International Tax Services Newsalert 米国トランプ次期政権における累積海外留保 利益に対する強制みなし配当課税の導入可 能性について December 2016 In brief 2016 年の米国大統領選挙の結果、共和党候補のトランプ氏が当選し、また上下院で共和党が過半数の議 席を獲得することが確定したことから、抜本的税制改革への機運が高まっています。税制改正の具体的内容 は年明けの予算案発表まで待つ必要がありますが、現段階で特に実現可能性が高いと思われるのが、米国 海外子会社の累積留保利益に対する強制みなし配当課税です。米国法人が特に高税率国の海外子会社に 多額の留保利益を累積している場合、同制度導入後は留保利益の配当にかかる間接外国税額控除の税メリ ットを享受する機会が失われる可能性がありますので、対応を早急に検討する必要があります。 In detail 1. 抜本的税制改革の可能性 2016 年米国大統領選挙の結果、共和党のドナルド・J・トランプ氏が当選し、また、上下院で共和党が過半数 の議席を獲得しました。この結果、従来存在していた大統領と議会とのねじれ現象が解消し、米国における 抜本的税制改革の現実的可能性が俄かに注目されています。 従来の米国の税制改革論議においては、2014 年の下院歳入委員会議長であるデイブ・キャンプ氏(共和党) が中心となった提案(「キャンプ案」)に代表されるように、法人税率下げ、外国子会社配当免税制度の導入と いった、国際的な潮流に沿った形での改革案が基本線として議論されてきました。しかしながら、特に個人事 業者や富裕層に対する租税負担のあり方について民主党と共和党との折り合いがつかず、抜本的な改革は 棚上げとなっていました。 これに対し、トランプ氏が選挙時から提案していた税制改革案(「トランプ案」)と共和党が 2016 年 6 月にブル ープリントと称して発表した改革案(「共和党 BP」)との共通項は多く、次期政権においては共和党 BP が議 論の基本線となるものと考えられています。 具体的な税制改正案の内容については年明けの新年度予算案発表まで待つ必要がありますが、本ニュース レターでは、現時点で特に実現可能性が高いと考えられている累積海外留保利益の強制みなし配当課税に ついて、現段階での見通しと考えられる対応策についてお知らせします。 2. 累積海外留保利益の強制みなし配当課税(Mandatory Repatriation) 米国は先進国で唯一全世界所得課税を維持し、また実効税率で 40%近い高税率を維持しています。このた め、米国企業にとって海外子会社の利益を海外に留保しておく誘因(ロックイン効果)が強く働いており、海外 留保利益の累積額は 2.5 兆ドルにのぼるといわれています。海外子会社の税務上の留保利益(E&P)の累積 www.pwc.com/jp/tax International Tax Services Newsalert 額に低税率で一括課税を行うことで、利益還流の障壁を除去するとともに一定の歳入を確保するのが強制み なし配当課税の目的であり、上述のキャンプ案、共和党 BP、トランプ案全てに含まれています。 キャンプ案および共和党 BP においては、現金(または現金同等物)の裏付けのある E&P に対しては 8.75% で、現金を伴わない E&P については 3.5%で課税することとし、後者は 8 年間の延べ払いを可能としています。 当該強制みなし配当に伴う間接外国税額控除は、キャンプ案では部分的に適用可能としているのに対して、 共和党 BP では言及がありません。これに対して、トランプ案においては、一括での 10%課税を提唱するのみ であり、現金を伴わない E&P に対する税率や間接外国税額控除適用の可否について言及がありません。 3. 強制みなし配当課税導入のインパクトとそのタイミング 仮に強制みなし配当課税が導入される場合、海外子会社利益にかかる税務プランニングに大きな影響があり ます。強制みなし配当課税後の留保利益から配当をしても、非課税の配当として間接外国税額控除が認めら れなくなる可能性があるからです。 このことを簡単に図示すると以下のようになります。仮に米国子会社が高課税国(税率 35%)に孫会社を保有 しており、孫会社において留保利益 65、支払外国税額 35 が累積していたとします。現時点で配当を行った 場合、米国子会社における外国税額控除の限度額が十分にあると想定すると、当該配当に対して米国で追 加の税額は発生しません。