公共工事と会計検査 ~設計、施工、施工における留意点~ 元会計検査院農林水産検査第4課長 芳 目 次 1.工事関係の指摘の傾向 2.公共工事の指摘事例(平成26年度検査報告) (1)斜引張鉄筋の本数が不足している (2)設計自動車荷重を25tではなく14t (3)置換重量が原地盤重量を上回る (4)鉛直土圧係数の割り増しせずに鉛直土圧計算 (5)河床幅の拡幅で大型土のうが不要 (6)排水工回りの防水シート、固定金具が未施工 (7)曲げモーメントによるせん断力を考慮せず (8)水平力と自重の同時作用を検討せず (9)機械の選択や単価入力を誤り積算過大 (10)別の短い工事延長で単価を出して積算過大 賀 昭 彦 1.工事関係の指摘の傾向 年度別指摘一覧 年 事 度 態 平成 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 不当事項 設 計 不 適 切 15 21 19 13 7 12 14 14 24 28 積 算 過 大 2 6 5 5 5 0 3 2 4 2 施 工 不 良 2 1 5 3 5 4 1 4 7 4 他 2 0 7 3 3 3 7 8 24 19 20 27 34 24 19 18 25 27 58 53 設 計 不 適 切 1 7 2 2 1 1 1 4 5 5 積 大 3 1 6 3 5 2 3 1 1 6 他 3 3 1 0 5 2 11 13 6 2 7 11 9 5 11 5 15 18 12 13 27 38 43 29 30 23 40 45 70 66 そ の 計 処置済、処置要求 そ 算 過 の 計 合 計 設計不適切、施工不良にそれぞれカウントしているものがあるので計が合わない。 2.公共工事の指摘事例(平成26年度検査報告) (1)斜引張鉄筋の本数が不足している ●工事の概要 これらの交付金事業は、2市が、道路整備事業又は土地区画整理事業の一環として、橋 りょうを新設するために、下部工として橋台2基の築造等、上部工として桁の製作、架設等 を実施したものである。 これらの橋りょうについては、地震発生時における桁の落下を防止するために、橋台の 胸壁と桁をPC鋼材で連結する落橋防止構造を左岸側及び右岸側の両橋台の胸壁にそれぞれ 設置していた。そして、2市は、橋台の胸壁の設計に当たり、地震発生時に、落橋防止構造 を通じて両橋台のそれぞれの胸壁に作用する水平力に対して、所要の斜引張鉄筋 (注1) を配 置すれば、斜引張鉄筋が許容するせん断力 (注2) が負担するせん断力 (注2) を上回ることから、 応力計算上安全であるとし、これにより施工することとしていた。 ●検査の結果 しかし、橋台の胸壁に配置する斜引張鉄筋について、S市は誤った橋台の幅を基に本数を 算出したり、K市は設計計算書とは異なった配置間隔により配筋図を作成したりしていた。 そこで、各橋台の胸壁に実際に配置された斜引張鉄筋を基に改めて応力計算を行ったと ころ、斜引張鉄筋が許容するせん断力が負担するせん断力を大幅に下回っていて、応力計算 上安全とされる範囲に収まっておらず、各橋台の胸壁及びこれらと落橋防止構造で連結され ている桁等は、いずれも所要の安全度が確保されていない状態になっており、これらに係る 交付金相当額計299,291,100円が不当と認められる。 このような事態が生じていたのは、2市において、委託した設計業務の成果品に誤りが あったのに、これに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。前記の事態 について、事例を示すと次のとおりである。 <事例> S市は、同市M区M地先において、橋りょう(橋長85.7m、幅員11.5~13.7m)を新設 していた(以下、当該工事における右岸側の橋台を「A1橋台」、左岸側の橋台を「A2橋 台」という。)。 そして、同市は、橋台の胸壁の設計に当たり、地震発生時に、落橋防止構造を通じてA1 橋台、A2橋台それぞれの胸壁に作用する水平力に対して、両橋台ともに径13㎜の斜引張鉄 筋を横方向に50㎝間隔で1列当たり40本配置すれば、斜引張鉄筋が許容するせん断力が負担 するせん断力を上回ることから、応力計算上安全であるとして設計し、これにより施工する こととしていた(参考図参照)。 しかし、同市は、A1橋台の幅は20.4m、A2橋台の幅は13.4mであるのに、斜引張鉄 筋の設計に当たり、誤って、両橋台とも幅20.4mに50㎝間隔で配置することとしていた。こ のため、幅13.4mであるA2橋台の胸壁に実際に配置されている横方向1列当たりの斜引張 鉄筋は26本となり、上記の40本に比べて大幅に不足している状態となっていた。 