IBJ コンサルティング <よく分かる! ポイント解説> 日系企業の「破産

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日系企業の「破産」
2017 年 1 月
Q)中国の現地法人が破産した場合、どのようなことが起こりますか?
日本の
出資者として、どういう点に気をつけなければなりませんか?
A)中国での破産は、人民法院に「受理」してもらわないと成立しません。現法
にお金がなくなっても、人民法院が「受理」してくれないと、破産すらできな
いのです。また実務上の経験から申し上げると、簡単には「受理」してもらえ
ません。現法が破産を迎える局面では、駐在員・従業員・取引先を始めとする、
各ステークホルダーへの充分な配慮が肝要です。
(1)中国の現地法人の破産は、
①法律上の要件:「企業破産法」第 2 条第 1 項の定める破産要件が存在する
ことの証拠資料を人民法院に提示できる
②事実上の要件:社会への悪影響が想定されない状況である
の 2 要件を具備している場合、人民法院に申立て、人民法院に「受理」しても
らいます。
「企業破産法」(2007 年 6 月 1 日施行)
第 2 条 企業法人が、期限到来債務を弁済することができず、かつ、資産が全
債務の弁済に不足し、または、明らかに弁済能力を欠いている場合、この法律
の規定により債務を整理する。
企業法人に前項所定の事由があり、または、明らかに弁済能力を喪失する惧
れがある場合、この法律の規定により更生ができる。
第3条
破産案件は、債務者の住所地の人民法院がこれを管轄する。
(2)破産は、債務者(現法自身)が申立てることもできますし、債権者(現法の取
引先)が申立てることもできます。必要な書類は以下の第 8 条のとおりで、人民
法院は 15 日以内に受理・不受理を回答することになっています。
実際の現場では、法律上の要件だけでなく、日系企業を破産させた場合の地
域経済への影響などが人民法院の検討の要素となり、簡単には「受理」しても
らえません。
「企業破産法」
第 8 条
人民法院に対し破産申立を提出する場合、破産申立書および関係証拠
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2017 年 1 月
を提出しなければならない。
破産申立書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
①申立人および被申立人の基本状況
②申立の目的
③申立の事実および理由
④人民法院が記載するべきと認めるその他の事項
債務者が自ら申立を提出する場合には、加えて人民法院に対し、財産状況説
明・債務目録・債権目録・財務会計に関する報告・従業員安定配置事前案ならびに
従業員の賃金の支払および社会保険料の納付の状況を、提出しなければならな
い。
第 10 条 債権者が破産申立を提出した場合、人民法院は、申立を接受した日か
ら 5 日内に債務者に通知しなければならない。債務者は、申立に異議のある場
合には、人民法院の通知を受領した日から 7 日内に人民法院に対し提出しなけ
ればならない。人民法院は、異議期間満了の日から 10 日以内に、受理するか否
かを裁定しなければならない。
前項所定の事由を除き、人民法院は、破産申立を接受した日から 15 日以内に
受理するか否かを裁定しなければならない。
特段の状況で前 2 項所定の受理裁定期間を延長する必要がある場合には、一
級上級の人民法院の承認を経て 15 日間延長することができる。
(3)現実には、スムーズに受理されることは極めて稀です。下記の司法解釈にも
ありますとおり、人民法院が最も回避したいのは地元でのトラブルですので、
人民法院に受理させるに足る説明のために十分な客観的資料を揃えているか、
可能な限り従業員・取引先へ不当な影響を及ぼさないような準備ができている
か、が受理のポイントです。この点は、多くの日系企業が勘違いしている「カ
ネがなくなれば自動的に破産する」という解釈と全く異なっていますので、下
記司法解釈に流れる精神を、しっかり理解しておいて下さい。受理の是非につ
いては、「企業破産法」第 10 条 1 項にあるように、債務者に異議を唱える機会
も与えられています。
「企業破産案件を正確に審理し市場経済秩序の維持保護のため司法保障を提供
することに係る若干の問題に関する最高人民法院の意見」(法発[2009]36 号
2009 年 6 月 12 日施行)
5、従業員の賃金未払および就業問題が突出している、債権者との対立が激化
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している、債務者が企業を捨て債務から逃れようとしている、等の敏感な類の
破産案件に対しては、遅滞なく当該地の党委員会に対し報告し、政府の支持の
取得に努める必要がある。政府の調整の許、関連部門との意思疎通および協力
を強化し、遅滞なく有力な措置を講じ、各種対立・紛争を積極的に緩和・解消し、
企業財産の奪取および従業員による集団苦情申立のような状況が発生すること
を回避し、不安定要素を萌芽段階で除去する。条件を備える地方は、政府の設
立した安定維持基金や第三者による立替を奨励する等の方式を通じて、破産企
業の従業員の安定配置問題を優先的に解決することができ、政府や第三者は、
労働債権の立替えについて、破産手続において従業員債権の弁済順位に従い優
