FX Monthly 平成 28(2016)年 12 月 22 日 GLOBAL MARKETS RESEARCH チーフアナリスト 内田 稔 三菱東京 UFJ 銀行 A member of MUFG, a global financial group Table of contents 1 為替相場の見通し 2 予想レンジ 3 マーケットカレンダー 4 為替相場推移表 1. 為替相場の見通し (1) ドル円(内田) 米大統領選後のシナリオ再考 ................................... 2 12 月のドル円相場(以下、ドル円)は、米大統領選後の堅調 地合いを受け継ぎ続伸。米 FOMC が予想通り利上げを決定した 上、利上げペース加速の可能性を示唆したことから、ドル円は一 時 118 円台を記録した。一方、年末を控えてその後は材料出尽く し感からドル円は 117 円台で膠着。米国の次期政権への期待と不 透明感が交錯する中、底堅さを維持する一方、上値も重くなって いる。年明け以降、政策の内容を冷静に吟味していくことになろ う。 (2) ユーロ(内田・井上) 2003 年 1 月以来となる約 13 年ぶりの安値 ............. 8 イタリアの憲法改正の是非を問う国民投票や ECB 理事会、米 FOMC 等の重要イベントを通過し、ユーロは弱含む展開となった。 ユーロドルは、サポートラインとして意識されていた 1.05 を 割り込むと、2003 年 1 月以来となる安値水準まで下落した。 (3) 人民元(藤瀬) 心理的節目「7.00」を巡る攻防に注目だ ............... 13 12 月の人民元相場は、米国債利回りの上昇に伴う「ドル高」 と、国内から国外への資本流出を背景とした「元安」が重なり、 月を通して上値の重い展開が継続した。米 FOMC 後の 12/16 には、 約 8 年 7 ヶ月ぶり安値を示現するなど、下値不安が急速に高まっ た。資本流出の動きが燻る中で、来月も下落リスクを警戒する。 心理的節目「7.00」を巡る攻防に注目だ。 1 FX Monthly | 平成 28(2016)年 12 月 22 日 (1) ドル円 米大統領選後のシナリオ再考 サマリー 12 月のレビュー ~米 FOMC 後、ドル円 続伸~ 12 月のドル円相場(以下、ドル円)は、米大統領選後の堅調地 合いを受け継ぎ続伸。米 FOMC が予想通り利上げを決定した上、 利上げペース加速の可能性を示唆したことから、ドル円は一時 118 円台を記録した。一方、年末を控えてその後は材料出尽くし感から ドル円は 117 円台で膠着。米国の次期政権への期待と不透明感が 交錯する中、底堅さを維持する一方、上値も重くなっている。年明 け以降、政策の内容を冷静に吟味していくことになろう。 12 月のドル円は 114.70 で寄り付いた(1 日の日本時間 9 時)。米 大統領選後、13 円以上もの上昇幅を記録した 11 月の大相場明けと あって、ドル円も FOMC までは 114 円台から 115 円台での足踏み が続いた。しかし、予想通り政策金利引き上げを決定した米連邦公 開市場委員会(FOMC)では、9 月時点に比べて、来年の利上げ回 数が 2 回から 3 回へと引き上げられた1。市場はこれに金利上昇と ドル高で反応し、ドル円も FOMC 明けの翌 15 日に 118.66 まで続伸 した。その後、クリスマスなどを控えて市場の動意が乏しくなる中、 ドル円は 116 円台まで下押しする場面もみられた。但し、押し目買 い意欲も強いとみられ、ドル円は底堅く推移。日銀金融政策決定会 合後の記者会見で、黒田総裁が足元の円安を容認したことから、改 めて 118 円台へと反発する場面もみられた2。もっとも、新規材料 にも乏しい中、戻り高値は 118.24 にとどまるとその後は 117 円台 で方向感を欠いている。 第 1 図 :ドル円相場の推移(年初来) (円) 125.0 120.0 115.0 110.0 105.0 100.0 95.0 16/1 16/2 16/3 16/4 16/5 16/6 16/7 16/8 16/9 16/10 16/11 16/12 (年/月) (資料)Bloomberg より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 その他の市場を概観しておくと本邦では円安を好感して、日経平 均株価が堅調に推移しており、年内にも 2 万円の大台に達するとの 見方も出ている。また、米国を始めとする世界的な金利上昇に連れ て本邦でも長期金利が上昇。10 年国債の利回りは、今年 2 月以来 1 2 2 参加者 17 名中 9 番目の回答者が来年末の FF 金利予想として前回比 25bp 高い 1.375%と回答したことによる。 黒田総裁は「現在の状況は円安というよりドル高」、「今年 2 月頃の水準で驚く水準ではない」などと発言。 為替相場の見通し | 平成 28(2016)年 12 月 22 日 初めて 0.1%まで上昇。20 年債、30 年債も米大統領選前に比べ、最 大で 30bp 程度上昇した。 一方、米長期金利は、FOMC での利上げ決定当日に 2.6%台まで 上昇したが、その後は小幅に低下。米国の株式相場は、利上げ当日 こそ小反落したが、その後は再び騰勢を取り戻し、史上最高値圏で の推移が続いている。また、原油先物相場(WTI)は、OPEC(石 油輸出国機構)の減産合意を受けて底堅く推移。シェールオイル増 産が意識され、続伸を阻まれているが、総じて市場に安心感を与え ている。もっとも、FOMC 後のドル高の裏返しとして、依然新興国 通貨の値下がりが続いている。新興国では株式相場も軟調に推移し ており、先行きへの視界は必ずしも良好ではない。 米大統領選後のドル円は、開票途中に記録した安値 101.20 から 今月の高値 118.66 まで、1ヶ月余りの間に最大で 17 円以上も上昇 した。この背景としてもちろん他の通貨ペアでも生じた通り、①ド ル高が影響している。また、円の対ドル下落率が、メキシコペソを も上回っていることから明らかである通り、円安圧力も大きく影響 したとみられる 3。その円安要因として、②投機筋の円売りが挙げ られよう。シカゴ IMM(投機筋)の持ち高をみると、米大統領選 前にロング(買い越し)となっていた円の持ち高が円ショート(売 り越し)へと転じている(第 2 図)。次に、③本邦投資家勢が米ド ル調達コストの上昇を受け、為替ヘッジ付き外債投資(ドル建原資 産と先物のドル売り契約)のヘッジ比率を引き下げた可能性もある だろう(ドル買い円売り要因)。さらに、株高と円安を受け、④本 邦の予想物価上昇率が上昇したこと(即ち、予想実質金利が低下し たこと)も挙げられよう(第 3 図)。 ~ドル円急騰の背景~ 第 2 図 : 投機筋の円の持ち高(シカゴ IMM ポジション) 第 3 図 :日本のブレークイーブン・インフレ率(10 年物) (枚) 100000 (%) 1.0 円ロング (円高期待) インフレ予想強 予想実質金利低下 円安圧力 11/1 50000 0.8 0 0.6 12/13 -50000 0.4 -100000 0.2 -150000 インフレ予想低 予想実質金利上昇 円高圧力 円ショート (円安期待) -200000 12/10 13/4 13/10 14/4 14/10 15/4 15/10 16/4 16/10 (年/月) (資料)米 CFTC より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 ~米経済、現時点で は見極めが難しく~ 3 3 0.0 15/10 16/1 16/4 16/7 16/10 (年/月) (資料)Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 2017 年の米国経済を展望すると、インフラ投資や法人税の減税 といった拡張的な財政政策への期待が高まっており、楽観的な見方 大統領選前日(11/7)と 12/21 を比較した対ドルでの下落率は、円が 11.2%、メキシコペソが 9.0% 為替相場の見通し | 平成 28(2016)年 12 月 22 日 に傾いている。一方、金利上昇やドル高は引き締めに近い効果を発 揮する公算が大きい。労働市場の改善が続けば、個人消費を下支え しようが、既に失業率は金融危機以前の水準に並ぶ 4.6%(11 月実 績)まで低下しており、ここからの改善度合いは限界的と言える (第 4 図)。特に、景気拡大から戦後 4 番目の長さとなっている米 経済にとって、先週決定された利上げによる景気への下押し圧力に も警戒が必要だろう(第 5 図)。 第 4 図 : 米失業率 第 5 図 :米国の戦後の景気拡大局面 (%) 11 10 9 8 7 6 5 景気の谷 1991年3月 1961年2月 1982年11月 2001年11月 1975年3月 1949年10月 1954年5月 1945年10月 1970年11月 1958年4月 1980年7月 山 2001年3月 1969年12月 1990年7月 2007年12月 1980年1月 1953年7月 1957年8月 1948年11月 1973年11月 1960年4月 1981年7月 (過去平均) 期間 120ヶ月 106ヶ月 92ヶ月 73ヶ月 58ヶ月 45ヶ月 39ヶ月 37ヶ月 36ヶ月 24ヶ月 12ヶ月 58.4ヶ月 2009年6月 (2016年12月で) 90ヶ月目 4 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年) (資料)Bloomberg より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 (資料)全米経済研究所より、三菱東京 UFJ 銀行グロ-バルマーケットリサーチ作成 さらに、こうした懸念材料に対し、トランプ次期政権による財政 拡張や規制緩和、保護主義などがどのように影響するのか不確実性 は高い。現段階では来年の米経済に関し、過度な悲観視、楽観視と もに禁物だろう。とは言え、米国の主要株価指数が軒並み史上最高 値圏で推移。米国債利回りとドル高が急ピッチで進んだ通り、市場 は現在、楽観的なシナリオに軸足を置いている(第 6、7 図)。こ の為、楽観シナリオの蓋然性が高まった際に株式相場や長期金利、 ドルが上昇する程度より、悲観シナリオの蓋然性が高まった時の反 動(株安、金利低下、ドル安)の方が大きくなるといった非対称性 に留意が必要だ。特に、トランプ次期大統領は、米行政管理予算局 の局長に財政赤字拡大に批判的であるミック・マルバニー下院議員 を指名。政府債務残高拡大に消極的な勢力も抱える議会共和党との 妥協点を探る必要があることも踏まえれば、最終的な財政出動規模 は、現時点でトランプ氏が掲げる規模(5 兆ドル超)に及ばない可 能性が高い。この場合、米 FOMC の 2017 年の利上げ回数も、多く て 9 月見通しで示された 2 回にとどまると考えられる。FF 金利先 物市場も 2 回の利上げを既に織り込んでいることから、この通りの シナリオとなれば追加的なドル高は限られよう。いずれにせよ、米 経済の見通しに関しては、1 月 20 日にトランプ氏が大統領に就任 した後の両院での議会演説や予算教書、税制改革やインフラ投資法 案の行方をみながら、適宜予想に取り入れていく必要がある。 4 為替相場の見通し | 平成 28(2016)年 12 月 22 日 第 6 図 : 投機筋の米 10 年国債先物の持ち高 第 7 図 : 投機筋の米ドルの持ち高 (枚) 300000 (枚) 100000 米債ロング (利回り低下期待) ドルロング (ドル高期待) 80000 200000 60000 100000 40000 0 20000 -100000 0 -200000 -20000 米債ショート (利回り上昇期待) -300000 -40000 10 11 12 13 14 15 16 (資料)米 CFTC より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 5 ドルショート (ドル安期待) (年/月) 10 11 12 13 14 15 16 (年/月) (資料)米 CFTC より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 ~その他の留意点~ 今後のドル円相場を見ていく上で、上記以外の主な留意点として 以下が上げられよう。 米中間の緊張の高ま りとドル円へのと ばっちり トランプ氏のツイッターでの発言を通じ、米中間の政治的な緊張 が高まっている。かねて、トランプ氏は中国を為替操作国に認定す る可能性を示唆しており、対ドルで「7」の大台目前に迫ったドル高 人民元安が、今後の米中間における火種となる可能性は低くない。 問題はその際に、国際通貨基金(IMF)の購買力平価(昨年末時点 で 103.073 円)比、15%ものドル高円安が進んでいる円相場への影 響だ。市場が米側によるドル高円安けん制を意識する可能性は少な からずありそうだ。 引き続き、「リスク 回避」の台頭に要警 戒 また、市場が不安定化し、リスク回避姿勢が高まる場合も、ドル 円相場への下押し圧力となろう。特に、前述の通り、市場の持ち高 が一方向に傾いており、以下の動向には注意を要する。 まず、原油価格だ。OPEC(石油輸出国機構)などの原産合意を 受け、原油先物相場が持ち直し、市場のリスクセンチメントの弛緩 を呼んでいる。同時に日本の物価上昇期待を高め、円安圧力をもた らしている面もある。但し、市況回復に連れ、米シェールオイルの 供給増が警戒され、原油先物相場の上値は抑制される公算が大きい。 投機筋の持ち高動向をみても、既に高水準の買い越しとなっており、 続伸へのハードルは高いと映る。 次に、新興国の動向にも警戒が必要だろう。昨年は、米利上げを 受けた年明けから、市場が不安定化。利上げによるドル高を上回る 円高圧力を招いた。新興国では、通貨安と株安とが見受けられ、こ の内、通貨安進行は、インフレ圧力の高進、対外債務の返済負担増、 資本流出による引き締め効果の顕在化など多くの弊害を招く。米 FOMC も、ここ最近では、金融政策判断において世界的な経済や金 融市場の動向を考慮する度合いを以前よりも強めている。新興国が 混乱すれば、米国の金融政策にも影響が及ぶであろう。 