そこで、A2橋台の胸壁に実際に配置された横方向1列当たりの斜引張鉄筋26本を基に 改めて応力計算を行ったところ、斜引張鉄筋が許容するせん断力は2,174.1kNとなり、負担 するせん断力3,040.4kNを大幅に下回っていて、応力計算上安全とされる範囲に収まってい なかった。 したがって、本件A2橋台の胸壁は設計が適切でなかったため、同胸壁及びこれと落橋 防止構造で連結されている鋼桁等(これらの工事費相当額421,906,000円、交付金相当額 253,114,200円)は、所要の安全度が確保されていない状態になっていた。 (注1)斜引張鉄筋:せん断力(材を切断しようとする力)により材に斜めに生ずる引張力に抵 抗するために、胸壁等の前面側と背面側の主鉄筋をつなぐ鉄筋 (注2)許容するせん断力・負担するせん断力:「負担するせん断力」とは、材に生ずるせん断 力のうち、コンクリートが負担するせん断力を差し引いた値をいう。この数値が設計上 許される上限を「許容するせん断力」という。 (参考図) 橋りょう概念図 (2)設計自動車荷重を25tではなく14t ●工事の概要 この交付金事業は、S市が、下水道事業の一環として、同市地内において、雨水管及び 集水桝を整備するなどの工事を実施したものである。 このうち雨水管の整備は、主要な市道間を接続する道路である市道11号線の車道(車道 幅員6.1~7.4m)を開削して、軟弱地盤の地盤改良を兼ねた基礎として、こま型ブロック計 1,365個及び間詰砕石(以下、これらを合わせて「函渠の基礎」という。)を地中に敷設す るなどし、その上に函渠(内空断面の幅800~1,400㎜、高さ800~1,400㎜、延長233.5m) を設置して、その埋戻し、舗装の復旧等を行ったものである(参考図参照)。 同市は、本件函渠及び函渠の基礎の設計を、「道路土工カルバート工指針」(公益社団 法人日本道路協会編)、「地盤改良工法便覧」(日本材料学会土質安定材料委員会編)(以 下、これらを合わせて「設計指針」という。)等に基づいて行っている。そして、同市は、 函渠の基礎の設計に当たり、本件函渠を埋設する市道が道路構造令(昭和45年政令第320 号)に定める普通道路 (注1) に当たるものの、計画交通量が少なく、大型自動車の通行も少 ないとして、設計自動車荷重を14tとした上で、函渠の基礎に作用する鉛直荷重 ( 注 2 ) を 83.18kN/㎡と算出し、許容鉛直支持力度 (注 2) 84.64kN/㎡を下回ることなどから設計計算上 安全であるとして、これにより施工していた。 ●検査の結果 しかし、道路構造令及び設計指針によれば、普通道路に函渠等を埋設する場合、基礎に作 用する鉛直荷重の算定に当たって用いるべき設計自動車荷重は25tとされている。そして、 本件函渠を埋設する市道は、計画交通量が少ないとはいえ、主要な市道間を接続する道路で あり、実際に大型自動車の通行が見込まれる普通道路であることから、函渠の基礎の設計に 当たっては、大型自動車の通行量の多寡にかかわらず設計自動車荷重を25tとして設計すべ きであった。 そこで、改めて設計自動車荷重を25tとして函渠の基礎に作用する鉛直荷重を算出した ところ、125.72kN/㎡となり、前記の許容鉛直支持力度84.64kN/㎡を大幅に上回っているな どしていて、設計計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。 したがって、本件函渠及び函渠の基礎等(工事費相当額計45,598,000円)は、函渠の基 礎の設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態になっており、これ に係る交付金相当額計22,799,000円が不当と認められる。 このような事態が生じていたのは、同市において、函渠の基礎の設計に当たり、函渠を 大型自動車の通行が見込まれる普通道路に埋設する場合に用いるべき設計自動車荷重につい ての理解が十分でなかったことなどによると認められる。 (注1)普通道路:小型道路(長さ6.0m以下、幅2.0m以下等の自動車等及び歩行者又は自転車 のみの通行の用に供する道路)以外の道路をいう。 (注2)鉛直荷重・許容鉛直支持力度:「鉛直荷重」とは、構造物の自重等が地盤に対し鉛直方 向に働く単位面積当たりの力をいい、鉛直荷重を基礎底面地盤が支えることのできる設 計上許される単位面積当たりの限度を「許容鉛直支持力度」という。 (参考図) 橋りょう概念図 (3)置換重量が原地盤重量を上回る ●工事の概要 この交付金事業は、H市が、下水道事業の一環として、同市T及びM地内において、雨 天時における未処理排水を一時的に貯留することなどを目的として、雨水貯留施設(以下 「貯留施設」という。)等を整備したものである。 