AN-1421 アプリケーション・ノート

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AN-1421
アプリケーション・ノート
高出力電流アプリケーションのための ADP1763 LDO レギュレータの並列接続
著者: Jason Duan、Justin Zhao
高速 A/D コンバータ(ADC)や D/A コンバータ(DAC)、ア
ジャイル無線周波数(RF)トランシーバ、クロッキング、特定
用途向け集積回路(ASIC)、フィールド・プログラマブル・ゲ
ートアレイ(FPGA)などの高性能ミクスド・シグナル製品の多
くは、信号チェーンの性能を最大化するクリーンな電源を提供
するために、超低ノイズ、低ドロップアウト(LDO)のリニ
ア・レギュレータを必要とします。このように大規模なミック
スド・シグナル集積回路(IC)は、より高レベルの機能の集積
化、低消費電力化の要求に応じて、多くのトランジスタを集積
する微細プロセス(例えば 28 nm 以下)を採用した設計を特長
とします。このような要件は電力要件にも影響します。コアの
電源電圧が低下し続ける一方、近年ではさらに多くのアナログ
機能やデジタル機能を搭載するため負荷電流が大幅に増加して
います(例えば 3 A 以上)。
用途によっては超低ノイズと高負荷電流の両方の設計目標を満
たす LDO レギュレータを見つけることは非常に困難となってき
ています。なぜなら、こうした LDO レギュレータは市場での入
手が非常に限られ、たとえ入手できるにしても非常に高価なも
のになるためです。したがって、高電流アプリケーションでは
LDO レギュレータを並列接続すると有効な場合があります。
LDO レギュレータを並列接続すると、高負荷時に複数の LDO
レギュレータのパッケージに熱や電力損失を分散できるなど、1
個の LDO レギュレータを使用するよりも多くの利点が得られま
す。また、LDO レギュレータを並列接続すると、単一 LDO レ
ギュレータと比較して、それぞれの LDO レギュレータは低電流
状態で動作するため、ドロップアウト電圧が改善され、電源電
圧変動除去比(PSRR)性能も向上します。高性能ミックスド・
シグナル製品の電源を図 1 に示します。この図では 2 個の
ADP1763 デバイスが並列接続され、コア電圧に電力を供給して
います。
5V
ADP2120
2A BUCK
2.4V
ADP2166 1.3V
6A BUCK
ADM7160
0.2A LDO
3.3V
ADP7158
2A LDO
1.8V
ADP1763
3A LDO
ADP1763
3A LDO
PARALLELING
INTERFACE
AVDD_1V8
HIGH
PERFORMANCE
MIXED-SIGNAL
PRODUCT
1.0V/4A
AVDD_1V0
14966-001
はじめに
図 1. ミックスド・シグナル製品の電源図
このアプリケーション・ノートでは、パッシブとアクティブの
2 種類の並列接続方式を紹介します。パッシブ並列接続の場合
は、2 個の調整可能な ADP1763 デバイスがバラスト抵抗によっ
て並列に接続されます。アクティブ並列接続の場合は、低オフ
セットのレール to レール・アンプ ADA4051-1 が ADP1763 デバ
イスの出力電圧を調整し、2 個の ADP1763 デバイス間の電流差
を検出して電流分担を実現します。これら 2 つの方式の長所と
短所は、実験的なテスト結果により示されています。
アナログ・デバイセズ社は、提供する情報が正確で信頼できるものであることを期していますが、その情報の利用に関して、あるいは利用によって
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Rev. 0
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AN-1421
アプリケーション・ノート
目次
はじめに ..............................................................................................1
負荷レギュレーション ................................................................. 6
改訂履歴 ..............................................................................................2
ソフト・スタート ......................................................................... 6
電流分担方式 ......................................................................................3