先的に弁済を取得することができる。
なお、取引先(債務者)からではなく現法先(債権者)自身が破産の申立を行う
場合には、「企業破産法」第 10 条に基づき、取引先(債務者)が破産の「受理」
前に「異議」を申立てることもできます。
(4)破産申立が「受理」されたら、現法が債権を届出ます。そして人民法院が主
体となって、破産管財人の選任・債権者集会の開催があり、「破産宣告」を行い
ます。そして破産管財人が主導する「清算」段階に入ります。破産管財人によ
る一連の活動においては財産評価などの実務に費用がかかり、その費用の予納
が必要ですので、「受理」の是非の審査中に予納ができない(現法のキャッシュ
が足りない)と判断された場合には、「受理」すらされないことも起こり得ます
(その場合、親会社から増資を行うなどの緊急対策が必要です)。また、
「破産宣
告」までの間に《企業破産法》第 2 条所定の事由に適合しないと人民法院に指
摘された場合、一旦「受理」されていた申立が棄却されることもあります。
「企業破産法」
第 12 条 人民法院は、破産申立を受理しない旨を裁定する場合には、裁定をし
た日から 5 日以内に申立人に送達し、かつ、理由を説明しなければならない。
申立人は、裁定に不服のある場合、裁定送達の日から 10 日以内に一級上の人民
法院に上訴できる。
破産申立の受理後から破産宣告までに、人民法院が審査を経て債務者が第 2
条所定の事由に適合しないことを発見した場合は、申立を棄却する旨を裁定す
ることができる。申立人は、裁定に不服のある場合、裁定送達の日から 10 日以
内に一級上の人民法院に上訴できる。
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2017 年 1 月
(5)破産申立が受理されると、債務者企業の法定代表者や(人民法院が決定した
場合のみ)財務管理人員その他の経営管理人員には、下記「企業破産法」第 15
条各号の義務が課されます。よく「董事長や総経理は当局に拘束されるのか?」
との質問を受けますが、法律上は拘束などあり得なく「住所地を離れてはなら
ない」とされるだけです。現実は、個々の事例ごとに各地の人民法院の対応・運
用にバラつきはありますが、董事長が日本在住であれば、直接何らかの指示を
受けることはありません。一方、中国在住の総経理もしくは経営幹部は、移動
の自由をある程度奪われる(国境で出国させてくれない)可能性はあります。
「企業破産法」
第 15 条 人民法院が破産申立を受理する旨の裁定が債務者に送達された日から
破産手続終結の日まで、債務者の「関係人員」は、次に掲げる義務を負う。
(1)当該関係人員が占有し、及び管理する財産、印章並びに帳簿および
文書等の資料を適切に保管する。
(2)人民法院及び管理人の要求に基づき業務をし、かつ、ありのままに
質問に回答する。
(3)債権者集会に列席し、かつ、ありのままに債権者の質問に回答する。
(4)人民法院の許可を経ないで、住所地を離れてはならない。
(5)他の企業の董事、監事及び高級管理者を新たに担任してはならない。
前項における「関係人員」とは、企業の法定代表者をいい、人民法院の決定
を経て、企業の財務管理者その他の経営管理者を含めることができる。
第 129 条 債務者の「関係人員」がこの法律の規定に反して無断で住所地を離
れた場合は、人民法院は、訓戒または勾留することができ、法により罰金を併
科することができる。
「出入境管理法」
第 12 条 中国公民に次に掲げる事由の 1 つがある場合には、出境を許可しない。
(1)有効な出入境証書を所持せず、または国境警備検査を受けることを
拒絶もしくは回避するとき。
(2)刑罰に処され執行が完了しておらず、又は刑事事件の被告人もしくは
被疑者に属するとき。
(3)未結了の民事事件があり、人民法院が出国を許可しない旨を決定
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日系企業の「破産」
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したとき。
(6)その他想定される責任追及としては、現法の破産原因が明らかになった後に、
董事・監事や高級管理人員が得た業績連動賞与や、従業員賃金が未払の段階で得
た賃金などにつき、その返還が求められることもあります。破産管財人から責
任追及に関する訴訟が提起された場合には、上記「出入境管理法」第 12 条が「中
国公民」を対象としているとは言え、日本人幹部も中国からの出国を制限され
ることがあるでしょう。
また、董事・監事その他管理人員が罪には問われなかったとしても、将来同じ
行政単位内の他の現法の役職に就く場合には、制限を課される可能性はありま
す。
しかしこれらのリスクは、
「破産に至った原因が、日本本社が派遣した経営管
理人員の責任に帰するものではない」ということを説明できる資料を事前に整
えることで、極小化することは可能です。
(7)日系企業の撤退の多くは「解散→清算」ですが、本稿で説明した「破産→清
算」もあり得る選択肢(=結末)でもあります。いずれにせよ、法律だけでなく
実務に加えて貴社のことを充分理解しているアドバイザーを起用してください。
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