金融緩和効果、企業の 6 割超が「実感なし」

2016/12/5
大宮支店
住所:さいたま市大宮区桜木町 1-11-9
ニッセイ大宮桜木町ビル 7 階
TEL:048-643-2080(代表)
URL:http://www.tdb.co.jp/
特別企画 : 金融緩和政策に対する埼玉県企業の意識調査
金融緩和効果、企業の 6 割超が「実感なし」
~5 年後の予想物価上昇率は平均 1.16%~
はじめに
日本銀行は 2013 年 4 月に始めた金融緩和政策を継続しているが、9 月 21 日には新たな政策枠組
みとして「長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策」を導入した。また、政府は事業規模 28 兆
円の経済対策を 8 月に閣議決定し、10 月 11 日には 2016 年度第 2 次補正予算が成立するなど、景
気が低調に推移するなかで、景気対策の両輪となる金融・財政政策の投入・転換が行われている。
帝国データバンク大宮支店は、金融緩和政策の効果や政府の経済対策に対する企業の見解につ
いて調査を実施した。なお、本調査は、TDB 景気動向調査 2016 年 10 月調査とともに行った。
※調査期間は 2016 年 10 月 18 日~10 月 31 日、調査対象は県内企業 988 社で、有効回答企業数は
388 社(回答率 39.3%)
。
調査結果(要旨)
1. 金融緩和政策の効果について、
「実感はない」企業が 62.9%で大勢を占めた。また「実感があ
る」はわずか 9.8%にとどまり、業界別では『不動産』
(22.2%)のみ 2 割を超えた。多くの
企業で金融緩和政策について、その効果を肌感覚で認識するには至っていない。
2. 1 年前と比較した自社の主力商品・サービスの販売価格は、
「変わらない」が 53.4%で半数を
占めた。また、
「上昇」した企業は 19.1%となり、
「低下」
(24.5%)を 5.4 ポイント下回った。
平均すると販売価格は 0.38%低下。業界別では、
『小売』が 2.57%上昇した一方、
『製造』は
1.05%低下した。
3. 政府の経済対策に対して「期待している」が 21.9%。
「期待していない」
(33.8%)や「どち
らともいえない」
(30.2%)も 3 割前後となっており、経済対策への見方は分散した。期待す
る経済対策では「中小企業・小規模事業者の経営力強化・生産性向上支援」が 37.1%でトッ
プ、以下「人手不足対策」
「個人の所得増加策」
「子育て・介護の環境整備」が 3 割台で続いた。
4. 今後の物価、来年度(2017 年度)は平均+0.42%、5 年後(2021 年度)は同 1.16%と予想。
5 年後の物価は来年度より高まるとみているものの、日銀のインフレ目標 2%には依然として
届かないと見込んでいる様子がうかがえる。
©TEIKOKU DATABANK,LTD
1
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特別企画:金融緩和政策に対する埼玉県企業の意識調査
1. 金融緩和政策の効果、企業の 6 割超が「実感はない」
金融緩和政策の効果実感
日本銀行は 2013 年 4 月以降、金融緩和政策を随時
見直しつつ現在まで継続しているが、自社の企業活
動において、金融緩和政策の効果について実感があ
実感がある
9 .8 %
るか尋ねたところ、
「実感はない」と回答した企業が
62.9%と 6 割超にのぼった。他方、
「実感がある」は
分からない
2 7.3 %
9.8%にとどまり、多くの企業で金融緩和政策につい
て、その効果を肌感覚で認識するには至っていない
ことが明らかとなった。
実感はない
6 2.9 %
金融緩和政策の効果について「実感がある」とし
た企業を業界別に見ると、
『不動産』が 22.2%と最も
高く、次いで『運輸・倉庫』が 17.9%、
『小売』14.3%、
『製造』11.0%と続いている。
「実感がある」とする
注:母数は有効回答企業388社
企業からは「金融機関からの提案内容を確認するた
びに、低金利を実感する」(中小企業・製造)、「銀行の飛び込み営業が増え、新規取引なのにプロ
パー融資の提案までする」(中小企業・サービス)など金利低下と金融機関の積極的な動きに関す
る声が挙がった。一方、
「実感はない」とする企業からは「消費が上向かない中で、いくら金融緩
和政策を行っても景気への効果は上がらない」