ノイズ・スペクトル密度 ............................................................. 7
パッシブ並列接続 ..........................................................................3
熱テストの結果 ............................................................................. 7
アクティブ並列接続 ......................................................................4
まとめ ............................................................................................. 7
テスト結果 ..........................................................................................5
電流分担の精度 ..............................................................................5
改訂履歴
10/2016—Revision 0: Initial Version
Rev. 0
- 2/7 -
AN-1421
アプリケーション・ノート
電流分担方式
一般には、LDO レギュレータ間の出力電圧は許容誤差のためミ
スマッチを生じることがあるので、2 個の LDO レギュレータを
単に並列に接続しただけでは電流分担を実現することはできま
せん。この許容誤差には、LDO リファレンス電圧の差異、フィ
ードバック抵抗のミスマッチ、プリント回路基板(PCB)の寄
生成分のミスマッチなどがあります。LDO レギュレータ間の出
力電圧のミスマッチは、負荷電流に大きなアンバランスを招く
可能性があります。最悪の場合、1 個の LDO が大部分の負荷を
担うために電流制限保護につながる可能性があります。
ADP1763 は、外付けバイアス電源を必要とせずに最小 1.1 V の
入力電圧の単電源で動作し、最大 3 A の出力電流を供給するよ
うに設計された LDO リニア・レギュレータです。ADP1763 は
100 Hz ~ 100 kHz で 2 µV rms の超低出力ノイズを特長としてい
ます。ADP1763 の超低出力ノイズは、LDO 誤差アンプをユニテ
ィゲインに維持し、リファレンス電圧を出力電圧に等しくなる
ように設定することによって実現されます。ユニティゲイン・
アーキテクチャの利点は、LDO 出力ノイズが出力電圧設定とは
独立していることです。詳細については、図 2 を参照してくだ
さい。
ADP1763
VIN
VREG
VOUT
INTERNAL
BIAS SUPPLY
SHORT-CIRCUIT,
THERMAL
PROTECTION
SENSE
IADJ
EN
パッシブ並列接続
電流分担の実際的な方法は、複数の LDO レギュレータ間の電流
分担を改善するために、それぞれのレギュレータ出力に同一の
バラスト抵抗(RB1 と RB2)を追加することです。電流分担性
能をさらに高めるには、大きなバラスト抵抗が望まれます。し
かし、大きなバラスト抵抗は負荷レギュレーションを劣化さ
せ、ドロップアウト電圧を増加させます。したがって、バラス
ト抵抗のトレードオフを考慮した慎重な設計が必要になりま
す。2 個の ADP1763 デバイスの並列接続を図 3 に示します。出
力誤差を最小にするには、それぞれの REFCAP ピン同士と
VADJ ピン同士を接続して、複数のデバイス間で電圧リファレ
ンスを十分にマッチさせます。また、SS ピンと EN ピンも同様
に接続して、異なるデバイス間でソフト・スタート動作を同期
させます。アプリケーションでパワーグッド・インジケータ機
能が必要な場合は、PG ピン同士も接続します。
2 個の ADP1763 デバイスの REFCAP ピン同士を接続すると、主
な出力電圧誤差は、それぞれの ADP1763 出力に接続される誤差
アンプのオフセット電圧から生じます。この誤差アンプのオフ
セット電圧の仕様は非常に小さく、-40 ℃ ~ +125 ℃ の温度範
囲で ±1.32 mV です。REFCAP ピンと VOUT ピンの間には ±1.32
mV の誤差しか生じないため、このオフセット電圧により、小
さなバラスト抵抗でも許容可能な電流分担精度を達成できま
す。さらに、小さなバラスト抵抗では、低負荷レギュレーショ
ンと低電力損失という利点も得られます。
ワーストケースを計算するには、VO1 を最悪の正のオフセット
電圧とし、VO2 を最悪の負のオフセット電圧とします。
VADJ
VO1 = VREFCAP + VOFFSET
VO2 = VREFCAP − VOFFSET
