トピックス i-Constructionの現状と今後の展開 しま さき あき ひろ * 嶋 崎 明 寛 1.はじめに 少子高齢化社会を迎え、今後、明らかに労働力が 不足することを考えれば、建設現場の生産性向上は 避けることのできない課題となっている。 国土交通省では、「ICTの全面的な活用(ICT土 工) 」等の施策を建設現場に導入することによって、 調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新 までのあらゆる建設生産プロセスにおいて抜本的な 生産性向上を図るi-Constructionの取組みに本格的 に着手している。 i-Constructionは、生産性を向上させることで企 業の経営環境を改善し、建設現場で働く方々の賃金 水準の向上を図るとともに、安定した休暇の取得や 安全な建設現場を実現することを目指す、いわば建 設現場の働き方革命でもある。 本稿では、i-Constructionのトップランナー施策 である「ICTの全面的な活用(ICT土工)」、「コン クリート工の規格の標準化等」、 「施工時期の平準化」 の取組みの現状等について紹介する。 な お、i-Constructionを 進 め る に あ た っ て は、 「i-Construction委員会」にて基本方針や推進方策を 検討いただき、その議論の結果は報告書として取りま とめられており、国土交通省ホームページ(http:// 測量 www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000028.html)に掲 載されている。適宜参考にしていただければ幸いで ある。 2.トップランナー施策の取組み状況 ⑴ ICTの全面的な活用(ICT土工) ICTの全面的な活用(ICT土工)は、図-1のよ うに、測量や検査時にUAV(ドローン等)などに よる3次元データ計測結果を次の施工段階で用いる 自動制御が可能なICT建機にインプットして活用す るなど、全ての建設生産プロセスで3次元データと ICT建機を一貫して活用する取組みである。 これらにより、現場作業の大幅な省力化・効率化 等が可能となる。既に土工については、3次元デー タを活用するための15の新基準と、ICT建機の活 用に必要な費用を計上するための積算基準を整備し、 国が行う土工について、ICT土工の方式を全面導入 している(表-1)。 具体的には、以下の3つの方式でICT土工を順次 拡大していくこととしている。 ①発注者指定型:直轄工事で行う予定価格が3億 円以上となる大規模な土工については、発注者 がICT土工を前提として発注 3次元測量(ドローン等を用いた測量マニュアルの導入) 施工 従来測量 ドローン等による3次元測量 ICT建機による施工(ICT土工用積算基準の導入) 従来施工(丁張りによる施工) ICT建機による施工 検査日数 検査書類 検査日数が約1/5 (ICT土工用監督・検査要領等の導入) 検査書類が約1/50 (ICT土工用監督・検査要領等の導入) 計測結果を書類で確認 3次元データをPCで確認 GNSS ローバー 200m 人力で200m毎に計測 1箇所計測 検査日数10日 検査日数2日 現場2km毎に50枚 1現場につき1枚 図-1 ICT 土工による建設現場の生産性向上 *国土交通省 大臣官房技術調査課 企画専門官 03-5253-8111 月刊建設16−09 33 トピックス 化や継ぎ手・定着方法の改善、高流動コンクリート の活用等、プレキャストについては、大型のボック スカルバート等に適用対象を拡大すること等につい て、適用範囲や施工条件等をまとめたガイドライン を整備し、普及を図ることとしている。 また、橋脚や橋桁など構造物のサイズや仕様等の 規格を標準化する検討を行っている。これにより、 構成する部材の定型化とともに、施工についても定 型部材を組み合わせるだけの効率的な方法に転換す ることが可能になる。 これらガイドラインの第一弾として、「機械式鉄 筋定着工法の配筋設計ガイドライン」が平成28年 7月に策定されたところである。なお、他のガイド ラインについても、平成28年度中に策定し普及を ② 施工者希望Ⅰ型:3億円未満の中小規模の土工 についても、土工量が20,000㎥以上の工事につ いては、総合評価においてICT土工を加点評価 ③ 施工者希望Ⅱ型:規模に関わらず、施工者から の提案・協議を経てICT土工を実施 これら全ての方式において、ICT土工に必要な費 用を計上するとともに、工事成績で評価をすること としている。 ⑵ コンクリート工における規格の標準化 コンクリート工では、現場打ちコンクリートとプ レキャスト、それぞれの省力化技術を普及・拡大し ていく取組みを進めている(図-2) 。 具体的に、現場打ちについては、鉄筋のプレハブ 表-1 新たに導入する 15 の基準及び積算基準 名称 調査・ 測量、 設計 施工 検査 新規 改訂 1 UAVを用いた公共測量マニュアル(案) 2 電子納品要領(工事及び設計) ○ 3 3次元設計データ交換標準(同運用ガイドラインを含む) ○ 4 ICTの全面的な活用の実施方針 土木工事施工管理基準(案)(出来形管理基準及び規格値) ○ 5 6 土木工事数量算出要領(案)(施工履歴データによる土工の出来高算出要領(案)を含む) ○ ○ ○ 7 土木工事共通仕様書 施工管理関係書類(帳票:出来形合否判定総括表) ○ 8 空中写真測量(無人航空機)を用いた出来形管理要領(土工編)(案) ○ 9 レーザースキャナーを用いた出来形管理要領(土工編)(案) ○ ○ 10 地方整備局土木工事検査技術基準(案) ○ 11 既済部分検査技術基準(案)及び同解説 ○ 12 部分払における出来高取扱方法(案) ○ 13 空中写真測量(無人航空機)を用いた出来形管理の監督・検査要領(土工編)(案) ○ 14 レーザースキャナーを用いた出来形管理の監督・検査要領(土工編)(案) ○ 15 工事成績評定要領の運用について 積算基準 ICT活用工事積算要領 ○ ○ 工事関係基準(ガイドライン、品質規定)の整備、見直し ○適用範囲の標準化(ガイドライン) 規 格 標 準 化 機械式定着工法、機械式継手、 高流動コンクリート 、プレキ ャストの 大型構造物への適用拡大 ○必要性能の標準化(ガイドライン) 鉄筋のプレハブ化、埋設型枠 現場打ち、プレキャストそれぞ れにおいて、生産性向上技術 を全国に普及 ○検査方法等の標準化 発注規定、品質管理基準(検査方法)等 ○サイズの標準化 橋脚、桁、型枠、鉄筋などのサイズの標準化 全 体 最 適 設 計 全体最適を図る設計手法の検討 工 程 改 善 サ プライチ ェー ンマ ネ ジメントの導入の検討 工期短縮や安全性、品質の向上等について、設計段 階で評価できる手法を検討し、建設生産プロセス全体 で最適な技術・工法を採用 サプライチェーンマネジメントを先進的に導入している 事例(住宅業界等)の分析、コンクリート関連工場への 適用性の検討 生産性向上技術の 全国展開 現場作業の屋内作業化、定型 部材の組み合わせによる施工 への転換 現場毎の個別最適 から一連の事業区 間や全国の事業を 想定した最適化 コスト以外の項目も用いて技 術を総合評価する手法の確立 建設生産プロセス全体の効率 化を図り、待ち時間などのロス を減少 製作・運搬等を含ん だ生産工程の改善 図-2 コンクリート工の生産性向上に向けた取組み方針(案) 34 月刊建設16−09 図ることとしている。 国や地方公共団体等の発注機関が連携して平準化の 取組みを進めていくこととしている。 ⑶ 施工時期の平準化 施工時期の平準化については、年間を通した労働 者の安定的な収入と休暇の確保等、労働環境の改善 に効果があるほか、企業にとってもピークに合わせ た機械保有等が不要となり、人材や機材の効率的な 活用が可能になる等の効果が期待できる(図-3)。 このため、国土交通省では、これまで単年度で実 施していた工期が12ヵ月未満の工事についても、 2ヵ年国債を設定して、年度をまたいだ工期を設定 する等の取組みを進めている。 2 ヵ 年 国 債 に つ い て は、 平 成27〜28年 度 は 約 200億 円 だ っ た も の を、 平 成28〜29年 度 で は 約 700億円に拡大している。 これらの取組みは、地方公共団体にも広げること が必要であり、国や都道府県、全ての市町村等から 構成する「地域発注者協議会」等の場を活用して、 (工事件数) 閑散期 3.推進体制の構築 これらのi-Constructionの取組みの浸透・拡大を図っ ていくため、各地方整備局において、i-Construction 推進本部※1 を設置するとともに、産官学で連携で きる体制を整備している。 また、i-Constructionの取組み内容の浸透・拡大 を図るとともに、ICT機器による施工や検査等が現 場でスムーズに実施できるよう、全国各地で発注者・ 受注者に対する講習・実習を行う等、人材育成につ いても積極的に行っている※2(図-4)。 ※1: 全10地方整備局等(北海道・沖縄含む)で委員会設 置済 ※2: 全国47都道府県において、 約200回の説明会を予定(う ち102回開催済)平成28年6月末時点 (現状) 繁忙期 (i -Construction ) (工事件数) 現状の工事件数 平準化された工事件数 平準化のイメージ 平 準 化 (月) (月) <発注者> ・監督・検査が年度末に集中 <発注者> ・ 計画的な業務遂行 <受注者> ・繁忙期は監理技術者が不足 ・閑散期は人材・機材が遊休 発注前倒し <技能者> ・閑散期は仕事がない ・ 収入不安定 ・ 繁忙期は休暇取得困難 <技能者> ・収入安定 ・週休二日 <受注者> ・人材・機材の効率的配置 図-3 施工時期の平準化イメージ 1.施工業者向け講習・実習 2.発注者(自治体等)向け講習・実習 目的:ICT に対応できる技術者・ 技能労働者育成 ・3次元データの作成実習また は実演 ・UAV等を用いた測量の実演 ・公共測量マニュアルや監督・ 検査などの15基準の説明 ・ICT建機による施工実演 など 目的:①i-Constructionの普及 ②監督・検査職員の育成 ・GNSSローバ等を用いた検査 の実地研修 ・公共測量マニュアルや監督・検 査などの15基準の説明 など 図-4 人材育成にむけた施工業者・発注者向け講習・実習 月刊建設16−09 35 トピックス 活動項目事例(案) ● ● 調査・測量 関連団体 施工 関連団体 設計 関連団体 維持管理 関連団体 ● 調査・測量 関連団体 設計 関連団体 施工 関連団体 ● 維持管理 関連団体 プラットフォームの 確立 最新技術の集積を 図る見本市やコン ペの開催 ICTの全面的活用 等で蓄積される データの活用に関 する検討 国際標準化に向け た戦略的な取組に 関する検討 図-5 i-Construction コンソーシアム(仮称)のイメージ さらに、i-Constructionの推進にあたっては、建 設現場の生産性向上について調査・測量から設計、 施工、検査、維持管理・更新の各建設生産プロセス の関係者間において、常に情報交換し、議論できる 場を作ることが必要である。 急速に進展するIoTなど最新の技術の動向を踏ま えて、技術の現場導入を進めるため、産学官が連携 してi-Constructionに取り組むコンソーシアムを設 立し、主に以下のテーマ等について検討を進めてい く(図-5) 。 ① ICTの全面活用等で蓄積されるビッグデータの 活用 ICTの全面活用等で蓄積される3次元データ等 のビッグデータを集積・分析・活用するためのデー タシステムを構築し、データに基づいた的確な現 場管理によるさらなる生産性の向上や維持管理・ 更新等に有効活用することを目指す。データシス テムの構築にあたっては、必要な情報を必要な時 に、必要な人が即座に取得できることが重要であ る。 これら蓄積したデータの利活用について、オー プンデータ化、セキュリティ確保、データ所有権 の明確化等、ビッグデータの利活用に関するルー ルの検討を進めていくこととしている。 ②国際標準化等による海外展開 海外展開にあたっては、我が国の技術基準類や 発注仕様等が各国の基準等として取り入れられる よう取り組むとともに、国際標準化することで、 広く各国で活用されるよう取り組むことが重要で ある。 近年、個別単体の技術・プロジェクトだけでなく、 36 月刊建設16−09 技術基準、制度、人材育成などを含めたパッケージ での展開を求められることが増えてきている。この ことから、今後は、調査・測量から設計、施工、検 査、維持管理・更新までの建設生産システムの輸出 を目指した取組みを進める必要がある。 基準や発注の仕方、制度などをパッケージで海外 展開を図っていくとともに、それらを国際標準化し ていくため、i-Constructionに関する基準類の国際 標準化、人材育成等について検討していく。 4.おわりに i-Constructionの目標は、技能労働者不足を補う ことだけではなく、生産性を向上させることで、現 場で働く方々の処遇を改善し、魅力ある建設現場を 創り出すことである。 これまでの情報化施工を通して、以下のような多 くの効果が確認されている。 ⃝ 土 工で日当たり施工量が約1.5倍効率化するこ とで1人1人の生産性が向上 ⃝重機周辺の計測作業が不要となることにより、 現場の安全性が向上 ⃝熟練オペレーターでなくても精度良く施工でき、 若者や女性等の多様な人材が活躍 今後、施工段階にとどまらず、全ての建設生産プ ロセスにおいて3次元データやICTを導入すること で、1人1人の生産性の大幅な向上や、安全で若者、 女性や高齢者等の多様な人材の活躍の場が増えると 考えている。 これらの取組みを通じて、「給与が良く」、 「十分 な休暇が取得でき」、「将来に希望が持てる」建設現 場の実現を目指していく。
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