(小規模企業・建設)や「先行きの不透明感から、
設備投資の意欲がわかない」(大企業・製造)、「低金利政策の効果で消費や設備投資が増加してい
る実感はない」
(中小企業・製造)といった声があった。
規模別にみると、
「実感がある」とした企業は「大企業」が 10.5%、
「中小企業」が 9.7%、う
ち「小規模企業」が 10.3%となり、
「大企業」が「小規模企業」を 0.2 ポイント上回った。
金融緩和政策の効果「実感がある」企業の割合~規模・業界別~
(%)
25
22.2
20
15
10
17.9
14.3
10.5
9.7
11.0
10.3
9.6
9.5
5
0.0
金融
建設
サービ ス
卸売
製造
小売
運輸 ・倉庫
不動産
小規模企業
中小企業
大企業
0
2.9
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2
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2. 自社の主力商品・サービスの販売価格、1 年前と比較して平均 0.38%下落
自社の主力商品・サービスの販売価格が 1 年
前と比べてどの程度変化したか尋ねたところ、
主力商品・サービスの販売価格の変化
~1 年前との比較~
「上昇」した企業は 19.1%となり、「低下」
平均 -0.38 %
分からない
3.1%
(24.5%)を 5.4 ポイント下回った1。他方、
「変
わらない」は 53.4%で過半数を占めた。また、
平均変化率は▲0.38%となり、企業の主力商
上昇
19.1%
低下
24.5%
品・サービスの販売価格は、1 年前と比べてやや
低下したという結果となった2。
販売価格の平均変化率を業界別にみると、全
国では▲0.92%であった『小売』が意外にも平
変わらない
53.4%
均+2.57%で最も上昇したほか、『不動産』『サ
ービス』
『運輸・倉庫』の 4 業界が上昇した。他
方、
『製造』は▲1.05%で販売価格の低下率が最
も大きかったほか、
『金融』
『建設』
『卸売』の 4
業界で低下した。
注1:「上昇(低下)」は、「20%以上上昇(低下)」「10%以上20%未満上
昇(低下)」「5%以上10%未満上昇(低下)」「1%以上5%未満上
昇(低下)」の合計
注2:母数は有効回答企業388社
企業からは、
「仕事量、仕入価格、売価などに反映できていない」
(小規模企業・製造)という声
が聞かれ、販売価格の上昇が一部業界でみられた一方、取引先からの値下げ要請も多く、主力商
品・サービスにおいて厳しい価格設定を余儀なくされている実態が浮き彫りとなった。
主力商品・サービスの販売価格の変化-平均変化率-(規模・業界別)
(%)
2.57
1.71
0.83
0.25
0.69
-0.24
-0.49
建設
卸売
運輸 ・倉庫
サービ ス
不動産
小売
小規模企業
中小企業
-1.00
-1.05
製造
-0.66
金融
-1.07
大企業
2.8
2.4
2.0
1.6
1.2
0.8
0.4
0.0
-0.4
-0.8
-1.2
-1.6
1
「上昇(低下)
」は「20%以上上昇(低下)
」
「10%以上 20%未満上昇(低下)
」
「5%以上 10%未満上
昇(低下)
」
「1%以上 5%未満上昇(低下)
」の合計。
2
平均変化率は、原則として各選択肢に中間値を与え、
「20%以上上昇(低下)
」は 20%(-20%)と
して算出した。
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3
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特別企画:金融緩和政策に対する埼玉県企業の意識調査
3. 経済対策への期待度分かれる、具体的内容では「中小企業・小規模事業者の経営力強
化・生産性向上支援」がトップ
政府は 8 月に事業規模 28 兆円にのぼる経済対策を閣議決
経済対策への期待
定し、10 月 11 日に 2016 年度分の補正予算が成立した。そこ
で、政府の経済対策に期待しているかどうか尋ねたところ、
分からな
い
14.2%
「期待している」と回答した企業は 21.9%となった。しかし、
期待して
いる
21.9%
「期待していない」(33.8%)や「どちらともいえない」
(30.2%)もそれぞれ 3 割を超えており、経済対策への見方
は分かれる結果となった。
どちらとも
いえな い
