重加算税制度の見直しと近年の裁決

Japan Tax Update
重加算税制度の見直しと近年の裁決
Issue 127, December 2016
In brief
2016 年度(平成 28 年度)の国税通則法の改正により、過去 5 年以内に無申告加算税又は重加算税を課さ
れた者が、再び調査を受けて期限後申告又は修正申告等を行った場合には、重加算税について 10%加
重する措置が創設され、2017 年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税及び地方税について適用さ
れます。重加算税の加重措置の施行を踏まえて、今後は税務のガバナンスの観点からも重加算税の対象と
なる仮想・隠蔽の有無について、自主的なチェック体制の整備と調査での対応が求められます。本号では
改正の概要と、近年の重加算税の賦課に係る裁決について解説いたします。
In detail
1. 加算税に係る 2016 年度税制改正の概要
無申告又は仮装・隠蔽による申告への行政制裁措置として、2016 年度の国税通則法の改正により、短期間
に繰り返して無申告又は仮装・隠蔽による申告が行われた場合の加算税等の加重措置が創設されました。
加重措置の対象となるのは、期限後申告書若しくは修正申告書の提出、更正若しくは決定又は納税の告知
若しくは納税の告知を受けることなくされた納付(以下「期限後申告等」)があった場合において、その期限後
申告等があった日の前日から起算して 5 年前の日までの間に、その期限後申告等に係る税目について無申
告加算税又は重加算税を課されたことがある場合です。
2017 年 1 月 1 日以後に法定申告期限等が到来する国税・地方税について、2 回目以降の無申告加算税又
は重加算税の賦課決定がされる場合に、その期限後申告等に基づき課する無申告加算税又は重加算税の
税率が 10%過重されます(通法 66④、68④、改正法附則 54③後段)。
税目
国税
地方税
無申告加算税
不申告加算金
無申告重加算税
過少申告重加算税
過去5年以内に加算税の賦
過去5年以内に加算税の賦
課課税が無い場合の税率
課課税が有る場合の税率
15%、20%(50万円超)
25%、30%(50万円超)
不申告重加算金
40%
50%
過少申告重加算金
35%
45%
なお、以下の場合は上記の過重措置の対象とはされておりません。
① 期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる期限後申告等(通法 66①
ただし書)
www.pwc.com/jp/tax
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② 「無申告加算税の不適用制度」1の適用がある期限後申告(通法 66⑦)
③ 調査による更正等を予知してされたものでない期限後申告又は修正申告(通法 66④、68①~④)
④ 過少申告加算税及び源泉所得税の不納付加算税
2. 重加算税に係る事務運営指針
重加算税は、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を
仮装・隠蔽し、①それに基づき納税申告書を提出していたとき、②法定申告期限までに納税申告書を提出せ
ず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたとき、③法定納期限までに国税を納付しなかつたとき
は、重加算税が課され又は徴収されます(通法 68①~③)。
重加算税の賦課に関する取扱基準として、税目毎に事務運営指針が国税庁から公表されており2、賦課基準
(課税要件の具体例)及び重加算税の税額計算が示されています。法人税における重加算税の賦課基準を
まとめると下記表のとおりとなりますが、法人税の税務調査においては、このうち②の帳簿書類の隠匿・虚偽
記載等に該当するか否かが争われる事例が多く、事業部制を採用している法人や、子法人が多数ある連結
納税適用法人等では、裁決事例等も踏まえて、仮装・隠蔽の該当性を判断する内部統制が機能しているか
どうかを見直す必要も考えられます。
【法人税における重加算税の賦課基準(仮装・隠蔽等の要件)】
仮装・隠蔽に該当する場合等
①
②
(1)
(2)
(3)
③
④
⑤
⑥
⑦
(1)
(2)
1
二重帳簿の作成
帳簿書類の隠匿、虚偽記載等
帳簿書類(帳簿、原始記録、証ひょう書類、貸借対照表、
損益計算書、勘定科目内訳明細書、棚卸表その他決算
に関係のある書類)の破棄又は隠匿
帳簿書類の改ざん(偽造及び変造を含む)、帳簿書類へ
の虚偽記載、相手方との通謀による虚偽の証ひょう書類
の作成、帳簿書類の意図的な集計違算その他の方法に
よる仮装の経理
帳簿書類の作成又は帳簿書類への記録をせず、売上げ
その他の収入の脱ろう又は棚卸資産の除外していること
特定の損金算入又は税額控除の要件とされる証明書そ
の他の書類を改ざんし、又は虚偽の申請に基づき当該
書類の交付を受けていること
簿外資産に係る利息収入、賃貸料収入等の果実の非計
上
簿外資金による役員賞与その他の費用の支出
同族会社の判定の基礎となる株主等の所有株式等を架
空の者又は単なる名義人に分割する等により非同族会
社としている
使途不明の支出金に係る否認金につき、次のいずれか
の事実がある場合
帳簿書類の破棄、隠匿、改ざん等があること
取引の慣行、取引の形態等から勘案して通常その支出
金の属する勘定科目として計上すべき勘定科目に計上さ
