薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2016年11月)

質疑応答
2016年11月
薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2016年11月)
【医薬品一般】
Q:鉄欠乏性貧血で鉄剤を投与しても改善しないが、原因は?(薬局)
A:鉄剤投与で改善しない原因として最も多いのは、悪心・嘔吐、腹痛など消化器症状の副作用に
よるコンプライアンスの不良である。この場合は減量、内服時間や回数の変更、剤形の変更等
でコンプライアンスの改善を図る。小児に使用されるインクレミン TM シロップが最も消化器症
状の副作用が少ない。内服が困難な場合等に限り、静注製剤を使用する。その他、以下の原因
が考えられる。
① 出血性の婦人科疾患や消化器疾患(鉄の損失量のほうが多い)
② 自己免疫性萎縮性胃炎(内因子欠如のためビタミンB12が回腸から吸収されずに悪性貧血を
起こす。また、胃酸分泌が低下しているため十二指腸からの鉄の吸収率も低下)
③ ヘリコバクター・ピロリ菌の感染による萎縮性胃炎(胃液の組成変化で鉄の吸収阻害)
④ 先天性異常の鉄剤不応鉄欠乏性貧血 等
Q:鼻の乾燥に使用する液剤は、何があるか?(薬局)
A:塩化ナトリウムを主成分とした一般医療機器(ドライノーズ TM スプレー:日本臓器製薬)等が
市販されている。また、病院薬局製剤としてスノール液がある。
(適応)いびきの軽減(鼻咽頭粘膜の乾燥を防ぐ)
(処方)塩化ナトリウム 4.5g グリセリン 1.5g ポリソルベート80 1g
10%塩化ベンザルコニウム液 0.5mL 精製水 全量 500mL
(調製法)500mLの液量計にグリセリン及びポリソルベート80をとり、精製水約300mLを加えて
よく攪拌し、次に10%塩化ベンザルコニウム液及び塩化ナトリウムを溶解する。残
余の精製水を加えて全量500mLとし、綿栓ろ過して500mLの滅菌瓶に分注し、121℃、
20分間滅菌する。冷後、点鼻用容器に分注して製する。
(用法・用量)毎日1回、就寝前に各鼻腔に5滴点鼻。
Q:ホクナリン TM テープが剥がれた場合、再貼付が必要か?(薬局)
A:ホクナリン TM テープ(ツロブテロール)は、貼付12時間後に約74%の薬物が皮膚へ移行する(喘
息患者)。健常成人に24時間貼付した時の薬物の皮膚移行率が82~90%であることより、貼付
12時間後の皮膚移行は24時間貼付時の約85%に相当する。この成績から就寝前に貼付した場
合、起床後に剥がれても有効性に大きな影響はないと考えられる。皮膚移行率から考えると、
貼付後12時間を経て剥がれた場合は再貼付する必要はないと思われるが、患者の症状に合わ
せ、医師の判断で再貼付することもある。なお、3、6、9、12時間後に再貼付した場合の血
中濃度のシミュレーションでは、最高でも再貼付しない時の約1.3倍程度であり、最高血中濃
度は経口剤の2/3以下であった。従って再貼付での過量投与による副作用は発現しにくいと考
えられる(マイランのホクナリンテープのホームページFAQより)。
Q:陥入爪(巻き爪)の治療にフェノールを使うことはあるか?(薬局)
A:陥入爪の根治術として、楔状切除術が一般的だが、術後の疼痛や再発例が比較的多い問題があ
る。フェノール法は、フェノールの強力な組織変性作用を利用し、部分もしくは全抜爪の後、
爪産生組織を焼灼し爪甲を廃絶することを目的とする方法である。フェノールは痛覚の神経終
末に作用するといわれ、術後の疼痛が少ない。また、術後は開放創で、感染合併例にも施行で
き、早期に入浴が可能である。しかし、フェノール焼灼で壊死組織を作るため、創が遷延治癒
する場合がある。また術後創に形成される痂皮を入浴等で除去しドレナージ効果を維持する必
要があるので患者指導が必要である。
(治療例)1%キシロカインで患趾基部に伝達麻酔を行い、止血後、陥入した爪甲を3~5 mm
幅で周囲より剥離し、剪刀にて爪根部まで切断した後、爪根部を残さないように部分抜爪
する。88%液状フェノールを綿棒に浸し、抜爪により露出した爪母、爪床、側爪郭、後爪
郭下面に圧抵し焼灼する(なるべく周囲皮膚に付着させない)。綿棒は5~6本用意し、
30秒程で交換し計2~3分間の処置を行う。焼灼後、無水エタノール10mLで洗浄しフェノ
ールを不活化する。止血帯を解除し抗生物質含有軟膏を塗布した後、ガーゼを当てる。
