社会的ストレス下の遺伝子発現解析と酸化ストレス 静岡県立大学 環境科学研究所 下位香代子、食品栄養科学部 小林公子 カゴメ株式会社 矢嶋信浩、矢賀部隆史、福井雄一郎、 (協力者:静岡県立大学 薬学部 海野けい子) 〔 研究内容 〕 心身ストレスは、動脈硬化やがんなどの生活習慣病をはじめアレルギー、消化管疾患など種々の疾病の発症や憎悪に 大きく関与している。本研究では、ストレスバイオマーカー探索のために、より人間社会に近いと思われる動物モデルを 確立し、探索したマーカーを利用してストレス診断キットや疾病予防に役立つ食品を開発することを目的とした。なお、ヒト への応用をはかる場合、マーカーの個体差や食品に対する感受性の違いがあるため、種々のマーカーに関係する遺伝 子の多型についても研究を進めることにした。 従来行なわれてきたストレス負荷の条件は過激な物理的なものが多かったが、現代社会で問題となる人間関係にもと づくストレスをより反映させた社会的ストレスの動物モデルとして、単独隔離、過密、対面ペアーの各飼育マウスを用いた。 一期までの研究により、社会的ストレスにより生体に酸化ストレスが惹起されることが判明したので、さらに 最近ヒトにおけ る酸化ストレスマーカーとして注目されている尿中のバイオピリンについて検討した。その結果、単独隔離、過密いずれ の社会的ストレスによっても尿中のバイオピリンが増加した(図1)。健康診断を受診した成人 2,000 人を対象に、食習慣や 生活習慣に関するアンケートとともに、酸化ストレスに関与する遺伝子の多型について分析中であるが、GST 及び NADPH オキシダーゼ遺伝子の変異が糖尿病の発症と、また、カタラーゼと GPX1 が高血圧と関連する可能性が示唆され た(表1)。一方、社会的ストレス負荷マウスの脾臓、肝臓、血液など各臓器の遺伝子発現を DNA マイクロアレイを用いて 網羅的に解析中であるが、脾臓に関して発現変動があった遺伝子は、400近くあり、急性期と慢性期で共通に変動してい た遺伝子は 6 個であった。なお、老化促進マウスを用いて対面ペアー飼育による社会的ストレスと脳機能(学習・記憶)お よび脳委縮への影響について検討したところ、対面ペアー飼育により学習能の低下、脳の委縮が認められたが、緑茶カ テキンの摂取により萎縮が抑制された。 今後、社会的ストレス負荷マウスにおいて発現が変動する遺伝子をさらに詳細に解析し、その遺伝子のヒトにおける多 型解析を順次行なっていく予定である。
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