深穴の押出し加工(張力負荷押出し加工) の技術動向と進展

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深穴の押出し加工(張力負荷押出し加工)
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の技術動向と進展
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村井映介
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解説
②
㈱ニチダイ
冷間鍛造は自動車部品の加工に幅広く利用され
*
5 以下のものである。
ている。シャフト系の部品も冷間鍛造で成形され
冷間鍛造で深穴を成形する場合、多くは前方あ
ているが、長尺の中空部品の場合には中心部の深
るいは後方押出しにより成形されているが、成形
穴をガンドリルなどによる切削で加工しているの
荷重の増大によるパンチの座屈により、細長比が
が現状である。冷間鍛造で深穴が成形できれば生
5 以上のものはほとんど実施されていない。パン
産性、歩留りなどで有利であるが、成形荷重の増
チの座屈を防止するために取られている対策とし
大によるパンチの座屈等の問題でほとんど行われ
ては下記のようなものがあげられる。
ていない。近年はグローバル化にともなう海外展
①金型のクリアランスをつめる
開などにより設備のコンパクト化が求められてい
②穴入れ前にへそを入れるなどパンチのセンタ
リングを行う(図 2
(1)
)
る。当社では、切削設備の省略で全体設備のコン
パクト化が可能な冷間鍛造による中空化成形は必
③スリーブなどによりパンチをガイドする(図
2(2)
)
要な技術になると考え、開発に取組んでいる。
本稿では、中空成形についての当社の現状と課
題を示し、現在行っている開発に関して紹介する。
④多段ベア設ける(図 2(2)
)
これらの対策を講じても成形でできる穴の深さに
限界がある。
当社の現状と中空成形の技術課題
図 3 は当社で行った後方押出しの最大 L/D の
図 1 は当社に受注のあった中空関係部品につ
試験結果(材質:SCM 415)である。穴の細長比
いて、穴の細長比(長さ L/直径 D)と工程数の
は 17、断面減少率は 50% である。最終段階でパ
関係をまとめたものである。1 工程および 2 工程
ンチに座屈が発生し、穴が振れている。図 4 は
での最大の細長比は約 5 であり、3 工程の場合に
オイラーの式で計算した座屈荷重と図 3 に示した
は最大で 7 まで実施した例があるが、ほとんどが
鍛造品を成形した際の荷重を比較したものである。
細長比約 9.
7 で座屈荷重に達している。オイラー
*
(むらい えいすけ):技術部 開発課 主任
〒610−0201 京都府綴喜郡宇治田原町禅定寺塩谷 14
TEL : 0774−88−6318 FAX : 0774−88−6320
の計算結果からわかるが、穴の細長比が高くなる
につれ、座屈荷重は低くなっている。このことか
ら深穴成形のためには成形荷重の低減が
必要である。
8.0
φD
7.0
補助張力押出し
細長比 L/D
6.0
5.0
荷重を低減される方法として、篠崎・
L
4.0
3.0
2.0
ンチ圧力を低減させる方法を提案してい
1.0
る1)。この方法は素材にフランジを設け
0.0
0
1
2
工程数
3
4
図 1 穴の細長比と工程数の関係
(当社受注の中空関係アイテム)
2
工藤は押出された部分に張力を加えてパ
て、素材を宙釣り状態として、押出し部
に張力を発生させるものである(図 5)
。
しかし、宙釣りのままでは張力が引張り
プ レ ス 技 術
■ 特集 ■「温故知新」技術で広げる冷間鍛造
強さを超えてしまうため、背圧を負荷
ガイド
させる必要がある。
穴入れ前のへそ入れ
パンチ
当社は背圧を負荷させながら補助張
力押出しの試験を行った。図 6 は SCM
415 を使用し、断面減少率 50% で行
多段ベア
った試験結果である。
(a)は背圧 499
MPa の結果であり、穴底から完全に
破断してい る。
(b)は 624 MPa で 行
った結果であり、破断には至っていな
いが、内面に割れの発生が認められた。
(c)は 749 MPa で行った結果である
(1)穴入れ前のへそ入れ
が、内面に割れの発生はなかった。
(2)スリーブによるパンチガイドと多段ベア
内面に割れの発生しなかった背圧
図 2 パンチ座屈防止の対策
749 MPa では側壁に発生する張力は
φ7.1(=D)
引張強さ以下となったが、内面に割れが発生した
背圧 624 MPa では引張強さを超えた。この結果
から内面の割れを防止するには側壁の張力が引張
強さ以下になるように背圧を設定する必要がある
ことが明らかになった。しかし、背圧が高すぎる
つながってしまうため、設定は非常に重要である。
図 7 は後方押出しと補助張力押出しで成形荷
重を比較したものである。図の後方押出しは図 3、
127(=L)
とパンチ面圧の増加につながり、パンチの座屈に
補助張力押出しは図 6(c)
の成形荷重ある。これ
ら成形荷重とオイラーの式で計算した座屈荷重と
パンチ座屈発生
比較すると、後方押出しでは穴の細長比約 9.
