高性能原子時計の遠距離比較 光格子時計は今日で最も高性能な原子時計である。大陸間で離れた光格子時計を比較する新しいテク ニックを実証する。 1) )背景 プロジェクトの背景と目的 光格子時計は近年最も高性能な原子時計として認められている。光格子時計のアプリケーションとし ては基礎物理法則の検証や一般相対論で予測される重力による時計の遅れから地球の重力ポテンシャ ルを計測する等があるが、これらのうちほとんどにおいて離れた二つの時計を比較することが必要に なる。しかし、現在ある技術は光ファイバリンクのように距離に限界があったり、GPS リンクのよう 精度に限界がある。従って、現在日本とフランスの間で光時計を高精度に比較する方法はない。 パートナー・関係機関 - LNE-SYRTE, パリ天文台 - 国立研究開発法人 情報通信研究機構 (NICT) 科学的な問題点 宇宙ミッション Pharao/ACES においては冷却原子を利用した原子時計を国際宇宙ステーションに設置 する。原子時計は 2017 年に打ち上げの予定であり、これにより異なる大陸に存在する高精度の光時 計を比較することが可能となる。この SAKURA プロジェクトの目的は Pharao/ACES の貴重な機会を 活かすため、LNE-SYRTE と NICT の間の協力関係を開始し、ストロンチウム光格子時計やその遠距 離衛星比較技術を開発することにある。 国際的、日仏の技術水準 いくつかの国家計量標準研究所(日本: 理研, NICT, NMIJ; 欧州: LNE-SYRTE, PTB, INRIM, NPL ; 米国 : JILA, NIST )は光格子時計とその遠距離周波数比較技術(光ファイバリンク, 衛星リンク)を開発してお り、とりわけ光格子時計はこの 15 年間で急速な進歩を遂げた。光格子時計はやがて新しい周波数標 準となるかもしれない。 2) )中間結果 中間結果 SAKURA プロジェクトのおかげで、日仏の研究者間で協力して国際原子時のような国際時系を確立し たりそれとの相互比較を研究する機会を得ることが出来、さらには NICT が日本代表機関として Pharao/ACES の地上局を受け取り、設置するための共同作業もすることが出来た。また、日本側の研 究者が欧州計量機関の重要な周波数比較キャンペーンに自ら開発した精密な衛星比較手法を利用して 参加する機会を得た。この比較手法は同時に行われた光ファイバを用いた手法と比較して性能評価す ることが出来た。フランス側の光格子時計の研究者は NICT を訪問して、これらの原子時計の運用に ついて色々な情報を共有することもできた。 3) )期待される結果・効果 期待される結果 プロジェクト終了時には、ACES 地上局のインストールや運用、また原子時計について日仏間で情報 共有がなされることが期待出来る。後者については、SAKURA プロジェクト後半で NICT と LNESYRTE で同時に光格子時計の周波数測定を行う。2 つの周波数は国際原子時を通じて相互比較するこ とが出来る。 科学・技術・産業・経済などの点から、どのような効果がもたらされるか 原子時計の周波数比較には多数のアプリケーションがある。例えば、国際的な時系を可能とする。地 球の重力ポテンシャルの測定を行い、そこから地球内部についての知見が得られるという実践的なア プリケーションもある。 日仏または国際的な将来の協働の可能性 このプロジェクトは Pharao/ACES ミッションの間継続する。日仏間が遠距離離れていることを考える とこのミッションによってもたらされる世界中の光時計のリンクは LNE-SYRTE 及び NICT にとって 特に重要である。 期限 これらの周波数比較は Pharao/ACES ミッションの 18 ヶ月間行われ、打ち上げは 2017 年の初頭に予定 されている。 国立研究開発法人 情報通信研究機構 井戸哲也研究員
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