このうち、貯留施設の整備については、市道S線の車道等を開削し、函渠(内空断面の 幅2.5m、高さ2.6m又は2.9mのもの2連。参考図参照)を延長165m敷設するなどしたもの で、その工法の決定に当たっては、原地盤が軟弱地盤であることなどを考慮して、原地盤を 開削しながら上部を開放したシールド機を推進させて函渠等を敷設していく工法(以下「開 削型シールド工法」という。参考図参照)を採用している。 同市は、貯留施設の設計を、開削型シールド工法による施工を行っている企業で構成さ れる協会が作成した「設計・積算要領(案)」、「技術資料(案)」(以下、これらを合わ せて「設計指針」という。)等に基づき実施している。設計指針によれば、開削型シールド 工法は、基礎地盤を乱すことなく掘削が行えるため、基礎地盤の強度低下をほとんど招くこ とがないとされている。このため、開削型シールド工法においては、函渠等敷設後に原地盤 と置き換わることになる函渠、埋戻土、裏込注入材等を合計した重量(以下「置換重量」と いう。)が函渠等敷設前の原地盤重量を下回る場合(以下、置換重量と原地盤重量とを比較 する方法を「重量比較法」という。)には、基礎地盤が安定しているため、基礎地盤の支持 力に対する検討を行う必要はないとされている。一方、置換重量が原地盤重量を上回る場合 には、基礎地盤が安定しないおそれがあるため、基礎地盤の支持力に対する検討を行う必要 があるとされており、その際、裏込注入材による周面摩擦力 (注1) を考慮して行うこととさ れている(参考図参照)。 そして、同市は、貯留施設の設計に当たり、本件工事の起点側と終点側の2ヶ所の地質 調査結果を基にして重量比較法を用いることとし、置換重量を起点側で668.41kN/m、終点 側で672.68kN/mと算出し、それぞれ原地盤重量683.23kN/m、680.62kN/mを下回ることか ら設計計算上安全であるとして、これにより施工していた。 ●検査の結果 しかし、同市は、上記の置換重量の算出に当たり、設計指針において、重量比較法を用 いて置換重量を算出する際には考慮することとされていない裏込注入材による周面摩擦力を 考慮していたことから、置換重量が過小に算出されていた。 そこで、改めて裏込注入材による周面摩擦力を考慮せずに置換重量を算出したところ、起 点側で712.63kN/m、終点側で716.90kN/mとなり、それぞれ前記の原地盤重量683.23kN/m、 680.62kN/mを上回っており、基礎地盤の支持力に対する検討を行う必要があった。そして、 設計指針等に基づき、基礎地盤の支持力に対する検討を行ったところ、基礎地盤に作用する 鉛直荷重 (注2 ) は起点側で133.04kN/㎡、終点側で133.78kN/㎡となり、それぞれ許容鉛直支 持力度 (注2 ) 48.08kN/㎡、48.32kN/㎡を大幅に上回っていて、設計計算上安全とされる範囲 に収まっていなかった。 したがって、貯留施設(工事費相当額356,856,000円)は、設計が適切でなかったため、 所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る交付金相当額178,428,000円 が不当と認められる。このような事態が生じていたのは、同市において、委託した設計業務 の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったことなどによると認めら れる。 (注1)周面摩擦力:函渠の周面に充填された裏込注入材と地盤とが接する摩擦によって鉛直荷 重に抵抗する方向に働く力をいう。 (注2)鉛直荷重・許容鉛直支持力度:「鉛直荷重」とは、構造物の自重等が地盤に対し鉛直方 向に働く単位面積当たりの力をいい、鉛直荷重を基礎底面地盤が支えることのできる設 計上許される単位面積当たりの限度を「許容鉛直支持力度」という。 (参考図) 函渠等概念図 基礎地盤の支持力に対する検討概念図 開削型シールド工法概念図 (4)鉛直土圧係数の割り増しせずに鉛直土圧計算 ●工事の概要 この交付金事業は、F県が、過疎地域自立促進特別措置法(平成12年法律第15号)に基 づきM市に代わって実施した市道新設事業の一環として、M市地内において、既存の水路の 機能を維持するために、アーチカルバート(以下「カルバート」という。)の築造、盛土工 等を実施したものである。 このうち、カルバート(内空断面の幅1.50m、高さ1.50m、延長44.0m)は、水路が道 路下を横断する箇所に築造するものであり、カルバート上の盛土の土被り厚に応じて、Ⅱ型 (外幅1.78m、高さ1.80m、延長計10.0m)、特厚型(外幅1.86m、高さ1.89m、延長計 10.0m)及び特々厚型(外幅1.86m、高さ1.92m、延長計24.0m)のプレキャストコンクリー ト製のカルバートにより施工するものである。