霊長類モデル研究の進捗状況について

資料3-2
霊長類モデル研究の進捗状況について
(公財)実験動物中央研究所
マーモセット研究部
佐々木えりか
CIEA
1
SINCE 1952
コモンマーモセットの非ヒト霊長類実験動物としての利点
遺伝子改変モデルの作製が可能
・遺伝子改変動物の系統化が比較的容易
ヒトに近縁であり生物学的類似性が高い
・代謝、生理学的・解剖学的特徴がヒトと似ている
・ヒトのサイトカイン、ホルモンが交差する
非ヒト霊長類の中では特に繁殖効率が良い
・性成熟まで約1年半と他の霊長類に比べ短い
・性別・年齢・体重を揃えて繰り返し実験が可能
・年間5〜6匹出産、一匹の雌の産仔数が40〜80匹
小型・安全で飼育や実験上の取り扱いが容易
・比較的簡単なトレーニングで飼育可能
・少量の試料で有効性・安全性の確認が可能
・自然環境での人獣共通感染症の報告がない
神経科学研究モデルとして有用である
・社会行動、豊富な音声コミュニケーション
・自発運動量が多く、行動観察が比較的容易
・マカクにおける高次脳機能と関連した
行動学的手法を適用できる
2
脳科学研究モデルとしてのマーモセット
マーモセットの特徴
研究領域
脳神経機能
発達した大脳皮質
運動機能:3次元的な動き,手指の巧緻性
視覚:両眼視(立体視),色の識別
認知機能:記憶,学習
行動:多彩な情動行動,社会性
高次脳神経機能解析
行動学(心理学)
脳神経疾患
眼科疾患
哺乳類の脳の形態
前頭前野、運動野および運動前野
Comparative Mammalian Brain Collection (http://brainmuseum.org)
3
遺伝子改変動物作出法の種類
トランスジェニック
レンチ
ウイルスベクター
前核注入
標的遺伝子
ノックアウト/ノックイン
胚盤胞注入
ゲノム編集
トランスジェニック:外来性遺伝子を人為的に導入して過剰発現させることで
表現型を得る
標的遺伝子ノックアウト:内因性の標的遺伝子を破壊して遺伝子機能を喪失
させることで表現型を得る
標的遺伝子ノックイン:内因性の標的遺伝子の特異的部位に特定の遺伝子を
導入することによりプロモーター等の遺伝子発現の制御機構を解析する
4
パーキンソン病モデル動物の比較
モデル種類
マウス
遺伝子改変モデル
(SNCA*A30P)
マーモセット
MPTP処置
モデル
マーモセット
ウイルスベクター
脳内注入モデル
病因タンパク質
過剰発現
a-synuclein
なし
a-synuclein
レヴィ小体
タンパク凝集体
なし
なし
なし
ドーパミン
神経変性
なし
あり
あり
運動症候発現
あり
(神経変性に起因する兆
候はなし)
あり
一部あり
症候
再現性
5
変異型a-synuclein 遺伝子導入による
パーキンソン病モデルマーモセット作製
(慶應義塾大学医学部 生理学教室 岡野研との共同研究)
アミノ酸配列
健常
患者
マーモセット
GVAEAAGKTKE
GVAEA PGKTKE
GVAEAAGKTKE
Reona Kobayashi
遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子(変異性a-synuclein)
アミノ酸配列の30番目のアラニン(A)がプロリン(P)へ変換
CMV
SNCA(A30P) 2A
hKO
Lentivirus backbone
ウイルスベクター
注入
遺伝子改変PDモデル
移植胚選別
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仮親マーモセットへ
(Kobayashi et al., unpublished)
移植
パーキンソン病モデル動物の比較
モデル
種類
マウス
マーモセット
遺伝子改変モデル
(SNCA*A30P)
MPTP処置
モデル
ウイルスベクター
脳内注入モデル
遺伝子改変モデル
(SNCA*A30P)
病因タンパク質
過剰発現
a-synuclein
なし
a-synuclein
a-synuclein
レヴィ小体
タンパク凝集体
なし
なし
なし
あり
(前駆体)
なし
あり
あり
あり
あり
(神経変性に起因す
る兆候はなし)
あり
一部あり
あり
症候
再現性
ドーパミン神経
変性
運動症候発現
パーキンソン病の発症メカニズムの解明に資するモデルとして有用
7
ゲノム編集技術による標的遺伝子
ノックアウトマーモセット作製
マーモセットES細胞・iPS細胞は、
様々な細胞系列へ分化可能であるが、
キメラ個体形成能は持たない。
(マーモセットのみならず、マウス、ラット
以外の哺乳類で共通の性質)
ゲノム編集技術の登場により、
受精卵の内在性標的遺伝子を
直接ノックアウトする事が可能となった。
8
ゲノム編集技術によるIL2rg遺伝子ノックアウト
免疫不全マーモセットの作製
遺伝子改変効率の高いゲノム編集
ツールのスクリーニング技術確立
IL2rg遺伝子KOマーモセットの表現型
IL2rg遺伝子ノックアウトマーモセット
IL2rg遺伝子KO遺伝子の次世代への伝達
9
ゲノム編集を用いた標的遺伝子ノックイン
Edited from Yang et al., Cell 2013
この効率の場合、マーモセットではメス250頭、オス150頭が必要
ゲノム編集に失敗したマーモセットはどうする?
