電界援用による新たな硬脆材料 向け研磨システムの開発 秋田工業高等専門学校 機械工学科 教授 池田 洋 <共同研究機関> 秋田県産業技術センター 平成28年12月20日 JST東京本部別館ホール 1 研究背景① 「希少金属の使用量削減」 ハイテク製品の製造に必要不可欠なレアアース (希土類元素)の世界的な需要拡大 レアアース(希土類元素)の例と主な用途 ①(Ce)→液晶ディスプレイ・HDDガラスディスク用研磨材など ②(W)→超硬工具の材料 ③(In)→液晶テレビ・PC等などの表示部 限りある地球資源レアアースの使用効率を向上 本研究の目的① ガラスの高効率研磨技術を開発し、酸化セリウム砥粒の使用量削減を図る →電界スラリー制御技術の開発 ※NEDO希少金属代替材料開発プロジェクト(Ce) 「精密研磨向けセリウム使用量低減技術開発及び代替材料開発」にて実施 (平成21~24年度) 2 研究背景② 「半導体基板の高効率研磨」 □パワーデバイスを中心に,SiCを使った次世代半導体への置き換えが加速 →難加工性材料で基板加工に長時間 □スマホなど電子デバイスの市場投入サイクルの短縮化 電子デバイス・半導体製造のリードタイム短縮化・製造コスト削減が必要不可欠 半導体製造プロセス(シリコンの例) 研磨プロセスの 高効率化 高効率CMP技術 の創出 半導体製造 リードタイム短縮 電子デバイス 搭載 製品化 電子デバイスの 工期短縮+製造コスト削減 本研究の目的② 3 研究背景② 「半導体基板の高効率研磨」 エネルギー利用効率の向上に向け,電気エネルギー制御・変換用 パワー半導体デバイスに飛躍的な性能向上が求められている. Siパワー半導体からSiCパワー半導体への置き換えが加速 基板加工技術の高度化 →・SiC基板は化学的,機械的に安定な難加工材料 ・基板加工工程が製造コストの上昇の一因. 基板材料の相対研磨速度(Si=1)(CMP) 基板材料 ガラス基板 Si サファイア SiC 研磨速度 1 1 1/40 1/5000 インゴット 外周 形成 切断 工程 研削 工程 本研究の目的② 研磨 工程 ウエハー 電界スラリー制御技術を導入した SiC基板向け高速CMP技術を開発 →加工時間の短縮,加工コスト低減 4 CMP技術とは CMP(Chemical Mechanical Polishing ) 1960年代後半に半導体シリコンの超精密加工プロセスとして適用されたことを 起源 ①遊離砥粒研磨技術を原理とする平坦化加工方法 ②化学反応,及び機械的除去作用を複合化させた研磨法 研磨荷重 研磨ヘッド 工作物 (研磨試料) ワークホルダー スラリー ポリシングパッド 回転方向 スラリー飛散 定盤 ・長所:高品位な仕上がり ・短所:スラリー使用効率が低い 5 電界砥粒制御技術(オイルベース・スラリー向け) 1mm 電界 往復運動 電 極 吸引力 吸引力 電 極 電界 砥粒(ダイヤモンド): 誘電率6 絶縁流体 (シリコンオイル): 誘電率2.5 AC 誘電率に差 AC 砥粒に作用する吸引力 2.0kV , 1.0Hz シリコンオイルにダイヤモンドパウダー を分散させたスラリーの電界印加挙動 →砥粒の飛散抑制効果 ・発明の名称:粒子分散型誘電流体を用いた加工法 ・登録番号:特許第3595219 (平16.9.10) ・出願人:秋田県 ・発明者:赤上陽一 6 ガラス・半導体基板向け電界制御技術の開発 電界砥粒制御技術 電界スラリー制御技術 金属(導電性材料) ガラス基板・ウエハー 溶媒 【誘電率】 絶縁性オイル 【2.5】 水 【80】 砥粒 【誘電率】 ダイヤモンドなど 【6】 酸化セリウム・シリカ 【3~6】 砥粒 主に溶媒(水) 工作物 使用スラ リー 電界が主に作用する物質 電界印加により、スラリーへ吸引力が作用 →スラリーの飛散抑制 研磨効率 の向上 7 電界制御によるスラリー挙動 Voltage Φ20mm GAP =6mm CCD Time electrode Pad Slurry HV Oscilloscope electrode insulator Pad:Insulation material Function generator High voltage amp. スラリー液滴の挙動 →電界による吸引作用を確認 8 電界印加時のスラリーの流れ 電界ON 試料固定 プレート 研磨ヘッド 電極 H.V (AC.) スラリー 吸引力 吸引力 流入 遠心力 工作物 排出 研磨パッド 電極・定盤 電極 定盤 研磨加工部断面図 電界を印加することによって,研磨界面のスラリー分布を向上 →研磨効率向上 ・ 工作物の表面品位向上 9 研磨界面のスラリー流れ解析 