男少女多の世界の日常でチートを使うのは駄目だろうか ID

男少女多の世界の日常
でチートを使うのは駄
目だろうか
青色の水蓮
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す。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を
超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。
︻あらすじ︼
不慮の事故で死んでしまった天海周桜︵あまみすおう︶は閻魔様に気に入られて新た
な世界に転生する事となった。
そこは男女の比率が1:500という夢の様な世界だったのだが・・・。
﹁あの、女の子達が俺の事飢えた獣みたいな目で見てくるんだけど・・・。﹂
目 次 公私混合は良くないですよね ││
﹄ ││││││││
﹃限度﹄って言葉知ってます
│
実際4月は大した行事が無い ││
閻魔様だって女の子なんです ││
処に居るの
再会した時に真っ先に思う事は﹃何で此
入学式は大体暇を持て余す │││
ですが ││││││││││││
大型モールに一人で行くと視線が痛いん
かしい ││││││││││││
美人の前で脱ぐことは超が付くほど恥ず
1
12
22
31
42
51
勉強会って結局喋るだけで終わる事の方
?
62
72
?
が多い気がする ││││││││
83
公私混合は良くないですよね
﹄
なんか頭の中に直接声が・・・。
﹃やあやあ周桜君、目は覚めたかな
ん・・・
誰だか知らないけど此処は何処だ
こうやってテレパシー飛ばすのっ
俺は確かトラックに轢かれてミンチより酷い状
・・・で、何故だか知らないが今はこうして何もない空間を頭の中に響いてくる声に
のだ。
校の合格発表の帰りに野良のニャンコを庇ってそのままトラックに轢かれてしまった
俺、天海周桜。15歳、いきなりで何だが実は俺、既に死んでいる。というのも、高
なんだか知らないが大人しく従っておくか・・・。
てよ。﹄
﹃それについては追い追い話すからさぁ、取り敢えず光の差す方向に向かって歩いてき
?
て疲れるんだよね。﹄
﹃取り敢えず意識があるなら起きてくれないかなぁ
?
態になったはずじゃあ・・・。
?
?
1
従って歩いている。
﹃あ、そろそろかなぁ
た。
﹂
﹄
頭の中の声がそう言った瞬間、何も無い真っ黒い空間から馬鹿でかい部屋に来てい
?
だろう。
何、俺もしかして地獄行き
目の前の自称閻魔様は今までのイメージを180
ひ っ く り 返 す 程 の 美 少 女 だ っ た。
俺の中では閻魔様ってすっごい怖いおっさんとか鬼とかのイメージがあったんだが、
をしていた。
その後なんだかんだあって俺は目の前にいる美少女、もとい自称閻魔様とサシで話し
﹁あはは∼、ごめんねぇ驚かせちゃって、私は閻魔様だよ∼。﹂
* * *
え
﹁地獄の入り口にようこそ周桜君
!
?
﹂
前から声が聞こえる。頭の中の声と高さと話し方が似ているから恐らくあの声の主
﹁あ、来た来た∼
!
?
公私混合は良くないですよね
2
°
﹂
﹂
﹂
姫カットで巨乳でちょっとアホの子っぽいこの子が閻魔様とは誰が予想しただろうか、
いやしない。
﹁で、閻魔様。俺はこのまま地獄行きなんですかね
取り敢えず一番気になっていた事を聞き出す。
おっ、どうやら地獄には行かずに済むようだ。
﹁ううん。君を地獄に落としたら私が怒られちゃうもん。﹂
そりゃまあ、やり直せるならもっかいくらいは。﹂
﹁んでね∼、早速なんだけど君はもう一回人生やり直したい
﹁え
﹁うんうん、やっぱりそうだよね∼。やっぱり高校に入学する前くらいからかな
﹁そっか∼。じゃあどの世界がいい
﹂
﹁君は謙虚だね∼。見た目も良いし、彼女の一人くらいはいたんじゃないの
﹁いいえ、ずっと剣道一筋でしたから。﹂
﹂
?
嬉しい事なので。﹂
﹁どの世界がって・・・、どこでも良いですよ。生き返らせてくれる事自体俺にはとても
?
は今でも俺の誇りだ。
俺は6歳の頃からずっと剣道をやってきた。中3の時に全国大会で4位になれたの
﹁そうですね。中学は碌にいい思いしなかったんで。﹂
?
?
?
?
3
﹁え∼
じゃあ好きだった人は
﹂
この閻魔様、随分とグイグイ来るな・・・。
?
じゃあ私が君の彼女になっても良い
﹁いませんよ。﹂
﹁良かった∼
!
閻魔様がそんな事言っちゃって。﹂
﹂
だって他の神連中なんて碌なのが居ないんだもん。それに私は君見たいな驕ら
?
﹂
が・・・、まあそれは些細な事だ。
自 分 の 意 見 を は っ き り と 言 う。こ の 性 格 の せ い で 友 達 が あ ま り 居 な か っ た の だ
ちゃんと全うしないと駄目ですよ。﹂
﹁いやいや、だとしてもそれで仕事ほっぽっていたら職務怠慢じゃないですか。仕事は
ない人が好きなの。﹂
﹁え∼
﹁良いんですか
閻魔様の言動が読めない。つーか人と神が恋愛って、ラノベかよ。
?