また、同県は、カルバートの基礎地盤が軟弱 であったことから、基礎地盤を強化して所要の支持力が得られるよう、当初設計において基 礎地盤を砕石に置き換える地盤改良を行うこととしていたが、施工に当たり、湧水の排出が 困難であったことなどから、基礎地盤をセメントにより固結させ安定させるセメント安定処 理による地盤改良(幅2.06m、深さ0.8~1.8m)に設計変更を行い、カルバートの全延長に わたって施工している。 同県は、カルバートの設計を「道路土工カルバート工指針」(公益社団法人日本道路協会 編。以下「指針」という。)等に基づいて行っており、特厚型及び特々厚型の設計について は、構造計算書において、それぞれの最大土被り厚を8.11m及び9.28m、鉛直土圧係数 (注1) をそれぞれ1.0としてカルバートに作用する鉛直土圧を計算するなどして、主鉄筋に生ずる 引張応力度 (注2) (常時) (注3) が許容引張応力度 (注2) (常時)を下回ること、また、コン クリートに生ずるせん断応力度 (注4) (常時)が許容せん断応力度 (注4) (常時)を下回るこ となどから、いずれも応力計算上安全であるとしていた(参考図参照)。 ●検査の結果 しかし、指針等によれば、本件カルバートのように、基礎工としてセメント安定処理の ような剛性の高い地盤改良をカルバートの外幅程度に行う場合において、最大土被り厚をカ ルバートの外幅で除した値が1以上となる場合には、鉛直土圧係数を1.0から割り増しして 鉛直土圧を計算することとされているのに、同県は、前記の設計変更を行う際に、この割増 し計算を行うことなく、当初設計のまま施工していた。 このため、カルバート(延長44.0m)の基礎のうち、地盤改良の幅がカルバートの外幅 程度となっている範囲に設置した特厚型(同8.0m)及び特々厚型(同24.0m)の鉛直土圧 係数及び鉛直土圧については、それぞれの最大土被り厚8.11m及び9.28mをカルバートの外 幅1.86mで除した値が特厚型で4.36、特々厚型で4.99となることから、指針等による正しい 鉛直土圧係数は1.6となる。 そこで、正しい鉛直土圧係数1.6により鉛直土圧を求めるなどして主鉄筋及びコンクリー トについて改めて応力計算を行ったところ、次のとおり、応力計算上安全とされる範囲に収 まっていなかった。 ア 円弧部頂点の主鉄筋に生ずる引張応力度(常時)は、特厚型で202.4N/㎟、特々厚型で 209.7N/㎟となり、鉄筋の許容引張応力度(常時)160N/㎟をいずれも大幅に上回って いた。 イ 底版隅角部のコンクリートに生ずるせん断応力度(常時)は、特厚型で0.942N/㎟、 特々厚型で0.884N/㎟となり、それぞれのコンクリートの許容せん断応力度(常時) 0.606N/㎟、0.591N/㎟を大幅に上回っていた。 したがって、カルバートのうち、前記の特厚型(延長8.0m)及び特々厚型(同24.0m) (工事費相当額10,415,000円)は設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されてい ない状態になっており、これに係る交付金相当額5,728,250円が不当と認められる。このよう な事態が生じていたのは、同県において、カルバートの基礎の地盤改良の設計変更に当たり、 これによる鉛直土圧への影響に対する検討が十分でなかったことなどによると認められる。 (注1)鉛直土圧係数:カルバートを設計する際に、その上にある盛土の重量を算定するのに用 いる係数。カルバート上の盛土とカルバート周辺の盛土には相対変位が生ずることから、 カルバート上部の盛土に作用する下向きのせん断力を考慮して求められる。 (注2)引張応力度・許容引張応力度:「引張応力度」とは、材に外から引張力がかかったとき、 そのために材の内部に生ずる力の単位面積当たりの大きさをいう。その数値が設計上許 される上限を「許容引張応力度」という。 (注3)常時:地震時等に対応する表現で、土圧など常に作用している荷重及び輪荷重など作用 頻度が比較的高い荷重を考慮する場合をいう。 (注4)せん断応力度・許容せん断応力度:「せん断応力度」とは、外力が材に作用し、これを 切断しようとする力がかかったとき、そのために材の内部に生ずる力の単位面積当たり の大きさをいう。その数値が設計上許される上限を「許容せん断応力度」という。 (参考図) カルバートの概念図 カルバート(特厚型)断面概念図 (5)河床幅の拡幅で大型土のうが不要 ●工事の概要 この補助事業は、S県が、H市地内において、平成24、25両年度にダムの下流に建設中 である第二ダムの貯水池内に存する地すべり土塊の対策工として、押え盛土工、護岸工、掘 削工等を実施したものである。