30.2%
期待する経済対策では、「中小企業・小規模事業者の経営
期待して
いない
33.8%
力強化・生産性向上支援」が 37.1%で最多となった(複数回
答、以下同)。次いで、「人手不足対策」34.0%、「個人の所
得増加策」33.2%、「子育て・介護の環境整備」32.0%が続
き、いずれも 3 割超となった。さらに、
「中小企業・小規模
注:母数は有効回答企業388社
事業者向けの資金繰り支援」
「社会インフラの整備」が 2 割を超えており、家計所得の増加や中小
企業支援だけでなく、子育て・介護支援や人手不足対策など、企業活動を行ううえでより幅広い
環境整備を経済対策に期待している様子がうかがえる。
ただし、「人手不足対策」
「個人の所得増加策」や「社会インフラの整備」では「大企業」ほど
期待が高くなっている一方、
「小規模企業」では「中小企業・小規模事業者向けの資金繰り支援」
が全体を 5 ポイント以上上回るなど、企業規模に応じたきめ細かい政策の実現が求められよう。
企業からは、
「年金や保険制度の財政確保等、国民が未来への希望を持てる政策を明確に提示し
て、これ以上の人口減少に歯止めを掛けてほしい」(中小企業・卸売)といった将来不安の解消が
最も重要とする意見や、
「中小企業
期待する経済対策(複数回答、上位 10 項目)
の所得アップと労働時間削減を同
(%)
全体
時に対策をしてほしい」
(大企業・
建設)
「地方や中小企業に対策の成
大企業 中小企業
うち小規模
1 中小企業・小規模事業者の経営力強化・生産性向上支援
37.1
22.8
39.6
36.8
2 人手不足対策
果が出るような施策にしてほしい。
34.0
42.1
32.6
35.3
3 個人の所得増加策
33.2
42.1
31.7
31.6
シャッター通りや廃業ばかりでは、
4 子育て・介護の環境整備
32.0
21.1
33.8
30.9
日本の文化や日本の良さが守れな
5 中小企業・小規模事業者向けの資金繰り支援
26.5
10.5
29.3
31.6
社会インフラの整備
6
(道路、港湾など)
25.0
35.1
23.3
22.8
7 地方創生の推進
19.8
17.5
20.2
19.9
8 下請けいじめ対策
18.0
14.0
18.7
20.6
災害対応の強化・老朽化支援
9
(防災・減災対策支援、情報提供など)
17.3
17.5
17.2
14.0
10 若者への支援拡充
16.2
7.0
17.8
19.1
い」
(中小企業・卸売)など中小企
業・小規模事業者への配慮こそが
日本経済の発展に寄与するといっ
た声も多く挙がった。
注1:母数は有効回答企業388社
注2:「大企業」「中小企業」「小規模企業」の網掛けは、全体より5ポイント以上高い(低い)ことを示す
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4. 物価予想、5 年後に平均 1.16%の上昇を見込むが、日銀の目標 2%には届かず
今後、物価上昇率(インフレ率)がどの程度になると思うか尋ねたところ、来年度(2017 年度)
は「上昇」すると予想している企業が 37.4%、
「0%程度」が 31.2%となり、
「下落」を予想する
企業は 11.1%にとどまった。企業は、来年度に平均 0.42%上昇すると見込んでいる。
また、5 年後の物価動向予想では、
「上昇」が 50.0%と半数を占め、
「0%程度」
(13.1%)
、
「下
落」
(8.2%)を大きく上回った。企業は、5 年後には同 1.16%上昇すると予想しており、来年度
よりは高まるとみているものの、日本銀行が目標として掲げる 2%には依然として届かないと見込
んでいる様子がうかがえる。
業界別にみると、来年度の物価予想は『不動産』が平均+0.75%と最も高く、次いで『建設』
『小
売』
『サービス』が続いた。最も低い『製造』は同+0.28%となっており、最も高い『不動産』を
0.47 ポイント下回るイン
来年度および 5 年後の物価動向予想
フレ予想となっている。5
年後は『運輸・倉庫』が同
+1.70%で最も高く、次に
物価上昇予想
0%程度
物価下落予想
分からない
平均
『小売』同+1.67%、『建
設』同+1.40%と続いてお
り、『金融』が同+0.33%
来年度
(2017年度)
37.4%
31.2%
11.1%
20.4%
0.42%
で物価の上昇を最も控え
めに見込んでいる。
企業からは、「物価上昇
