病害虫防除 今年の反省と来年の対策

病害虫防除
今年の反省と来年の対策
果樹試験場病害虫担当専門研究員
口木文孝
Ⅰ.果樹全般(果樹カメムシ類)
今年は果樹カメムシ類の越冬量が平年より少なく、4 月~8 月中旬までの予察灯での捕
獲虫数は少なく推移しました。しかし、8月中旬以降に捕獲虫数が増加し、果樹園へ多数
飛来し始めたため9月8日付で注意報が発出されました。その後も、9月下旬頃まで飛来
が続きました(写真1)
。
今年のヒノキ毬果の結実量は平年よりやや少なかったため、果樹カメムシ類の発生量も
やや少ないと予想されていました。そのような中、果樹園へ多数飛来した理由として、梅
雨明け後に好天が続き、果樹カメムシ類の増殖に好適となったことが考えられます。
来年の毬果量は、今年 7~8 月に好天が続き、ヒノキ、スギの花芽分化に好適な条件で
あったため多くなると考えられ、果樹カメムシ類が多発する恐れがあります。
そのため、果樹園への侵入を警戒し、侵入を確認したらすぐに薬剤を散布してください。
果樹カメムシ類について、農業技術防除センターがホームページで越冬成虫数(平成 29
年3月頃)、予察灯・フェロモントラップ等での誘殺数データ(6月~10 月)等を提供し
ますので参考にしてください。
写真1
カンキツ果実を吸汁するチャバネアオカメムシ(左)とツヤアオカメムシ(右)
の成虫
Ⅱ.カンキツ類
カンキツ類では、黒点病、果実腐敗、ミカンサビダニ、カネタタキ及びチャノキイロア
ザミウマ等による被害が問題となりました。
〇黒点病を対象として、5 月~収穫期まで主にマンゼブ水和剤(商品名:ジマンダイセン
水和剤、ペンコゼブ水和剤)を中心に散布されています。しかし、今年は 6 月 4 半旬~7
月 3 半旬に降雨日数及び降雨量が多かったため、薬剤を適期に散布できずに発病が多くな
った園がありました。さらに、9 月にも降雨量が多く、薬剤の散布回数が増えたため、薬
剤の選択に困られた方も多いと思います(図1)。
黒点病の防除にはマンゼブ水和剤を散布しますが、散布回数が 5 回以上になる場合はマ
ンネブ剤、ストロビードライフロアブル等を組み合わせて散布します。
なお、黒点病に対しては、散布した薬剤の防除効果が無くなる前に次の薬剤を散布する
必要があります。マンゼブ水和剤を散布する場合、①散布してからの累積降水量が再散布
の目安となる降水量(単用の場合 200~250 ㎜、マシン油乳剤と混用した場合 300~400
㎜)を超えた時、または、②前回の散布から1ヶ月を経過した時が次の薬剤散布時期にな
ります(表1)。
マンゼブ水和剤散布時に、マシン油乳剤 200 倍または 400 倍を混用するとマンゼブ水和
剤の耐雨性が向上します。ただし、7月以降にマシン油乳剤を散布すると果実糖度が低下
することがあるため、マシン油乳剤の加用は 6 月末までにしてください。
なお、黒点病防除の目安となる降雨量は、気象庁の発表するアメダスデータとカンキツ
園とでは異なります。そのため、園内に簡易雨量計を設置して、実際の降水量を確認しな
がら防除時期を判断することが重要です。
また、伝染源となる枯れ枝や剪定枝等の除去を徹底し、必ず、園外に持ち出して処分し
てください。枯れ枝を確実に除去することで菌密度を減らすことができ、薬剤の効果が向
上します。
図1
表1
平成 28 年の降水量(小城市小城町晴気:果樹試験場内)
マンゼブ水和剤を散布した場合の薬剤散布の目安
前回の薬剤散布からの 前回の薬剤散布からの
積算降雨量
経過日数
マンゼブ水和剤単用
200~250mm
1ヶ月
マンゼブ水和剤
300~400mm
1ヶ月
+マシン油乳剤
・上記の目安を基に黒点病防除剤を再散布する。
○梅雨明け後の好天で果皮が薄くなったことや、秋の長雨で浮き皮が発生したこと等が原
因となって果実腐敗が問題となった園がありました。果実腐敗には、収穫前にベンレート
水和剤とベフラン液剤 25 の混用、あるいは、ベフトップジンフロアブルを単用で果実に
かかりむらがないように散布してください。なお、果樹カメムシ類の吸汁や、後で説明す
るカネタタキによる被害も腐敗果の原因となるので、これらの害虫の防除も徹底してくだ
さい。
また、果実に傷を付けないようていねいに収穫すること、傷がついた果実はなま果とし
て出荷・貯蔵しないこと、貯蔵中に腐敗果を見つけたらすぐに取り除くことを励行してく
ださい。
さらに、カルシウム資材を葉面散布すると、果実体質が強化されるため果実腐敗の発生
を抑制することができます。
○ミカンサビダニの発生は 8 月まで少なかったものの、梅雨明け後に好天が続いたため、
9 月以降に多発した園がありました。
ミカンサビダニには、必ず6~7月に薬剤を散布するとともに、8月下旬以降にも薬剤
を散布してください。また、その後も発生に注意し、被害が発生し始めたら薬剤を散布し
ます。
○今年は、カネタタキによる被害が多発しました。
カネタタキ(写真 2)はバッタの仲間で、6 月後半ごろから幼虫が出現し、8 月中旬頃か
ら成虫になります。通常は山野に生息する虫ですが、近年は、カンキツ園でも見られるよ