7、
補助張力押出しでは約 11 で座屈荷重に達してい
(L/D=17)
る。図 8 は同軸度を比較したものであるが、両
者ともに成形荷重が座屈荷重に達したあたりで同
φ10.1
0
穴の細長比
8
4
図 3 後方押出し
12
16
4,000
後方押出し
(従来工法)
パンチ面圧 /MPa
3,500
パンチ
3,000
中空成形品
2,500
2,000
素材を引っ掛ける
側壁が引張られる
(補助張力)
ダイ
1,500
1,000
0
荷重低減で座屈防止
座屈荷重(オイラー式)
(一端固定、一端回転端)
500
ノックアウト
(背圧負荷)
0
20
40
60
80
100
120
穴深さ /mm
図 4 成形荷重
第 52 巻 第 7 号
(2014 年 7 月号)
図 5 補助張力押出し
3
φ7.1(=D)
0
穴の細長比
8
4
12
16
4,000
後方押出し
(従来工法)
パンチ面圧 /MPa
110(=L)
3,500
3,000
2,500
2,000
補助張力押出し
1,500
1,000
座屈荷重(オイラー式)
(一端固定、一端回転端)
500
φ10.1
(背圧:499MPa)
(a)破断
(背圧:624MPa)
(背圧:749MPa)
(b)内面割れ
(c)破断なし
0
0
20
40
60
80
穴深さ /mm
100
120
図 7 成形荷重
図 6 補助張力押出し
0
穴の細長比
8
4
12
16
0.35
0.3
同軸度 /mm
0.25
後方押出し(従来工法)
0.2
0.15
補助張力押出し
0.1
0.05
0
0
20
40
60
80
穴深さ /mm
100
120
素材
穴入れと抜きを 1 工程で実施
穴入れと抜き後にスプライン成形
図 8 同軸度
図 9 実用部品に適用した事例
軸度が急激に悪化している。急激に悪化する以前
高いため、潤滑切れを起こしやすく、焼付きなど
は穴深さに関係なく同軸度は安定した値を示して
が発生しやすい状態となる。この他にも量産化に
おり、後方押出しで 0.
04、補助張力押出しでは
向けてはいくつかの課題があり、これらの課題は
0.
01∼0.
02 となり穴の精度が向上している。
解決しなければならない。
これらの結果から断面減少率 50% の補助張力
☆
☆
押出しでは穴の細長比約 11 までは穴深さに関係
中空成形についての当社の現状と課題を示し、
なく穴の精度は安定すると考えられることから、
補助張力押出しを用いた深穴成形についての開発
細長比 8 の実用アイテムの成形を試みた。図 9
を紹介した。現状においてもいくつかの課題があ
はその事例であり円柱素材からフランジを成形し
り、今後もこれらの課題を解決するために開発を
た後、深穴成形と抜きを 1 工程で行い、最終工程
進めていく予定である。昨今、グローバル化にと
でスプラインを成形している。
もなう海外展開による設備等のコンパクト化が求
められることから、これらの開発は非常に重要で
課題
補助張力押出しで深穴成形時の荷重を低減でき
ることが明らかになり、穴の精度向上につながっ
た。しかしながら、深穴成形では表面積拡大率が
4
あると考えている。
参考文献
1)篠崎・工藤:塑性と加工,14−151(1973)
,629−636.
プ レ ス 技 術