The “3R”
Reduction, Refinement, Replacement
効率的にノックイン可能な新たな方法が必要!
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遺伝子改変マーモセットモデルの確立に要する時間
5-7年
侵襲的解析が開始できるまで5年以上必要
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非ヒト霊長類モデルの弱点の克服に向けて
性成熟前に次世代の個体を得る
正確な標的遺伝子ノックインモデル
ファウンダー個体
も作製可能に!
体細胞/iPS細胞核移植
生殖幹細胞
卵子
精子
ファウンダー個体
と遺伝的に均一
iPS 細胞
クローン個体
個体は、
iPS 細胞由来
4倍体胚
胎盤は、
+
4媒体胚由来
キメラ形成能のあるiPS/ES細胞
テトラプロイドキメラ
体外受精
Sotomaru et al. Cloning and Stem cells 12
(2009)
マーモセットの普及体制の整備
支援項目
生体材料提供
実績数
H25
1機関
施設立ち上げ
コンサルタント
取り扱い技術
講習会
H27
H28
7機関 15機関 16機関 6機関
11名
飼育管理・
取り扱い研修
H26
-
17名
6機関
20名
6名
5機関 3機関
対象機関
計
23機関
36名
13機関
(海外2) (海外1) (海外2)
(海外5)
2回
3回
-
11機関
13名
2回
予定
(H28年8月集計)
11機関
13名
金沢大, 北里大, 九州大, 京都大, 慶應義
塾大, 埼玉医科大, 順天堂大, 昭和薬科
大 東海大, 東京大, 東京慈恵会医科大,
東北大, 北海道大, 明治大, 山梨大, 横浜
市立大, 国際医療研究センター, 国立障
害者リハビリテーションセンター, 自然科
学研究機構, 東京医療センター, 理化学
研究所, 東京都医学総合研究所
大阪大,東京大, 東京慈恵医科大, 名古
屋大, 新潟大, 北海道大,生理学研究所,
理化学研究所, Broad Institute (USA),
National Institute of Allergy and
Infectious Diseases (USA), McGill
University (Canada), A*Star (Singapore),
OSONG Medical Innovation Foundation
(Korea)
京都大,岐阜医療科学大,名古屋大,
新潟大,東京都医学総合研究所,キッセ
イ薬品,三協ラボサービス,新日本科学,
千寿製薬,ハムリー,ボゾリサーチセン
ター
日本クレアの協力により規格外などで正規価格での販売に適さないが健康なマーモセット
を格安(10~20万円程度)でアカデミアへの提供を開始、更なる普及を目指す13
遺伝子改変マーモセットの普及体制の整備
遺伝子改変マーモセット作製の事業化を開始
(IVS社が取次ぎ)
https://www.invivoscience.com/tg-marmoset.html (日本語)
https://www.invivoscience.com/en/index.html (English)
遺伝子改変マーモセット作出
コンストラクション構築
改変効率が高い個体作出の
ため各構築段階で以下の検定
を行い、コンストラクション構築
を共同研究にてサポート
①繊維芽細胞を用いた遺伝子
改変効率
②胚を用いた遺伝子改変効率
③移植胚におけるモザイク率
コンストラクション構築は
共同研究にて実施
発現受精卵
の移植
出産
離乳
事業化
受精卵の移植から出産・離乳
までの一連の操作を有償にて
実施(アカデミアのみの価格)
価格:400万円より
現在、1件の受託作製の準備中
遺伝子改変
個体引き渡し
(要相談)
遺伝子改変技術の
効率化・低侵襲化
により、遺伝子改
変マーモセット作出
費用の削減を実現
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