為替相場の見通し | 平成 28(2016)年 12 月 22 日 さらに、欧州では、政治的なイベントを多く控えている(P.11 第 4 図)。英国の EU(欧州連合)離脱や米大統領選でのトランプ氏 勝利など、ともにその後の相場急変を招いただけに、2017 年も大 きな材料となるはずだ。 6 ~シナリオの検討~ メインシナリオ (60~70%) トランプ氏が大統領に就任してから数ヶ月間は、新政権への期待 が持続し、長期金利上昇の可能性も相応に見込まれる。このため、 短期的にはドル円も底堅く推移し、120 円大台に達する可能性はあ るだろう。一方、トランプ次期大統領の経済政策が期待に届かない との見方が強まれば、それまでの動きに対する修整を迫られる可能 性が高まる。このため、現時点では来年のドル円相場が一貫して上 昇軌道を描くとは考えにくく、年初より年末の方がドル安円高とな る可能性が高いと判断する。とは言え、ドル安円高が進むと、本邦 からは値頃感から対外的な直接投資や証券投資が活発化すると見込 まれる。ドル円が下支えされる力は以前より、強まる可能性が高い。 サブシナリオ (15~25%) 比較的、短期間で市場の楽観的なムードに水が注される場合、米 大統領選前の市況に逆戻りするといった可能性は決して低くない。 特に、世界的な低成長が続く中、資源価格の持ち直しは明るい材料 だが、多くの新興国に通貨安や資本流出といった懸念が付きまとう。 このシナリオの場合、ドル円は年初早々より軟調に推移すると見込 まれる。とは言え、ここ最近の急騰劇でドル円の相場観の上方修正 が生じた可能性が高い。このシナリオの場合でも、年末にかけて 100 円割れといった円高水準にまで達するためには、米経済減速感 の顕在化といった強いドル安圧力が必要だろう。 リスクシナリオ (10%~20%) リスクシナリオは、米大統領選後のドル高円安トレンドが定着し、 ドル円が改めて昨年の高値 125.86 更新も視界に捉えるものだ。実 現するための条件は、前月号でも記載の通り。即ち、トランプ次期 米大統領が期待された通り(あるいはそれを上回る)の政治手腕を 発揮し、FRB の金融政策によって米国のインフレ圧力(あるいは期 待)も適度にコントロールされることだ。さらに、レパトリ減税策 の実現や、11 月に活発化した円売りフローの継続も必要だろう。 さらに、トランプ政権が公にドル高を容認する姿勢を示す場合も、 ドル高を勢いづかせよう。こうした環境下では、米国の企業収益拡 大への期待が勝り、ドル高と金利上昇を吸収しながら、米国の株式 相場が堅調に推移。FRB による利上げペースが多少加速しても、市 場では無難に吸収されよう。日本でも物価上昇への期待が高まり、 円安圧力が強まる可能性が浮上する。もっとも、こうした理想的な シナリオが実現する可能性はゼロではないものの、政治経験を持た ないトランプ次期米大統領の誕生を以って、メインシナリオ、サブ シナリオに据える根拠は乏しい。前月号の通り、現時点では可能性 が低いリスクシナリオに据える。 為替相場の見通し | 平成 28(2016)年 12 月 22 日 第 8 図:2017 年の各シナリオの軌道イメージ (円) 130 リスクシナリオ 125 120 115 110 メインシナリオ 105 100 サブシナリオ 95 1-3月期 4-6月期 7-9月期 10-12月期 (期末) (資料)三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成 予想レンジ (メインシナリオ) USD/JPY 1 月~3 月 4 月~6 月 7 月~9 月 10 月~12 月 109.0~122.0 108.0~123.0 107.0~122.0 106.0~121.0 チーフアナリスト 7 為替相場の見通し | 平成 28(2016)年 12 月 22 日 内田 稔 (2) ユーロ 2003 年 1 月以来となる約 13 年ぶりの安値 サマリー イタリアの憲法改正の是非を問う国民投票や ECB 理事会、米 FOMC 等の重要イベントを通過し、ユーロは弱含む展開となった。 ユーロドルは、サポートラインとして意識されていた 1.05 を割 り込むと、2003 年 1 月以来となる安値水準まで下落した。 第 1 図 : ユーロドル相場の推移(2003 年~) (ドル) 1.700 1.600 1.500 1.400 1.300 1.200 1.100 1.000 03/1 04/1 05/1 06/1 07/1 08/1 09/1 10/1 11/1 12/1 13/1 14/1 15/1 16/1 (年/月) (資料)Bloomberg より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 12 月のレビュー 8 12 月のユーロドルは 1.06 付近で寄り付いた。イタリアの憲法改 正の是非を問う国民投票では、改憲案が否決され、レンツィ首相が 辞意を表明した。欧州の政治リスクの高まりが嫌気され、ユーロド ルは一時的に 1.05 手前まで下落した。 ECB は理事会にて、政策金利を据え置いた。一方で、資産買入 プログラムについては、資産買入額を減額し、資産買入期間の延長 を決定。資産買入策の段階的な縮小(以下テーパリング)観測の高 まりを受け、ユーロドルは一旦高値となる 1.0875 まで上昇した。 しかし、ドラギ ECB 総裁は会見にてテーパリングでは無いことを 強調し、ECB 理事会で議論されなかったと発言。資産買入プログ ラムのテクニカル的な変更とも相俟って、再びユーロ売りが優勢に 転じ、ユーロドルは 1.05 台前半まで反落した。 米 FOMC は、市場の予想通り 0.25%の利上げを決定。但し、参 加者の政策金利予想では、2017 年の利上げ予想回数が 3 回となり、 9 月時点の 2 回から上方修正がなされた。米欧金融政策の方向性の 違いからユーロ安が進行。ユーロドルは、サポートラインとして意 識されていた心理的節目となる 1.05 を割り込んだ。 その後、ベルリンでのテロ事件発生や、イタリア大手銀行による 不良債権処理問題等の地政学リスクが燻る中、ユーロドルは安値と なる 1.0352 まで下落。本稿執筆時点は 1.04 台前半で神経質な推移 が続いている。 為替相場の見通し | 平成 28(2016)年 12 月 22 日 今後の見通し 一時的に更なるユー ロ安も想定される が、中長期的には底 堅さを増していく軌 道を予想 本稿では、①足元のユーロ圏の景況感、②ECB の金融政策の見 通し、③地政学リスクの観点からユーロ相場の先行きを展望する。 米欧金融政策の方向性の違いや地政学リスクの高まりから、一時 的にユーロドルが更に下落する可能性も警戒される。 しかし、中長期的には、ユーロ安の恩恵を受けた輸出産業を中心 にユーロ圏の景況感が改善し、経常収支黒字の拡大が見込まれる。 また、景気の回復や原油価格の持ち直しと共に、継続的な物価上 昇の兆しが見られるようであれば、ECB によるテーパリングが意 識され始め、ユーロドルも次第に底堅さを増していくと予想する。 ① 足元のユーロ圏の景況感 足元の経済指標は、 引き続きユーロ圏経 済の底堅さを示す 13 日に公表されたドイツ ZEW 景況感現況指数は 63.5(前回 58.8) と市場予想 59.0 を大きく上回り、1 年 3 ヶ月ぶりの良好な結果と なった。また、19 日に公表されたドイツ Ifo 景況感指数も 111.0 (前月 110.4)と約 3 年ぶりの高水準が続いた(第 2 図)。ドイツ は失業率が過去最低水準に留まり、ドイツ連邦銀行の月報でも景気 がかなり強まっていると指摘されている。 また、ユーロ圏全体の景況感だが、総じて強くはないが安定して いる。15 日に公表されたユーロ圏やドイツ、フランスの PMI 景況 感指数は、景況感の分岐点となる 50 を上回る概ね良好な結果が続 いた(第 3 図)。フランスの製造業 PMI はユーロ安によって輸出 が堅調で、5 年半ぶりの高水準(結果 53.5)となった。 ユーロ安の恩恵を受けた輸出産業を中心に、ユーロ圏の景況感に 改善がみられる。経済は低成長ながらも底堅く推移していると評価 できよう。 第 2 図:ドイツの景況感指数の推移 第 3 図: ユーロ圏の PMI 景況感指数の推移 120 75 60 50 55 110 25 50 100 0 13 14 15 ZEW景況感指数・現況(左目盛) 16 (年) Ifo景況感指数(右目盛) (資料)Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成 9 為替相場の見通し | 平成 28(2016)年 12 月 22 日 45 14 ユーロ圏 15 ドイツ (年) 16 フランス イタリア スペイン (資料)Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成 ② ECB の金融政策の見通し ECB は 12 月 8 日に開催された理事会にて、政策金利を据え置い た。一方、資産買入プログラムについては、資産買入額を減額し、 資産買入期間の延長や買入対象銘柄の変更を決定した(第 1 表)。 第 1 表:ECB の政策決定概要 ■政策金利は据え置き (リファイナンス金利:0.0%、限界貸出金利:0.25%、預金ファシリティ金利:▲0.4%) ■資産買入れプログラムは、2017 年 4 月から ①月間購入額が 800 億ユーロから 600 億ユーロへ減額 ②2017 年 12 月まで 9 ヶ月間の延長 ■資産買入れプログラムの買入対象資産は、2017 年 1 月から ①預金ファシリティ(現行▲0.4%)を下回る利回りの国債も購入対象にする ②償還残存期間 1-30 年(現状 2-30 年)の国債も購入対象にする ■レポ市場の流動化促進策 現金担保を見合いに、ECB が 50Bio を限度に国債貸出を許容する レートは①預金ファシリティ金利(現行▲0.4%)マイナス 0.3%(=▲0.7%)、あるいは市場レート、いずれかの低い方 (資料)ECB より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成 今回の政策変更は、追加緩和色が薄く、あくまで現行政策の円滑 な実施を狙った微調整である。市場に緩和策の継続を意識させつつ も、将来の出口戦略の布石とも考えられ、ECB が徐々に金融政策 の正常化を志向していることが読み取れる(第 2 表)。今後、マイ ナス金利の深掘りや資産買入増額といった緩和策の拡大ではなく、 現行の資産買入プログラムの柔軟かつ継続的な運営が中心となろう。 第 2 表:ECB の政策決定概要 16/12 資産買入期限 9ヶ月間延長決定 17年初旬 ドイツ国債枯渇問題は後退 2016/12 テーパリング 早ければ18年前半に開始? 17年度後半 テーパリング議論開始? テーパリング 100億ユーロ/月 (6ヶ月間) 資産買入 2017/3 2017/9 資産買入 終了 2017/12 2018/3 2018/6 2018/12 (資料)三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成 ③ 地政学リスク 注目は、伊ジェンティローニ新政権の行方や来年の春に予定され るオランダ議会選挙、フランス大統領選挙、秋に予定されるドイツ 議会選挙だ(第 4 図)。欧州における反難民感情の高まりをきっか けに極右政党やポピュリズム政党が支持を集めている。英国の EU 離脱に関する国民投票や、リーマンショック以降から続く財政緊 縮・不良債権処理問題等による疲弊から、EU への逆風は確実に強 まっている。テロ事件発生(第 5 図)を契機に現政権が支持率を落 とし、議会選挙にかけて政治が不安定化する可能性に警戒が要る。 10 為替相場の見通し | 平成 28(2016)年 12 月 22 日 第 4 図:欧州の主要政治動向 第 5 図: 欧州で発生したテロ事件と難民の移動ルート (資料)各種報道より、三菱東京 UFJ 銀行経済調査室で作成 (資料)各種報道より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成 ~各シナリオ説明~ メインシナリオ ( 70% 、 緩 や か な 下 落も、徐々に底堅さ を増していく) ユーロは、米欧金融政策の方向性の違いが意識されやすく、米利 上げへの期待高まりに連れて対ドルで下落しやすい地合いが続く。 但し、足元のユーロ圏景気の底堅さや、経常収支黒字、ECB へ の追加緩和期待が後退しテーパリングが意識され始めると考えられ ることから、緩やかな下落に留まろう。世論調査で既成の保守政党 が優位とされる政治イベントを無難に通過することが出来れば、17 年中盤にかけて徐々に底堅さを増していくと予想する。 サブシナリオ ( 20% 、 米 独 金 融 政 策や地政学リスクの 高まりから、ユーロ が急落) 12 月の ECB による追加緩和を受けドイツのイールドカーブがス ティープ化し、短期金利が低位に抑えられている。一方で、トラン プ氏勝利以降、米国における拡張的な財政政策への期待や 17 年以 降の米利上げ観測の高まりを受け米国の金利が上昇(第 6 図)。こ の間、ユーロドルは約 13 年ぶりとなる安値圏まで続落した。独米 実質金利差から推計した結果、ドイツと米国の短期金利差の拡大が、 ユーロ安を主導したと考えている(第 7 図)。一段の米金利上昇が 生じた場合には、一時的にユーロ安への警戒が要る。 第 6 図:2 年物国債金利の推移 第 7 図: 独米実質金利差と EURUSD の推移 (%) (%) (%) 0 1.2 -0.4 -0.2 1.0 (EUR/USD) 1.16 -0.5 -0.6 1.13 -0.7 -0.4 0.8 -0.8 1.10 -0.9 -0.6 0.6 -0.8 0.4 -1.0 1.07 -1.1 16/1 16/2 16/3 16/4 16/5 16/6 ドイツ(左目盛) 16/7 16/8 16/9 16/10 16/11 (年/月) 米国(右目盛) (資料)Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成 11 為替相場の見通し | 平成 28(2016)年 12 月 22 日 -1.2 16/1 16/2 16/3 16/4 16/5 16/6 16/7 独米実質金利差(左目盛) 1.04 16/9 16/10 16/11 16/12 (年/月) EURUSD(右目盛) 16/8 (資料)Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成 また、ハード Brexit や欧州における大統領選挙・議会選挙にて現 政権側が大敗し反 EU 勢力が台頭した場合、あるいは、欧州金融機 関の不良債権問題等がユーロ圏の金融危機へと伝播した場合、現時 点ではテールリスクではあるが、一時的にユーロ安が強まろう。 