ウィークリーレポート 2017/1/10-2017/1/13 2017 年の為替市場の行方と市場テーマについて 2017 年の為替相場も一時 115 円台まで円高が進みやや不安定なスタートとなった。 これまでの『トランプ相場』一辺倒ではなく、中国元の急騰や英国の EU 離脱懸念を蒸し返してのリスクオフな ど波乱含みの幕開け。今年最初のウィークリーレポートでは昨年の相場を簡単に振り返り、今年一年を展望 します。 (2016 年のドル円相場振り返り) 年明け最初の為替週報は昨年の為替市場を簡単に振り返った上で、2017 年の為替相場全般について述べた いと思います。 2016 年の米ドル円相場は一言で言えばまさに『行って来い』という相場付きでした。 年明け中国株の急落から始まったリスクオフの円高は原油相場 30 ドル割れなどの資源価格の下落と相まって 加速し、2 月半ばまでに 1 ドル 110 円近辺まで進みました。米国の成長期待にも懐疑的な見方が広がり、3 月に 米 FRB が金利見通しを年 4 回の利上げから年 2 回に引き下げたことで、ドル円はそれまでの過大評価の水準 訂正が一気に進み 4 月に 110 円を突破。日本のゴールデンウィーク中に 105 円台半ばまで円が急騰(円高)し、 2014 年 10 月の日銀による異次元緩和第二弾による円安分をすべて吐き出す形となりました。 その間、日銀は市場でささやかれていた緩和の限界論を払拭すべく 1 月 29 日の決定会合でマイナス金利導入 を決めましたが円高抑止効果はほんの一瞬に留まり、なおさら緩和策の限界を意識する状況に陥ったことで円 高に歯止めがかからなくなりました。そして 6 月 23 日イギリス国民投票で EU 離脱が選択されると、リスク回避の 動きからドル円は一気に 106 円台から 100 円を割れて 99 円 02 銭。今年のドル円最安値をつけ、一日の東京市 場の値幅としても記録的なものとなりました。 その後は、7 月参院選後に浮上した政府の大型経済対策への思惑と財政出動に歩調を合わせてさらなる日銀 の追加緩和期待、いわゆる『ヘリコプター・マネー』政策が喧伝されるなど日銀の金融政策についての混乱が市 場の変動性を高めたことで更なる円高へのリスクが燻る中、9 月に日銀は総括検証と政策の枠組み変更を決断、 量の緩和から金利を一定水準に固定するイールドカーブコントロール政策を導入しました。その政策への評価 が定まらない中でいよいよ 11 月は米大統領選挙に突入となりました。 大統領選では事前の予想や織り込みに反して、トランプ氏が当選したものの、市場の反応も事前の大方の見立 てとは異なり、リスク資産の買戻しと大幅なドル高が進みました。ドル円は 101 円前半から切り替えし、わずか 1 か月程度で 118 円台まで急伸。トランプ次期大統領が唱える経済政策が米国の成長を加速させることに期待が 集まりドル高・株高が年末に向けて進んできました。 米 FRB も 12 月にようやく今年初めての利上げを行い、さらに次期大統領の経済政策の影響を加味して 2017 年 の利上げ見通しを年 2 回から 3 回に上方修正したこともありドル高の流れが継続しています。 本稿の最初に 2016 年の為替相場は行って来いと述べました通り、ドル円の相場水準は終わってみれば 2016 年 初頭とさほど変わっていません。為替に限らず資産市場の年クローズベースでの変動率はそれほどでもなかっ た割に世界のマクロ経済や政治状況の見通しに対する市場の見方の変動は過去に例のないほどの大きさだっ たと思います。これほどまでに短期間に政治的材料に右往左往した年も珍しいと言えるでしょう。相場の振幅の 激しかった背景としては主に 3 つのことが思い浮かびます。すなわち、 ① リーマンショック後初の利上げとなった米国の経済成長ペースに対する市場の見立てと FRB が想定してい た利上げペースの間に大幅なかい離があったまま埋まらなかったこと。 ② 日銀が政策のコンセプト自体を年内に 2 度も変えなければならないほど、日本のみならず世界的な緩和政 策の限界が近づいていたこと。 ③ 英国の国民投票や米国の大統領選挙の結果が市場の予想・織り込みと全く逆になってしまったこと。 の 3 つです。それではこうした昨年の為替相場変動の要因や足元の状況を踏まえて今年 2017 年の為替相場の 展開を考えてみたいと思います。 (2017 年の為替相場展望) 2017 年の為替相場も、昨年同様大きな不確実性をともなった状態でのスタートということになります。 ただし、トランプ次期大統領の経済対策に対する期待から、昨年とは逆に世界の、というより米国の経済成長に 対して市場の期待が先行する形でのスタートです。依然として米国の成長と金融引き締め(正常化といってもい いのかもしれませんが)ペースが為替市場にとって最大の決定要因である点は今年も変わらないと考えていま す。市場は年 3 回の米国利上げを織り込むべく動いていくとした場合、FRB が 3 月に利上げができるような経済 状態が維持されているかどうかが、年央までの最大の注目点ということになります。この点で 3 月 15 日の FOMC までの米国経済指標の動向と市場の利上げ織り込み度合いに注目したいと思います。この時点で利上げがで きない状況となった場合、年 3 回の金利引き上げペースにも黄信号が点灯しかねません。 