?
?
?
駄目です。﹂
!
なんとか持ち堪えてばっさり切り捨てる。
﹁ぐっ・・・
と思える程に破壊力があった。
上目遣いで聞いてくる閻魔様。この姿を見て堕ちない男がいるなら誰か連れてこい
﹁う∼・・・やっぱり駄目
公私混合は良くないですよね
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﹁はあ・・・やっぱりかあ、でも君の事が好きなのは本当なんだよ
鏡で下界の君を見ていたくらいにはね。﹂
ずっとこの浄玻璃の
?
好きですよ
﹂
﹁えっ///じゃ、じゃあ・・・。﹂
﹁でもこれはこれ、です。公私は分けてください。﹂
﹁え∼。﹂
* * *
﹁これでお別れだね。﹂
﹁はい、短い間でしたが楽しかったですよ。﹂
﹁えへへ。それじゃあ、君を新しい世界に転生させるよ。﹂
いよいよか・・・。
﹁閻魔様、今度会うときは、俺が爺さんになる時ですかね
?
?
﹁かもね・・・、じゃあ折角だから最後に・・・。﹂
﹂
﹁さらっとヤバイ発言しましたね。でも閻魔様、俺は貴女みたいに自分に正直な人間は
5
チュッ
﹁・・・・・・‼
⁉
﹂
?
* * *
最後に見た閻魔様の顔は、今まで出会ったどの女の子よりも可愛かった。
輝きが強くなる度に俺の意識も薄れていく。
その一言が合図だったかのように、身体が輝き出す。
﹁バイバイ、周桜君。﹂
?
左腕には点滴がうたれていた。
左には天井と同じ真っ白なカーテン。
右にはテレビや戸棚。
首を動かして周辺を確認する。
背中には柔らかい感触を感じる。布団の上だろうか。
目が覚める。まず最初に視界に映ったのは真っ白な天井だった。
﹁う、う∼ん・・・。﹂
公私混合は良くないですよね
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どうやらここは病院のようだ。
上半身を起こして右肩をぐるぐると回す。次に首をコキコキと鳴らして取り敢えず
﹁よっと・・・。﹂
は身体をほぐし終わった。
そう思っていると、ガチャリとドアが開けられた音が聞こえる。カーテンの外側から
﹁誰か呼んだ方が良いのかな。﹂
看護服をまとった看護師さんがきた。かなりの美人さんだ。
﹁あっ、おはようございます。﹂
取り敢えず挨拶をする。外の様子はわからないが、電気は点いていなかったので、恐
あっ・・・、おはようございます・・・。﹂
らく今は昼だろうから、この挨拶でも問題はないはず。
﹁えっ
﹂
いえ、大丈夫でふ・・・。﹂
﹁あの・・・、具合でも悪いんですか
看護師さんは顔を赤くして俯いてしまう。
!
?
﹁矢作さん
患者さんの様子はどう
﹂
?
外から声が聞こえてくる。この看護師さんは矢作さんと言うのか。
?
﹃です﹄がちゃんと発音出来ていない。やはり具合が悪いのではないか。
﹁ひゃあっ⁉
?
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﹁あっ
高木さん
あのっ・・・
!
私、挨拶されちゃいました・・・
!
﹂
!
﹁こんにちは。早速ですが、幾つか質問いいですか
れている紙に事項を記入していく。
﹂
そう言うと、高木さんはそのまま部屋をでていく。俺は渡されたボードに貼り付けら
﹁はい、分かりました。﹂
﹁それに書ける事を書いて下さい。終わったらそこの看護師さんに渡してね。﹂
してくる。
有頂天になっている矢作さんを放置して、女医の高木さんは僕にクリップボードを渡
﹁はい、構いませんよ。﹂
?
衣を着た女医さんが立つ。
いきなりそう言う矢作さん。挨拶くらいでそんな大げさな・・・。矢作さんの横に白
!
﹁あの、天海さん、住所の欄が空白ですよ
もしかして変な勘違いされてる
?
﹂
そう言ったら、矢作さんは真っ赤だった顔を真っ青にして部屋を出て行く。
﹁すいません。覚えて無いんです、俺が何処に住んでいるのか。﹂
?
そういって矢作さんにボードを渡す。
﹁書き終わりました。矢作さん、お願いします。﹂
公私混合は良くないですよね
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* * *
10分程すると、矢作さんは高木さんともう一人女性を連れてきた。そういえばさっ
きから女性しか見ていない。
﹂
?
﹁はあ
貴方、男性保護機関を知らないのですか
﹂
?
﹂
?
やや怒った口調でそう質問してくる佐々木さん。
か⁉
﹁貴方のデータは何故かデータベースの中にありませんでした。これはどう言う事です
よく人類滅び無かったな。
なんと全人口の約0.2%しか男性がいないらしい。
い。そしてそれに付随してこの世界は男性が極端に少ない事も教えてくれた。
要するに、男性が安全に生活出来るために、様々な面でサポートをする国家機関らし
佐々木さんがその男性保護機関について詳しく説明してくれた。
?