PG
総出力電流 (IO) = 5 A かつ IO = IO1 + IO2 です。
SS BLOCK
SS
14966-002
GND
REFCAP
図 2. ADP1763 の内部ブロック図
ADP1763
DEVICE 1
VIN
1.8V
22µF
1µF
10µF
1µF
EN
VIN
PG
VIN
SS
VIN
SENSE
VIN
VOUT
REFCAP
VOUT
VREG
VOUT
GND
VOUT
VADJ
4.99kΩ
10kΩ
EN
PG
1nF
RB1
VO1
10µF
IO1
VOUT
22µF 1.5V/5A
ADP1763
10µF
1µF
1µF
DNI
VO2
RB2
IO2
10µF
図 3. 2 個の ADP1763 デバイスのパッシブ並列接続
Rev. 0
- 3/7 -
14966-003
DEVICE 2
EN
VIN
PG
VIN
SS
VIN
SENSE
VIN
VOUT
REFCAP
VOUT
VREG
VOUT
GND
VOUT
VADJ
AN-1421
アプリケーション・ノート
図 4 の計算によると、ワーストケースの電流分担精度は 5 A 負
荷で ±11.6 % です。最大負荷電流は 2.789 A で、3 A の定格電流
よりも小さい値です。パッシブ電流分担方式を使用した 2 チャ
ネル間の負荷レギュレーションを図 5 に示します。
バラスト抵抗の許容差(RS-TOL)は ±1 % です。ワーストケース
を計算するには、VO1 電源電圧のバラスト抵抗が正の許容差を
持ち、VO2 電源電圧が負の許容差を持つと仮定します。
VO1 − IO1 × RB ×(1 – RS-TOL)= VO2 − IO2 × RB ×(1 + RS-TOL)
RS-TOL = 1 % のとき、
VO1
I O × (1+ RS-TOL ) +
I O1 =
VO1 − VO2
VO2
RB
1
2
VOUT
2
IO2 = 5 A − IO1
I O2 − I O1
IO
× 100%
5 A の負荷における電流分担精度および電圧低下とバラスト抵
抗との関係を図 4 に示します。バラスト抵抗が増加するにつれ
て、電流分担精度が向上します。しかし、電圧ドループが大き
くなるという欠点があります。約 10 % の電流分担精度と最小の
電圧ドループを達成するには、RB = 5 mΩ を選択します。
50
アクティブ並列接続
アクティブ電流分担方式はパッシブ電流分担方式とは異なり、
アクティブ電流分担ループを使用して、スレーブとマスタの
LDO レギュレータ間の電流バランスを実現します。2 個の
ADP1763 デバイスのアクティブ電流分担の例を図 6 に示しま
す。ここには、第 1 の ADP1763 をマスタ LDO とした 2 個の
ADP1763 デバイス、1 出力アンプである ADA4051-1、および各
LDO レギュレータの入力に接続された 2 個の 10 mΩ 電流検出抵
抗が含まれています。アンプ ADA4051-1 は電流差を検出し、そ
の出力を第 2 の ADP1763 デバイスの VADJ ピンの帰還ノードに
接続してその出力電圧を調整し、電流をバランスさせます。
50
30
30
VDROOP (RB)
20
20
10
10
0
2
4
6
8
10
VOLTAGE DROOP AT 5A (mV)
40
0
14966-004
CURRENT SHARING ACCURACY (%)
40
IO1
図 5. パッシブ並列接続の負荷制御
CS (RB)
0
IO
2
IO2
ここで、CSACCURACY は電流分担精度です。
14966-005
CSACCURACY =
BALLAST RESISTANCE (mΩ)
図 4. 電流分担(CS)精度および電圧ドループと
バラスト抵抗との関係
ADP1763
10mΩ
VIN
1.8V
22µF
10µF
1µF
1µF
DEVICE 1
EN
VIN
PG
VIN
SS
VIN
SENSE
VIN
REFCAP VOUT
VOUT
VREG
VOUT
GND
VOUT
VADJ
10kΩ
EN
PG
1nF
IO1
10kΩ
VOUT
VO1
10µF
22µF 1.5V/5A
ADP1763
DEVICE 2
2.2kΩ
2.2kΩ
1µF
ADA4051-1
200kΩ
100Ω
1µF
EN
VIN
PG
VIN
SS
VIN
SENSE
VIN
REFCAP VOUT
VOUT
VREG
VOUT
GND
VOUT
VADJ
VO2
IO2
9.09kΩ
10µF
1µF
図 6. 2 個の ADP1763 デバイスのアクティブ並列接続
Rev. 0
- 4/7 -
14966-006
10mΩ
10µF
AN-1421
アプリケーション・ノート
テスト結果
2 つの電流分担方式を比較し性能を検証するために、図 7 およ
び図 8 に示すような、2 個の ADP1763 デバイスを搭載した電流
分担評価ボードを設計しました。
電流分担の精度
2 つの評価ボードの電流分担精度を図 9 と図 10 に示します。テ