スラリー挙動観察実験方法 スラリー挙動観察実験装置 High-speed camera Work piece (ITO glass) Slurry Platen with electrode 100mm 160mm Slurry dropping position 80min-1 15mm 800min-1 スラリー流れ画像解析 Polishing head Electronic field generation system 10 研磨界面のスラリー流れ解析 High speed camera Electronic field generation system Upper platen Lower Platen スラリー挙動観察実験の様子 11 研磨界面のスラリー流れ解析 スラリー流れ画像解析方法 スラリー流れ画像解析→MTI(Moving Target Indicator)処理を導入 ・移動物体の軌跡を高精度に検出し,数値化. スラリー流れ軌跡,分布の解析に応用. MTI処理 ハイスピードカメラで連続撮影 Edge of grass plate 0sec Edge of platen 工作物 (ITOガラス) ・スラリー:白色 ・背景 :黒色 定盤& 電極 スラリー滴下 12 研磨界面のスラリー流れ解析 電界有無における研磨界面へのスラリー流入比較 無電界 電界印加 流入後 0.15sec 電界印加によりスラリー飛散が抑制される 13 電界印加有無によるスラリー分布面積の比較 無電界 電界印加 Edge of grass plate Dropping position Edge of platen Slurry 2500 Slurry distribution area mm2 Slurry distribution area mm2 2500 2000 1500 1000 500 0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 Time sec 経過時間とスラリー分布面積の関係 0.5 2000 3kV/32Hz 1500 1000 500 0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 Time sec 経過時間とスラリー分布面積の関係 電界を印加することにより,スラリー分布面積が増加 →良好な研磨特性が得られる可能性 14 印加電圧がスラリー分布に及ぼす影響 Edge of grass plate Dropping position Edge of platen Slurry (a) E = 0 V Upper platen Lower platen (b) E = 1 kV (c) E = 2 kV (d) E = 3 kV 電圧の増大にともなって,スラリー分布面積が増加 →電界印加による研磨速度向上に期待 15 印加周波数におけるスラリー分布と研磨速度の関係 Edge of work piece Slurry Dropping position 10mm Edge of platen (a)No electric field Work piece (ITO glass) Platen (b)8Hz (c)24Hz Slurry (d)32Hz 周波数変化にともなうスラリー分布面積・研磨レートの 増減傾向が同じ →分布面積は研磨レートに大きく影響 →最適な周波数の存在 (e)40Hz 16 スラリー濃度における電圧と研磨レートの関係 印加電圧と研磨レートとの関係 2.4 ・砥粒:酸化セリウム (平均粒径0.5μm) m/min 2.2 Removal rate 5wt% 2 ・研磨ヘッド回転速度: 800min-1 1.8 1wt% Conventional CMP : 0.9μm/min 1.6 0 1 2 Voltage 3 kV ・砥粒濃度1wt%、5wt%共、電界強度の増大に伴い研磨レート向上 ・1wt%の低濃度スラリーに電界を印加することにより5wt%と同等の 研磨レート→電界印加により80%砥粒使用量削減 17 Polishing rate , m/min スラリーの連続使用における研磨レートの変化(寿命評価) 2.4 2.1 1.8 1.5 1.2 0.9 0.6 0.3 0 ・砥粒:酸化セリウム (平均粒径0.5μm) ※リサイクル使用 Av.1.84 ・研磨ヘッド回転速度: 800min-1 Av.1.6 電界有り 電界無し 400min 1300min 500 1000 1500 2000 Processing time , min 電界印加によりスラリーの寿命は3倍程度となる 18 