聞いたことのない単語が出てきたので質問する。
﹁あの、男性保護機関って何ですか
﹁天海さん、こちらは男性保護機関の職員の佐々木さんです。﹂
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﹁俺にも何が何やら・・・、気がついたら此処で寝ていたんです。﹂
さっきの閻魔様の事を話しても信じちゃくれないだろうから、そこを伏せて三人にわ
けを話す。
﹂
﹁ふ∼む、データベースに登録されていない記憶喪失のイケメン・・・。﹂
﹂
﹁何だか凄いことになって来たわね。﹂
﹁漫画みたいですね
三人がそれぞれ何かを話している。
﹁でも、本当に登録されてなかったんですか
﹁何者かが情報操作したとか
﹂
﹁ええ、本部に問い合わせてもそんな名前の男は居ないと・・・。﹂
?
!
?
﹂
?
退院出来ますよ。﹂
﹁ああ、そうでした。この後いくつか検査をしてもらいます。何も異常が無ければすぐ
﹁あの・・・俺は一体どうすれば・・・。﹂
方から話を伺ってみる。
何やら三人で話し始めてしまった。これ以上置いてけぼりにされるのは嫌なので、此
よ
﹁無理ですよそんなの。男性に関する情報は何重ものプロテクトがかかっているんです
公私混合は良くないですよね
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それは良かった。でもこの世界には俺の住む場所がない。
その事を聞いたら、佐々木さんから退院後に市役所に来るように言われた。
どうやらこの世界は前の世界とは勝手が違うようだ。
美人の前で脱ぐことは超が付くほど恥ずかしい
矢作さん、高木さん、佐々木さんが部屋から出て行き、俺はベッドで横になっている。
見ても面白くないので、結局某放送局のニュースに落ち着く。
そう考えながらテレビの電源を入れ、適当にチャンネルを変えてみる。昼ドラなんぞ
この世界にそれがあるかどうかすらわからない。
こういう時に友人がいれば遊○王やデュ○マなどで遊べたのに・・・。だがそもそも
が、本当に何もせずに時間を浪費するよりかはマシだ。
暇を潰す娯楽が無い以上、必然的にテレビをつける。あまりテレビは好きではない
1滴・・・2滴・・・3滴・・・駄目だもう飽きた。
何もできないので点滴が落ちるのを数えて時間を潰してみる。
する訳にもいかない、それに点滴が邪魔でもある。
退屈なので一応動きたいが、検査の時間を知らされていない以上は、院内をブラブラ
事が殆ど無い︵閻魔様はノーカンで︶俺は、今後の事が少し不安になっていた。
そう、この世界は大半が女性だ。しかも全員美人と来ている。前世で女の子と話した
﹁・・・目に毒だ。﹂
美人の前で脱ぐことは超が付くほど恥ずかしい
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﹃次のニュースです。今日10時半頃、通学途中の大学生に痴女行為を働いた女性が逮
捕されました。容疑者の女性は容疑を認めており、
﹁つい魔が差してしまった。﹂などと
供述している模様です・・・。﹄
マジか。この世界では女が男にセクハラするのか。
その後もニュースを見ていると、不意に画面上に速報の二文字が映り込む。
のニュースです・・・。﹄
﹁って、なんっじゃこりゃあ⁉
﹂
国が
総力を挙げて保
何の冗談だ。ていうか俺は海岸に倒れていたのか・・・。一体何チノミーなんだ。
?
?
周囲に迷惑にならない程度の声で叫んでしまう。俺の身を
?
矢作さんの後を点滴のスタンドをガラガラと鳴らしながらついて行く。余談だが、院
﹁あっ、はい。今行きます。﹂
﹁天海さん、検査の時間ですよ。﹂
テレビと睨めっこしていると、矢作さんが部屋に入ってくる。
護
?
れに対して省は﹁彼の身は国が総力を挙げて保護する﹂と、意気込みを語っています。次
登録されておらず、天海さんも自身の住所を思い出せない等、記憶に混乱が見られ、こ
戻したそうです。男性の名前は天海周桜、15歳。厚生労働省のデータベースに名前が
﹃えー、たった今速報が入りました。たった今、○○海岸で倒れていた男性が意識を取り
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美人の前で脱ぐことは超が付くほど恥ずかしい
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内にはやはり女性しかおらず、此方を見てひそひそと話をしたり、妙にねっとりした視
線を向けてきた。
* * *
検査も滞りなく終わり、俺は点滴を外されてまたさっきの部屋に戻ってきた。
厳密に言うと滞りはあった。心音を聞く時に俺が病衣を脱いだら、担当医とその場に
いた看護師全員が鼻血を吹き出したのだ。その後床に落ちた鼻血を拭き取ってまた検
査をしたのだが、何故か全員もじもじしていた。
もしかして、この世界じゃ男性の筋肉がセックスアピールになるのだろうか。だとし
たら外出時に薄着は駄目だな。
その後、高木先生が、明日には退院出来ると言ってくれたので、今日は早めに床に就
く事にした。
* * *
翌朝、病院が服を用意してくれたので、それを着用して退院する。外に出ると、大統
領が乗るような長いリムジンが病院の前に止まっていた。
そのリムジンからは佐々木さんが出てきて、半ば強引に俺を乗せて発車してしまっ
た。
車に乗っている内に、気になる事を質問してみる。
﹂
?
