2016年歳末のご挨拶 まほろば主人

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在ることの有りがたさ
…… 一年を振り返って
「お父さーん、早く来てー、大変!!!!」
家の外で、家内の叫ぶ声!
浄 活 水 器 エ リ ク サ ー の セ ラ ミ ッ ク を 焼 く た め、 焼
成 炉 の あ る 札 幌 に 一 週 間 ば か り 家 族 で 帰 っ て い た。
そ の 間、 石 狩 後 志 地 方 は 大 雪 で、 仁 木 の 家 は ど ん な
になっているか、気が気でなかった。
ぼうぜん
案の定戻ってみると、深い雪に、車も止められず、
家 に も 入 れ ず、 し ば し 呆 然。 や っ と 玄 関 ま で の 道 を
付け、車を遠くに置きに行った処だった。
びた
飛 ん で、 帰 っ て 見 る と、 家 中 水 浸 し の、 我 が 目 を
疑う光景。
「何という事だ!!!」
台 所 の 水 道 管 2 か 所 が 破 裂 し、 そ こ か ら 勢 い よ く
~
年、 水 抜 き
四 方 に 水 が 飛 散 し て い る。 床 も 家 財 も 水 に 浸 っ た ま
ま。 だ が、 水 が 止 め ら れ な い。 築
年 も 経 っ て 半 分 効 か な く な っ て い た の だ。 果
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つ
浸し。ただ放心状態、何をすべきか手も足も出ない。
浮 い て い る。 寝 室 の 畳 も 2 畳 ほ ど 濡 れ て、 衣 類 も 水
絨 毯 も、 水 の 中 に 在 り。 食 べ 物 な ど も プ カ プ カ 水 に
じゅうたん
キ ッ チ ン と リ ビ ン グ の テ ー ブ ル も、 ソ フ ァ も、
たして、何日間、水が噴き出していたのか!
栓が
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長靴のままそこに突っ立ってしまった。
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2016年 歳末のご挨拶
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在ることの有りがたさ
まほろば主人 宮下周平
勿論、ストーブも水に浸かり、基盤が損傷して火が着くはずもない。零
は
下の中、震えながら作業するしかなかった。水道管の穴をテープで防ぎ、
水流を弱め、家財を動かし、水を掃き出す。床下もどんなになっているこ
とやら。床板の継ぎ目がどす黒い。見渡せば、植木が皆枯れている。かわ
いそうなことをした。
と っ さ
何処に連絡すればよいのか、咄嗟に思い付かない。ネットで町内の水道
しの
工事屋を探し出したが、午後過ぎてからでないと来てもらえない。また、
ストーブ屋は夜7時という。それまで、何とか寒さを凌ぎながら、家中を
片付けながら待った。
夜、幸いストーブが着火し、安堵の胸を撫で下ろしたが、ソファも椅子
もびしょ濡れで座る所もない。
がくぜん
この時、文明の便利さを当たり前に享受している人間の無力さと知恵の
無さに愕然とした。そして、もっともっと過酷な水害や津波に立ち会った
時の動揺の幾分なりとも体験出来たのか。その痛みがほんの少し解せられ
ン
フ
ラ
た。今年の道東の台風禍、5年前の東北大震災の津波、自然の猛威と爪痕、
イ
それは想像しても仕切れない大変さを思った。
この時、幼い日々を思い返していた。
戦後すぐの片田舎の町には、水道などの基盤設備が
あろうはずがない。みなの家が手押しポンプであった。
それでも極寒の朝は、ポンプの中は凍り付いて押すに
みず がめ
も押せなかった。湯を沸かし、熱湯を注いでは溶かし
ひしゃく
やか ん
うつ
て、水を上げていた。水甕一杯に汲むのが子供の仕事
だった。水は柄杓で一杓一杓、鍋に薬缶に遷していた。
小学生になり、そこにモーターが入り、井戸から蛇口
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まほろばだより No.4417 16-193 12/26
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在ることの有りがたさ
に一気に流れる水を見て、どれほど驚いたことか。
そ れ が、 何 時 し か 水 道 水 に 代 わ っ た の は、 私 が 内 地
ひね
から帰省した時だった。
蛇 口 を 捻 れ ば、 水 が 出 る。 誰 し も、 こ れ が 当 た り 前
だ と 思 っ て い る。 そ の 変 遷 を 知 ら な い が ゆ え に、 水 の
有 難 さ も 感 じ ら れ な い。 水 は、 ど う し て、 こ こ に 在 る
せ
お
く
の か。 ど う し て、 こ こ で 飲 め る の か。 そ ん な 素 朴 な 疑
おけ
問さえも抱く要がなくなってしまった。
つる べ
お
も っ と 昔 は、 近 く の 川 に 桶 を 背 負 っ て 汲 み に 行 っ た
いず
だ ろ う。 そ し て、 庭 に 井 戸 を 掘 っ て、 鶴 瓶 落 と し で 汲
み 上 げ た も の だ ろ う。 何 れ も、 飲 む ま で に 手 間 暇 の か
かることだった。
無くて、初めて、有ることの有難さを思う。
だん
水 を こ う し て 飲 め る こ と。 火 に 当 た っ て 暖 を 取 れ る
な ん ぎ
こ と。 食 べ る 事、 寝 る 事、 そ れ は、 本 当 は 当 た り 前 で
なく、とても難儀なこと、とても有難いことなのだ。
田 舎 に 来 て、 不 便 な こ と が、 実 は 大 変 な 意 味 が あ る
ことに、気付かされる。
週 に 一 度、 札 幌 の 店 に 帰 る。 夜、 家 に は 食 事 の 道 具
立 て も 無 く、 た だ 寝 に 帰 る だ け だ。 外 食 せ ざ る を 得 な
い と き、 や は り、 家 に 帰 り 手 作 り 料 理 の 温 か さ や 安 心
感を求めるのだ。それがどんなにか大切なことか。
そ し て、 今 ま で 当 た り 前 の よ う に、 文 字 通 り 湯 水 の
如 く エ リ ク サ ー 水 を 飲 ん で い た こ と が、 当 た り 前 に 飲
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在ることの有りがたさ
がくぜん
め な い こ と に も 愕 然 と す る の だ。 家
で も エ リ ク サ ー 水 が 飲 め な い( 仁 木
の方に持って 行っ てい るので)。この
現 実 に 出 会 っ て、 改 め て 今 ま で の 環
境に想いを巡らせた。
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今年は、まほろば創業以来の大きな節目の年でした。
私たち夫婦が、仁木町に引っ越しして営農を始めたからです。
お客様には突然の出来事だったかもしれませんが、役員や農園の社員
には少し前に知らせ、一年以上をかけて土地探しをしたものの、これが
難航に難航を重ね、住む家もなかなか決まらず、途方に暮れていたとこ
ろに、ある方の仲介で、ギリギリで突然に決まったのです。
これにより、多くの方々に、ご心配とご迷惑を掛けて参りました。
ささ
しかしながら、原点に戻り、ゆっくりと時間をかけて、しっかりと根
を張って、まほろばを下支え出来る存在になりたいと思っています。
惜しまれながらも、まほろばの社長・専務らしいと言って下さる方々
もあり、これが一番うれしく思えます。
それでは、私と家内の愛して止まないお客様や生産者の方々、取引先
の方々、そして従業員の皆さん、よいお年をお迎え下さいますように。
― 風雪の仁木より ―
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