今、教育委員は!

教育委員だより
今、教育委員は!
平成28年12月
教育委員 増田友厚
本号のテーマ 「人は『かかわり』の中で学び育つ」
〇 はじめに
「ひとつの野菜は、土、水、空気、太陽、肥料、
すべての力がかかわりあって育つ。
人間だって、同じことだ」
ある先生の言葉です。たしかにそうです。自分の人生を振り返るとよくわかります。さ
まざまな所でさまざまな人に出会い、驚き、共感し、対立し、納得し、共同し、育てられ
てきました。それらの、一つひとつが、今の私が私であるために大切な学びでした。
「人間は、たくさんの人や物とのかかわりの中で学び育つのだ」との教示に、学び育つ
ための土台がどこにあるのかをあらためて確認できます。
もう一つ、人と人との関係がうすれてゆくこの時代に欠かせない視点を提起下さってい
るものと思います。
「無縁社会」
「格差社会」と揶揄されるなか、職場や学校で積極的に人
間関係をつくりだし、高め合う力が大切な時だからです。
作家、高史明さんは最愛の一人息子真文君を 12 歳で送りました。たくさんの詩を残し
ての自死でした。高さんの作家としての思索は、なぜ息子は逝くことを選んだのかの問い
を軸に深められます。こう記しています。
「振り返ってみると、私は息子に、二つのことを
教えてきた。それは『自分のすることに責任を持ちなさい』
『人に迷惑をかけてはならない』
一体これでよかったのだろうか。
」後に気付きます。「間違ってはいないけれど、人は、誰
にも迷惑かけずにいきてゆけるのか。自分のすることに責任を持ち切れるのか。いや、皆、
望むのではないが、誰かに迷惑を掛けずには生きられない。責任も果たし切れないことも
ある。だからこそ、人は、助け合い、支え合い、おぎない合って生きることを学び、人類
の文化として伝えてきたのだ。このことこそ教えなければならなかったのだ。」高さんは、
具体的に一本の鉛筆を例えとして、手元に来るまで経てきた多くの人の手を思い、また、
材料となった樹木と大地、水、空気、太陽にまで思いを向けつつ、このかかわりの学びを
通して、私たちは、多くの人や物とのかかわりの上に生きていけるのだと伝えておきたか
ったと振り返ります。
かかわりは、主体的な働きかけや取り組みの中で育まれ深められます。佐久市内でのい
くつかの試みに目を向けてみましょう。
1 地域と共にある学校づくり(佐久市コミュニテイースクール)
佐久市内の学校は、地域の皆さんによる「学校支援のボランティア」のお力をいた
だき、
「見守り隊」
「読み聞かせ」
「職場体験学習」等と多岐にわたり感謝いたしており
ます。
現在、これらの取り組みを土台にして、一層、学校と地域住民の協働による開かれ
た学校づくりを進めつつあります。それは、地域の皆さんに、日常的に学校へ来てい
ただき、子どもたちへの支援をお受けし、子どもの教育や学校運営について話し合う
など「このように育ってほしいと願う子ども像」を共有しながらの持続可能な仕組み
を整えた協働です。
また、子どもたちにとって、地域の多くの人たちや友人とのかかわりが増し、社会
的自立につながる体験・交流、地域の歴史、文化に触れる地域学習を進め、次代を生
きぬく力を磨く場が広がるのでしょう。
佐久市内の多くの学校ではすでに先行して創意的な取り組みが進められています。
<T小学校での一端をご紹介します>
学校運営委員会及び 7 つの部会があります。運営委員会は地域代表、学校代表、各
部会代表の方々 合せて十数人で構成され、学校運営・日常の教育活動等についてご意
見を頂いて協働の活動を進めています。部会は七つあり、170人の部員による次の
ような活動です。
見守り隊部会
クラブ講師部会
(つり、お茶、イラスト、ニュースポーツ、
未来館)
学習ボランテイア部会
(応援隊、英語活動)
読み聞かせ部会
(ごりょう読み聞かせ、まあるい卵)
体験活動支援部会
(米作り、リンゴづくり、菊づくり、
豆腐作り)
<地域の方の学習支援ボランティア>
行事支援補助部会
(マラソン、スキー教室、スケート教室、遠足、登山、Tou ちゃんの会)
特別講師部会(鎌倉彫、鬼の話)
「いずれ子供たちは、世界中の人々とかかわりを持ちながら生活するようになりま
す。その際、求められる力はいくつかありますが、成長期に大切にしたいことの一つ
は、その地に暮らす人々と知り合い、刻まれた歴史や、地域の特色を学び、その地を
愛し、誇りに思うことです。その感性を持つなら、もし、他の地に移り住んでも、新
たな土地と暮らす人々を愛することができるでしょう。それがグローバル化の基本で
はないでしょうか。
」T 小学校の先生方のこの言葉が強く印象に残りました。
2 子どもたち自身が取り組む「電子メデイアとの付き合い方」
ネットやゲーム等電子メデイアとどう付き合えばいいのか、各地で問われています。
大人たちが規則を作り、一方的に子どもたちに厳守を求める対応は根本の解決につな
がりません。
佐久市では、この春、家庭、学校、
地域が連携して考える「SakuKids メ
デイア Safety」と呼ぶ協議体がつく
られ、子どもたちが、また、親子が
共に考えていくことを基本に取り組
まれています。
具体的には、子ども自身が自分の事
としてよく考え、家庭で、クラスで話
し合い、学校として討議し、全市的に
それを持ち寄り、また、議論して深め
合う。実に、丁寧にていねいに子ども
<第1回Saku子どもメディアサミット>
たちの意見や願いを耕してゆく取り組みで、県内外からも注目されているものです。
<本年の取組み>
1月
電子メデイアにつて考えるネットワーク「SakuKids メデイア Safety」
発足その後、現状把握のアンケートを保育園、その保護者まで広げる。
市内小中学校では、アンケートをもとに、学級、学年、児童会、生徒会で課
題を洗い出し、取り組み方について話し合った。
10月
子どもメデイアサミット開催(SakuKids メデイア Safety 主催)
市立24校の代表児童生徒が佐久平浅間小学校に集い、意見交換で、見えて
きた取り組むべき3つの柱
① 生活のリズムを調えよう・体を大切にしよう
② ネット被害(加害)に注意しよう
③ 家族や友達とのふれあいを大切にしよう
特に「全体での約束」については傾聴すべき意見が多く出され、持ち帰って
再び各学校で話し合うこととなった。
全家庭配布の「電子メデイアとの付き合い方啓発リーフレット」の内容にも
子供の意見を反映させたものにし、2 月ごろに発行予定。
子どもたちは、真剣に考え、友人と、家の人とも、他のおとなたちとも話し合って、
よき方向を探っています。しかも、一つの学級、学校の枠を超えた意味ある取り組み
です。子どもたち、そして関係する地域の皆さんと先生方の熱意にエールをおくりた
い思いです。