テールリスク発生 は、巡りめぐって ユーロ高をもたらす 但し、注意を要する点がある。リスク回避の動きが急速に高まっ た場合、短期的なプライスアクションはユーロが大幅下落すると感 覚的には想起される。しかし、その後、投資資金の逃避先として米 国債が選好されると米債長期利回りが低下。一方で、欧州では期待 インフレ率が低下するとみられ、ユーロの実質金利が上昇し、欧米 実質金利差はユーロ高ドル安を示唆する方向へと変化していくと考 えられる。 また、金融危機が発生した場合だが、欧州金融機関は手元流動性 を確保すべく欧州圏外に保有する外貨建て金融資産を売却する可能 性が高く、ユーロ高要因となる。よって巡りめぐってユーロは底堅 く推移すると予想する。 このようにユーロ圏のテールリスクは短期的なユーロ安を招くと 見られるが、中長期的にはユーロが底堅く推移するシナリオにも留 意が必要だ。 リスクシナリオ ( 10% 、 ド ル 高 ユ ー ロ安の急速な巻き戻 し) トランプ氏の経済政策が失望を招く、あるいは、米国の利上げ観 測が後退した場合、急速なドル安がユーロ高へと波及する可能性が ある。加えて、ECB のテーパリング観測が高まった場合、17 年後 半にかけて大幅なユーロ高が進む可能性も想定される。 予想レンジ EUR/USD EUR/JPY 1 月~3 月 4 月~6 月 7 月~9 月 10 月~11 月 0.97~1.08 115.0~128.0 0.95~1.08 111.0~125.0 0.97~1.11 112.0~127.0 0.99~1.13 114.0~129.0 チーフアナリスト 12 為替相場の見通し | 平成 28(2016)年 12 月 22 日 内田 稔 井上 雅文 (3) 人民元 心理的節目「7.00」を巡る攻防に注目だ サマリー 12 月の人民元相場は、米国債利回りの上昇に伴う「ドル高」と、 国内から国外への資本流出を背景とした「元安」が重なり、月を通 して上値の重い展開が継続した。米 FOMC 後の 12/16 には、約 8 年 7 ヶ月ぶり安値を示現するなど、下値不安が急速に高まった。資 本流出の動きが燻る中で、来月も下落リスクを警戒する。心理的節 目「7.00」を巡る攻防に注目だ。 12 月のレビュー 12 月のオンショア人民元(中国国内市場、CNY)は、月初 6.89 台半ばで寄り付いた後、当局による(元買い)介入観測を背景に反 発。12/6 には、約 3 週間ぶり高値 6.8627 まで上昇した。しかし、 同水準では上値も重く、その後は、終始一貫して下落。米国債利回 りの上昇に伴う「ドル高」と、資本流出を背景とした「元安」が重 なる中で、12/16 には、約 8 年 7 ヶ月ぶり安値 6.9616 まで下落した。 もっとも、月後半にかけては、当局による介入警戒感や基準値の元 高シフトを背景に反発。本稿執筆時点では、6.94 台後半で推移して いる(第 1 図)。 一方、対円相場(CNYJPY)は、月を通して底堅く推移。ドル円 の上昇に連れる形で、12/15 には、約 8 ヶ月ぶり高値 17.10 まで上 昇した。引けにかけて小反落するも下値は堅く、本稿執筆時点では、 16.93 近辺で推移している。 尚、12/14~12/16 にかけて北京で開催された中央経済工作会議で は、「積極的財政政策」と「穏健で中立的な金融政策」、「構造改 革の推進」や「不動産バブル抑制」など、2017 年の主要運営方針 が示された。来秋の共産党大会を前に、政府・当局は、「経済の安 定」を優先する構えを示しており、とりわけ、不動産バブル抑制に 注力しそうだ。こうした中、金融政策面では、「中立」との文言を 新たに追加。金融緩和に慎重なスタンスを見せたことから、追加緩 和観測が後退し、長期金利の上昇に繋がった。 第 1 図 : 人民元(対ドル相場)の推移 (USDCNY、逆目盛) 6.10 6.20 ↑人民元高 6.30 6.40 6.50 6.60 6.70 6.80 ↓人民元安 6.90 7.00 15/01 15/04 15/07 15/10 16/01 16/04 (資料)Bloomberg より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 13 為替相場の見通し | 平成 28(2016)年 12 月 22 日 16/07 16/10 (年/月) 元の下値不安が急速に高まりつつある。米利上げ観測の台頭に伴 う「ドル高」が一因ではあるものの、①中国の景気減速懸念、②国 内から国外への資本流出の動き、③外貨準備減少に伴う介入余力へ の不信感など、中国側の要因も少なくない。本稿では、こうした中 国側の要因を整理の上、人民元相場の先行きについて展望する。 元安を加速させ得る 3 つの要因 元安要因①(燻る景気減速懸念) 中国経済を巡っては、過剰な資本ストックの調整に伴う下押しが 継続している。今月発表された中国の主要経済指標は、総じて良好 な結果が示されたものの、その背景が、自動車減税終了に伴う駆け 込み需要4や(第 2 図)、住宅価格高騰に伴う不動産セクターの押 し上げ効果(第 3 図、第 4 図)、政府主導のインフラ投資など(第 5 図)、政策効果に依存している点は無視できない。事実、固定資 産投資の内訳である不動産開発投資、インフラ投資は引き続き底堅 さを維持する一方、民間投資や製造業の設備投資は依然力強さを欠 いている。政府・当局が住宅価格抑制に取り組む中で、足元の底堅 い動きが持続するとは考え難く、今後は、駆け込み需要後の反動減、 住宅ブーム沈静化に伴う不動産開発投資の下振れ、インフラ投資の 実行ペース鈍化などが、中国経済の重石となりそうだ。トランプ新 政権発足後には、米中関係の緊迫化や対米貿易摩擦、世界的な保護 主義への傾斜など、外部環境にも不透明感が燻る。中国経済を巡る 減速懸念は、2017 年以降も継続しそうだ。 