輪荷重走行試験による RC 床版の疲労劣化に関するモニタリング技術の

土木学会第71回年次学術講演会(平成28年9月)
CS7-036
輪荷重走行試験による RC 床版の疲労劣化に関するモニタリング技術の検討
(その1)試験の概要とリファレンス計測による損傷程度の評価
鹿島建設(株)
正会員 ○古市耕輔,新井崇裕,岩井 稔
前田建設工業(株)
正会員 小原孝之
1.はじめに
RC 床版の疲労劣化に関するモニタリング技術の適用性について検討することを目的として,輪荷重走行試
験を行いリファレンスデータ,および各種モニタリング技術(後述する 7 技術)によるデータを採取した.本
報では,(その1)として輪荷重走行試験の概要とリファレンス計測による損傷程度の評価について述べる.
2.輪荷重走行試験の概要
(1) 試験体
試験体は,老朽化した RC 床版を模擬することを想定し,道路橋示方書の旧基準(昭和 39 年版)を参考に
して設計した 1).試験体の概要を図-1に,コンクリートの配合,および試験開始時における特性値を表-1,
2にそれぞれ示す.試験体の形状寸法は,幅 2,200,長さ 4,000,厚さ 190mm であり,内部には上段主鉄筋 SD295A
D16,下段主鉄筋 SD295A D16,および上段配力鉄筋 SD295A D10,下段配力筋 SD295A D13 をそれぞれ 300mm
間隔で配置した.
(2) 試験方法
輪荷重走行試験は,写真-1に示す山口大学工学部所有
の試験機(自走式)を用いて行った.試験体は,試験機の
線支承の上に配置し床版支間は 2,000mm とした.境界条
件は,輪荷重走行方向の 2 辺を線支承で支持し,直角方向
の 2 辺は自由端とした.また,輪荷重走行時の負反力によ
る滑動を抑制する目的で,線支承上の 6 箇所において床版
上面を試験機に固定した(図-1).載荷荷重は,15,000
移動往復回毎に段階的に値を大きくした(89,100,110kN).
各載荷荷重における 0,100,1,000,5,000,15,000 回の移
図-1
動往復回時に静的載荷を行った.ここで,本試験機は油圧
表-1
の加圧速度を制御できない仕様のものであったため,静的
載荷は所定の荷重まで 40~50 程度にステップを分割し,
載荷と除荷を繰り返しながら徐々に荷重をあげることで
データを採取した.このため,一般的な静的載荷よりも載
荷速度は速いものとなっており,続編における加速度デー
タ等も採取した.載荷荷重と移動載荷回数の関係を図-2
に示す(結果として,試験は累積走行回数 45,167 回(載
コンクリートの配合
粗骨材の セメントの
水紛体比
最大寸法 種類によ
る記号
[mm]
[%]
20
N
67.5
表-2
試験体の概要
単位量 [kg/m3 ]
セメント
水
細骨材
粗骨材
混和剤
253
171
916
942
2.53
コンクリートの特性値
圧縮強度
割裂引張強度
ヤング係数
ポアソン比
[N/mm2 ]
30.4
[N/mm2 ]
3.20
[kN/mm2 ]
27.2
[%]
0.2
荷荷重 110kN)のときに床版の抜落ちにより終了した).
(3) リファレンス計測とモニタリング技術
リファレンス計測では,高感度変位計によるたわみ量,目視観察に
よるひび割れ状況,パイ型変位計によるひび割れ幅(19 箇所)をそれ
ぞれ測定した.また,モニタリング技術は,表-3に示す 7 種類を用
いた(今回は,続編で②,③,④,⑦の技術について報告する).
3.損傷程度の評価
リファレンス計測における残留変形角(残留たわみ/(床版支間/2)), 写真-1
輪荷重走行試験の状況
キーワード
RC 床版,疲労,劣化,輪荷重走行試験,損傷評価,モニタリング技術
連絡先
〒182-0036
東京都調布市飛田給 2-19-1
鹿島建設(株)技術研究所
-71-
TEL042-489-6706
土木学会第71回年次学術講演会(平成28年9月)
表-3
140
モニタリング技術の一覧
モニタリング技術
①
加速度センサ(周波数範囲:広い)
振動数
80
②
加速度センサ(周波数範囲:狭い)
たわみ量,振動数
③
振動センサ
共振周波数
④
光ファイバ
ひび割れ総延長
⑤
静画像解析
ひび割れ幅,ひび割れ状況
⑥
動画像解析
ひび割れ幅,ひび割れ状況
⑦
アコースティックエミッション法
AEエネルギー
60
40
静的載荷
0
10,000
20,000
30,000
40,000
50,000
60,000
移動載荷回数 [往復回]
図-2
表-4
RC 床版の損傷程度の評価指標と閾値
損傷程度の評価指標
a
b
c
d
e
残留変形角
[-]
-
1/400
1/300
1/200
1/100
ひび割れ密度D
[m/m2 ]
D≦1
D=1~3
D=3~5
D=5~7
D≧7
載荷荷重と移動載荷回数の関係
ひび割れ密度 D,床版支間直角方向の残
留ひび割れ幅 W,平均ひび割れ間隔 l,床
版下面のひび割れ状況,および表面状態の
6 つの指標から床版の損傷程度(a~e)の
残留ひび割れ幅W
[mm]
-
平均ひび割れ間隔I
[m]
-
0.1mm以下 0.2mm以下
最大値が
が主(一部 が主(一部 0.2mm以上
0.05mm以下 0.1mm以上も 0.2mm以上も が目立つ
存在)
存在)
状況を図-4にそれぞれ示す(図-3の青
表面状態
[-]
損傷なし
ヘアークラッ
ク程度
a
0.020
b
0.015
c
0.010
d
0.005
e
として,各モニタリング技術の効果的な適
用範囲について考察を試みた(結果は続編
で報告する)
.