差値55∼60くらいなのだそうだ。レベル高くないかい
?
特に4つの高校に違いは無いらしい。多少偏差値に差はあるらしいがどの学校も偏
高校から一つを選べるという訳だ。落ちた人に申し訳ない。
この街、星見ヶ丘には4つの高校と一つの大学があるらしい。そして俺はその4つの
ら一つを選んで入学してもらいます。﹂
﹁それに関しても既に決まっているわ。貴方はこの星見ヶ丘市にある4つの高校の中か
﹁それじゃあ、学校とかはどうすれば
6万人。大体墨田区の総人口と同じくらいだ。うん、少ないな。
ちょっと計算してみよう。日本の人口は1億3千万とすると男性の人数はおよそ2
そんなのがあるのか。この世界の男はそれ程に貴重なようだ。
直轄の施設で生活して欲しいわ。﹂
﹁そうね・・・君はもう高校生みたいだから一人暮らしも可能だけども、私としては政府
﹁佐々木さん、俺は今後どこで生活すれば良いのでしょうか。﹂
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﹁じゃあ最後に、生活とかはどうすればいいんでしょうか。﹂
﹂
﹁それについても問題無いわ。国から月50万の給付金が下りてきます。﹂
﹁ご、50万⁉
?
いそうだ。受ける、というのは受験もしていないのに入るのは何だか駄目な気がしたた
高校は自宅から一番近い北高を受ける事にした。偏差値は4高のなかで2番目に高
暮らしする事になった。因みに大学名は星見ヶ丘中央大学。
のは申し訳無いというか自由が無さそうだったので、大学に一番近いマンションで一人
そして帰り、というか俺の新しい家へと向かっている。流石に政府直轄地で生活する
* * *
ない。
などを作ってもらい、その他の手続きも佐々木さん達が全てやってくれた。頭が上がら
そうこうしている内に、市役所に到着。諸々の手続きを終え、銀行へと向かう。通帳
ら月1300億ですよ。一年だったら1兆と5600億・・・気が遠くなってきた。
佐々木さんは淡々と返すけど、50万ですよ50万。26万人に50万なんて配った
﹁これくらいが妥当です。﹂
美人の前で脱ぐことは超が付くほど恥ずかしい
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17
め、無理を言って明日受験させてもらう事になった。
家まで送ってもらい、自分の部屋を探す。部屋は407号室との事。
部屋を見つけて中に入ると、そこにあったのはまるでモデルハウスの様な光景だっ
た。
リビングには高そうなソファとテーブル、60インチ程もある巨大な薄型のテレビに
ピアノetc・・・。
他の部屋も見てみるとキングサイズのベッドが置かれた寝室︵服も用意されていた︶、
様々な専門書がズラリと並んだ書斎、そして何にもない空き部屋が二つ。一つは畳が敷
かれた6畳間。ここは剣道用の部屋にするかな。もう一つは寝室と同じ8畳間だった。
ここは誰かが来た時用の来賓室にしよう。
室内を回っていると腹の虫が泣き出した。
そう言えば今日は昼食を食べていなかったな・・・。
そう思ってキッチンへと向かい冷蔵庫を開ける。
が、中には何も入っていない。
何か嫌な予感がして、戸棚を全て開ける。やはりなにも入っていない。
もしかして、佐々木さん達は俺が料理する事は考えてなかったのだろうか。まあ確か
に高校生になりたての男子が料理をするとは考え辛いだろう。だが、俺は結構料理好き
美人の前で脱ぐことは超が付くほど恥ずかしい
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だ。前世の家庭内では一番俺が上手だったと言っても過言ではないレベルには。
明日・・・は受験だから明後日は買い出しに行こうと心に決めた瞬間だった。
* * *
結局、今日は店屋物の蕎麦をとることになった。
まだこの街の地理を完全に把握していないため、出掛けるのは危険だと判断したから
だ。
蕎麦も食べ終わり、食器を洗い終えて玄関に置いておく。これで明日出る時に外に出
しておけば回収してくれるだろう。
玄関から戻ってきて、リビングでくつろいでいると、ふとピアノに目がいく。
ピアノ弾ける人は格好良いと昔から考えている俺は、折角だから少しいじってみよう
と思い、ピアノの方へと歩いていく。
アップライトピアノの前に置かれた椅子に座り、鍵盤の上で指を踊らせる。最初は
ちょっとピアノが弾ける人の気分を味わおうと思っていたのだが、盤上の指が止まらな
い。もしかして俺、ピアノ弾けているのか⁉
演奏を中断して、テーブルの上に置いてある楽譜を眺める。
?
