Economic Indicators 定例経済指標レポート

EU Trends
イタリアの銀行救済の法的根拠(続)
発表日:2016年12月21日(水)
~「例外の例外」で個人の劣後債保有者に補償~
第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 田中 理
03-5221-4527
◇ 財政資金を用いた銀行救済時のベイルインの対象範囲とその例外について、関連法規制を整理する。
12月16日付けレポート「イタリアの銀行救済の法的根拠
~ベイルイン・ルールの柔軟性が試される~」
に関連して、幾つか同趣旨の質問をいただいたので補足する。イタリア政府は現在、同国第3位行の自力
増資が出来なかった場合に備え、同行を含む複数の銀行救済に充てるため、最大200億ユーロの政府資金を
用いることを可能にする法令の議会承認作業を進めている。各種報道によれば、イタリア政府はEUの
「銀行再生破綻処理指令(BRRD)」の第34条4項d号の例外規定に基づく「予防的な資本注入」の活用を模
索しているとされる。前掲レポートで筆者が指摘した通り、予防的な資本注入の場合も、EUの「国家救
済規則(State Aid Rule)」に基づき、劣後債の損失負担(ベイルイン)が避けられない。それは以下の
法的根拠に拠る。
まず、BRRD第34条4項d号の例外的な公的金融支援を行なうには、同条が定める通り、国家救済規則に基
づく承認が必要となる。国家救済規則とは、競争政策の観点から、正当な理由がない場合に公的支援を禁
止する規制で、秩序ある破綻処理の調和を図るBRRDとは立法趣旨が異なる。国家救済規則という名前の法
律が存在する訳ではなく、「EU機能条約(TFEU)」の第107条が主な根拠条文となっている。そこでは、
EU加盟国による支援が、特定の事業者を優遇することで競争を歪める恐れがあり、加盟国間の取引に影
響を与える場合、これは域内市場の理念に一致しないと定められている。この条文を具体的な指針に落と
し込んだものが、「2013年銀行コミュニケーション(2013 Banking Communication)」であり、その第15
条から第20条で損失負担(burden sharing)の基本的な考え方が、第40条から第46条で損失負担の具体的
な手順が定められている。
そのエッセンスは(以下は意訳であり、逐語訳ではない)、公的な銀行救済は競争を阻害し、モラルハ
ザードを引き起こす恐れがあり、これらを軽減するため、救済を行なう際には当該銀行の利害関係者に十
分な損失負担が求められる(第40条)。十分な損失負担とは通常、まずは株主が損失を負担し、その後に
ハイブリッド証券や劣後債の保有者が損失を負担する(第41条前段)。ハイブリット証券と劣後債の損失
負担は、普通株に転換するか、元本の減額を通じて行なわれる(第41条中段)。優先債の保有者は損失負
担への義務的な参加を求められない(第42条)。但し、当該措置を講ずることで、金融安定を脅かしたり、
不釣合いな結果を招く場合には、劣後債の株式転換や元本減額の例外が認められる(第45条)。個人の劣
後債保有者に損失発生分を事後的に補償する根拠は、こうした条文に基づくものと思われる。
以上
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