これまでで最も小さいトランジスタを作製 (米国)

NEDO 海外レポート NO.1118, 2016.12.27.
(1118-7)
【電子・情報通信分野】
仮訳
これまでで最も小さいトランジスタを作製 (米国)
ローレンスバークレー国立研究所主導の研究がゲート長をわずか 1 ナノメートルにすることで
トランジスタサイズの大きな壁を破る
2016 年 10 月 6 日
Sarah Yang (510) 486-4575
これまで 10 年以上、技術者達は集積回路の構成要素微細化競争の終着点を探ってい
る。従来の半導体では、物理学の法則に規定されるトランジスタのゲート長の最少加工
寸法は 5nm、つまり現在市場に出回るゲート長 20nm のハイエンドトランジスタの約
1/4 の大きさ、であると知られていた。
法則には破られる、または少なくとも異論を唱えられるべくしてあるものも存在する。
二硫化モリブデン製のチャンネルと 1nm のカーボンナノチューブ製のゲートを有するトランジスタのイメー
ジ図。(画像提供: Sujay Desai/UC バークレー)
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NEDO 海外レポート NO.1118, 2016.12.27.
米国エネルギー省 (DOE)・ローレンスバークレー国立研究所 (LBNL) の faculty
scientist、Ali Javey 氏率いる研究チームは、1nm の作動ゲートを備えるトランジスタ
を作製し、法則を破ってみせた。参考までに、人間の毛髪は厚さ約 50,000nm である。
「これまで報告された中で最小のトランジスタを私達は作りました」。同研究所材料
科学部門・電子材料プログラムの代表研究者である Javey 氏はこう述べる。「ゲート長
はトランジスタの寸法を決定するものと考えられています。私達はゲート長 1nm のト
ランジスタを実証し、適した材料を選択すれば、電子機器にはまだ縮小の余地が多く残
されていると示したのです。」
鍵となったのはカーボンナノチューブと二硫化モリブデン(MoS2)の使用で、後者は
自動車部品店でごく一般的に販売されているエンジン用潤滑剤。MoS2 は LED、レー
ザー、ナノサイズのトランジスタ、太陽電池、その他多くの用途で非常に大きな可能性
を持つ材料群の内の一つである。
今回の成果は本日
Science 誌にて発表
された。その他の本
論文の共著者は、
LBNL の faculty
senior scientist でカ
リフォルニア大学バ
ークレー校(UC バー
クレー)教授の Jeff
Bokor、Chenming
Hu UC バークレー
教授、Moon Kim テ
キサス大学ダラス校
LLBL の faculty scientist で UC バークレー教授の Ali Javey(左)と大学院生の Sujay
Desai 両氏がこれまでで最小のトランジスタを作製。2 人の隣に置かれているのは、
ゲート長 1nm のトランジスタの電気的特性の測定に使用した、真空プローブステーシ
ョン。(画像提供:Marilyn Chung/LBNL)
(UT ダラス)教授、
H.S. Philip Wong ス
タンフォード大学教
授ら。
この技術の開発は、インテルの共同創業者であるゴードン・ムーアの集積回路上のト
ランジスタの集積度が 2 年毎に倍増して行くという予測を今後も有効なものとし、ノー
ト型 PC、携帯電話、テレビ等電子機器の性能を向上させる、重要な糸口となり得る。
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「半導体産業は長きにわたって 5nm 以下のゲートは作動しないだろうと考えていた
ため、それよりも小型のものについては考慮すらされなかったのです。」論文の筆頭著
者で Javey 研究室の大学院生、Sujay Desai 氏はこのように語る。「この研究は 5nm
以下のゲートについても視野に入れるべきだと示しています。産業界はシリコンのあら
ゆる能力を使い尽くそうとしてきました。しかし材料をシリコンから MoS2 に変える
ことで、わずか 1nm の長さのゲートを備えるトランジスタを作り、スイッチのように
動作させることができるのです。」
「電子が制御不可能」な状態
トランジスタは、ソース、ドレーン、ゲートの 3 つの端子で構成されている。電流は
ソースからドレーンへ流れ、その電流は印加された電圧に反応して on/off の切り替えを
行うゲートにより制御される。
シリコン、MoS2
のいずれも結晶格
子構造を有してい
るが、シリコンを移
動 す る 電 子 は
MoS2 と比較する
と有効質量が小さ
い。このことはゲー
ト長が 5nm 以上の
場合には非常に有
効だが、これ以下の
長さではトンネル
効果と呼ばれる量
子力学的現象が発
透過電子顕微鏡による本トランジスタの断面像。絶縁体(ジルコニア)で隔てられた
1nm のカーボンナノチューブ製ゲートと MoS2 半導体。(画像協力:Qingxiao Wang/UT
ダラス)
生し、ゲートバリア
は電子がソースか
らドレーンへと通
り抜けて行くこと
を防げない。
Desai 氏の言によれば、
「これはつまりトランジスタをオフにできないということ」。
「電子が制御不可能なのです。」
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MoS2 を流れる電子は有効質量が大きいため、その移動は短いゲート長でも制御可能
である。また MoS2 は約 0.65nm の原子厚のシートにすることができる上、電界内で材
料がエネルギーを保存する能力を反映する尺度である誘電率は低下。電子の有効質量に
加えて、この 2 つの特性はゲート長が 1nm にまで縮小された際にトランジスタ内部の
電流制御性を改善させるものである。
ひとたび半導体材料が MoS2 と決まれば、次はゲートの構築となる。判明したとこ
ろ、1nm の構造体の作製は容易なことではない。従来のリソグラフィー技術はこのサ
イズには対応しない。そのため研究チームが目を向けたのは、直径 1nm の中空の円筒、
カーボンナノチューブであった。
続いて研究チームは、カーボンナノチューブ製のゲートを有する MoS2 トランジス
タが電子の移動を効果的に制御したことを明らかにするため、デバイスの電気的特性を
測定した。
「この研究ではこれまでで最小のトランジスタが実証されました。」UC バークレー
にて電気工学・計算機科学の教授も務める Javey 氏はこう話す。「しかしこれは概念実
証です。まだトランジスタをチップに実装していませんし、これを何十億回と繰り返し
た訳ではありません。デバイス内の寄生抵抗を低減させるための自己整合製造工程も開
発していません。それでも、この研究はトランジスタのゲートは 5nm までと限定され
ることはもうないのだと示す目的で重要なのです。半導体材料とデバイス・アーキテク
チャの適切な操作によって、ムーアの法則はしばらく先まで維持されるでしょう。」
LBNL における本研究の資金は主に DOE の基礎エネルギー科学プログラムの提供
によるもの。今回の研究活動の内、複数については DOE 科学局の共用施設である
Molecular Foundry にて行われた。
2016 年 10 月 17 日更新
翻訳:NEDO(担当 技術戦略研究センター 渡邉 史子)
出典:本資料は米国・ローレンスバークレー国立研究所 (Lawrence Berkeley National
Laboratory)の以下の記事を翻訳したものである。
“Smallest. Transistor. Ever.”
http://newscenter.lbl.gov/2016/10/06/smallest-transistor-1-nm-gate/
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