ストレス性胃潰瘍を抑える食品の開発 静岡県立大学 生活健康科学研究科 食品機能学研究室1)、 環境微生物学研究室2)、 プリマハム株式会社 基礎研究所3) 1) 中山勉 、上平美弥1)、大橋典男2)、内藤博敬2)、秋元政信3)、浪岡真3) [研究目的] ストレスの関与が示唆される疾病 ストレスは様々な疾病に関与するといわれているが、我々はとりわけストレスの関与が 明確な胃潰瘍に着目した。胃潰瘍は治癒後も、ストレス環境下では再発する可能性が 胃潰瘍・慢性関節リウマチ 高い。そこで、ストレス性胃潰瘍の発症を予防できる食品素材の開発を目標とした。 アトピー性皮膚炎・糖尿病・がん 「ストレスによる自律神経の乱れが活性酸素を誘導し、胃粘膜に傷害を与える」という 脳梗塞・慢性じんましん・気管支喘息 胃潰瘍発症機序(仮説)に従えば、抗酸化性食品の摂取により胃潰瘍が予防できる 動脈硬化・過敏性腸症候群・偏頭痛 と考えられる。近年、動物由来の食品も生体内で抗酸化作用を示すことが明らかに 潰瘍性大腸炎・更年期障害 なっており、㈱プリマハムでは、豚肉酵素分解物を作製し、抗酸化作用があることを 心的外傷後ストレス障害(PTSD) 確認している。また、ラットに豚肉酵素分解物を投与し、ストレスにより誘導される胃 潰瘍に対する予防効果があることも突き止めた。しかし、豚肉酵素分解物がどのように作用しているのかは未知である。そ こで、ラット血清中のタンパク質を対象として、ストレスによる代謝変動および豚肉酵素分解物による胃潰瘍予防に関与す るタンパク質の変動を網羅的に解析し、今後のストレス予防食品開発につながるタンパク質を探索した。 [研究Ⅰ ストレス負荷前後でのラット血清タンパク質変動 ] ラットにストレスを負荷し、その前後の血清を試料とした。 血清をそれぞれ異なった蛍光色素で標識し、二次元電気泳動で検出後(Fig.1)、 画像解析(2D DIGE および Decyder softwear)によりタンパク質の増減を調べた。 発現量に変化のあったタンパク質スポットを質量分析計(MALDI-TOF MS)で同定した(Table 1)。 3 200 pI 10 Table 1 ストレス負荷で増減するタンパク質 分子量︵ kDa ︶ タンパク質 ストレスで クレアチンキナーゼ 増加 アポリポタンパク質 E 増加 アポリポタンパク質 A-Ⅳ 減少 ハプトグロビン 減少 ビタミン D 結 合 タンパク質 プリカーサー 10 減少 Table 2 豚肉酵素分解物投与により変動があったタンパク質 Fig. 1 二次元電気泳動図 タンパク質 生理食塩水 豚肉酵素分解物 ストレスにより増加したタンパク質は赤、減少した ストレスで ストレスで タンパク質は緑、変化のなかったタンパク質は白 プラスミノーゲン 増 加傾 向 増加 のスポットで示されている。 マクログロブリン 増加 変 化 なし [研究Ⅱ 豚肉酵素分解物を投与したときの コンプリメントコンポーネント4a 減少傾向 減少 ストレス負荷前後でのラット血清中の グルタチオンペルオキシダーゼ 増 加傾 向 変 化なし タンパク質の変動 ] 豚肉酵素分解物を投与したラットにストレスを負荷し、その前後の血清を試料とした。 また、対照として生理食塩水を投与したラットの血清についても分析した。 研究Ⅰと同様に二次元電気泳動と質量分析計を用いて、発現量に変化のあったタンパク質を同定した(Table. 2)。 [今後の方向性 ] 今後、上記タンパク質のモノクロナール抗体を作製し、これらのタンパク質がストレス状態の有効なバイオマーカーとなり 得るか否かの確認を行う。有効なバイオマーカーとしての見通しが立てば、ストレス状態を判別できるキット作成に着手す る。本キットはストレス診断を容易にするとともに、新規抗ストレス食品の迅速なスクリーニングを可能にすると考えられる。
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