このうち護岸工は、第二ダムに貯水が開始されるまでの河川 の流水や貯水開始後の貯留水の水位変化による影響から、法面を保護するために、ブロック マット護岸(段数5段、敷設面積計5,948㎡)及び大型土のう488個の設置等を実施したもの である(参考図1参照)。 同県は、当初、護岸工により設置されるブロックマット護岸の最下段における河川の流水 の設計流量を流域からの流入量の実績等に基づき4㎥/sと算出し、設計流速を2.73m/sと算 定していた。そして、「美しい山河を守る災害復旧基本方針」(公益社団法人全国防災協会 編)によれば、ブロックマット護岸が、河川の流水の作用に対して設計上安全とされる流速 (以下「設計対応流速」という。)は4.0m/s以下とされており、上記の設計流速2.73m/s は、設計対応流速を下回っていることなどから、ブロックマット護岸を設置すれば設計上安 全であるとし、これにより施工することとしていた。 その後、同県は、ブロックマット護岸の施工中に、第二ダムに貯水が開始されるまでの 約3年間については、設計流量に出水時におけるダムからの放流水も考慮する必要があると して、当初の設計流量である4㎥/sを建設中の第二ダムの転流工 ( 注 ) の流下能力と同量の 50㎥/sに変更していた。そして、同流量における設計流速がブロックマット護岸の設計対応 流速4.0m/sを上回ることが予想されたことから、ブロックマット護岸の最下段を保護する ために、その前面に大型土のう(高さ1.0m、直径1.1m、重量2t)を1段から5段まで、 計488個設置するなどの設計変更を行い、これにより平成25年5月までに施工していた(参 考図2参照)。 ●検査の結果 しかし、「「耐候性大型土のう積層工法」設計・施工マニュアル」(一般財団法人土木研 究センター編)によれば、大型土のうの設計対応流速は4.0m/s以下とされており、ブロッ クマット護岸の設計対応流速と同じ流速までしか対応できないものであった。そして、設計 変更後の設計流速を算定すると4.80m/sとなり、大型土のうの設計対応流速を上回っている ことから、大型土のうは、河川の流水に対して安全な構造とはなっておらず、ブロックマッ ト護岸の最下段を保護する機能を有していなかった。現に、平成25年6月の梅雨前線による 降雨に伴うダムからの放流により大型土のうの施工箇所において流速4.46m/sの流水が生じ、 これにより大型土のうの大半が流出していた。 そして、同県は、上記の事態を受けて、25年6月から8月までの間に、流速を低下させ るために河床の幅を2.5mから4.0mに拡幅するなどの掘削工等を実施して、ブロックマット 護岸の最下段における設計流速を3.83m/sに低下させていた(参考図3参照)。 このようなことから、本件工事は、設計流量を50㎥/sに変更した際に、設計流速を低下 させるために、河床を拡幅するなどの適切な設計変更を行って施工することとしていれば、 大型土のうを設置することなく、ブロックマット護岸の最下段を保護することができたと認 められる。 したがって、本件護岸工うち、大型土のう計488個(工事費相当額6,685,000円)は、設 計が適切でなかったため、設置する必要がなかったと認められ、これに係る国庫補助金相当 額3,342,500円が過大に交付されていて不当と認められる。 このような事態が生じていたのは、同県において、護岸工の設計に当たり、設計流量に 基づく流速に対して安全な構造とするための検討が十分でなかったことなどによると認めら れる。 (注)転流工:ダム本体工事の施工期間中、河川の流水を一時的に迂回して通水させるための水 路トンネルなどをいう。 (参考図1) 地すべり土塊の対策工の全体概要 (参考図2) 設計変更後の施工の状況(設計流量50㎥/s流下時、設計流速4.80m/s) (参考図3) 掘削工施工後の状況(設計流量50㎥/s流下時、設計流速3.83m/s) (6)排水口回りの防水シート、固定金具が未施工 ●工事の概要 この交付金事業は、K市が、同市S地内において、S市営住宅(鉄筋コンクリート造3 階建て2棟)の外壁及び屋上防水改修工事を実施したものである。 このうち、屋上防水改修工事は、経年劣化した既設防水層等の上に塩化ビニル製の防水 シート計1,081㎡の張付け、排水口回りに塩化ビニル製の改修用ドレン計14ヶ所の取付けな どを実施したものである。 