品等製造企業 留学生が日本で学び、逆に日本から 1971年 から 始 まった「日墨 戦 略的グローバルパートナーシップ研 の労働需要に応えるべく、工業高校 も留学生がメキシコに学びに来てお なっている。 %を占め、労働市場に 10 米国に輸出されているのは完成自動 *3 957 親日的関係がさらに強化されている。 層 が全体 の 46 *1 ンドに次ぐ世界第7位。今後まだま 日系企業による進出ラッシュ る金属プレス加工などの要素技術向 どにあたる。 2011 ~ 2015 年 の 5 年 間 で、 し、官民連携事業の形成な 上に向けた支援、現地調達率の向上 在外専門調整員として勤務 自動車部品を含むメキシコ自動車産 り JICA メキシコ事務所に につながるサプライチェーンの強化 し た 後、2015 年 3 月 よ 業分野における外資直接投資の総額 際協力事業に 15 年間従事 や自動車産業クラスター振興のため 中南米地域を中心に国 は約 ・ 億ドルに上った。 大田 享子 の支援に取り組んでいる。 (おおた きょうこ) 連となっている。 市場である米国と北米自由貿易協定 197 82 時に、潜在的内需拡大の拠り所とも 24 にプラスチック成型技術学科や自動 48 車部品などが輸出されている。 それではメキシコの魅力は、主要 市場へのアクセスを確保する自由貿 易網だけなのであろうか。 110 り、日墨間の地理的距離感を縮める 50 健全なマクロ経済と低廉豊富な労働人口 世界 的に続 く原 油 価 格の低 迷や 原油生産量の減少により、産油国で あるメキシコの国家歳入は大幅減少 し、財 政 は 緊 迫 し た 状 態にあるが、過去2度の 経済危機を教訓にした 財政規律強化が効果を 発揮し、マクロ経済は健 全に維持されている。ま た、ペソ安の傾向は依然 続いているものの、トラ ンプ氏が勝利した米国 大統領選後に想像され 10 日墨間の伝統的な友好関係 と隣接することは大きな魅力である 日系企業で働く労働者たちの年齢は総じて若い を行っている。 このような 状 況下、JICAでは 上回っている。 12 ころみられておら ず、2003年以 JICA 自動車産業基盤強化プロジェクトにて企業の品質 (NAFTA)により1994年に市 改善指導を行う専門家 系 で は ト ヨ タ・ 日 産・ ホ ン ダ・ マ 2015 年の メ キ シコ に お け る *1 自動車生産台数は約 万台で、前年 275 実に増加し、メキシコ製自動車の約 都市部では交通渋滞が深刻化している が、メ キ シコ を 製 造 拠 点 と す れ ば、 メキシコ国内での自動車販売台数が年々増加する一方、 だ 増 産の 余 地 があると言 われてい 340 11 JFC 中小企業だより 2017.1 JFC 中小企業だより 2017.1 12 10 *1出所:メキシコ自動車工業会(AMIA) *2出所:メキシコ貿易投資促進機関(PROMEXICO) *3出所:2010 年度国勢調査 成長しゆくメキシコ 海外レポート 成長機会としての海外 には、ほかの国とは違う狙いがある」 と、関聡彦・代表取締役社長は語る。 従来、当社は売上高の8割を占め る 電子 部 品 を 中 心 に 供 給 して き た。 今 後 は、メ キ シコ 進 出 を 機 に、自 動 車部品を拡充していく計画を打ち出 供 給している。2004年に初 めて 物精密プラスチック部品を世界へと 電話・腕時計などに必要とされる小 し、DVD・デ ジ タル カメラ・携 帯 ラスチック部品の量産技術を強みと 微 細 加工技 術による 超 小 物 精 密 プ hakkai株 式 会 社 は、ミクロ ン(1、 000分の1ミリ)単 位の超 ている。 も、需要は増えていくと当社では見 伴い自動車関連の電子部品について 一方、ま だ 自 動 車 に は、自 動 運 転 な ど新しいテーマがある。IT化に 見られている。 なり、コスト ダウンの時 期に入ると つあるので、今後は市場 が成熟期と また、スマホ自 体も頭 打ちになりつ で、市 場 が 全 体 的 に 縮 小 し て い る。 メラまでがスマホに集約されたこと 背景としては、電子部品市場の低 迷 がある。電子部品はゲームからカ 持つことが求められる。その点は既 P )の 観 点 か ら、複 数 の 生 産 拠 点 を 品 メ ー カ ー は、事 業 継 続 計 画( BC サプライチェーンに入った自動車部 また、当社が既に複数の海外生産 拠 点 を 持ってい たこ と も 奏 功 し た。 である。 ヤーがあまり進出していなかったの の地」と呼ばれていて、まだサプライ キシコは自 動 車 業界の中では「最 後 世界 中に張り巡らされているが、メ 動車部品のサプライチェーンは既に い 」との 提 案 が 舞い 込 んで き た。自 たらサプライチェーンに入れてもい している。 タイに海外生産拠点を置き、現在は で は、な ぜ メ キ シコ な の か。そ こ には、自 動 車のグローバルサ プライ にクリアできていた。 「最後の地」としてのメキシコ 中国・フィリピン・メキシコでも生 チェーンにおける参入障壁の問題が は、思ったほど大きな不 都 合は感じ 産を行っている。 自動車のサプライチェーンに入る た め に は、実 績 が 必 要 と な る。その られなかったという。 ある。 ため、当社のように実績が乏しけれ 資を利用したのです が、為替リスク 「その点で、公庫の外貨貸付制度は 非常に助かりました。