1/100(e)
10
a
8
b
6
c
4
d
2
e
ひび割れ密
度
D≦1
D=3
D=5
D=7
0
0
15,000 30,000 45,000 60,000
移動載荷回数 [往復回]
0
2.0
a
1.5
b
1.0
c
0.5
d
0.0
e
-0.5
15,000
30,000
45,000
60,000
移動載荷回数 [往復回]
PIL-14
PIL-15
PIL-16
PIL-18
PIL-19
PIL-20
PIL-21
PIL-22
PIL-23
PIL-24
PIL-25
PIL-26
PIL-27
PIL-28
PIL-29
PIL-30
PIL-32
PIL-33
PIL-34
0.05mm
0.10mm
0.20mm
図-3
45,000
60,000
1.2
(3) 残留ひび割れ幅
4.おわりに
30,000
(2) ひび割れ密度
2.5
0
15,000
移動載荷回数 [往復回]
(1) 残留変形角
残留ひび割れ幅 [mm]
形角も併記)
.この損傷程度の定量値を基本
1/200(d)
0.000
生じた.ここで,6 つの指標における損傷
結果を図-5に示す(参考として,残留変
損傷程度
1/300(c)
して,部分的な角落ちは 5,000 回のときに
取ることにより損傷程度の定量化を試みた
1/400(b)
部分的な角
落ち
12
変形角
0.025
太線は評価結果を示す)
.また,表面状態と
程度の評価結果の平均値(端数切捨て)を
一または二
方向
一方向のみ
損傷程度
割れ間隔を図-3に,床版下面のひび割れ
I≦0.2
一または二
方向
なし
0.030
残留変形角 [-]
ひび割れ密度,残留ひび割れ幅,平均ひび
I=0.2~0.5
[-]
,および橋梁定期点検要領 2)を参考に,表
損傷程度の評価結果として,残留変形角,
I≧0.5
一または二
方向
ひび割れ状況
評価を試みた.評価にあたり,松井の提案
-4に示すような閾値を設定した.
I≧1.0
損傷程度
0
ひび割れ密度 [m/m2]
20
1)
劣化指標
100
平均ひび割れ間隔 [m]
載荷荷重 [kN]
120
1.0
a
0.8
b
0.6
c
0.4
d
0.2
e
平均ひび割
れ間隔
I≧1.0
損傷程度
CS7-036
I≧0.5
I≧0.2
0.0
0
15,000
30,000
45,000
60,000
移動載荷回数 [往復回]
(4) 平均ひび割れ間隔
各評価指標による損傷程度の評価
今後は,輪荷重走行試験や現場計測での
データを増やすことにより,モニタリング
技術の適用性や床版の損傷程度に応じた効
果的な適用範囲の精度向上について検討を
行っていきたいと考えている.
謝辞
本研究は,モニタリングシステム技
(1) 100 回(b)
図-4
(2) 1,000 回(c)
(3) 5,000 回(d)
(4) 15,000 回(e)
床版下面のひび割れ状況による損傷程度の評価
術研究組合(RAIMS)が実施した研究
0.025
メント技術」の一環として国土交通省が実施する「社会イン
b
0.020
c
0.015
ひび割れ状
況
ひび割れ密
度
ひび割れ幅
d
0.010
e
0.005
フラへのモニタリング技術の活用推進に関する技術研究開
発」委託事業研究の成果である.
参考文献
1) 松井繁之:道路橋床版 設計・施工と維持管理,2007.4.
2) 国土交通省:橋梁定期点検要領,2014.6.
0
0.000
15,000 30,000 45,000 60,000
移動載荷回数 [往復回]
図-5
-72-
残留変形角 [-]
残留変形角
a
損傷程度
0.030
であり,内閣府の「SIPインフラ維持管理・更新・マネジ
損傷程度の定量化
平均ひび割
れ間隔
角欠け
平均値(端数
切捨て)
残留変形角