2016/9/26 平成28年度 専門テーマ別セミナー【分科会2】 発達障害学生に対する 社会参入を見据えたシームレス支援 ~キャリアと自己認識の変化~ 富山大学教育・学生支援機構 学生支援センター 日下部貴史 話の流れ はじめに 1.発達障害学生のキャリア教育の考え方 2.発達障害学生の就職活動 3.フォローアップ支援から見えた 発達障害者のキャリア形成 はじめに 話題提供の趣旨 話題提供の趣旨 • 平成28年4月より、障害者差別解消法が施行され、現在、大学におけ る障害学生支援も早急に整備が進んでいる。しかし、発達障害学生 の就職支援についてはようやく始まったばかりで、その現状や就職後 の実態については明らかになっておらず、まだ彼/彼女らの声が届い ているとは言えない。 • 富山大学では2007年度より支援室を設置し、発達障害のある学生支 援を本格的に開始した。その後、修学支援や就職支援を進めていく 中で、“大学を卒業した発達障害者は、どのように安定的な雇用に至 るのかを知りたい”と思い、卒後フォローアップ支援についても実施す ることになった。 • 発達障害学生(者)の就職活動支援を行っていく中で、「発達障害学 生に対するキャリア教育」の重要性を再確認した。この分科会では、 キャリア形成や教育に必要な支援について考えていきたい。 1.発達障害学生の キャリア教育の考え方 キャリア教育とは 発達障害学生に対する社会参入支援 段階的な社会参入支援の考え方 発達障害学生に対して必要なキャリア教育とは キャリア教育とは キャリア教育の定義 一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育て ることを通して、キャリア発達を促す教育 (中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」(平成23年1月31日) キャリアとは 「人が,生涯の中で様々な役割を果たす過程で,自らの役割の価値や自分と役 割の関係を見いだしていく連なりや積み重ね」 (中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」(平成23年1月31日) キャリア教育 職業を含みながら、生涯にわたる社会的活動や個人の人間形成の変化のプ ロセスが重視される。そのようなキャリアのための教育、キャリアに関する教育 (社団法人国立大学協会 教育・学生委員会 平成17年12月1日) が「キャリア教育」である 発達障害学生に対する社会参入支援 学生が新しい環境(社会)へ参入するプロセスを一貫して支援すること Ⅰ期 Ⅱ期 Ⅲ期 Ⅳ期 (高校3年~大学1年前期) (大学1年後期~3年) (大学3年後期~4年) (卒業後) 事前相談 大学生活 ゼミ・卒論 就職活動 大学適応 学業 就職活動 職場適応 修学支援 就職支援 職場定着 支援 段階的な社会参入支援の考え方 修学支援を通して、自己理解や他者理解、環境調整を積み重ね、引き継いでいく。 修学支援 ・パーソナルサポート (個別面談) ・集団活動 ・合理的配慮の探求 就職支援 職場定着支援 ・自己PR ・エントリーシート作成 ・強みを生かした 自己理解 職種選択 自己理解 他者理解 他者理解 環境調整 環境調整 ・職場開拓 (ハローワーク とのコラボ) ・フォローアップ面談 ・ハローワーク 企業との連携 ・QOLの向上 ・リフレッシュ ・心身の健康への意識 発達障害学生に対するキャリア教育とは 社会参入に必要な基礎的要素の育成 修学支援で「肯定的な自己イメージ」と「他者(社会)とのつながり感」を 育て就職活動の土台となる ①心身の安定性 ②適切な自己理解と自 己肯定感 ③就労意欲の保持 を養う。 経験と振り返りによる自己理解 経験の積みあげと対話による振り返りが自己理解を促進する。 自分に合う対処法を身につける→経験知として生きる力になっていく。 社会資源との連携基盤を整える 雇用形態など就職の方向性について、家族も含めて充分に話し合い、 就労支援機関へのスムーズな移行ができるようにしておく。 大学で身につけた対処法が、社会へと引き継がれるよう、自己理解のた めの対話を丁寧に行っていく。 2.発達障害学生の就職活動 近年の障害者雇用の社会的な動き 就職活動を始める際に選択できる入口 発達障害学生の就職活動の難しさ 障害者雇用枠の就職活動の難しさ 発達障害学生への就職支援のポイント 近年の障害者雇用の社会的な動き 障害者の法定雇用率の引き上げ(平成25年4月1日) 民間企業 1.8%→2.0% へ 障害者雇用は着実に進展 (平成26年6月1日) 実雇用率 1.82% 法定雇用率達成企業割合 44.7% 働く障害者が過去最高に(平成26年6月1日) 43万1000人 改正障害者雇用促進法の施行(平成28年4月1日) 精神障害者が雇用義務化に(平成30年) 就職活動を始める際に選択できる入口 1.一般雇用 ①リクナビ等の求職サイト ②学内キャリアサポートセンター ③地域のハローワーク 2.障害者雇用 ①地域のハローワーク (障害者窓口) ②就労移行支援事業所 ※職場実習等 ③障害者専用の求職サイト 発達障害学生の就職活動の難しさ 「障害特性によるもの」、「社会状況や企業から求められる能力」などの視点から ① ② ③ ④ 修学と就職の両立が難しい。 仕事や職種の具体的なイメージが持てず、関心が偏る。 適切な表現で、自己PRと志望動機をまとめることが難しい。 社会的コミュニケーションの苦手さが面接で大きな壁となる。 ⑤ 求められる社会人像(能力)と自己像とのギャップに自信を失い がちになる。 ⑥ 大卒の場合、障害者雇用でも、コミュニケーション力や意欲は 一般雇用と同等に期待されることが多い。 ⑦ 企業に発達障害者の雇用経験が少なく、誤解や過度な不安か ら、採用に至ることが難しい⇒就職できたとしても安定的な継続 雇用につながることが難しい場合がある ⑧ 現状ではまだ一般雇用と比べて障害者雇用が特段有効な手段 とは言えない。 障害者雇用枠の就職活動の難しさ 「一般雇用枠」から「障害者雇用枠」に雇用形態を変更しても残る課題 「一般雇用から障害者雇用枠に移行すればうまくいく」とい うイメージを持ちがちだが、障害者雇用枠の就職活動は、 流れが明示化されていないため時間と労力を要する。 高機能の発達障害者に対する就職支援の事例が未だ少 なく、指導方法や訓練内容などが、本人の特性に合ったも のになっていない場合がある。 それぞれの専門機関で多くの情報を得ることはできるが、 現実的な手続きにつなげていくためのサポートがないため 途方に暮れることが多い。 発達障害学生への就職支援のポイント 1. 卒論と就活のスケジュール管理 2. 就職活動全体の流れをナビゲート 3. 直面した問題を自己理解につなげる定期面談 4. 強みを生かせる職種の選択 5. 就労支援機関と大学の強みを生かしたコラボ ※就職支援は本人の実行をサポートすることが中心 そのうえで、対話による振り返りをしっかり行うことが大事 3.フォローアップ支援から見えた 発達障害者のキャリア形成 フォローアップ支援の概要 事例(一般雇用、障害者雇用) 心的変化とキャリア形成の芽生え 社会的自立に関わる支援のポイント 就労支援機関や企業との連携のポイント 今後の課題 フォローアップ支援の概要 現在のフォローアップ支援状況:13名 (1)フォローアップ面談のタイミング 基本的には月に1回程度、(勤務後等)に面談を実施 (2)面談の聞き取り項目(※就業者の場合) 業務内容 職場環境,職場の体制等 職場の人とのかかわり(主に上司とのやりとり) 嬉しかったこと,やりがい,困りごと,不安なこと 余暇の過ごし方(体調管理も含めて) (3)フォローアップ面談の目的 職場定着 実体験を通した社会的コミュニケーションへの意識 QOLの向上 ※障害者雇用の場合、フォローアップ面談の様子をバロメターにハローワーク等の就労支援機関と 一緒に「企業へのアプローチ」のタイミングを探ることができる。 事 例 A:就職後、困り感が増大した事例 1一般雇用 (未診断:本人及び保護者に特性の認識有り) ハローワーク 2 障害者 雇用 企業との連携 B:就職前後に連携した事例 (ASD) 心的変化とキャリア形成の芽生え 仕事への向き合い方の変化 「辞めたい」という気持ちから「続けていきたい」へ 社会人としての豊かな生活 余暇の過ごし方・休日のリフレッシュ法・お金の使い方 キャリアの再考 仕事に慣れ、今一度、職業について考える時期へ 自分に合った雇用形態への意識 一般雇用と障害者雇用等、自分の働き方について考える 今後の人生設計や自立に向けて 社会的自立についてイメージし始める 支援者との対話の中で、今の自分を振り返り、働くことや 自立を見つめ直し、「自分にとってキャリアとは何か」に向 き合いはじめる。 社会的自立に関わる支援のポイント 1 2 障害者雇用 発達障害のある大学生が卒業し、就職活動を続ける場合、卒後も安心し て継続的に相談できる「場」が必要である。 障害者雇用、一般雇用にかかわらず働き続けるためのフォローアップ支 援は働きやすい環境を保障するために不可欠である。 3 小さな不安や困りごとを相談し、解決に向けて話し合うだけで、安心でき るとともに、頑張りを確認し合い認めてもらえる場所があることが安定した 就職を維持することにつながる。 4 一般雇用 一般雇用の場合、卒後の支援者を見つけにくく、企業の困り感へのアプ ローチ、本人の困り感に対するアプローチが難しい。一定期間、大学支援 者がフォローアップすることで、初期の問題は比較的早期に解決すること ができる。 就労支援機関や企業との連携のポイント ① 大学卒業時に大学支援者と地域就労支援機関が協働し支援を 展開することで、学生の戸惑いや混乱を最小限にすることができ る。複数の当事者(本人・事業所・支援者)による「建設的対話の 場」が、スムーズな移行につながることが実証された。 ② 大学で把握した「本人の強み」や「支援スタイル(対話のコツや本 人に合った伝え方」を、就労支援機関担当者と共有し、採用担当 者に「できること」と「配慮のポイント」を伝えてもらうことで、「社会 的コミュニケーションの苦手さへの過剰な不安」を軽減することが できた。 ③ 大学で把握した配慮のポイントを企業の担当者に伝えていくこと は、発達障害の理解を促進するとともに、企業側の不安の軽減 にもつながり、職場環境の改善に効果があった。 今後の課題 就労後の職場における発達障害の特性理解 障害特性を克服することができると期待されがち 企業が求める成長のポイントと、本人の成長とのギャップ 「どこまで求めていいのか・・・?」という戸惑い 引き継ぎの機会 障害特性と支援のコツを伝えるための情報共有の場 大卒の発達障害者のフォローアップの担い手 大卒発達障害者の職業生活をフォローアップする社会基盤 気軽に相談できる場と人
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