応用物理学特別演習 平成28年12月13日 ナノバイオ工学研究室 M1 藤山 森 Diffusive Shielding Stabilizes Bulk Nanobubble Clusters Joost H. Weijs, James R.T. Seddon, and Detlef Lohse ナノバブルとは、大きさがサブミクロンオーダーの気泡のことで、肉眼では確認するこ とができない。しかしその大きさゆえ浮力が小さく、長期間水中に存在しうると考えられ ているため、植物の育成促進効果や殺菌作用などが報告されている。一方小さい気泡の内 圧は、ラプラスの法則から高圧状態であることが予想され、そのため周囲の水中に気体分 子を溶解しつつ急速に消滅すると考える研究者もおり、ナノバブルの安定性とその効果に ついては現在でも議論が続いている。ナノバブルは光学顕微鏡の分解能よりも小さいため、 直接ナノバブルの存在を確認する直接的な観測法が確立していないこともその要因の1つ である。 本論文では、分子動力学(MD)シミュレーションを用いて、液体中に存在する微気泡集合 体(Nanobubble cluster)の安定性に及ぼす要因について検討している。今回は周期的に 気泡が並び気体分子が系の外に出ていかない閉じた空間の下で考えている。(Figure(a))一 辺l=15 または 30 nm、厚さ 3.64 nm の正方グリッド中にレナードジョーンズ液体で模擬し た液体分子・気体分子を個数を設定して配置し、そこから気泡の径の時間変化を計算結果 として求めている。(Figure(b))粒径が時間変化したときに一定の値になることを安定であ るとし、それがどのような条件設定を行ったときに生じるかを結果から考察している。一 定となる気泡径(平衡気泡半径)の気体濃度依存性を解析した結果、安定している 1 つの 要因は、Nanobubble cluster が安定化するメカニズムは気泡から液中に溶解する分子の拡 散を抑制する効果(Diffusive shielding effect)であると結論付けた。 (a) (b) Figure(a):計算で用いられる正方グリッド上のナノバブル Figure(b):各条件におけるナノバブルの径の時間依存性の計算結果 応用物理学特別演習 平成 28 年 12 月 ソフトマター工学研究室 13 日 原田 祐子 Turning Bacteria Suspensions into Superfluids Héctor Matías López,1 Jérémie Gachelin,2 Carine Douarche,3 Harold Auradou,1∗ and Eric Clément 2 1 Université Paris-Sud, CNRS, F-91405, Lab FAST, Bâtiment 502, Campus Univ, Orsay F-91405, France 2 Physique et Mécanique des Milieux Hétérogenes (UMR 7636 ESPCI/CNRS/Université P.M. Curie/Université Paris-Diderot), 10 rue Vauquelin, 75005 Paris, France 3 Laboratoire de Physique des Solides, Université Paris-Sud, CNRS UMR 8502, F-91405 Orsay, France Physical Review Letters 115,028301 (2015) “active suspension”と呼ばれる懸濁液の研究は近年多くの注目を集めている。本来、細胞 などのマイクロ組織の多くは懸濁液内を自律的に動く。これらの運動はマイクロ組織に付随 している鞭毛によって生み出される推進力に由来している。特に枯草菌または大腸菌のよう な細菌では、細胞の後ろ側に付いているらせん状の鞭毛の回転により推進力を生み出してい る。つまり、このような細菌が含まれている懸濁液の特徴には細菌の泳動が関わっている。 懸濁液中に流れがある場合では、これらの細菌は集団運動すると考えられているが、特にせ ん断下では、空間的に組織化することにより懸濁液の粘度は無せん断下の粘度より小さくな ると考えられている。さらに、低い濃度かつ低いせん断速度の領域では、懸濁液の濃度の増 加に対して線形に粘度が減少するということと、粘性率のプラトーの存在が予想されている。 しかし、粘度のせん断速度依存性や安定かつ均一なせん断下での粘度の時間依存性のデータ は存在していない。また、低せん断速度で見られ るはずのプラトーのデータも同様に存在してい ない。よって本研究では低せん断速度用のレオメ ーターを用いてこれらを測定した。 実験の結果、粘度のせん断速度依存性と、粘度 の時間依存性のデータを得ることができた。ま た、低せん断速度印加時では存在が予想されてい たプラトーをはっきりと確認することができた。 さらに、細菌が入った懸濁液に酸素を加えた試料 では、細菌の濃度がある値を超えると粘度がほと んど 0 になり、超流動転移と類似の現象が見られ た。(Fig.1) Fig. 1 試料条件を変えた際の粘度の濃度依存性. 酸素を入れた試料ではある濃度以上で粘度がほ とんど 0 になっている. 応用物理学特別演習 平成 28 年 12 月 13 日 数理物理工学研究室 藤木 結香 Self-similarity of complex networks Chaoming Song1, Shlomo Havlin2 & Hernán A. Makse1 1 Levich Institute and Physics Department, City College of New York, New York, New York 10031, USA 2 Minerva Center and Department of Physics, Bar-Ilan University, Ramat Gan 52900, Israel Nature 433, 392-395 (2005) 研究者間の共同研究や、ウェブサイト間のハイパーリンクのように、現実世界の多く の場面で要素と要素は互いに相互作用しあい、複雑な系を構成する。この要素をノード、 相互作用をエッジとして抽象化した複雑系を複雑ネットワークと言う。複雑ネットワー クに共通して見られる性質を抽出し、それが発現する機構を数値的・解析的に調べるこ とで、我々は現実の系で起こる様々な物理現象を理解することができる。 多くの複雑ネットワークにはスケールフリー性とスモールワールド性という性質が 共通して見られることはよく知られている。著者らはさらにこれらに加えて、複雑ネッ トワークの中には自己相似性を有するものがあるのではないかと考えた。自己相似性と は自然界の複雑構造物の多くに見られる性質で、スケール変換に対して構造の統計的性 質が変化しないことを意味する。複雑ネットワークにはユークリッド距離が存在しない ため、著者らはスケール変換をネットワークの粗視化として解釈し、複雑ネットワーク における自己相似性を定義した。さらに、 現実の複雑ネットワークと、いくつかの理 論モデルを対象に自己相似性の有無を調 べ、これによりネットワークを分類するこ とに成功した。 この論文は複雑ネットワークの自己相 似性を最初に研究した論文であるため、自 己相似性のより深い後の研究の基礎とな っている。発表の最後に、それらの研究を 紹介し、発表者の研究内容との関連につい ても述べる。 図 1. 複雑ネットワークの自己相似性 と粗視化。
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