緩和ケアの基本

特集
1 緩和ケアの基本 ~がんの緩和ケアから多様なプロセスを踏む循環器疾患への応用~
多様な場面で行われる循環器疾患の緩和ケア
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特集
多様な場面で行われる循環器疾患の緩和ケア
緩和ケアの基本
〜がんの緩和ケアから多様な
プロセスを踏む
循環器疾患への応用~
緩和ケアの歴史と緩和ケアの基本
緩和ケアは,11 世紀の十字軍遠征による傷病
者や巡礼者の安息所であった初期ホスピスから始
まります。そして現代の緩和ケアは,1967 年に
シシリー・ソンダース(Cicely Saunders)女史
スピリチュアルな要素があり,これらが互いに影
響し合い,全体として苦しみを形成するという全
図1
1)
) という概念を提唱しました
(メモ 2)。この概念は広く受け入れられ,1990 年
緩 和ケアとは,生命を脅かす疾患による苦痛を持つ患者さんと家族の
精神的苦痛
不安
いらだち
孤独感
恐れ
うつ状態
怒り
患者さんと家族の思いを引き出し,寄り添うためのコミュニケーション
がん領域の緩和ケアは他の疾患よりも浸透して
踏む循環器疾患に応用できる緩和ケアの基本的知
いるといわれます。本章では,その歴史や浸透し
識や技術をお伝えします。
図1
た道のりをお示します。また,多様なプロセスを
シシリー・ソンダース(1918 〜 2005 年)
メモ
2
身体的苦痛
図 1 の身体的苦痛の「痛み」には,疾患に起因する痛み,
治療に伴う痛み,闘病生活に伴う痛みなどがあります。
社会的苦痛
仕事上の問題
経済上の問題
家庭内の問題
人間関係
遺産相続
全人的苦痛
(total pain)
全人的苦痛(トータルペイン)
(文献 1 より引用)
これからの考え方
従来の考え方
がん病変の治療
診断時
図2
2017/1 Vol.7 No.1
) につながっていき
スピリチュアルペイン
人生の意味への問い
価値体系の変化
苦しみの意味
罪の意識
死の恐怖
神の存在への追求
死生観に対する悩み
はじめに
・
)
,
身体的苦痛
痛み
日常生活動作の支障
スキルが大切!
4
1
表1
図2
2)
看護師,ソーシャルワーカーを経て 39 歳で医師となりま
した。医療用麻薬を定期的に経口投与する鎮痛法を広めた
ことでも知られています。
ソンダースは,苦しみには身体的,精神的,社会的,
quality of life(QOL)を向上するためのアプローチである!
●
メモ
ストファー・ホスピスから始まります。シシリー・
point
●
2002 年の定義の改訂(
(メモ 1)が英国ロンドンに設立したセント・クリ
人的苦痛(
細矢美紀(国立がん研究センターがん対策情報センター,がん看護専門看護師)
の世界保健機関(WHO)の緩和ケアの定義(
緩和ケア
死亡
がん病変の治療
診断時
緩和ケア
死亡
がん治療と緩和ケア
2017/1 Vol.7 No.1 ・
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