SiC基板の研磨特性 Removal amount mg/h 印加電圧と研磨除去量の関係 ・試料:2インチ 4H-SiCウエハ 0.24 ・スラリー:コロイダルシリカ系 (Compol80,40wt%) 0.22 ・研磨ヘッド回転速度: 100min-1 0.2 0.18 0 1 2 3 4 Voltage kV 電圧の上昇に伴って研磨除去量が増加 →電界印加が研磨除去速度向上に効果的に作用 19 SiC基板の研磨特性 印加周波数と研磨除去量の関係 Removal amount mg/h 0.3 E=4kV ・試料:2インチ 4H-SiCウエハ 0.25 ・スラリー:コロイダルシリカ系 (Compol80,40wt%) 0.2 0.15 0.1 ・研磨ヘッド回転速度: 100min-1 50% Up Removal rate (with electric field) Removal rate (non electric field) 0 20 40 Frequency Hz 60 研磨レートには周波数依存性がある →最大で50%除去量が増加 20 電界スラリー活性化技術の概要 スラリーへ電界を印加 「電界活性化ノズル」 研磨ヘッド H.V (AC.) 電 極 試料固定 プレート 電 極 スラリー 工作物 研磨パッド 定盤 研磨加工部断面図 電界スラリー制御技術 研磨界面のスラリー分布を向上 →研磨効率向上 電界スラリー活性化技術 スラリーが有する電気的特性を変化 ①砥粒の凝集抑制 ②化学反応促進 →研磨効率向上・導入コスト低減 21 電界スラリー活性化技術の装置展開 電界活性化 ノズル 片面研磨機への 電界活性化ノズル装着状態 電界活性化ノズル 22 電界活性化ノズルによるスラリーへの影響 -40 -50 10 -60 pH 10.5 9.5 0 20 40 Frequency Hz 60 -70 Zeta Potential mV 周波数とスラリーpH・ゼータ電位の関係 11 pH Zeta Potential スラリー電界 印加ノズル 測定 印加周波数の増加にともない,砥粒のゼータ電位が低下 砥粒の凝集を抑制→研磨レート向上に期待 23 電界活性化スラリーの研磨速度への影響 周波数と試料除去量の関係 Removal amount Zeta Potential 10.5 -50 10 9 -60 11%向上 9.5 0 20 40 Frequency Hz 60 Zeta Potential mV Removal amount mg -40 -70 ゼータ電位低下に伴い,研磨レート向上 →砥粒の分散性向上が要因 24 電界活性化スラリーの研磨速度への影響 本実験におけるゼータ電位と除去量の関係 Rem oval amount mg 11 10 9 -45 -50 -55 Zeta Potential mV -60 砥粒のゼータ電位と研磨速度の相関性を確認 →電界スラリー活性化技術によるゼータ電位制御によって 研磨速度向上に期待できる 25 想定される用途 ガラス基板,半導体基板の高効率CMP ラッピング研磨,研削加工の高効率化 各種レンズの高効率研磨 など 実用化に向けた課題 市販装置における電界スラリー制御技術の研磨特性 (データの蓄積) 様々な材料において良好な研磨特性を示す最適な電界条件 の解明. 企業への期待 本技術の実用化に向けて,様々な応用範囲を探っている.こ の技術を活用できる分野を提案いただき,共同研究できる環 境を整えたい. 26 本技術に関する知的財産権 ・発明の名称:粒子分散型誘電流体を用いた加工法 ・出願番号:特願平11-293558(特許第3595219号) ・出願人:秋田県 ・発明者:赤上陽一 ・発明の名称:電界下における誘電性砥粒を水に分散させた流体を用いた 仕上げ方法及び仕上げ装置 ・出願番号:特願2006-326935(特許第4783719号) ・出願人:秋田県 ・発明者:赤上陽一 ・発明の名称:平面トライボ研磨方法、およびその装置 ・出願番号:特願2010-227347 ・出願人:秋田県,株式会社小林機械製作所 ・発明者:赤上陽一,池田洋,久住孝幸,森十九男,川瀬恵嗣,谷口智洋 27 お問い合わせ先 国立高専機構 秋田工業高等専門学校 ・企画室 TEL 018-847 - 6106 FAX 018-857 - 3191 e-mail kikaku@akita-nct.ac.jp ・機械工学科 教授 池田 洋 TEL 018-847 - 6031 e-mail [email protected] 28
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