柴田信也 - 東北教区被災者支援センター・エマオ

台湾・PCT リトリート
報告・感想
柴田信也
今回のリトリートを終えて反芻することは、この台湾訪問は二度と望むことのない極めて
貴重な機会であったということです。そして徒然に回想しつつ悔やまれるのは、もっと丁寧
にもっと謙虚に必要な備えを行ってしかるべきだったということです。
一週間の間、わたしたちが訪ねる先々で心があらわれる過分な歓待を受け、感謝感謝の
日々でした。5 年 5 期にわたって 268 名ものワーカーをエマオへと送り出してくださり、も
とより感謝すべきはわたしたちエマオであったと思います。しかし一方で、PCT にとっても
この「支援」は単なる活動である以上に、青年を中心とするワーカーをエマオへ送り出した
ことで大きな学びを得、また信頼を深め強める合うための契機となり、極めて意義の多い取
り組みであると受け止めてくださっていることを林芳仲 PCT 総幹事のことばをはじめ、その
思いに触れることが出来ました。
教団在外教師として PCT 国際日語教会に遣わされているうすきみどりさんと 2 度お目にか
かる機会を得ました。お忙しいこともあり短い時間ではありましたが、台湾で暮らしていな
ければわかりえない意識や感性、精神性を感じ取ることが出来、大変有意義でした。そして、
同伴いただいた故宮博物館には台湾人はほとんど来訪しないこと、日本人への伝道を志し日
本語で聖書を熱心に学んでいる老若男女のこと、
「3.11」に際し「わたしたちの同朋(同胞?)
が苦しんでいる」と言って祈りをささげ、食事代を切り詰めて献金を献げられたおばあさん
のことなどなど、「観光」では知り得ることのない台湾の諸相を多くうかがいました。それ
は一聞すると取り留めのない話のようではありますが、文脈をなぞればそこには幾重にも重
なり分厚くなった瘡蓋が癒えない台湾の物語として、通底していると感じさせられました。
それと同時に、これまで PCT とのエマオでのつながり、相互理解や対等性がいかに浅薄なも
のあったかを痛感させられました。
飛行機を降りて台北市内を移動する車窓からは立法院に隣接して建つ PCT 濟南教会が観
えました。ここは彼の日、日本基督教団台北幸町教会でした。
研修プログラムの中で発題をした PCT ワーカーの翁姿淳さん(17)は拙いながらも懸命に
日本語で話しかけてくれます。彼女が話す日本語は祖母から教わったものだと教えてくれま
した。なぜ彼女の祖母は日本語を話せるのか。また、礼拝に参加したいずれの教会でもスタ
ッフに気さく親しく話しかけてくださった高齢の方々があり、日本語での交流が持てたよう
でした。
5 日目、今夏の台風災害にあった台東縣豊源地区を訪れた際、その被災者支援の拠点とな
っている PCT 台東縣原住民族発展開懐協会を訪問し、「原住民」の生存と人権を守る働きを
恒常的に取り組まれていることに触れ、自然災害が巻き起こす社会的課題の深刻さを理解す
る眼差しが鋭くそして優しく向けられていることを目の当たりにしました。
エマオのスローワーク、その対象でありまたその主体は被災された方々であり、またその
地域です。そしてスローワークによって、被災という現実を通してではありますが一人一人
の暮らしと営み、これまでの人生に思いを馳せ、スタッフ・ワーカーには「寄り添い」に徹
するよう努めてきました。エマオはワーカーを受け入れる側です。その意味ではワーカーに
対してスローワーク、「寄り添い」を求めることは多くありましたが、一方で様々な背景を
持つワーカーや送り出す側の思いに寄り添うことには不十分であったと示されました。それ
は PCT が「なぜエマオの働きを支えてくださったのか」という祈り、その発露を十分に知り、
受け止めていたのかということでした。
PCT から届けられていた祈りや支援は、これまで辿ってきた歴史や経験の文脈においては
ある意味では特異なことではなかったということです。これまでの認識が稚拙なものであっ
たと思いをあらたにし、自戒を込めて受け止めることとなりました。それは、おそらく日本
から遠く臨んでいるだけでは知りうることが出来なかったことだったと思います。
林偉聯 PCT「教会と社会」委員会担当幹事は、「スローワーク」その理念を引き継ぐエマ
オ台湾の創設ビジョンに触れてくだり、とてもうれしい言葉に感激をもって聴きました。し
かし「台風銀座」と呼ばれ、毎年のように台風被害に見舞われる台湾の地にどれほどの祈り
と支援を今後、わたしたちが日本から届けることが出来るか、大きく問われることともなり
ました。
今後、PCT とのつながりがどのように紡がれていくことになるか未知ではありますが、個
人的にはこの想いを覚え続けていくことが、PCT からの祈りへの応答であると胸に刻みつつ、
このリトリートの感謝としたいと思います。