同市は、防水シートの張付けを、固定金具で全面を点状等に固定する「機械的固定工 法」で行うこととし、排水口回りの処理については、風圧による防水シートの波打ち現象等 の影響が及ばないよう「公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)」(一般財団法人建築 保全センター編)、防水シートの製造メーカーの仕様等に基づいて、①改修用ドレンを排水 口に取り付け、②その周囲から300㎜程度の位置に固定金具を設置し、③改修用ドレンから 固定金具までの間は別の防水シートを接着剤等で貼り付け、機械的固定工法で施工されてい る防水シートの端部と固定金具とを固定するなどと設計し、これにより施工することとして いた(参考図参照)。 ●検査の結果 しかし、現地の状況を確認したところ、排水口回りに固定金具や別の防水シートは施工 されておらず、機械的固定工法で施工された防水シートの端部が改修用ドレンのつばに直接 貼り付けられていた。このため、本件工事の排水口回りについては、風圧による防水シート の波打ち現象等の影響により、貼り付けた部分に力が加わり、改修用ドレンと防水シートと の間に口開きが生じ、防水層の内側に雨水等が浸入したり、防水シートと共に改修用ドレン が引っ張られて改修用ドレンが破損したりするなどのおそれがある状況となっていた。 したがって、本件屋上防水改修工事(工事費相当額10,686,538円)は、施工が設計と相 違していたため、所要の防水性能が確保されていない状態となっていて工事の目的を達して おらず、これに係る交付金相当額5,343,269円が不当と認められる。 このような事態が生じていたのは、請負人が粗雑な施工を行っていたのに、これに対す る同市の監督及び検査が十分でなかったことなどによると認められる。 (参考図) 排水口回りの概念図 排水口回りの断面概念図 (7)曲げモーメントによるせん断力を考慮せず ●工事の概要 この工事は、地方整備局国道事務所(以下「事務所」という。)が、平成25、26両年度 に、T都I区H地先において、耐震補強工として一般国道17号の橋りょう(昭和7年築造。 橋長57.8m、幅員25.7m)の橋台2基及び橋脚2基に架設した9本の鋼鈑桁(以下「橋桁」 という。)に変位制限構造及び落橋防止構造を工事費101,034,000円で設置したものである。 このうち、変位制限構造は、地震発生時において橋桁等に作用する橋軸方向及び橋軸直 角方向の水平力に抵抗するために設置するものであり、落橋防止構造は、地震発生時におけ る橋軸方向の水平力に抵抗して橋桁の落下を防止するために設置するものである。 事務所は、両構造の設計を「道路橋示方書・同解説」(公益社団法人日本道路協会編) 等に基づき行うこととしており、これを設計コンサルタントに委託し、設計業務委託の成果 品の提出を受けていた。 上記の成果品によれば、橋台2基に設置する両構造は、いずれも、取付ボルトにより橋 桁に固定した鋼板と橋台の橋座部に垂直に埋め込んだアンカーバーとを組み合わせた構造と なっており、橋台1基につき変位制限構造を6個、落橋防止構造を8個設置すれば、両構造 に作用する水平力に対していずれも安全であるとして、これにより施工していた。 ●検査の結果 検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。 すなわち、橋台2基に設置した変位制限構造は、アンカーバーと取付ボルトが橋軸方向 に離れているため、地震発生時に橋桁に作用する橋軸直角方向の水平力により、鋼板に曲げ モーメントが作用することになっていた。このため、取付ボルトには、水平力によるせん断 力に加えて、曲げモーメントによるせん断力が作用することになるのに、事務所は、設計に おいて、この曲げモーメントによるせん断力を考慮していなかった。そこで、改めて橋台2 基に設置した12個全ての変位制限構造の取付ボルトに生ずるせん断応力度を計算すると、 1,505N/㎟から4,481N/㎟となり、許容せん断応力度300N/㎟を大幅に上回っていて、応力計 算上安全とされる範囲に収まっていなかった。 また、橋台2基に設置した落橋防止構造は、地震発生時に橋桁に作用する橋軸方向の水 平力に抵抗するものであるが、前記のとおり、変位制限構造と同様の構造となっていること から、橋軸直角方向の水平力に対しても抵抗することになり、落橋防止構造の取付ボルトに も曲げモーメントによるせん断力が作用することになっていた。そこで、改めて橋台2基に 設置した16個全ての落橋防止構造の取付ボルトに生ずるせん断応力度を計算すると、15個の 落橋防止構造において、303N/㎟から1,845N/㎟となり、許容せん断応力度300N/㎟を大幅に 上回っていて、応力計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。 