リサーチ TODAY 2017 年 1 月 12 日 2017年、新興国からの資金流出に注目 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 米国大統領選でのトランプ氏の選出を受けて、新興国では資本が流出し、株安、債券安、通貨安のトリ プル安となった。トランプ次期大統領の主張してきた政策を検討すると、財政政策、通商政策、外交政策の いずれも、新興国通貨安につながりやすいことが分かる。みずほ総合研究所は、新興国を襲ったトランプ ショックに関するリポートを発表している1。トランプ政権の政策の実現性は不透明であるが、経済ファンダメ ンタルズの脆弱性や政治・地政学リスクの大きい新興国を中心に、資本流出の標的となる国が出てくるリス クには警戒が必要である。下記の図表は新興国の資本流出入の推移を示す。トランプショックによる米国 の金利上昇とドル高で、新興国からの資本流出が生じた。図表から、その資本流出規模は2015年から 2016年初にかけての人民元安ショックに次ぐ震度であったことがわかる。その後、現在までに資本流出の 度合いは緩和されたが、依然流出が続いている。新興国のなかでも、トランプ・ショックによる影響が直撃し ているメキシコには大きな影響が続いている。 ■図表:新興国の資本流出入推移 5 (億米ドル) 株式投資フロー 債券投資フロー 4 流 3 入 2 ↑ 1 0 ↓ -1 -2 流 出 -3 -4 -5 15/01 Brexit 国民投票 人民元安ショック 第一弾 15/04 15/07 人民元安ショック 第二弾 15/10 16/01 16/04 トランプ ショック 16/07 16/10 (年/月) (注)データは 28 日移動平均値。株式投資はインド、インドネシア、韓国、タイ、南アフリカ、ブラジルの合計。 債券投資はインド、インドネシア、タイ、ハンガリー、南アフリカの合計。 (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 先進国はここ数年、「通貨戦争」とも言えるような形で自国通貨安により外需主導で景気浮揚を行ってき た。一方、新興国の場合では通貨安が資本逃避の動きに繋がりやすく、極端な場合、通貨危機に陥る要 因となる。従って、特に経常収支赤字の額や対外債務の大きさを中心とするマクロバランスがリスク度合い 1 リサーチTODAY 2017 年 1 月 12 日 の大きな判断材料になる。そのバランスを左右する要因に下記の図表に示した民間の債務状況がある。金 融危機後、新興国が世界経済のけん引役として急速に債務を積み上げたため、その反動がバランスシート 調整として生じやすいことに留意が必要だ。 ■図表:民間債務(名目GDP比)推移 (%) 180 先進国 160 140 新興国 120 100 80 60 2005 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年) (注)家計債務と非金融法人債務の合計。 (資料)国際金融協会よりみずほ総合研究所作成 下記の図表は、当社が2017年を展望した新興国リスクの総合評価である。リスクが最も高い国として、ベ ネズエラとトルコを挙げ、次いでリスク度合いの高い国として、アルゼンチン、ブラジル、南アフリカ、ロシア を示している。今日の世界情勢の分析において、地政学的側面にも十分留意する必要がある。 ■図表:新興国リスクの総合評価 ←←← 高 リ ス ク ベネズエラ 総合評価 景気判断 インフレ率 経常収支 政策余地 外貨準備 中国減速の 影響 地政学・ 内政・外交 民間債務 D E E C D D --- E --- トルコ D D C D B D B D C アルゼンチン C C D D C D B B C ブラジル C D C B C B B C C 南アフリカ C C C D C D B B A ロシア C C C A C B B C C 韓国 B C B A B B C C C インドネシア B B A C C C C B B サウジアラビア B C A D B B B B C ベトナム B C A B C C C B --- 中国 B C A A B C --- B D メキシコ B B A C B C B C B 台湾 B C B A B B D B --- タイ B C B A B B C C B マレーシア B C A A C C C B B インド B B B B C B B B B フィリピン B A A A B B C B --- (注)各要素の評価を基に総合評価。各要素、総合評価ともに評価が、A(良好)、B(比較的良好)、C(弱含み・懸念 あり)、D(著しい弱含み・顕著な懸念あり)、E(危機的な状況)の 5 段階。詳細はみずほ総合研究所(2015) 「新 興国不安の現実化リスク」参照。http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/insight/eg151202.pdf (資料)各国統計、IMF、世界銀行、CEIC よりみずほ総合研究所作成 1 「新興国を襲ったトランプショック」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 12 月 26 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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