・・・分かる、どう演奏するかが、どう指を動かすかが。
楽譜を持ってもう一度ピアノに向き合う。
軽く呼吸を整え、鍵盤を指で叩く。最初は一つの﹃音﹄だったものが数秒後には一つ
の﹃曲﹄へと変わっていた。
・・・凄い、本当に弾けている。そのまま昂ぶる気持ちを抑え切れずに、俺はピアノ
と共に演奏を始めていた。
気持ちが落ち着いたのは23時を回った後で、その後泡を食って机に向かったのだ
が、ここにも違和感が付きまとった。何だろう、答えが分かる。上手く表現出来ないが、
﹂
問題を見た瞬間に答えが頭の奥から出てくるような感覚だった。
﹄
﹁もしかして俺、何でも出来る超人になったのか・・・⁉
* * *
すーおーうー君
!
﹃周桜君
!
?
19
﹂
誰だ、寝ている時にテレパシーを飛ばしてくる奴は・・・。
﹁もしかして、閻魔様⁉
その言いたい事って。﹂
﹃ぴーんぽーん♪ちょっと言いたい事があってね。﹄
﹁何ですか
私、周桜君と別れる前に、その・・・キスしたでしょ
﹁何でも出来る・・・
﹂
﹂
と思った行動に対して力が働いてそれが出来てしまう・・・。﹄
﹂
﹃そう、正確に言うと﹁やろうとする意思﹂に反応する感じ・・・かな
﹁要するに俺はやろうと思えば何でも出来てしまうって事ですか
﹃うん、でも物理的に無理な事は出来ないからね。﹄
?
?
﹄
成る程、漫画の様に巨大な石をぶん投げれるようになったり、十傑集よろしく超ス
?
君が﹁やりたい﹂
﹃それでね、その・・・周桜君は加護の力で﹁何でも出来る﹂人間になっちゃったの。﹄
加護っていうとゲームとかでよくあるあれだろうか。
たの。﹄
﹃実はそのキスの影響で何というか・・・その、君に私の加護みたいなものが宿っちゃっ
?
?
?
確かにあの時、別れ際に俺は閻魔様とキスをした。
﹃あのー、えっとね
?
?
﹁はい、でもそれがどうかしたのですか
美人の前で脱ぐことは超が付くほど恥ずかしい
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ピードでダッシュとかは出来ないという事だ。
元はと言えば私の不注意だった訳だし・・・。﹄
!
﹄
!
視界はどんどん暗くなる、明日もまた頑張ろう。
﹃うん、おやすみ。﹄
﹁俺もです。それじゃあ、おやすみなさい。﹂
﹃そうだね、でも私は君に会えて嬉しいよ
﹁次会う時は爺さんになった時とか言っておきながら結構すぐ再開しちゃいましたね。﹂
﹃ううん、いいのいいの
﹁わかりました、わざわざありがとうございます。﹂
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居眠りから起きたらクラスの人間全員がこっちを見ているとか、全校集会でステージ
それにしても、さっきから周囲の視線が痛い。
込んでいるのだ。
の加護に頼り切りになるのもいけないので、こうして参考書を読んで少しでも頭に詰め
そう考えながら、書斎にあった参考書をペラペラとめくって目を通す。流石に閻魔様
の時の友人の顔は今でも忘れられない。
たお陰で事なきを得たが、それ以来友人は電車に乗る事が出来なくなってしまった。あ
前の世界で友人が痴漢冤罪に会った時、周囲の人間が全員友人の無罪を主張してくれ
恐怖だろうか。
異性、それも美人となると抵抗よりも先に申し訳無さが来てしまう。後は痴漢冤罪への
前の世界では、満員電車に乗る事にあまり抵抗はなかったのだが、流石に周りが全員
今は7時45分。俺は電車に乗っている。
翌日
大型モールに一人で行くと視線が痛いんですが
大型モールに一人で行くと視線が痛いんですが
22
23
の上に立って注目を集めるのとはまた別のベクトルだ。
なんと言うか、まるで全員が数日間獲物にありつけなかったハイエナのような目で此
方を見てくるのだ。
一言で言うと、怖い。少しでも気を抜いたら色々な意味で襲われてしまいそうだ。
周囲の声に耳を傾けてみると、小さな声でキャーキャー言ってる学生達、ハァハァと
呼吸の荒いOLなどがいる。
もしかしてこれ、下手すりゃ︽自主規制︾されるんじゃね
* * *
陸上等のアウトドアスポーツ組だ。
北高のグラウンドには、恐らく部活中の女子たちが汗を流していた。サッカー、野球、
いだろうという判断だ。
中学の時の制服が手元にない以上、こういう制服に近い感じの服を着て行った方が良
ドジャケット、下には紺色のパンツを履いている。
せられながらも、何とか到着する。因みに今の服装は、白のポロシャツに黒のテーラー
その後電車から降りて、北高に向けて歩く。道行く人たちから視線のレーザーを浴び
?
