山梨大学医学部の創設期のころ

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山梨医科学誌 31(2),29,2016
記念寄稿
山梨大学医学部の創設期のころ
吉 田 洋 二
元医学会長(前山梨大学学長)
山梨医科大学(山梨大学医学部の前身)の創
離して内膜潰瘍を形成する。これがアテローム
設準備の頃から,それに関わることができたの
に基づく潰瘍形成の主因であった。その結果,
は,自分史の中において,最もやり甲斐のある,
血栓を形成し,皮質の巨大梗塞の原因であるこ
かつ名誉のあることであった。
とを明らかにすることが出来た。
私が大学に赴任した当時は,広大な敷地の中
3.主幹動脈の分岐部丘 Bifurcation Pad の形成
に,学生ホールと一般教育研究棟のみで,基礎
前述のように,脳動脈硬化は主幹動脈分岐部
医学教室と臨床医学教室の教育研究棟は未だ姿
に好発するが,その層状脂質には,血栓形成に
を見せていなかった。
よるものもあるが,分岐部丘の下流側に乱流が
しかし広大な敷地と,南には富士,北西には
形成され,その結果として,内皮細胞障害→血
八ヶ岳を望む美しい環境の中で,教育・研究が
管透過性亢進→内皮下筋細胞の増殖を促し,新
できることに心が躍った。
たな内膜肥厚が形成されることを,連続切片法
大学着任当時の私の研究主題は,「脳血管障
により明らかにした。
害」の病理であった。その概略を述べると,
4.Microaneurysm の形成
1.脳 動 脈 硬 化 の 形 成 と 動 脈 分 岐 部 丘
わが国の脳血管障害は前述のように,高血圧
(Bifurcation Pad)との関係
性脳出血,脳梗塞,くも膜下出血を主因とする
脳動脈の分岐部丘は生理的構造であり,胎生
が,出血群はもとより脳梗塞においても脳内動
6 ヶ月より,脳動脈の主要な分岐部の分流部近
脈の血漿性動脈壊死に基づく出血を伴うことを
位側に限局性に形成されるもの(若干の結合織
明らかにした。
を伴った彈性筋性組織)である。分岐部丘に高
とくに高血圧性脳出血の脳内小動脈瘤は,皮
血圧(内膜水腫の原因となる)や血栓形成が加
殻,視床,尾状核,皮質灰白質深層に好発す
わると,それらが器質化かつ線維化して動脈硬
る。血管造影法と組織透徹法を併用した連続切
化となることなどを,連続切片法により明らか
片法によって,その発生部位を精査することが
にした。
できた。その結果,小動脈瘤は分岐部や弯曲部
また分岐部丘は高血圧症により発育が加速す
の 400 µ 前後の部に好発することが明らかと
る。すなわち多層化と線維化が生じ,しばしば
なった。
内膜深層には脂質沈着と粥腫を形成する(粥状
硬化の形成)。
これらのことが,山梨医科大学へ着任時の研
大きく発育した粥腫は,高頻度に潰瘍を形成
究主題であり,須田助教授,茂垣院生などをは
し,血栓を作り,梗塞の原因となる。
じめ,多くの方々の協力でなし得たことに感謝
2.脳動脈血栓症脳の成り立ち
の辞を捧げたい。
大小の血栓を伴った粥状硬化を連続切片法に
最後に,山梨大学医学部の今後のご発展を祈
より精査すると,内膜の層状に発育した彈状板
ります。
が内彈状板と接合する部位において,融解,剥