ブロック歪の周期性に着目した改ざん検出方法の検討

ブロック歪の周期性に着目した改ざん検出方法の検討
A study of forgery detection measure based on periodicity of blocking artifact
コンピュータグラフィックス学講座 0312013082 鈴木拓哉
指導教員 : 亀田昌志 松田浩一 塚田義典
1. はじめに
SNS 等の普及によりデジタル画像を扱う機
会が増えている.その一方で,デジタル画像
の編集が容易になったことから,改ざん画像
による虚偽の内容を含んだ画像が流通する事
例が増加している.そこで,近年,画像の改
ざん部分を検査する際の負担を軽減させるた
めに,改ざん箇所の位置推定を行う研究が進
められている 1)2).画像の改ざん検出を行う際
に,ブロック歪による高周波成分を利用した
手法がある 2).文献 2)では画像を 8*8 画素の
ブロック毎に分割した後,高周波成分の含有
量から改ざん箇所の推定を行っている.しか
し,改ざん部分の可変性や判定基準の精度に
依存して,検出漏れや誤検出が発生してしま
う場合がある.本研究では,音声の特徴抽出
に用いられるケプストラム解析によって,改
ざんによるブロック歪の周期性の変化に注目
した位置推定手法について検討する.
2. 先行研究とその問題点
先行研究で用いられた DCT 成分解析は,
改ざん画像における背景画像(図 1(a))と挿入
画像(図 1(b))のブロック歪の境界線が一致し
ないこと(図 1(c))に着目している.画像を
JPEG 圧縮した際,入力画像は離散コサイン
変換(DCT)によって 8*8 画素のブロック単位
毎に量子化されるため,8*8 画素毎の DCT 係
数から高周波成分を抽出し,ブロック毎で総
和を求める.全ブロックの総和の平均と比較
してブロックの総和が平均より大きいとき,
改ざん候補ブロック D1 とする.次に,画像
の左上の座標を(0,0)とした場合,非改ざん部
ブロックの左上座標は(8*m,8*n)(m,n は整数)
になる.ブロック毎に座標を 64 通りにずら
して高周波成分の総和を求め,最小値が
(8*m,8*n)ではない場合,改ざん候補ブロック
D2 とする.先行研究では D1,D2 の両方に
該当するブロックを改ざん候補ブロック D と
している.
(a) 背景画像 (b) 挿入画像 (c) 改ざん画像
図 1 改ざんによるブロック歪のズレ
このとき,先行研究には以下のような問題
点がある.D1 は各ブロックとその平均を比
較することで高周波成分の値の相違を出して
いたが,改ざん部分の大きさは可変的なもの
であるため,大きければ検出漏れが生じ,小
さければ誤検出が増加してしまう.また,D2
はブロック毎に 64 通りの高周波成分と比較
を行い,1 つでも比較した値よりも大きいと
改ざん候補ブロックと判定されるため誤検出
が多発してしまう.図 2 は符号化レート Q20
の 2 枚の画像をコピー&ペーストした改ざん
画像(図 2(a))から検出された改ざん候補ブロ
ック D1 と D2(図 2(b)(c))を表示している.
(a)改ざん画像(左)
(b)改ざん候補ブロック D1(中)
(c)改ざん候補ブロック D2(右)
図 2 先行研究による検出結果
3. 提案手法
本研究では,ケプストラム解析を用いて改
ざん部の検出を行う手法を提案する.ケプス
トラム解析は,信号に一次元フーリエ変換を
行い得られた対数振幅スペクトルに逆フーリ
エ変換を行うことで,周期の違う信号を分離
するために利用されるが,JPEG 画像に適用
することでブロック境界毎に発生するブロッ
ク歪を検出可能とした報告がある 3).
本研究では,改ざん画像にケプストラム解
析を行うことにより,出力されるケプストラ
ム係数のピーク値の周期性にどのような変化
が現れるのか,そして,与えられたケプスト
ラム係数から改ざん部の位置推定が行えるの
かを実験により明らかにする.さらに,先行
研究では改ざん部のブロック歪のズレから位
置推定を行っているが,合成した際に両者の
画像間でブロック歪のズレが生じなかった場
合,改ざん検出は困難なものになる.この特
性がケプストラム解析を行った場合でも当て
はまるのかについても検証する.