この学校に男子生徒は居なかったと記憶しているが・・・。﹂
校舎に着くと、ジャージを着た先生が此方に向かってくる。
﹁おや、君は
たので、気を取り直して先生に話しかける。
君が天海君か⁉
﹂
﹁あの、今日受験に来た天海という者です。受験の会場はどこでしょうか
﹁えっ・・・
?
着用した女子達が俺の前後に何人か居た。
流石に4時にもなると部活もちらほらと終わり始めるらしく、学校指定のジャージを
何事もなく試験も終了し、俺は帰路についていた。
* * *
が、それはまた別のお話。
そういえば、会場に連れて行ってもらう時に先生が何やらブツブツと呟いていたのだ
て、受験が始まった。
ジャージの先生、何故か顔を真っ赤にしている。その後会場となる教室に案内され
?
﹂
ここに男子は居ないのか・・・。少しショックを受けはするが、想定の範囲内ではあっ
?
!
﹁はい、俺が天海です。﹂
大型モールに一人で行くと視線が痛いんですが
24
その後、辺りをぶらついて夕食を購入してから自宅に帰ると18時半を過ぎた頃だっ
た。
この世界の男性は小中高大と学校に通いさえすれば、働かなくてもいいそうだ。つま
そして三つ目、男性に関してだ。
から、俺はあまり変な感じはしなかったけども。
歴史上の偉人も。前の世界じゃ偉人を女体化させる事にあまり抵抗が無くなっていた
二つ目は芸能人や各国の主要な人間なども全員女体化していた事。挙句の果てには
一つは男女の立場の逆転。こっちでは女性が働いて男性が家庭で待っているらしい。
る。
も日本だった。ついでに都道府県名も全く同じだった。ただ、幾つか前とは違う所もあ
そう言えばこの世界、前いた世界と殆ど変わっていない。通貨の単位は円だし、国名
この世界にも剣道がある事はリサーチ済みなので、あとは実際に見て買うだけだ。
この世界に来ても俺は俺だ。例え周りが女子ばかりでも剣道は続けたい。
も。
取り敢えず買い物だ。料理用器具と食料品、そして出来れば剣道の防具や道着など
ソファーに寝転がりながら一人そう呟く。
﹁さて、明日はどうするかな・・・。﹂
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りは大学卒業した時点でニートになれる。
ニートは嫌だと言って、就職しようにも男性が絶対的に少ないため、男性が働ける企
業は殆ど無いらしい。なれるとしても、精々アイドルや俳優くらいなのだそうだ。
何故男性が一般企業に就職できないかと言うと、早い話がその男性を巡って企業の間
で取り合いが起こるかららしい。
奏を始める。
何を思ったのか俺はすぐにテレビを消し、ピアノの前に座る。精神を集中させて、伴
歌っているみたいな・・・そんな感想だった。
お世辞にも顔が良いとは言えない上に、歌も結構下手だ。なんと言うか、小学生が
歌っていた。
不意にテレビをつける。チャンネルを回していると、男性アイドルがステージの上で
さえすれば。
ため、何とかして一般の企業に就職したい。最悪ボランティアとかでも良いのだ。働け
俺はアイドルになる気は毛頭無いし、かと言ってニート生活も人として腐ってしまう
でも手に入れようと文字通り血で血を洗う戦いが繰り広げられるそうだ。
﹃男﹄はこの世界では貴重なので存在そのものが広告塔のような役割になる為、何として
大型モールに一人で行くと視線が痛いんですが
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そしてそのまま口からは歌を紡ぎ出す。所謂弾き語りという奴だ。
歌の内容は離れてしまった恋人にもう一度会いたいという思いを綴ったものだ。
歌詞は英語なのにも関わらず、口からはすらすらと発音できるし、ピアノを弾く手も
止まることはない。本当に何でも出来るんだな。
歌も終わり、ピアノから離れる。
昨日とは打って変わって、とても落ち着いた気分になった。今日はもう寝ることにし
よう。明日は買い出しだ。
* * *
翌日、電車に揺られること数十分。
俺は大型のショッピングモールに来ていた。
﹂
今は鍋やおたまなど、調理に必要な道具を見繕っている。
﹁お客様、本日は何をお探しでしょうか
﹁ああ、いえ。ちょっと見ていただけですよ。﹂
後ろには茶色の髪をポニーテールにした美人な店員さんが笑顔で立っていた。
不意に後ろから掛けられる声に反応し振り向く。
?