第 2 図 : 中国の自動車販売台数の推移 第 3 図 : 中国の新築住宅価格(前月比増減・都市数) (万台) (都市数) 300 70 自動車販売台数(万台) 60 自動車販売台数3ヶ月平均(万台) 50 250 200 40 30 150 20 100 減少 10 横ばい 増加 0 50 12 13 14 15 11 (年) 16 12 13 14 15 16 (年) (資料)Bloomberg より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 (資料)中国国家統計局より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 第 4 図 : 中国の新築住宅価格の推移 第 5 図 : 中国の固定資産投資の推移 (年初来累計/前年比、%) (指数 2011Jan=100) 40.0 180 170 製造業の設備投資 インフラ投資 不動産開発投資 固定資産投資(総合) 35.0 1線級都市 160 30.0 除く1線級都市 150 25.0 70都市新築住宅価格 140 20.0 130 15.0 120 110 10.0 100 5.0 90 0.0 11 12 13 14 15 16 (年) (資料)中国国家統計局より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 4 10 11 12 13 14 15 16 (年) (資料)中国国家統計局より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 中国財務省は、小型乗用車を対象とする減税期限を、2016 年末から 2017 年末まで、1 年間延長する旨を発表した(12/15)。 但し、購入時にかかる税金はこれまでの 5.0%から 7.5%まで引き上げる(通常時は 10.0%)。 14 為替相場の見通し | 平成 28(2016)年 12 月 22 日 元安要因②(高まる資本流出懸念) 国慶節明けとなる 10/10、当局はこれまで防衛ラインとして意識 されてきた「6.70」の大台突破を容認した。これを受けて市場では、 当局が人民元安「誘導」を再開するのではないかとの思惑が広がり、 元はその後一方向で下落。トランプ氏勝利確定後のドル高、米利上 げ観測の高まりなども重なる中で、今月中旬には、約 8 年 7 ヶ月ぶ り安値 6.9616 まで下落した。こうした中、中国では、本年 2 月以 降、影を潜めていた資本流出の動きが活発化。既存の資本規制を掻 い潜る形で、国内から国外への流出が加速した。政府・当局は、 「資本流出を伴う元安」は許容しないスタンスを見せていることか ら、10 月以降、対外投資の管理強化や外貨購入制限、地下銀行に 対する取り締まり強化を相次ぎ実施。高まる資本流出圧力を前に、 当局の焦りが垣間見られた。もっとも、こうした状態が長続きする とは考え難い。米ドル、ユーロ、英ポンド、日本円と並び、SDR (IMF の特別引き出し権)構成通貨の一員となった今、資本移動の 「不自由化」は、IMF 加盟国による干渉や批判に繋がり易い。事実、 IMF は今夏の年次審査報告書の中で「2018 年までに変動相場制に 移行することが重要なゴールである」との見解を発表。本年 9 月末 には、ルー米財務長官より「人民元が SDR 構成通貨に加わったと はいえ、世界の準備通貨からはかけ離れている」、麻生財務相より 「中国は通貨管理をオープンにしなければならない」「価格管理は SDR 構成通貨の資格に欠ける」等の意見がそれぞれ述べられた。 人民元国際化を逆行させ得る資本規制の強化は、外資による中国向 け投資意欲を削いだり、企業活動の妨げに繋がる副作用を孕む。こ の為、資本規制を長期化させることは非現実的であり、この先も資 本流出と人民元安の並存が続きそうだ。 元安要因③(介入余力への不信感) 通貨安を食い止める方法として、一般的には、①資本規制の強化、 ②政策金利の引き上げ、③為替介入などが考えられる。①について は、上述の通り、副作用を伴うことから、長期化が難しい。②につ いても、景気減速下での金融引き締めは、経済への下押しを招くこ とから現実的ではないだろう。結果、上記③の為替介入が選好され る。但し、外貨準備が有限である以上、無制限に介入を行うことは 出来ない。外貨準備が急減すれば、却って介入余力への不信感を招 き、投機筋による元売り仕掛けを刺激するリスクを伴うからだ。事 実、最近では、外貨準備が約 5 年 8 ヶ月ぶり低水準を記録する中 (第 6 図)、通貨オプション市場ではリスクリバーサルの上昇(ド ルコール人民元プットオーバーの拡大)が目立つようになった(第 7 図)。投機筋が元安に対する警戒感を強めた証左といえよう。ト ランプ新政権発足後に、中国が為替操作国に認定されれば、為替介 入を通じた人為的な相場誘導は、一層やり辛さを増すだろう。以上 の観点から、介入を通じた通貨安抑止効果は限定的と考える。 15 為替相場の見通し | 平成 28(2016)年 12 月 22 日 第 6 図 : 中国の外貨準備高の推移 第 7 図 : オフショア人民元のリスクリバーサル (兆USD) (兆USD) (%) 0.25 5.00 4.50 外貨準備前月比増減(右) 3.99 3ヶ月物USDCNH リスクリバーサル 0.20 4.00 中国外貨準備高(左) 0.15 3.50 3.00 3.05 0.05 2.00 0.00 1.50 -0.05 1.00 -0.10 0.50 -0.15 -0.20 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 ↑ ドルコール人民元プットオーバー 0.10 2.50 0.00 4.00 (年) (資料)中国人民銀行より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 3.00 2.00 1.00 0.00 16/01 16/04 16/07 16/10 (年/月) (資料)Bloomberg より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 今後の見通し メインシナリオ ( 55% 、 短 期 的 に 元 安進行、中長期的に 元高回帰) 燻る景気減速懸念と高まる資本流出圧力、介入余力への不信感や 人民元国際化に伴う資本開放や変動相場制移行への想起が、短期的 に人民元を押し下げよう。トランプ新政権に対する期待感や、米利 上げ観測の高まり、米中金融政策の方向性の違いも、人民元の下落 材料となりそうだ。当方では、メインシナリオとして、向こう 6 ヶ 月で最大 7.20 程度までの下落を想定する。もっとも、中長期的に は、経常収支黒字の拡大や、構造改革進展に伴うディスインフレ (実質金利の高止まり懸念)、元の地位向上に伴う準備資産として の人民元保有ニーズが、続落を阻もう。米国による保護主義傾斜が ドル安を招けば、人民元が対ドルで反発する可能性もあるだろう。 よって、短期的に元安が続くも、中長期的に持ち直す展開をメイン シナリオとして想定する。 サブシナリオ ( 35% 、 年 を 通 し て 元安進行、但し下落 速度は幾分緩やか) 中国経済を巡る先行き不安が高まれば、当局は輸出支援や国内消 費の活性化を目的に、通貨安容認姿勢を一段と強めよう。この場合、 当局は介入頻度を低下させることによって、年間を通した元安を容 認すると見られる。もっとも、過度に元安が加速する局面では、資 本流出への波及を警戒し、介入観測や資本規制を用いて、下落速度 を和らげよう。サブシナリオでは、本年同様、年 6~7%程度の減価 を見込み、今後 1 年で最大 7.40 程度までの下落を想定する。 リスクシナリオ ( 10% 、 介 入 余 力 へ の不信感が人民元急 落を招くシナリオ) 外貨準備の減少が深刻化すれば、介入余力への不信感から投機筋 による「元売り」が活発化する恐れがあるだろう。