スト結果から、アクティブ電流分担の精度は広範囲の負荷で
±1 % 未満です。パッシブ電流分担の精度はフル負荷時で約
±5 % で、ほとんどのアプリケーションで許容される値です。ア
クティブ電流分担方式はパッシブ電流分担方式よりも電流分担
の結果が改善され、特にパッシブ電流分担方式において固定オ
フセット誤差が大きくなる軽負荷状態で改善されます。
50
図 7. パッシブ電流分担評価ボード
PASSIVE PARALLELING CURRENT
SHARING ACCURACY (%)
14966-007
40
30
20
BOARD 2
10
0
–10
BOARD 1
–20
–30
–50
0
1
3
2
4
5
LOAD CURRENT (A)
14966-009
–40
図 9. パッシブ並列接続の電流分担精度と負荷電流の関係
1
BOARD 2
0
BOARD 1
–1
–2
0
1
2
3
LOAD CURRENT (A)
4
5
14966-010
図 8. アクティブ電流分担評価ボード
ACTIVE PARALLELING CURRENT
SHARING ACCURAC Y (%)
14966-008
2
図 10. アクティブ並列接続の電流分担精度と負荷電流の関係
Rev. 0
- 5/7 -
AN-1421
アプリケーション・ノート
負荷レギュレーション
ソフト・スタート
パッシブ並列接続ではそれぞれの ADP1763 の出力にバラスト抵
抗を使用するため、負荷電流の増加とともに出力電圧はドルー
プします。図 11 に示すテスト結果から、パッシブ並列接続の負
荷レギュレーションは約 1.3 % であるのに対して、アクティブ
並列接続の負荷レギュレーションは約 0.5 % であり、パッシブ
並列接続よりもはるかに低いことを図 12 は示しています。
フル負荷状態でのパッシブとアクティブの並列接続のソフト・
スタート波形を図 13 と図 14 に示します。図 13 と図 14 の波形
に示すように、出力電圧はパッシブ並列接続とアクティブ並列
接続のいずれでも単調増加します。
VOUT
1.495
2
IOUT
1.490
1.485
3
CH2 500mV
CH3 2A
1.475
0
1
2
3
4
5
LOAD CURRENT (A)
M4ms
270mV
図 13. パッシブ並列接続のソフト・スタート
図 11. パッシブ並列接続の出力電圧と負荷電流
VOUT
1.509
1.507
1.505
2
IOUT
1.503
1.501
1.497
CH2 500mV
M4ms
A CH2
270mV
CH3 2A Ω
1.495
0
1
2
3
4
LOAD CURRENT (A)
5
図 14. アクティブ並列接続のソフト・スタート
図 12. アクティブ並列接続の出力電圧と負荷電流
Rev. 0
- 6/7 -
14966-014
3
1.499
14966-012
ACTIVE PARALLELING OUTPUT VOLTAGE (V)
A CH2
Ω
14966-013
1.480
14966-011
PASSIVE PARALLELING OUTPUT VOLTGE (V)
1.500
AN-1421
アプリケーション・ノート
ノイズ・スペクトル密度
熱テストの結果
5 A の負荷に対するパッシブ並列接続とアクティブ並列接続の
ノイズ・スペクトル密度をそれぞれ図 15 と図 16 に示します。
テスト結果から、アクティブ並列接続とパッシブ並列接続のノ
イズ・スペクトル密度性能にはあまり差がないことがわかりま
す。
ボードの熱テストの結果を図 17 と図 18 に示します。図 17 と図
18 に示すように、どの ADP1763 デバイスも熱的にバランスが取
れています。
NOISE SPECTRAL DENSITY (nV/√Hz)
100k
5A
10k
1k
100
1
10
100
1k
10k
100k
1M
10M
FREQUENCY (Hz)
14966-015
1
14966-017
10
図 17. パッシブ並列接続の熱テスト
図 15. パッシブ並列接続のノイズ・スペクトラム密度(NSD)の
周波数特性、VIN= 1.8V、IO = 5 A
100k
10k
1k
100
1
14966-018
10
1
10
100
1k
10k
100k
1M
10M
FREQUENCY (Hz)
図 16. アクティブ並列接続の NSD の周波数特性、
VIN= 1.8V、IO = 5 A
Rev. 0
14966-016
NOISE SPECTRAL DENSITY (nV/√Hz)
5A
図 18. アクティブ並列接続の熱テスト
まとめ
このアプリケーション・ノートでは、高出力電流 LDO アプリケ
ーションにおいて、パッシブ電流分担およびアクティブ電流分
担を使用した、LDO レギュレータを並列接続する 2 つの方法を
紹介しました。電流分担精度、負荷レギュレーション、ソフ
ト・スタート、ノイズ・スペクトル密度、熱性能など、設計上
の検討事項とテスト結果を示しました。
- 7/7 -