27
はにかみながらそんな事を言う。やはり美人と面と向かって話すのはこっぱずかし
い。
した。
袴を試着する際に、やたらと試着室の前に人だかりが出来ていたが、気にしない事に
して袴を購入する。
次にスポーツ用品売り場だ。剣道のコーナーへ行き、面、胴、小手、竹刀、木刀、そ
* * *
んが手続きをしていた。
その後、調理用具一式を買い揃え、荷物を配送してもらったのだが、その時に丸井さ
け言いパタパタと走っていってしまった。
すると丸井さんは顔をトマトみたいに真っ赤にして﹁ごゆっくりどうぞ・・・。﹂とだ
付けて﹁ありがとうございます。﹂とだけ言っておく。
この丸井にって・・・。どうしろと言うんだとも言えず、取り敢えず笑顔を顔に貼り
﹁そうですか。何かご用がありましたらこの丸井にどうぞ。﹂
大型モールに一人で行くと視線が痛いんですが
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29
買い物も全て終わり、やりたい事も無くなったので書店へと向かう。この世界では殆
どが少女漫画だった。まあ当然っちゃあ当然だ。通学時の暇を潰すための小説を5冊
程購入する。
それでも帰りの電車まではまだ時間があったので、大型モールの中を一人で歩き回
る。相変わらず視線が痛い。この世界の女性たちは無礼な程に視線を向けてくるため、
正直物凄く恥ずかしい。
ふと時間を確認すると、昼時だったのでファストフード店に向かい昼食を取る。店員
さんがおつりを渡す時に俺の手をすごい触ってきたが・・・まあその程度なら大した事
ではない。
最後に食料をある程度購入して、店を出る。まさか食料まで配送してもらえるとは
思ってもいなかった。
* * *
買い物から数日程経過した日、購入したものが全て家に到着する。物を全てしまい終
わった後、北高から葉書が届いた。合格の知らせだ。
言ってくれればこちらから向かったのにと思いながらもふと思い出す。
た。
他の3高は、西校が私服、東高はセーラー服と学ラン、南高はボレロタイプの制服だっ
女子はスラックスの代わりにスカートのようです。
北高はブレザーらしく、紺色の上着、赤いネクタイ、そして灰色のスラックスだった。
その後急いで制服を仕立ててもらった。
﹁制服の事忘れていた・・・。﹂
大型モールに一人で行くと視線が痛いんですが
30
しかもこの前のジャージ先生の発言
?
からしてこの学校に男は俺一人、つまりはハーレム作り放題だぜ
!
だってこの世界には美少女しかいないんだぞ
そして俺も、多少の不安はあるものの、どちらかと言えば期待の方が多い。
しかった気がするが、つまりは唯の式典である。
ある物は友人を、ある物は恋を、またある物は天下を取るために・・・。最後がおか
過儀礼。
入学式、それは新たな学校に期待と不安を抱く学生達が必ず通らなくてはいけない通
入学式は大体暇を持て余す
31
とか思えるような思考回路を俺が持ち合わせているはずも無く、玄関に張り出された
クラス表を見てさっさと教室に行くのであった。学校内に男一人は結構肩身が狭そう
だ。
* * *
1年2組の教室にて
?
に最も近い席なのだ。
取り敢えず荷物を机の横に置き、机上に突っ伏す。何故かって
だ。
単に気まずいから
特に何をするでもなく、教室に入り自分の席に座る。出席番号は1番、つまり入り口
﹁ここが俺の教室か・・・。﹂
入学式は大体暇を持て余す
32
三分程すると、何やら廊下が騒がしくなってきた。そろそろ人が流れ込んでくる頃だ
ろう。顔を上げないままそんな事を考える。
ガラガラと扉が開けられる音と、まばらな足音が聞こえてくる。何人か入ってきたの
だろう。
ガタガタと音を立ててそれぞれが座っていく。
﹂
このクラスの担任を務める黒田です
一年間よろしくお願いし
このまま顔を下げておいてホームルームが始まったら起きることにしよう。
* * *
ます
﹁みなさん初めまして
!
そう言われて廊下に並ぶ。出席番号順なので先頭は俺だ。
並んで下さい。﹂
﹁えーっと、ではこれから第二体育館で入学式となります。廊下に出席番号順に一列に
長い黒髪が特徴の先生だ。例に漏れず美人だった。
任の黒田先生が挨拶をしている。
現在は入学式前のショートホームルーム︵以降ホームルームはHRとします︶だ。担
!
!
33
廊下に出て先頭に立つ。後ろが何やら騒がしいが、気づかないふりをした。
* * *
入学式は大半を校長やPTAの会長のスピーチが占める。聞いてて面白い物でも無
いので、ただボケーっとしている奴らが殆どだろう。俺もその一人だ。
﹃・・・と言う事で、私からの挨拶とさせて頂きます。﹄
PTA会長からのスピーチも終わり、新入生代表のスピーチとなる。
キイテナイヨソンナノ。
﹃それでは次に新入生代表の挨拶を。天海周桜君、宜しくお願いします。﹄
・・・マジで
何だか周囲が色めき始めるが、気にせずスピーチを始める。
返事をして、来賓の方々にお辞儀をして登壇する。
上はやらなければいけない。 そう、今の俺はやる気になれば何でも出来るのだ。
何故に俺なのだ。大体こういうのは事前に連絡が来るものだろう。だが呼ばれた以
?