トランプ氏が次期大統領に正式に就任するのが 1 月 20 日です。当然ながらその時点での就任演説で何を述べ るか、具体的な経済政策が何か、通商政策が保護主義に傾倒するのか・・・等々さまざまな憶測や警戒も出てく るとは思いますが、過去の事例では、就任後 100 日程度は市場も一気に期待から悲観的現実に振れていく可能 性は低いのではないかと思います。その間、議会共和党との政策面での摺合せや減税・財政政策規模、また現 在空席となっている FRB 理事 2 名の任命などを材料にしながら基本的にはドルが堅調に推移する可能性が高 いのではないでしょうか。 通商政策と関連して、トランプ政権のドル政策についてドル高が一方的に進むことを許容するとは考えにくいと いうのが市場の一般的な見方です。ただ米経済が堅調で企業業績や株価などに影響がでなければ直接的にド ル相場の引き下げ政策をとることもすぐには考えにくいと思われます。 トランプ政権の経済政策の中でも為替相場に直接関連しそうなのは、かつての本国投資法のような海外での利 益を米国国内に還流するにあたっての優遇税制などが導入されるかが注目です。議会で議決されたとしても実 際に資金移動が始まるのは来年度ということになるでしょうが、為替市場は先取りして材料化することが多くドル の大きな支援材料ということになります。 ドル円相場あるいはリスク資産にとって今年も欧州の政治イベントや中国の経済状況が大きな材料となることは 間違いないでしょう。欧州では 3 月 15 日のオランダの総選挙を皮切りに 4 月と 5 月にフランス大統領選、9 月頃 にドイツの連邦議会選挙、おそらくイタリアの総選挙も今年中に行われる予定ですので、昨年同様欧州の政治 状況から目が離せない状況が続きます。ただし仏大統領選挙を除けばそれほど大きく身構えるような大イベント には今年はならず、今後どのような政治勢力が EU との距離感を巡って何を言い出すのか次第だと考えていま す。もっとも仏大統領選挙の日程が日本のゴールデンウィーク前後と重なる為、米国の景気状況次第で年 3 回 の利上げに懐疑的な雰囲気が出てきた場合は今年も日本の連休中は円高となることは警戒しておく必要がある でしょう。 中国に関してはトランプ政権誕生によって通商政策、為替操作国指定をめぐってのトランプ政権との軋轢、国内 経済の減速や民間不良債権問題など昨年以上に注目が集まる状況となりそうです。現在、規模の大きな経済を 有する国で民間企業の債務残高とクレジット状況に問題があると思われているのは中国のみであり、成長鈍化 によるリスクの顕在化は常に警戒せざるを得ません。中国経済と関係の深いオセアニアの通貨や東南アジアの 通貨全般にとってトランプ政権の中国・アジア政策がどのようになっていくのかは最大のリスクでしょう。 いわゆるトランプ相場の恩恵を最大に受けているのは日銀の金融政策といっても過言ではありません。前述し た通り日銀の政策が行き詰まって 2 度もコンセプトを変更しなければならなかった点が昨年度のドル円相場の大 きな値動きを呼び込んだ最大の要因だと考えていますので今年も円相場の重要な決定要因であることに変わり ありませんが、現時点では市場参加者の目がトランプ新政権の動向に向いている中、日銀金融政策には特に 大きな動きも期待もなさそうです。イールドカーブコントロールといった新しい「金融抑圧政策」が継続的に円高抑 止に機能することになりそうです。 ECB が量的緩和の延長と同時に量の縮小も決めた昨年 12 月の理事会の流れが現在の先進国の中央銀行の 立ち位置として基本的な理解が深まりつつあります。すなわち、金融緩和から財政拡大への流れが中央銀行へ の追加緩和への期待値を徐々に下げつつあり、緩和期待が通貨安につながる展開は見込みにくくなっていくと いうことです。 これらを踏まえて、ドル円相場を考えてみると、年前半は底堅く、新年度入りから年央にやや調整色がでて円高 に振れるものの年後半に向けては再び持ち直していくような展開をイメージしています。ドル円のレンジであえて 言えば 108 円から 125 円といったところでしょうか。 昨年同様欧州の政治イベントを意識する場面ではリスクオフからくる円高を意識せざるを得ませんが、最大の為 替決定要因は米国経済であり、最大のリスク要因は中国やアジア新興国の成長鈍化だと考えています。 主要先進国の中央銀行による金融緩和から財政拡大による成長期待へ、資源価格の安定による新興資源国 経済の持ち直しなど日銀・黒田総裁が指摘するようにグローバル経済は昨年の年初に比べると明るい兆しが増 えているように感じます。やや先行しすぎているとは言え、トランプ氏が掲げる経済政策が経済成長への新しい きっかけになる可能性は十分にありそうです。『アメリカ・ファースト』なる政策が実際に米国の経済成長率を高め る方向に作用し、グローバル経済の牽引役になれるのか、単なる孤立排外主義に陥りアメリカ自身の存在感が 世界経済の中で希薄化するだけで終わってしまうのか・・・・今年中にすぐその答えが出ることはないでしょうが、 為替のみならず世界経済は『アメリカ次第』という思いを強くする一年となりそうです。
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