薬剤部

薬剤部
訪 問
東邦大学医療センター大森病院
2008年には薬剤師の病棟配置をほぼ完了
年間500例ほどの「プレアボイド」
を蓄積
東京の区南部二次医療圏にある特定機能病院・東邦大学医療センター大森病院
では、病院の特色とするチーム医療の実践において、がん、栄養、感染、緩和
ケアなど、それぞれの領域で薬剤師が専門性を発揮している。また、病棟では
薬物療法の副作用などの回避、軽減に努め、他職種から高い評価を得ている。
部長の西澤健司氏は語る。
少数精鋭の薬剤部
同院は、東京都の区南部二次医療
「病棟薬剤業務実施加算」は2012
圏(品川区、大田区)の基幹病院の1
年の診療報酬改定から実施されたも
つに位置付けられる特定機能病院
のだが、東邦大学医療センター大森
で、 三 次 救 急を担う救 命 救 急 セン
病院では実施前から病棟薬剤業務へ
ターを備えているほか、地域がん診
の 取り組 み を 着 々と 重 ね てき た。
療連携拠点病院、災害拠点病院など
1988年 に
「入院調剤技術基本料
にも指定されている。それだけに薬
(100点業務)
」が加算された頃から、
剤部にも高度で幅広い業務が課せら
一部病棟での病棟薬剤業務を開始し
れている。入院基本料の算定要件と
て以降、5年前の2008年には、ほぼ
して、1病 棟1週 間 につき20時 間 相
すべての病棟で担当薬剤師の配置を
当以上の病棟薬剤業務を実施できる
佐倉市、451床)
といった付属病院が
終えていた。
ような体制を敷くため、2012年には
あり、年に1度3病院合同で勉強会を
東邦大学医療センター大森病院
薬剤部長 西澤 健司
1983 年日本医科大学附属病院薬剤部を経て、
2005 年東邦大学医療センター大森病院薬剤部副
部長、2011 年より同センター薬剤部長。2008
年日本災害医療薬剤師学会会長に就任。
「2010年からは精神神経科病棟に
8人増員され、総勢60人となった。
開催している。大森病院は3病院の
も配置し、2012年の加算のためには、
東邦大学には医療センター大森病
中で最も大きいが、実は病床当たり
NICUと産科病棟に配置するのみで、
院のほかに、同大橋病院(東京都目
の薬剤師の比率は最も少ない。「少
大がかりな準備は不要でした」
と薬剤
黒区、455床)
、同佐倉病院(千葉県
数精鋭で、業務を短時間で効率的に
薬剤師の数が足りないところは、 中央業務
(写真は注射薬混合)を効率的に短時間で
行い、病棟業務などの時間を作る。
972 床 ■ 職員数 1983 人
DPC/PDPS 2003 年
東京都大田区大森西 6-11-1
http://www.omori.med.toho-u.ac.jp/
■
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氏
Excellent Hospital
病床数
こなすことで、病棟に展開する時間
を増やしています」
と、西澤氏は手の
図|東邦大学医療センター大森病院薬剤部の
病棟活動記録のフォーマット
内を語る。
プレアボイド
を明瞭に記載
具体的には、入院患者の午前中の
内服薬調剤と午後の注射薬混合に集
中的に人員を配置して中央業務を短
時間で終わらせるのだ。化学療法セ
ンターの薬剤師も午後は注射薬混合
業務を集中的に行う。
チーム医療に専任、専従者を置く
「病院を挙げて熱心にチーム医療
に取り組む」
という伝統を守り続けて
いることは、同院の最大の特徴の1つ
として挙げられる。チーム医療にお
いて中核的役割を担う薬剤師につい
ても専任者や専従者を多く配置して
いる。例えば、栄養サポートチーム
事例に対する薬剤師の対応と薬学的ケアの成果が記載されている。
(NST)には専任者がおり、チームの
回診に同行してコンサルテーションや
介入を行っている。また、感染制御
れぞれの組織の専任・専従薬剤師を、
を「プレアボイド」
として収集している
チーム
(ICT)や緩和ケア支援チーム
同院ではリンクナースにならって、
「リ
が、そこにもこれらの事例を報告して
などにも専従の薬剤師がいる。化学
ンク薬剤師」
と呼んでいる。リンク薬
いる。
療法センターにも午前中、専門薬剤
剤師は各病棟薬剤師の課題を横断的
薬剤部は、院外の薬剤師とも情報
師およびがん薬物療法認定薬剤師の
に吸い上げて各組織に持ち帰り、多
交換を行っている。年に1回、区南
有資格者が常駐しており、抗がん剤
職種で構成される専門チームの中で
部二次医療圏の昭和大学病院や他の
投与前に患者さんの状態を確認して
検討し、その結果を病棟薬剤師に戻
医療機関の薬剤師との勉強会を行っ
いる。さらに、救命救急センターに
している。
ている。ほかには、同院の主宰で年
も1人が常駐、もう1人専任者がおり、
一方、病棟業務を担当している薬
に2回、地域の病院や薬剤師会の薬
災害派遣医療チーム
(DMAT)の資格
剤師は二十数人おり、月に1度、病
剤師を交えて、同院で実践中のチー
を持つ薬剤師が2人いる。
棟担当者会議を開催し、医師に対し
ム医療での専門知識を共有する勉強
薬剤部では、チーム医療や病棟で
て行った処方提案や、ヒヤリ・ハット
会を開催している。
高度な専門性が発揮できるよう、日
事例について、担当者が病棟活動記
西澤氏は、薬剤師が「他の病院で
本病院薬剤師会の専門薬剤師や認定
録に基づいて発表し合う場を設けて
はどのように働いているのか」を知る
薬剤師の資格を取得することを奨励
いる
(図)
。各病棟薬剤師が月に2つ
ために常にアンテナを張っているとい
している。加えて、研修を受けやす
の事例を出すと年間では500例近く
う。院外の薬剤師との勉強会もそれ
くなるように勤務時間の調整をするな
に上る。「皆のスキルアップにつなが
を知る機会の1つだ。「それぞれの病
どの支援をしている。
るので、この発表を奨励しています
院のカラーは大事にすべきですが、
し、人事考課でも加点としています」
新しいことにトライする気持ちを忘れ
と、西澤氏。
てはいけない」
( 西澤氏)。この姿勢
院外との勉強会も開催
日本病院薬剤師会は、薬剤師が直
が、制度変更にも余裕を持って対応
NSTなどの専門チームや委員会と
接関与して患者の不利益(副作用、
できる組織運営を可能にしているよう
病棟薬剤師をつなぐ役割を持つ、そ
相互作用など)を回避・軽減した事例
だ。
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