うになり、年によっては被害が発生しています。被害には、7 月~9 月上旬頃に幼虫が果
実表面を舐めるように食べる舐食害(としょくがい)と、8 月中旬頃から成虫が 1 か所を
深くえぐって食べる穿孔食害(せんこうしょくがい)があります(写真 3,4)。対策として、
7 月下旬頃にスミチオン水和剤、オリオン水和剤 40 等を散布します。今年被害を受けた園
では、来年は必ず薬剤を散布してください。
写真2
カネタタキの成虫
写真3
カネタタキによる舐食害
写真4
カネタタキによる穿孔食害
○チャノキイロアザミウマによる被害は、防除の徹底等により平年並の発生でした。しか
し、一部の園では 5 月下旬~6 月中旬頃に加害したと考えられる前期被害が発生していま
す(写真 5)。チャノキイロアザミウマによる前期被害が多かった園では、基幹防除に加え、
5 月末~6 月初めに臨機防除を実施してください。
なお、チャノキイロアザミウマの防除時期及び追加防除の必要性は黄色粘着トラップを
用いた調査で判断できるので、産地単位で調査されることをお勧めします。
○ヤノネカイガラムシ、イセリアカイガラムシ及びフジコナカイガラムシ等のカイガラム
シ類の防除適期は幼虫期です。カイガラムシは種類ごとに幼虫の発生時期が異なるので、
必ず、園内での幼虫の発生を確認しながら防除を実施します。冬季のマシン油乳剤の散布
も高い効果があります。なお、フジコナカイガラムシに対して有機リン剤の防除効果がや
や低下しているので、フジコナカイガラムシの発生している園では他系統の殺虫剤を散布
します。
○ゴマダラカミキリには、薬剤を6月と7月の2回散布するとともに、幼虫による被害が
確認されたら、早急に幼虫を捕殺します。
写真5
チャノキイロアザミウマによる前期被害
Ⅲ.ナシ
〇黒星病の防除が徹底されたため、今年は被害が問題となった園は少なくなっています
(写真 6)。
黒星病には、年間を通じた体系防除を実施する必要があります。来年の発生源を少なく
するため、①剪定時の秋伸び枝及びぼけ芽の剪除、②落葉は集めて処分するとともに、発
芽直前の3月中旬から定期的に防除を実施します。なお、翌年の伝染源を減らすためには
収穫後の防除も重要なので、収穫後であっても必ず薬剤を散布してください。
写真6
黒星病の発病果実
○ナシヒメシンクイは、フェロモントラップでの捕獲数は平年並で、被害も平年並となり
ました。
ナシヒメシンクイは、春先から防除を実施するとともに、果実被害が問題となる7月頃
~収穫期まで薬剤を7~10 日ごとに散布します。収穫作業等で忙しい時期ですが、薬剤の
散布間隔が開いてしまうと被害が増加するので注意してください。
○ハダニ類が多発し、落葉が発生した園がありました(写真 7)。そこで、ハダニ類を採集
して薬剤感受性検定を実施しましたが、主要殺ダニ剤で効果が低下した薬剤は確認されま
せんでした。ハダニ類は、夏季に好天が続くと、薬剤のかかりムラ等で生き残った個体か
ら急激に増殖します。そこで、園内を見回り、薬剤をハダニ類が低密度時にかかりムラが
無いよう、ていねいに散布してください。
写真7
ハダニ類が多数寄生しているナシの葉
〇チュウゴクナシキジラミは 6 月末頃に発生が多くなったものの、地域ぐるみの一斉防除
によって、その後の発生は少なくなりました。発生園では、4 月下旬及び 6~7 月に薬剤を
散布してください。
○ニセナシサビダニが引き起こしていると考えられるナシの葉のモザイク症状は、少なく
なっています。しかし、モザイク症状の発生が激しいハウス栽培及びトンネル栽培、また
品種‘あきづき’では、ニセナシサビダニ剤を散布してください。
Ⅲ.ブドウ
〇6 月~7 月中旬の曇雨天の影響はありましたが、防除が徹底されたため、今年はべと病、
褐斑病及び晩腐病等の病害が問題になる園は少なくなりました。
これらの病害には、薬剤を散布するとともに、剪定時等に病原菌の伝染源となる巻づる、
落葉、剪定枝の除去を徹底します。なお、晩腐病対策には、できるだけ早く果実への袋か
けを行います。また、袋かけでは、留め口から雨水等が中に入らないように留め口をきっ
ちりと締めてください。
〇チャノキイロアザミウマ及び果樹カメムシ類による被害は平年並でした(写真 8)。これ
らの害虫に対しては、
「早期発見、早期薬剤散布」が基本となるので、園内をこまめに観察
して薬剤の散布が遅くならないようにしてください。
写真8
チャノキイロアザミウマによるブドウの果実被害
Ⅳ.キウイフルーツ
○キウイフルーツかいよう病(写真 9)には、収穫後から翌年 6 月頃まで体系防除を実施
する必要があります。本病の発生生態及び防除対策については、「佐賀の果樹」の‘平成
27 年 10 月号’に説明がありますので参照してください。
○すす斑病は、薬剤の散布が徹底されたことから被害は少なくなりました。本病は、風通
しが悪く、湿度が高い園で問題となるので、キウイフルーツの枝が密集しないように枝管
理を行うとともに、防風樹の間伐・剪定等によって園内の風通しを良くします。
写真9
キウイフルーツかいよう病の葉での症状(2016 年 5 月)