したがって、橋台2基に設置した全ての変位制限構造及び15個の落橋防止構造は、設計が 適切でなかったため、地震発生時において所要の安全度が確保されていない状態になってい て工事の目的を達しておらず、これらに係る工事費相当額20,360,000円が不当と認められる。 (参考図) 橋台正面図 橋台に設置した両構造(変位制限構造及び落橋防止構造)の概念図 橋台に設置した両構造の平面図 (8)水平力と自重の同時作用を検討せず ●工事の概要 この工事は、地方整備局国道事務所(以下「事務所」という。)が、平成25、26両年度 に 、 一 般 国 道 16 号 の 橋 り ょ う ( 3 ヶ 所 ) 等 の 耐 震 補 強 工 、 橋 り ょ う 補 修 工 等 を 工 事 費 132,406,800円で実施したものである。このうち、S市の橋りょう(昭和61年築造。橋長 274.6m、幅員31.Om)は、橋台2基、橋脚12基、プレストレストコンクリート製の中空床 板の上部工等からなり、本件工事では、耐震補強工として起点側の橋台及び上部工に、地震 発生時において上部工に作用する水平力に抵抗するため、橋軸方向及び橋軸直角方向のそれ ぞれに変位制限構造を設置していた。このうち、橋軸方向の変位制限構造として橋台に設置 した鋼製ブラケットは、地震発生時に支承が破損した場合に、上部工を支えることにより路 面に生ずる段差を小さくするための段差防止構造も兼ねていた。 事務所は、変位制限構造にかかる設計を「道路橋示方書・同解説」(公益社団法人日本 道路協会編)等に基づき行うこととしており、これを設計コンサルタントに委託し、設計業 務委託の成果品の提出を受けていた。 上記の成果品によれば、橋台の鋼製ブラケットが変位制限構造として機能した場合にアン カーボルトに生ずる引張応力度は285N/㎟から290N/㎟、段差防止構造として機能した場合に アンカーボルトに生ずる引張応力度は88.2N/㎟から179.9N/㎟とされていて、事務所は、こ れらの引張応力度がいずれもアンカーボルトの許容引張応力度300N/㎟を下回ることなどか ら安全であるとして、これにより施工していた。 ●検査の結果 検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。 すなわち、前記のとおり橋台の鋼製ブラケットは橋軸方向の変位制限構造と段差防止構 造の機能を兼ね備えていることから、地震発生時に支承が破損した場合には、橋軸方向の変 位制限構造に作用する水平力と、段差防止構造に作用する上部工の自重との両方が同時に鋼 製ブラケットに作用することになるのに、事務所は、アンカーボルトの引張応力度について は、前記のとおりそれぞれが個別に作用した場合に生ずる引張応力度について確認したのみ で、同時に作用した場合に生ずる引張応力度については検討していなかった。 そこで、改めて地震発生時に支承が破損して水平力と自重の両方が橋台の鋼製ブラケッ トに同時に作用した場合について、鋼製ブラケット10個に取り付けられたアンカーボルトに 生ずる引張応力度を計算すると、351N/㎟から499N/㎟となり、許容引張応力度300N/㎟を大 幅に上回っていて、応力計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。 したがって、橋台の鋼製ブラケットは、設計が適切でなかったため、地震発生時におい て所要の安全度が確保されていない状態になっていて、変位制限構造は工事の目的を達して おらず、これに係る工事費相当額11,258,000円が不当と認められる。 (参考図) 橋軸方向の変位制限構造の概念図 橋軸方向の変位制限構造の側面概念図 (9)機械の選択や単価入力を誤り積算過大 ●工事の概要 T株式会社(以下「会社」という。)は、平成25、26両年度に、「K保育園(仮称 ) 建設に伴う基盤整備その他工事」を見積合わせ競争契約により、株式会社Iと契約額 128,307,758円で締結して施行している。 本件工事は、地下鉄東西線M駅付近の高架橋下に保育園を建設するための基盤整備工事 として、舗装撤去工、高架橋補修工等を行うものである。このうち、舗装撤去工は、保育園 建設予定地である既存の駐車場のアスファルト舗装を撤去するものであり、高架橋補修工は、 舗装撤去工と同じ場所において、保育園の建設に先立ち、高架橋の下面にコンクリートの劣 化を防止するための塗料をあらかじめ塗布するものである。 会社は、本件工事の予定価格の積算に当たり、会社で定めた土木工事積算基準等に基づ き、同基準等に示された各種算定式等を電子データ化した積算システム(以下「積算システ ム」という。)を利用して、舗装撤去工については、労務費、機械器具経費等を積み上げて 算出し、高架橋補修工については、労務費、材料費等を積み上げて算出していた。