れていないこと
仮装・隠蔽に該当しない場合
(帳簿書類の隠匿、虚偽記載等に該当しない場合)
次に掲げる場合で、当該行為が相手方との通謀又は証ひょう書
類等の破棄、隠匿若しくは改ざんによるもの等でないとき
(1) 売上げ等の収入の計上を繰り延べている場合において、そ
の売上げ等の収入が翌事業年度・翌連結事業年度の収益
に計上されていることが確認されたとき
(2) 経費(原価に算入される費用を含む)の繰上計上をしている
場合において、その経費がその翌事業年度に支出されたこ
とが確認されたとき
(3) 棚卸資産の評価換えにより過少評価をしている場合
(4) 確定した決算の基礎となった帳簿に、交際費等又は寄附金
のように損金算入について制限のある費用を単に他の費
用科目に計上している場合
期限後申告書の提出があった場合において、その提出が、調査による決定を予知してされたものでなく、期限内申告書を提出する意
思があったと認められる一定の場合に該当してされたものであり、かつ、その期限後申告書の提出が法定申告期限から 1 月を経過する
日までに行われたものであるとき
2
法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)、申告所得税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)、源泉所得税及
び復興特別所得税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)、相続税及び贈与税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)、
輸入品に対する内国消費税の加算税の取扱いについて(事務運営指針)、たばこ税等及び酒税の加算税の取扱いについて(事務運営
指針)、消費税及び地方消費税の更正等及び加算税の取扱いについて(事務運営指針)
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また、法人税で重加算税を賦課された場合には、下記表のとおり消費税の重加算税も賦課されることもありま
すので、更に注意が必要です。
【消費税及び地方消費税の重加算税の取扱い(賦課要件)】
所得税・法人税で仮
所得税又は法人税で仮装・隠蔽により重加算税が賦課される場合には、当該仮装・隠蔽が影響する消
装・隠蔽があった場合
費税の仮装・隠蔽に係る増差税額について、重加算税が課される
消費税固有の仮装・隠
蔽等
①
②
③
④
⑤
課税売上げを免税売上げに仮装
架空の免税売上げを計上し、同額の架空の課税仕入れを計上
不課税又は非課税仕入れを課税仕入れに仮装
非課税売上げを不課税売上げに仮装し、課税売上割合を引き上げ
簡易課税制度の適用を受けている事業者が、資産の譲渡等の相手方、内容等を仮装し、高いみ
なし仕入率を適用
3. 重加算税に係る近年の裁決事例
一般的に裁決は課税庁側の主張を認める判断が行われると考えられてきましたが、近年の裁決では納税者
の主張を認め、課税処分を取り消す裁決も出されています。 重加算税を巡る裁決では、下記のように納税
者の仮装・隠蔽を認めた事例及び仮装・隠蔽を認めなかった事例が公表されており、これまでの裁決等の分
析(納税者の故意があったか、通常の処理と認められるか等)を行い、税務調査の対応をはかることも必要と
思われます。
仮装・隠蔽を認めた事例
委託した工事が課税期間中に完了していないことを認識していたにもかかわらず、工事業者に対して課税期間中の請求書の発
行を依頼した上、工事が課税期間中にあったものとして消費税等の納付すべき税額を算出していた場合に、税額の基礎となる事
実を仮装していたものと認定した事例(2008 年 1 月 11 日裁決)
請求人が工事業者に依頼した請求書は納品書を兼ねていること、請求人において契約した工事は、通常、完了する前に当該工
事に係る請求書を受け取ることはないことなどを併せ考えれば、本件各請求書については、請求人における経理処理上、単に工
事業者に対する金銭の支出の基準となる書類であるのみならず、本件各工事が完了したかどうかの判定の基準となる書類、すな
わち、消費税の課税仕入れの帰属時期を確定する際の必要かつ重要な証ひょう類でもあったと認められる。
請求人の本件各現場担当者が本件各工事の担当者に本件各請求書の発行を依頼した目的は、請求人における経理処理上、
本件各工事の完了時期の判定基準となる書類である本件各請求書を平成 17 年 3 月 31 日までに徴することにより、同日までに
本件各工事を完了したものとして処理し、請求人の平成 16 年 4 月 1 日から平成 17 年 3 月 31 日までの事業年度における本件各
工事に係る予算を消化することにあったと容易に推認できる。
これらのことからすると、本件各現場担当者が、本件各工事が明らかに完了していないことを認識していたにもかかわらず、本
件各工事業者に対し、本件課税期間中の日付の請求書の発行を本件各工事に係る予算を本件事業年度内に消化させようとする
明確な意図に基づいて依頼したことは、本件各工事が平成 17 年 3 月 31 日までに完了してなかった事実を同日までに完了したご
とく仮装したものと認めるのが相当である。
そして、請求人は、受領した本件各請求書が本件各工事の完了日を仮装したものであるとの認識のもと、これに基づき本件各