当局は、資本規 制の強化や、金利引き上げなどを通じて通貨防衛を図ると見られる が、勢いづいた資本流出の流れ、投機筋による元売りを止めること は容易ではない。最悪の場合、人民元の切り下げを余儀なくされる 可能性もあるだろう。リスクリナリオでは、サブシナリオで示した 7.40 を超える急落を想定する。 予想レンジ USD/CNY CNY/JPY 1 月~3 月 4 月~6 月 7 月~9 月 10 月~12 月 6.850~7.150 16.3~17.6 6.900~7.200 16.1~17.5 6.750~7.000 15.9~17.4 6.700~6.900 15.7~17.3 アナリスト 16 為替相場の見通し | 平成 28(2016)年 12 月 22 日 藤瀬 秀平 予想レンジ USD/JPY EUR/USD EUR/JPY USD/CNY CNY/JPY 1 月~3 月 4 月~6 月 7 月~9 月 10 月~12 月 109.0~122.0 0.97~1.08 115.0~128.0 6.850~7.150 16.3~17.6 108.0~123.0 0.95~1.08 111.0~125.0 6.900~7.200 16.1~17.5 107.0~122.0 0.97~1.11 112.0~127.0 6.750~7.000 15.9~17.4 106.0~121.0 0.99~1.13 114.0~129.0 6.700~6.900 15.7~17.3 (1) ドル円 130 120 110 100 90 80 70 Jan-10 Jan-11 Jan-12 Jan-13 Jan-14 Jan-15 Jan-16 Jan-17 Jan-18 (2) ユーロ 1.60 対ドル 1.50 1.40 1.30 1.20 1.10 1.00 0.90 Jan-10 Jan-11 Jan-12 Jan-13 Jan-14 Jan-15 Jan-16 Jan-17 Jan-18 160 対円 140 120 100 80 Jan-10 Jan-11 17 予想レンジ | 平成 28(2016)年 12 月 22 日 Jan-12 Jan-13 Jan-14 Jan-15 Jan-16 Jan-17 Jan-18 (3) 人民元 7.40 対ドル 7.20 7.00 6.80 6.60 6.40 6.20 6.00 Jan-10 22.0 Jan-11 Jan-12 Jan-13 Jan-14 Jan-15 Jan-16 Jan-17 Jan-18 Jan-12 Jan-13 Jan-14 Jan-15 Jan-16 Jan-17 Jan-18 対円 20.0 18.0 16.0 14.0 12.0 10.0 Jan-10 Jan-11 (注) 網掛け部分は当面の予想レンジ (資料)Bloomberg より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 18 予想レンジ | 平成 28(2016)年 12 月 22 日 マーケットカレンダー 月 火 水 2017/1/2 中/製造業 PMI(12 月、1 日) 木 3 米/建設支出(11 月) ISM 製造業指数(12 月) 独/消費者物価指数速報 金 4 5 6 米/FOMC 議事要旨 米/ADP 雇用統計(12 月) 米/貿易収支(11 月) ISM 非製造業指数(12 月) 雇用統計(12 月) (12/13,14 分) 自動車販売(12 月)* ユーロ圏/生産者物価指数 製造業受注指数(11 月) (11 月) ユーロ圏/欧州委員会景況 (CPI、12 月) ユーロ圏/消費者物価指数速報 (12 月) 指数(12 月) 小売売上(11 月) 米・リッチモンド連銀総裁講演 米・シカゴ連銀総裁講演 米・大統領正式決定 米・第 115 議会開会 日市場休場 日・米・英市場休場 9 米/消費者信用残高(11 月) ユーロ圏/失業率(11 月) 独/鉱工業生産(11 月) 貿易収支(11 月) 中/貿易収支(12 月)* 消費者物価指数(12 月)* 生産者物価指数(12 月)* 米・ボストン連銀総裁講演 米・アトランタ連銀総裁講演 日市場休場 10 米/求人労働異動調査(11 月) 中/マネーサプライ M2(12 月)* 12 米/輸出入物価指数(12 月) ユーロ圏/ECB 理事会議事録 鉱工業生産(11 月) 日/国際収支速報(11 月) 対外対内証券売買契約等 の状況(12 月) 景気ウォッチャー調査(12 月) 米・3 年債入札 17 13 米/生産者物価指数(12 月) 小売売上(12 月) 企業在庫(11 月) ミシガン大消費者信頼感指数 速報(1 月) 財政収支(12 月) 米・フィラデルフィア連銀総裁講演 米・セントルイス連銀総裁講演 米・イエレン FRB 議長講演 米・30 年債入札 米・フィラデルフィア連銀総裁講演 米・10 年債入札 16 ユーロ圏/貿易収支(11 月) 日/機械受注(11 月) 11 日/景気動向指数速報(11 月) 18 米/NY 連銀景況指数(1 月) ユーロ圏/EU 新車登録台数 米/地区連銀経済報告 消費者物価指数(12 月) 鉱工業生産(12 月) (12 月) 独/ZEW 景況指数(1 月) 設備稼働率(12 月) 中/GDP(4Q)* 証券投資収支(11 月) 鉱工業生産(12 月)* 小売売上(12 月)* 19 20 米/住宅着工件数(12 月) 建設許可件数(12 月) フィラデルフィア連銀景況 指数(1 月) ユーロ圏/ECB 理事会 ECB 総裁定例会見 経常収支(11 月) 都市部固定資産投資(12 月)* 欧州議会本会議(~19 日) 米市場休場 米・ニューヨーク連銀総裁講演 世界経済フォーラム(~20 日) 23 米・フィラデルフィア連銀総裁講演 米・大統領就任式 米・10 年 TIPS 債入札 24 ユーロ圏/消費者信頼感指数 米/中古住宅販売(12 月) 速報(1 月) ユーロ圏/製造業 PMI 速報 25 独/Ifo 景況指数(1 月) 日/貿易収支速報(12 月) (1 月) サービス業 PMI 速報(1 月) 26 米/卸売在庫速報(12 月) 新築住宅販売(12 月) 景気先行指数(12 月) 英/GDP 速報(4Q) 27 米/GDP 速報(4Q) 耐久財受注速報(12 月) ユーロ圏/マネーサプライ M3 (12 月) 独/小売売上(12 月)* 日/消費者物価指数 (都区部 1 月、全国 12 月) 米・2 年債入札 30 米/個人所得・消費支出(12 月) ユーロ圏/欧州委員会信頼感 米・5 年債入札 31 米/FOMC(~2/1) ケース・シラー住宅価格 指数(1 月) 指数(11 月) 独/消費者物価指数速報 シカゴ PM 景況指数(1 月) (CPI、1 月) CB 消費者信頼感指数(1 月) 日/日銀金融政策決定会合 ユーロ圏/GDP 速報(4Q) 消費者物価指数速報(1 月) (~31 日) 失業率(12 月) 日/日銀金融政策決定会合 経済・物価情勢の展望 日銀総裁定例会見 完全失業率(12 月) 家計調査(12 月) 