このうち、 舗装撤去工については、高架橋下という狭あいな施工条件であることから、バケット容量 (山積)が0.13㎥の小型のバックホウを使用することとして積算していた。また、高架橋補 修工については、使用する塗料等に係る材料費の単価が市販の積算参考資料に掲載されてい ないことから、業者2杜から徴した見積りや同種の工事を参考にするなどして単価を決定し、 材料費を積算することとしていた。 ●検査の結果 検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。 すなわち、会社は、舗装撤去工の機械器具経費については、バケット容量(山積)が 0.13㎥の小型のバックホウの機械損料を計上すべきところ、積算システムにおける機械器具 の選択を誤ったため、より高額なバケット容量(山積)が1.4㎥の大型のバックホウの機械 損料を計上するなどしていた。また、高架橋補修工の材料費については、積算システムに単 価を入力する際に、誤って、前記の同種の工事を参考にするなどした単価よりも高い金額を 入力していた。 したがって、正しい機械器具経費及び材料費を用いるなどして本件工事費を修正計算す ると、他の項目において積算過小となっていた費用等を考慮しても、諸経費等を含めた工事 費の総額は119,019,580円となることから、本件契約額128,307,758円はこれに比べて約920 万円割高になっていて不当と認められる。 (10)別の短い工事延長で単価を出して積算過大 ●工事の概要 Y港埠頭株式会社(以下「会社」という。)は、平成25年度に(H)HD-4号220M区間 レール等設置工事契約を随意契約により、特定建設工事共同企業体と契約額209,006,853円 で締結して施行している。 本件工事は、埠頭群荷さばき施設等整備事業の一環として、Y港において、H埠頭 の HD-4号岸壁の耐震化工事に伴い、レール敷設工、側溝設置工等を実施するものである。 このうち、レール敷設工については、荷役機械の走行用レール(延長計451m)等を設置す るもので、レールを岸壁のコンクリート舗装に固定するベースプレートを含めたレール敷設 工の延長は計456mとなっている。 会社は、本件工事の予定価格の積算に当たって、レール敷設工に係る労務費等について は業者から見積書を徴し、また、レールを敷設する場合に必要となる機械経費についてはY 市制定の積算基準を準用するなどして、レール敷設工に係る費用(以下「敷設工費」とい う。)を算出した上で、敷設工費をレール敷設工の延長で除して敷設工費の1m当たりの単 価(以下「単価」という。)を算出することとしていた。そして、これにレールの延長計 451mを乗じて、敷設工費の積算額を18,100,885円としていた。 ●検査の結果 検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。 すなわち、会社は、敷設工費6,582,300円をレール敷設工の延長計456mで除して単価を 14,434円と算出すべきところ、誤って、本件工事とは別のレール等設置工事の積算で計上さ れたレール敷設工の延長164mで除して単価を40,135円と算出していた。 したがって、上記の適正な単価14,434円を用いて修正計算すると、レール敷設工の延長 に係る積算過小を考慮しても、敷設工費は6,581,904円となり、これにより適正な工事費の 総額を算定すると197,809,500円となることから、本件契約額209,006,853円はこれに比べて 約1,110万円割高となっていて不当と認められる。 (現地の写真) は が 芳賀 あきひこ 昭彦 氏 プロフィール 元会計検査院農林水産検査第4課長 一般財団法人 経済調査会 技術顧問・参与 昭和53年4月 会計検査院採用(第5局鉄道検査第2課) 第5局鉄道検査第2課 東北・上越新幹線建設の検査担当 第3局建設検査第3課 建設省道路局、直轄、補助の検査担当 第3局上席道路担当 日本道路、首都高速、阪神高速、本州四国連絡橋の各公 団、東京湾横断道路の担当 第1局外務検査課 無償資金協力による支援国の建築、土木施設等の担当 第3局国土交通検査第1課 国土交通省の住宅局の補助の担当 第4局農林水産検査第1課総括副長 第4局農林水産検査第4課長 農林水産行政の全般統轄担当 林野庁、森林総研、農水関係研究4独法担当 等を歴任 平成27年5月 一般財団法人 経済調査会 技術顧問・参与 <主な委員会等> ・高速道路保有・債務返済機構「高速道路の新設等に要する費用の縮減にかかる 助成に関する委員会(インセンテブ委員会:略称)委員 ・国土交通省国交省「新技術活用システム検討会議(NETIS略称)」委員 等
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