工事について課税仕入れを行った日が本件課税期間中にあったものとして消費税等の納付すべき税額を算出し、過少申告となる
本件確定申告書を提出したものと認められる。
役務の提供等の完了前に請求書の発行を受ける等、通常と異なる処理を行った行為は、事実を仮装したものと認めた事例(2014
年 10 月 28 日裁決)
請求人は、翌期の経費として計上すべき修繕工事等の費用及び備品等の購入費用を当期の経費として計上したことについて、
単なる経理処理の誤りで、修繕工事等の一部は事業年度末までに役務の提供が完了しており、また、修繕工事等の費用及び備
品等の購入費用が翌事業年度に支払われていることなどからすると、帳簿書類の虚偽記載等には該当しないから、国税通則法
第 68 条《重加算税》第 1 項に規定する事実を仮装したものではない旨主張する。
しかしながら、事業年度末までに役務の提供が完了していないにもかかわらず、修繕工事等の役務の提供や備品等の引渡し
の完了より前に請求書の発行を受ける等、通常と異なる処理を行うことにより故意に事実をわい曲した請求人の行為は、事実を
仮装したものと認められる。なお、修繕工事等の一部は事業年度末までに役務が完了していることから、当該完了部分について
は、事実を仮装したものとは認められない。
出所: 国税不服審判所ウェブサイト
http://www.kfs.go.jp/service/MP/01/0605030100.html
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仮装・隠蔽を認めなかった事例
アドバイザリー業務に係る契約書の契約締結日が真実と異なる記載であったとしても、契約締結日は課税仕入れの時期の判定要
素となるものではないから、役務提供の真実の完了を仮装したことにはならないとした事例(2004 年 5 月 19 日裁決)
原処分庁は、本件アドバイザリー業務の役務提供完了日が本件契約書の契約締結日である平成 14 年 11 月 25 日であるにもか
かわらず、請求人は、契約締結日を同年 10 月 1 日にバックデートして本件契約書に記載し、その本件契約書に基づいて本件アド
バイザリー報酬の額に係る消費税額を本件課税期間(平成 13 年 11 月 9 日から平成 14 年 10 月 31 日)の控除対象仕入税額に含
めていることから、このことは仮装行為に当たる旨主張する。
課税仕入れを行った日がいつであるかは、原則として引渡基準によるのが相当であると認められ、本件アドバイザリー業務は役
務の提供を行うことを目的とするものであるから、本件アドバイザリー業務に係る課税仕入れの時期については、役務の全部を完
了した日であると解することが相当である。そして、本件課税期間においては、役務提供の全部が完了していないことについて、請
求人及び原処分庁は争わず、当審判所においても相当であると認められ、本件アドバイザリー報酬の額に係る消費税額は本件課
税期間の課税仕入れに該当しないことは明らかであるところ、本件契約書の契約締結日が真実の契約締結日と異なっていたとして
も、本件契約書の契約締結日は課税仕入れの時期の判定要素となるものではないから、請求人が真実の契約締結日を本件契約
書に記載しなかったことをもって、役務提供の真実の完了日を仮装したものと認めることはできない。
したがって、本件修正申告書により増加した所得に相当する部分ついては、重加算税の賦課要件を満たさないことは明らかであ
り、本件重加算税の賦課決定処分については、過少申告加算税を超える部分の金額につき取り消すのが相当である。
課税仕入れに係る支払対価の額に翌課税期間に納品されたパンフレット等の制作費を含めたことについて、隠ぺい仮装の行為は
ないとした事例(2013 年 9 月 26 日裁決)
原処分庁は、請求人の会計処理が、請求書をもって納品があったものとみなして行われていたところ、請求人が、パンフレットの
納品前に、取引先に対して請求書の発行を依頼したことは、通謀による虚偽の証ひょう書類の作成に当たり、また、当該課税期間
内に納品されないこととなったにもかかわらず、あえて課税仕入れに係る支払対価の額から除かなかったことは、帳簿書類の意図
的な集計違算に当たるから、請求人がパンフレットの製作費を当該課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に含めたことにつ
いて、隠ぺい又は仮装の行為がある旨主張する。
しかしながら、請求人は、パンフレットの納品時に納品書を受領しており、当該請求書は前払いを求める書類として作成を依頼し
たもので納品の事実を示す書類として受領したものとはいえず、また、当該請求書に虚偽の記載もないのであって、通謀による虚
偽の証ひょう書類の作成があったとはいえない。また、納品されないこととなったにもかかわらず課税仕入れに係る支払対価の額か
ら除かなかったのは、単に請求人の会計処理を行う部署において納品の事実の確認を怠っていたことによるものであって、これをも
って隠ぺい又は仮装と評価すべき行為をしたともいえない。したがって、請求人が当該パンフレットの製作費を当該課税期間の課税
仕入れに係る支払対価の額に含めたことについて、隠ぺい又は仮装の行為があったとは認められない。
出所: 国税不服審判所ウェブサイト
http://www.kfs.go.jp/service/MP/01/0605030200.html
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