他方、強制みなし配当においては、基本的に一定の税率で課税が行われるのみ であるため、留保利益 65 に対して低税率ではあるものの米国において課税が発生します。結果として、海外 孫会社の利益に対する所在地国および米国での総合実効税率が上昇します。 仮にトランプ次期政権が本案を強く推進し、2017 年中に新税制として成立した場合には、累積海外留保利 益の額は 2017 年 12 月 31 日以前に開始する最終課税年度終了時の E&P となる可能性があります。その場 合、通常の E&P の計算ルールを適用すると、当該最終課税年度中に生じた配当は当該 E&P の計算上控除 されません。すなわち、海外子会社の課税年度が 12 月末である場合、現実に 2017 年に期中配当を行って いたとしても、これを無視した 2017 年度終了時の E&P に対し強制みなし配当が発生し、当該期中配当につ いては米国で間接外国税額控除が適用されない可能性があります。従って、高税率で課税済の E&P をもつ PwC 2 International Tax Services Newsalert 海外子会社(12 月決算法人)については、2016 年終了時までに配当を行わない限り、間接外国税額控除の ベネフィットを享受する機会が失われる可能性があります。同様の理由により、海外子会社(3 月決算法人)に ついては、2017 年 3 月 31 日までに配当を行うか否かを検討する必要があります。 4. まとめ 日本法人の米国子会社がメキシコ等法人税率 30%前後の比較的高い税率の国の海外孫会社を通じて事業 を行っている場合には、強制みなし配当課税が導入された場合のインパクトの見極め、および、米国への資 金還流タイミングについて早急に検討を行う必要があります。 PwC 3 International Tax Services Newsalert Let’s talk より詳しい情報、または個別案件への取り組みにつきましては、当法人の貴社担当者もしくは下記までお問 い合わせください。 PwC 税理士法人 〒100-6015 東京都千代田区霞が関 3 丁目 2 番 5 号 霞が関ビル 15 階 電話 : 03-5251-2400(代表) Email: [email protected] www.pwc.com/jp/tax 米国デスク担当 パートナー 山岸 哲也 03-5251-2460 [email protected] 米国デスク担当 シニア マネージャー 小林 秀太 090-1764-5403 [email protected] 米国デスク担当 シニア マネージャー 内山 直哉 080-4104-5481 [email protected] パートナー 川崎 陽子 03-5251-2450 [email protected] パートナー 鬼頭 朱実 03-5251-2461 [email protected] ディレクター 荒井 優美子 03-5251-2475 [email protected] PwC 税理士法人は、PwC のメンバーファームです。公認会計士、税理士など約 590 人を有する日本最大級のタックスアドバイザーとして、法人・個人の申 告をはじめ、金融・不動産関連、移転価格、M&A、事業再編、国際税務、連結納税制度など幅広い分野において税務コンサルティングを提供しています。 PwC は、社会における信頼を築き、重要な課題を解決することを Purpose(存在意義)としています。私たちは、世界 157 カ国に及ぶグローバルネットワーク に 223,000 人以上のスタッフを有し、高品質な監査、税務、アドバイザリーサービスを提供しています。詳細は www.pwc.com をご覧ください。 本書は概略的な内容を紹介する目的のみで作成していますので、プロフェッショナルによるコンサルティングの代替となるものではありません。 © 2016 PwC 税理士法人 無断複写・転載を禁じます。 PwC とはメンバーファームである PwC 税理士法人、または日本における PwC メンバーファームおよび(または)その指定子会社または PwC のネットワーク を指しています。各メンバーファームおよび子会社は、別組織となっています。詳細は www.pwc.com/structure をご覧ください。 PwC 4
© Copyright 2025 ExpyDoc