文献 3)の手法では,水平,垂直方向のケプ
ストラム係数に二乗平均を行った後にそれぞ
れ 1 つの値にまとめ,この 2 つの走査線のデ
ータ毎の和に平方根をかけることにより,は
ずれ値の少ない走査線の総合ケプストラムを
求めているが,今回は全走査線の二乗平均を
求めると位置推定が困難になるため,16 走査
線毎に二乗平均を行い水平,垂直方向それぞ
れの平方根を求めている.
4. 実験結果
図 2(a)と同内容の背景画像 LENNA,挿入
画像 parrots の 256*256 画素の画像を用いて
検証する.このとき,二枚の画像にはケプス
トラム係数に与える影響を強調したいことか
ら,JPEG における符号化レートは Q20 と高
い圧縮率を設定した.
図 3 水平,垂直それぞれのケプストラム係数
(グリッド周期 16)
図 3 は水平,垂直方向から改ざん部を含ん
でいる部分と含んでいない走査線から出力さ
れたケプストラム係数である.図 3 より,改
ざん部が含まれるケプストラム係数では細か
い周期が発生しており,その影響で合成前の
周期で現れるピークを確認することが困難に
なっていることがわかる.この現象は改ざん
部が含んだ全てのケプストラム係数で確認す
ることができ,先行研究では検出できていな
い部分でも検出されている.
次に,合成される位置の違いに対するケプ
ストラム係数の推移について検証する.
(a)原画像 (b)改ざん画像
(c)改ざん部を 4 画素ずらした画像
図 4 実験に使用した画像
この実験では,背景画像 LENNA(図 4(a))に
対し,ブロック歪のズレがないように挿入し
た画像(図 4(b))から 1 画素ずつずらした改ざ
ん画像 8 枚を用い,検証を行った.図 4(c)は
図 4(b)の挿入画像から 4 画素分下にずらした
画像である.
図 5 図 4 の各画像のケプストラム係数
図 5 は図 4 の各画像の改ざん部を含む走査
線から出力した垂直方向のケプストラム係数
である.図 5 を見ると,ブロック歪のズレが
生じていないケプストラム係数(図 5(a))とケ
プストラム係数(図 5(b))は同じ位置にピーク
値が出ていることがわかる.それに対し,ブ
ロック歪のズレが 4 画素分生じているケプス
トラム係数(図 5(c))では,図 3 の実験結果と
同じように細かい周期が発生しており,図
5(a)と同じ位置のピーク値を確認することが
困難になっている.また,1 画素ずつずらし
た画像群のケプストラム係数を比較すると,
図 4(b)から挿入画像がずれていく毎にピーク
値の周期性が失われ,元々発生していたピー
ク値とは異なる値が大きくなっていき,図
4(c)より挿入画像が下にずれると一つ下のブ
ロック歪に近づいていくため,ブロック歪の
ズレによる細かい周期が弱まっていくことを
確認できた.
5. まとめ
本研究では,ケプストラム解析を用いるこ
とで,ケプストラム係数のピーク値の周期性
の違いから画像の改ざん検出を行えることを
明らかにした.また,挿入位置の違いによる
ケプストラム係数の変化を実験したことで改
ざん部のブロック歪のズレが発生していれば
検出できることがわかった.
参考文献
1)小林理弘,岡部隆弘,佐藤洋一,“ノイズ
特性にもとづく映像の改ざん検出,”MIRU
2008 論文集,IS4-24,July 2008.
2)田谷邦彦,竹田直人,宿院康昭,小林正,
尾崎吉明,川島成平,“DCT 成分解析等を用
いた JPEG 画像の総合的改ざん検出ツールの
開発,” 情報科学技術フォーラム講演論文
集,14(3),pp.211-212,Aug.2015.
3)小田弘,川根優也,“2 成分画像モデルの
ケプストラム情報の基本性質と変換符号化画
像用のブロック歪の測定への応用,” 電子情
報通信学会論文誌 A,Vol.J97-A,No.7,
pp.492-502,July 2014.