4. 胎児・小児の死亡時画像診断に 関する論文レビュー

(Ai)第六弾
シリーズ オートプシー・イメージング
特集 Scene
Vol.10
迫りくる多死社会とAiの役割 ─ 社会インフラとしての現状と今後の展開
Ⅱ 小児(胎児含む)死亡事例におけるオートプシー・イメージング(Ai)の動向
4.胎児・小児の死亡時画像診断に
関する論文レビュー
石田 尚利* 1,2 / 五ノ井 渉* 2 / 大熊ひでみ* 2
白田 剛* 2 / 阿部 修* 2
* 1 三楽病院放射線科 * 2 東京大学医学部放射線医学
本邦では,2014 年度から「小児死亡事
例に対する死亡時画像診断モデル事業」
が始まった。虐待死の見逃しを防ぐべく,
正常死後変化と変遷
小児 Ai の各種モダリティ
保護者は死因検索を事実上拒否できない
小児 Ai の論文を見る上で,まず胎児・
2014 年の ESPR の発表では,調査施
ことを念頭に入れているが,日常臨床の
小児死亡の定義を確認しておくとよい 1)
設の約 8 割で単純 X 線写真,5 割で CT,
死亡時画像診断(以下,Ai)は虐待が関
(表 1)
。さらに,画像上の正常死後変化 2)
4 割で MRI の死後画像検査が行われて
与するばかりではない。小児 Ai も成人同様,
を知っておくことは適切な読影・論文
いた。小児 Ai の主役は CT・MRI であ
死亡が医療機関の内か外か,予測不能な
解釈に必要であり,入門として CT と
るが,これらの撮影プロトコールを定め
突然死か予測可能な自然死かなど,死亡
MRI の死後変化はそれぞれ Klein ら 3),
ていたのは 3 割に過ぎなかった 16)。
時の状況を勘案し,さらに,一口に小児
Arthus ら 4)の論文がわかりやすいため
実は,数十年前より死後 MRI の解剖
とは言っても胎児から10 歳代後半まで成
参照されたい。例えば,新生児脳症の
代替手段の可能性が唱えられている。そ
長段階の差が大きいために,年齢層ごとの
死後 MRI の検討では,生前の低酸素状
の妥当性について確立したコンセンサス
小児 Ai の優位点・限界点を認識する必要
態は明らかにできなかったとされ,正常
はないが 17),適切な生検部位が明らか
がある。本稿では論文レビューを行い,小
死後変化を生前の虚血状態と誤認しな
になるなどの解剖を補完する情報が得ら
児 Ai の現状をまとめた。2016 年 9 月末に
いように注意しなくてはならない ,と
れる場合がある 18)。施行に当たっては,
PubMedで,
(postmortem‌OR‌forensic)
‌
いったことが挙げられる。
1 . 5 T 装置の場合,胎児であれば 500 g
A N D‌(c t‌ O R‌ m r i‌ O R‌ i m a g i n g‌ O R‌
本邦を含め,世界的には約 15 年前か
以上で至適画像が得られる 19)。20 週以
image)
‌ AND‌(child‌ OR‌ children‌ OR‌
ら小児死後 MRI の有効性を述べた論文
上の胎児,乳児を対象に死後 MRI で
infant‌ OR‌ fetus)の検索式でヒットした
が散 見され
, これは 2 0 0 3 年に
解剖学的構造が正常か異常かを判定す
2364 件のうち 88 編の論文を参考にした。
Thali らが virtopsy を提唱する 13)よりも
るだけであれば,脳や骨,心臓を除く
なお,
“Ai”の用語を採用していない論文
前のことである。MRI のほかに CT,超
胸部臓器,膵・尿管・膀胱・生殖器を
もあるが,本稿では死亡時画像診断を便
音波,単純 X 線写真などのモダリティを
除く腹部臓器では正確に診断できるとさ
宜上 Ai に統一した。
含めた小児 Ai の有用性が徐々に認識さ
れる 20)。なお,MRI 施行には選択され
れ 14),小児 Ai の潮流が形成されてきた
るシーケンスやスキャン時間のばらつき
ようである。2015 年には,欧州小児放
がある。英国の Magnetic Resonance
5)
6)〜 1 2)
射線学会(European Society of Peadi-
I m a g i n g A u t o p s y S t u d y( 以 下,
atric Radiology:ESPR)の小児 Ai タ
M a R I A S)は,シーメンス社製 M R I
スクフォースが組織され,虐待だけでな
「MAGNETOM Avanto」
(1 . 5 T)を用
くあらゆる症例での小児 Ai( 特に CT・
いて脳,脊 椎, 体 幹 部を撮 影した研
MRI)を一般化・標準化させることをめ
究の中で,T 1 強調画像と T 2 強調画像
ざしている 15)。
を基本シーケンスとし,拡散強調画像
や 3 D データの収集を行い,合計 90 〜
120 分の検査時間を費やしている。特に,
頭部は合計 35 分強,心臓は1シーケンス
16 INNERVISION (32・1) 2017
〈0913-8919/17/¥300/ 論文 /JCOPY〉