学習メモ

化学基礎
テレビ学習メモ
第 30 回
中和反応の利用
化学基礎監修・講師
岩藤 英司
今まで酸や塩基について,そして中和反応についても学んできました。私たちの普
段の暮らしを見回してみると,酸性を示すものや塩基性を示すものは身の回りにたく
さんあります。私たちの生活の中では,より快適な暮らしを目指して,酸や塩基,あ
るいは酸と塩基から生成される塩,また中和反応も利用しています。化学は,私たち
の暮らしに大きく貢献しているのです。今回は,どのように中和反応が利用されてい
るのか,幾つかの具体的な例を通して、それぞれ確認しながら学んでいきましょう。
身近な中和反応
近頃,消臭剤をご家庭で使用されることが多くなりました。消臭剤には,その用途によっていろ
いろな種類がありますが,その中には,中和反応を利用している例があります。消臭剤を用いて消
臭する方法には,①化学的方法 ②物理的方法 ③生物的方法 ④感覚的方法の4つがあります。
これらのうち,酸と塩基の中和反応を利用して消臭する方法は,①化学的方法の一つになります。
具体的な例として,トイレの臭いの原因であるアンモニアの消臭。アンモニアの水溶液は塩基性
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を示しますが,クエン酸で中和させることにより,臭いの原因であるアンモニアが中和されてクエ
ン酸三アンモニウムという臭わない物質に変化するため,アンモニアが消費され臭いを大幅に減少
させることができるのです。
一方,足の臭いなどの原因物質は酸性を示すので,塩基性を示す重曹の水溶液が臭いを抑えるの
に効果的です。
家庭内の中和反応
家庭の中には,いろいろなところに中和反応を利用している例があります。
胃液は塩酸が主成分で,pH が 1.5 ほどのとても強い酸です。胃の粘膜が弱っている時などには,
炭酸マグネシウムや炭酸水素ナトリウムなどの塩基性を示す塩が入った胃薬で中和して酸の働きを
抑える場合があります。
また,石けんを作る方法の一つに,
「中和法」があります。これは,ラウリン酸やステアリン酸
などいう酸と水酸化ナトリウムを中和させることにより石けんを作る方法です。酸と塩基の反応で
できた塩が石けんそのものになります。
自然環境の改善でも中和反応が利用されています。例えば,草津温泉のお湯は強い酸性で,その
まま川に放流すると環境に悪影響を与えます。そこで塩基性を示す石灰石を川に投入して中和反応
を起こし,強い酸性を緩和しています。
また,畑の土壌を改善するときにも,酸性を示す畑の土には,塩基性を示す石灰や消石灰などを
混ぜて中和させる場合があります。一方で最近では土壌のアルカリ化が進んでいる場合があります。
このときには酸を加えますが,生じた塩が植物を枯らしてしまったりすることがあり,ただ単に酸
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中和反応の利用
性を示す物質や塩基性を示す物質を加えてp H を調節すればよいという訳ではありません。研究
者は試行錯誤を続けて,植物にとってよりよい土壌の環境づくりをめざしています。
食品にも中和反応
身の回りの食品にも,酸性を示すものや塩基性を示すものがあります。
例えば,つけ麺やラーメンの麺を作るときには,かん水と呼ばれる塩基性を示す水溶液が使われ
ています。ラーメンのスープは酸性を示すので,ラーメンができたときには幾らか中和反応してい
ることが予想できます。
また,コンニャクは塩基性を示しますが,さしみコンニャクを食べるときには,酸性を示す酢味
噌などにつけて食べます。さらに,生卵の白身は塩基性を示し,黄身は酸性を示します。
それから,みかんの缶詰を作るときにも中和反応を利用しています。まず,酸性またはアルカリ
性を示す溶液に外皮をむいたミカンを浸して薄皮を溶かします。その後それを中和させてシロップ
とともに缶詰めにしています。
(番組では,沸騰した湯に重曹を加えてそこに外皮をむいたミカン
を浸して薄皮を溶かした後,クエン酸の水溶液に入れて中和させました。)
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■私たちの身の回りには,酸性や塩基性を示すさまざまなものがあり,それらを中和
反応させることによって,より快適な生活を送るための工夫がされている場合があ
ります。
■中和反応の利用には,消臭剤,胃薬,石けん,酸性の温泉水の中和,土壌改良など
さまざまな具体例を挙げることができます。
■食品の中にも,中和を利用しているものがあります。缶詰に入っているミカンはそ
の一例です。
■化学への関心を高め,さらに身の回りを見つめなおして中和反応の利用例を探して
みましょう。
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