米ドル建て融 う 考 え か ら、海 外 子 会 社 を「 教 育 機 験 は、人 を 大 き く 成 長 さ せる 」とい 化とともにモノづくりを実践する経 に為替リスクが課題となる。 「メキシコだっ ところがそんな折、 ば、通常、新規参入は難しい。 かくして、メキシコ進出を果たし たhakkaiだ が、進 出に際 して 億円で、 され、2016年1月から工場を稼働 させた。初 期 投 資 は 約 人規模を目指す。 「メキシコ進出 人体 制でのスタート。将 来 的には ~ メキシコではそうはいきません」 (関 を考えなくて済むようになったのは 関」と位置付けている。 hakkaiにとって海外進出の メリットは売上だけではない。 「異文 ティも強く感じられるようだ。 ありがたかったですね」 (関社長) 「 海 外 出 向 前 に は 役 職 が 付 いて い なかったが、海外出向中もしくは出 ネイティブなインディオ系、混血、 スペイン系 と、メキシコは大 きく3 5 割 以 上に 引 き 上 げてい く 考 え だ。 現 在、hakkaiの海 外 生産 比 は3割程度だが、将来的にはこれを す。それだけ短期間でも大きく成長 職が付いたという社員は結構多いで 月 して帰ってくるんですね。 円を目指す。 億 向から戻った後に職位 が上がり、役 つの民族に分類される。歴史的な背 グループ売上高は、2015年 配慮が必要となる。 「 非 常に勤 勉 」 国民 性についても、 だ と い う。会 社 に 対 す る ロ イ ヤ リ ただし、メキシコは多民族国家で あり、その点で労務管理には独特の 海外子会社は「教育機関」 社長) 「 基 本 的 に は 弁 護 士 を 通 して や る と、スムーズに諸手続きは進みます。 一番 新しい進出 先であるメキシコ の現地法人は2015年5月に設立 hakkai株式会社 (新潟県南魚沼市) その辺は、地理的に近い影響もある のか、米国的な合理主義が通用する 景や収入・資産格差から、支配層や 期で 約 くなっている。 特にメキシコについては、2030 年頃に売上高 億円達成を目標とし メキシコに集まっている点も魅力で 億円だが、 年後には ホワイトカラーにはスペイン系が多 また、会社の社員規定については、 ワーカーとホワイトカラーとで、2 ている。同 時 に、自 動 車 部 品 の 売 上 す。メ キ シコで の 取 引 を 起 点 に、グ 特にメキシコは将来性も高く、当 社を人材的にも組織的にも成長さ 種類を作る必要がある。民族も絡む 比について も、2015年 時 点では ローバル展開が可能だからです。 す」 (関社長) は チャンス が 溢 れ ている と 思い ま 況 で す。そ れ だ け、今 の メ キ シコに き合いが多く、交通整理が大変な状 働して1年足らずですが、非常に引 一番 手っ取り早い。当 社 も工場 が稼 参入していきたいなら、メキシコは ないでしょうか。特に自動車産業に もし、メキシコに進出したいと考 えているのであれば、まさに今では だけでなく世界中のサプライヤーが せてくれると期待しています。日系 センシティブな問題 なので、当 社で 約1割だが、将来的には3割を目指 は日 本円 と現 地のメキシコペソ、そ メ キ シコ な ら で は の 苦 労 と し て は、通 貨 も 挙 げ ら れ る。日 系 企 業 で る制度である。 必要だろうとの理由で導入されてい 法律が存在する。レジャー費などが 社が支給しなければならないという も十分に注意を払っているという。 100 12 している。 HAKKAI MEXICO S.A. de C.V.のプラスチック成形部門 変わったところでは、休暇取 得の 時には、給料とは別にお小遣いを会 10 ので、新興国にありがちな属人的ト ラブルはあまり起きません。 インフラについても、それなりの 規模の都市に進出すれば、問題は起 きないと思います。当 社はメキシコ 北東部のヌエボ・レオン州の州都モ ンテレイ市に進出したのです が、メ キ シコで 3 番 目 の 大 き な 都 市 で あ り、インフラ面での不 都 合はないで すね。 治 安についても、ほかの国に比べ て、極端に悪いという印象はありま せ ん。も ち ろ ん、日 本 に 比 べれ ば 良 くないので、注意は必要ですが。 200 30 社が既に進出しているタイや中国な あえて難点を挙げるとすれば、日 本 食 が乏しいところでしょうか。当 20 れから米ドルが必要となるため、常 20 独自のノウハウが詰まった精密金型製作技術による 進化するための信条、と語る関社長 JFC 中小企業だより 2017.1 14 37 2015 年 5 月に設立された HAKKAI MEXICO S.A. de C.V. 超小物精密プラスチック成形製品(米粒との比較) 300 本 社:新潟県南魚沼市九日町 2845 代 表 者 名:代表取締役社長 関 聡彦 資 本 金:5,730 万円 従 業 員:189 名(2016 年 4 月現在) 事 業 内 容:精密プラスチック金型設計製作、エン ジニアリングプラスチック成形加工、 各種コイル巻線加工および組立加工、 自動機および精密治工具製作 会 社 設 立:昭和 42 年(1967 年) ホームページ:http://www.hakkai.jp/ どで は日 本 食 が 充 実 していま す が、 挑戦・コミュニケーション・創造が、成長し メキシコの将来性を取り込み、 人材と組織の成長を目指す 海外レポート
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