率が 2%の目標からどんど
ん落ち込んでおり、日銀の
5年後
(2021年度)
から安定維持路線への転
換が必要かもしれない。世
界がグローバル化した状
況では成長にも限りがあ
来年度(2017年度)
1.67
1.16
1.29
0.75
1.40
1.16%
5年後(2021年度)
1.70
1.36
0.99
0.92
0.73
0.42
0.57
0.57
0.36
0.33 0.33 0.29
0.28
製造
運輸 ・倉庫
金融
卸売
サービ ス
小売
建設
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
不動産
いった声が聞かれた。
(%)
全体
る」
(大企業・サービス)と
28.6%
来年度および 5 年後の物価動向予想~業界別~
るのか、不安が出てきた」
「全般的に拡大成長路線
13.1% 8.2%
注1:「物価上昇(下落)予想」は、「+(-)5%以上(以下)」「+(-)4%程度」「+(-)3%程度」「+(-)2%
程度」「+(-)1%程度」の合計
注2:母数は有効回答企業388社
取り組みはどうなってい
(小規模企業・不動産)や
50.0%
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まとめ
金融政策に多くを頼るアベノミクス政策が転換を迫られている。日本銀行は 9 月 21 日に実施し
た「総括的検証」を踏まえて新しい金融政策の枠組み「長短金利操作付き量的・質的金融緩和政
策」を導入したほか、政府は臨時国会において 2016 年度第 2 次補正予算を成立させるなど、景気
対策の両輪となる金融・財政政策が打ち出されている。
しかしながら、本調査によると、2013 年 4 月から継続されている金融緩和政策について、企業
の 6 割超が自社の企業活動に対して、その効果を実感していないことが明らかとなった。また、
自社の主力商品・サービスの販売価格が 1 年前より平均 0.38%低下していたが、小売が大きく上
昇する一方、製造では 1%余り低下するなど、業界によって明暗を分ける状況となっている。
政府の経済対策には 5 社に 1 社が期待感を示すにとどまったものの、期待する経済対策として
中小企業の多い埼玉県企業では「中小企業・小規模事業者の経営力強化・生産性向上支援」がトッ
プとなっているほか、
「人手不足対策」への期待も大きい。
企業は日銀のインフレ目標 2%の達成は当面届かないと予想している。しかしながら、20 年に
わたり続いたデフレ経済からの脱却は、本格的な景気回復には欠かせない要件である。また、物
価上昇は、企業や個人の物価に対する期待が変化しなければ達成できないことも確かであろう。
そのため、政府・日銀は、企業や個人の将来不安を払しょくし、安心して事業を展開するために
も、企業の声に耳を傾けたきめ細かい政策を実施していくことが肝要となろう。
企業規模区分
中小企業基本法に準拠するとともに、全国売上高ランキングデータを加え、下記のとおり区分。
大企業
中小企業(小規模企業を含む)
小規模企業
製造業その他の業界
業界
「資本金3億円を超える」 かつ 「従業員数300人を超える」
「資本金3億円以下」 または 「従業員300人以下」
「従業員20人以下」
卸売業
「資本金1億円を超える」 かつ 「従業員数100人を超える」
「資本金1億円以下」 または 「従業員数100人以下」
「従業員5人以下」
小売業
「資本金5千万円を超える」 かつ 「従業員50人を超える」
「資本金5千万円以下」 または 「従業員50人以下」
「従業員5人以下」
サービス業
「資本金5千万円を超える」 かつ 「従業員100人を超える」
「資本金5千万円以下」 または 「従業員100人以下」
「従業員5人以下」
注1:中小企業基本法で小規模企業を除く中小企業に分類される企業のなかで、業種別の全国売上高ランキングが上位3%の企業を大企業として区分
注2:中小企業基本法で中小企業に分類されない企業のなかで、業種別の全国売上高ランキングが下位50%の企業を中小企業として区分
注3:上記の業種別の全国売上高ランキングは、TDB産業分類(1,359業種)によるランキング
【内容に関する問い合わせ先】
株式会社帝国データバンク 大宮支店 情報部
TEL 048-643-2146
FAX 048-645-7578
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