鉱工業生産速報(12 月) 住宅着工戸数(12 月) *印は作成日(12/22)現在で日程が未確定のもの 19 マーケットカレンダー | 平成 28(2016)年 12 月 22 日 米・7 年債入札 中国春節(~2/2) 為替相場推移表 平成 28 年 12 月 日付 12 月 1 日 12 月 2 日 12 月 5 日 12 月 6 日 12 月 7 日 12 月 8 日 12 月 9 日 12 月 12 日 12 月 13 日 12 月 14 日 12 月 15 日 12 月 16 日 12 月 19 日 12 月 20 日 12 月 21 日 12 月 22 日 12 月 26 日 12 月 27 日 12 月 28 日 12 月 29 日 12 月 30 日 月間平均 U$/円 寄付 高値 安値 終値 114.70 113.91 113.54 113.89 114.07 113.74 114.06 115.43 114.99 115.22 117.22 118.26 117.81 117.03 117.81 117.63 117.32 117.20 117.50 117.08 116.33 114.73 114.21 114.77 114.18 114.40 114.38 115.37 116.12 115.48 117.40 118.66 118.43 117.84 118.24 118.06 117.88 117.32 117.62 117.81 117.08 117.20 113.83 113.33 113.17 113.50 113.41 113.12 114.02 114.86 114.78 114.77 117.20 117.46 116.55 117.00 117.11 117.27 117.01 117.20 117.06 116.23 116.13 115.94 116.53 115.48 20 為替相場推移表 | 平成 28(2016)年 12 月 22 日 U$/円 公表相場 EUR/円 公表相場 SF/円 公表相場 £/円 公表相場 A$/円 公表相場 114.10 113.49 113.84 114.01 113.74 114.04 115.36 115.04 115.18 117.05 118.17 117.90 117.09 117.88 117.56 117.53 117.14 117.43 117.25 116.55 117.07 114.39 113.71 113.81 113.58 114.18 113.77 114.27 115.47 115.04 115.18 117.72 118.18 117.63 117.18 117.94 117.72 117.02 117.45 117.68 117.19 116.49 121.17 121.26 120.27 122.10 122.32 122.35 121.30 121.69 122.43 122.48 123.46 123.23 123.01 121.98 122.58 122.76 122.19 122.70 123.15 122.05 122.70 112.54 112.54 112.08 112.77 113.04 112.97 112.44 113.35 113.59 113.85 114.92 114.79 114.60 114.10 114.65 114.70 114.04 114.36 114.50 113.95 114.21 143.27 142.92 144.37 144.54 144.54 143.86 143.80 145.40 145.87 145.81 147.44 146.46 146.91 145.35 145.76 145.61 143.88 144.29 144.61 143.26 143.00 84.43 84.48 84.65 84.67 84.74 85.23 85.20 85.92 86.31 86.25 87.20 86.99 85.85 85.03 85.68 85.25 84.14 84.34 84.68 84.28 84.36 116.07 115.98 122.25 113.71 144.81 85.22 照会先:三菱東京 UFJ 銀行 グローバルマーケットリサーチ チーフアナリスト 内田 稔 当資料は一般的な情報提供のみを目的として作成されたものであり、特定のお客様のニーズ、財務状況又は投資対象に対応することを意図しておりませ ん。また、当資料は、適用法令上許容される範囲内でのみ利用可能であり、当資料の頒布を制約する法令が存在する地域の方によって利用されることを意図 しておりません。当資料内のいかなる情報又は意見も、預金、有価証券、デリバティブ取引その他の金融商品の売買、投資、保有などを勧誘又は推奨するも のではありません。 当資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、当行はその正確性、適時性、適切性又は完全性を表明又は保証するものではなく、当 行、その子会社又は関連会社は、お客様による当資料の利用等に関して生じうるいかなる損害についても責任を負いません。ご利用に関しては、すべてお客 様御自身でご判断下さいますよう、宜しくお願い申し上げます。 また、過去の結果が必ずしも将来の結果を暗示するものではありません。 当行は、当資料において言及されている会社と関係を有し、又はかかる会社に対して金融サービスを提供している可能性があります。当行のグループ会社 は、当資料において言及されている証券又はこれに関連する証券について権利を有し、又はこれらの証券の引受けを行っている可能性があり、また、これら の証券又はそのポジションを保有している可能性があります。 当資料の内容は予告なしに変更することがあり、また、当行、その子会社又は関連会社は、当資料を更新する義務を負っておりません。また、当資料は著 作物であり、著作権法により保護されております。当行の書面による許可なく複製又は第三者、個人顧客もしくは一般投資家への配布をすることはできませ ん。 (BTMU ロンドン支店のみに適用される情報開示) 株式会社三菱東京 UFJ 銀行(以下「BTMU」)は、日本で設立され、東京法務局(会社法人等番号 0100-01-008846)において登記された有限責任の株式会社 です。 BTMU の本店は、東京都千代田区丸の内二丁目 7 番 1 号(郵便番号 100-8388)に所在しています。 BTMU ロンドン支店は、英国会社登録所において、英国支店として登録されています(登録番号 BR002013)。 BTMU は、日本の金融庁によって認可及び規制されています。BTMU ロンドン支店は、英国プルーデンス規制機構より認可を受けており(FCA/PRA 番号 139189)、英国金融行為監督機構の規制とプルーデンス規制機構の限定された規制の対象となっています。英国プルーデンス規制機構による BTMU ロンドン 支店の規制の範囲の詳細は、ご請求いただいた方にお渡ししております。 21 FX Monthly | 平成 28(2016)年 12 月 22 日
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