Q:バファリン TM 配合錠A81の粉砕は問題ないか?(薬局)
A:二層錠を粉砕することにより、アスピリンと制酸緩衝剤であるダイアルミネートの接触面が大
きくなり、アスピリンの分解を加速する。また、吸湿によりサリチル酸と酢酸に分解し、約1
~3週間で変色(褐色化)する。成分含有率が維持できなくなるため、粉砕後は湿気を避け、
使用期限は2週間弱とすることが望ましい(錠剤・カプセル剤粉砕ハンドブック第7版 じほ
う 平成27年より)。
Q:自閉症者にオキシトシン点鼻薬を使用することはあるか?(一般)
A:脳下垂体後葉ホルモンのオキシトシンは、子宮平滑筋収縮作用や乳汁分泌作用および、扁桃体
をはじめとする社会脳領域を介して、社会性行動、特に信頼を基礎とするあらゆる人間相互活
動にも影響を与える。オキシトシンの脳内分泌を抑制するCD38等がそれらの機能に関与し、
CD38一塩基多型等の遺伝子異常が自閉症スペクトラム障害と相関があることが示唆されて
いる。自閉症者にオキシトシン点鼻薬を単回投与すると、相手の目を見る等の対人関係行動の
改善や促進があり、連続投与で自閉症スペクトラム障害の社会性障害症状の改善が報告されて
いる。東京大学、金沢大学、名古屋大学、福井大学で、自閉症スペクトラム症に対する医師主
導臨床試験が行われている。(日本の承認製剤は注射剤のみで、分娩誘発や弛緩出血等に点滴
静注される。ヨーロッパでは経鼻スプレー製剤も認可されており、授乳促進に使用する)
Q:桔梗湯エキス剤は、溶かして服用したほうが良いのか?(薬局)
A:桔梗湯は、甘草と桔梗を構成生薬とし、咽喉が腫れて痛む扁桃炎、扁桃周囲炎に使用する。甘
草、桔梗はともにサポニンを多く含み、抗炎症作用や去痰作用を有する。喉へ直接作用するた
め、エキス製剤は白湯に溶いて少し冷まし、うがいをしながら飲むほうが効果が高い。
【安全性情報】
Q:骨粗鬆症治療薬のプラリア TM 皮下注投与時の、歯科治療の注意点は?(歯科医師)
A:プラリア TM 皮下注(デノスマブ)は、ヒト型抗RANKLモノクローナル抗体製剤で、ビスフ
ォスフォネート(BP)系製剤と作用機序は異なるが、破骨細胞による骨吸収を抑制するため
顎骨壊死の副作用報告があり、歯科治療時に注意が必要である。すべての歯科治療は、デノス
マブ投与開始の2週間前までに終えておくことが望ましい。投与後では、歯科治療の前に徹底
した感染予防処置を行ったうえで、休薬は行わずに、できるだけ保存的に、やむを得ない場合
のみ侵襲的歯科治療を行う。デノスマブは全身に分布し、血中半減期は約1ヶ月であること、
骨粗鬆症への投与は6ヶ月に1回であることより、デノスマブの投与タイミングを考慮しなが
ら、抜歯等の歯科治療の時期や内容を検討することは可能である。休薬した場合、再開のタイ
ミングは、医師と歯科医師が連携して判断し、十分な骨性治癒がみられる術後2ヶ月前後が望
ましい。しかし、主疾患の病状により投与再開を早める必要がある場合には、術創部の上皮化
がほぼ終了する2週間を待って、術部に感染がないことを確認したうえで投与を再開する〔骨
吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパ
ー2016より〕。
Q:健康食品のノコギリヤシは、前立腺がんに影響するのか?(一般)
A:ノコギリヤシは北米南東部のヤシ科の植物で、中国語名は「棕櫚子」である。薬用部位は実で、
中国では古くから泌尿器疾病の治療薬 (漢方) として利用され、前立腺肥大症に対するヒトで
の有効性が示唆されている。抗アンドロゲン活性を有し、前立腺特異抗原 (PSA) 値を人為
的に低下させる可能性があるため、前立腺がんの診断を遅らせたり、治療に影響を及ぼす可能
性がある。
【その他】
Q:トルリシティ TM 皮下注アテオス TM の廃棄方法は?(薬局)
A:持続性GLP-1受容体作動薬のトルリシティ TM 皮下注0.75mgアテオス TM〔デュラグルチド(遺
伝子組換え)〕は、注射針付のシリンジがあらかじめ装填されているオートインジェクター型
注入器である。針の取り付けや取り外しは不要で、注入ボタンを押すと注射が始まり薬液が自
動的に皮下に注入され、針が戻る。患者用説明パンフレットには、廃棄は「主治医の指示に従
う」と記載されている。病院や薬局等で回収し医療廃棄物として廃棄するか、患者が各市町村
の廃棄方法に従い一般家庭用のごみとして廃棄する。