本日はこの様な立派な入学式を行なって下さり、先輩方、教師の皆様、そしてPTAの
﹃暖かな春の訪れと共に、私たちはこの星見ヶ丘北高等学校に入学する事が出来ました。
入学式は大体暇を持て余す
34
役員の方々には大変感謝しております。
・・・︵中略︶・・・
周りの人たちに思いやりを持って接することを常に念頭に置いて学校生活を送るこ
とを誓って、入学の言葉といたします。﹄
そのまま壇上で一礼して、降壇する。勿論降りた後に役員の方々にお辞儀をするのも
忘れない。
嬉しくないサプライズも乗り越え、無事に入学式は終了する。退場する時の周囲の拍
手と歓声に若干戸惑いながら、俺は体育館を後にした。
* * *
﹂
教室に戻ってくる。それぞれが自分の席に着席した後で、黒田先生が教室に入ってき
た。
﹁いや∼、天海君凄かったですねー
そんな事関係無いと言わんばかりにHRを進める黒田先生。
教室に入ってくるなりそんな事を言われるものだから、生返事で返してしまう。だが
﹁はあ・・・どうも。﹂
!
35
﹂
﹁では最後にそれぞれ自己紹介をして今日はおしまいです。では・・・天海君は最後にし
て、荒垣さんから行きましょうか
その後も自己紹介は順調に進み、遂に俺の番が回ってくる。
と同時にそそくさと席に戻ってくる。
バレーボール部なだけあって165cm程ある身長の荒垣さん。自己紹介が終わる
年という短い間ですがよろしくお願いします。﹂
﹁荒垣紗南︵あらがきさな︶です。高校ではバレーボール部に入ろうと思っています。一
める。
だが俺の気持ちを周囲が察する筈もなく、荒垣さんは全員の前に立って自己紹介を始
最初に終わらせたいタイプの俺には、そういう心遣いは正直有難くない。
ちょっと待て、何で俺が最後なんだ。こう言うイベントは
!
﹁ねーねー天海君
天海君て何処に住んでるの
﹂
?
﹁ここから電車で20分くらいの場所です。﹂
質問の主は窓際の前から三番目の席に座っている・・・名前は確か真崎さんだったか。
不意に前から質問が飛んでくる。
!
なんとも素っ気ない自己紹介に周囲からブーイングが起こる。
﹁え∼、天海周桜です。一年間どうぞ宜しく。﹂
入学式は大体暇を持て余す
36
﹂
適当に答えを返す。本当はもう少しかかるのだが、馬鹿正直に答える必要は無いだろ
う。
﹁彼女とかいますか∼⁉
も集まると物凄く五月蝿い。
﹁じゃあじゃあ、部活とかは何するの
無いからな
﹂
!
その後二十分もの間飛んでくる質問を迎撃して、流石に疲れてきた頃に先生が助け舟
!
そういうと今度はほぼ全員が﹁え∼っ ﹂と言い出す。他の部活に入る気なんて俺は
剣道部はないので部活には恐らく入らないかと。﹂
﹁俺は小さい頃から剣道をやっているので高校でも剣道をするつもりです。でもここに
?
?
今度は俺の2つ後ろの席に座っている石井さん
だったかが問うてくる。
そう言うとクラス中が沸き立つ。女三人寄れば何とやらとはよく言うが、四十人近く
本当に好きなのかもしれないな。
これも適当に返す。好きな人と言って真っ先に閻魔様が出てくる辺り、もしかしたら
﹁いいえ、いません。でも好きな人は既にいます。﹂
∼っと・・・剣崎さんだ。
また質問が飛んでくる。廊下側から数えて三番目の列の一番後ろの席の人、名前はえ
?
37
を出してくれた。
﹂
その後、個人で教科書を購入して、今日は終了となった。
* * *
周桜君に会いたい
地獄の入り口では
﹁ああ∼
!
そして彼女のせいで阿鼻地獄の収容人数がオーバーしかけており、ついに彼女には仕
だ。︵阿鼻地獄とは、全部で八つある地獄の中で一番ランクの高い地獄。︶
仕事を放棄していないだけまだマシだが、来る人全員を阿鼻地獄へと落としているの
る。
そのせいで周桜の動向をチェック出来なくなった閻魔様は今、端的に言うと荒れてい
彼女の上司に鏡を没収されたのだ。曰く﹁公私はしっかり分けよ﹂との事。
解説しよう。実はこの閻魔様、1話での﹃浄玻璃の鏡で下界の君を見ている﹄発言で、
!
﹁だってぇ∼、周桜君に会いたいんだもん∼。﹂
﹂
﹁無茶を言わないで下さい閻魔様。ご自分の立場を理解して頂かないと困ります。﹂
!
﹁駄目なものは駄目です。この前浄玻璃の鏡を没収されたばかりじゃないですか
入学式は大体暇を持て余す
38
事が回ってこなくなってしまった。
﹁もうさ∼、私の所に罪人は来ないんだからさぁ、私いらないんじゃない
と。
﹁もうこうなったら大王様に直訴しに行くしか無いよね
﹂
﹁だから行ったでは無いですか・・・。申し訳ありません、大王様。﹂
﹂
放たれるは無慈悲な一言。閻魔様はショックの余り真っ白になってしまった。
﹁駄目じゃ。﹂
* * *
が為に。
言うが早いか、閻魔様は閻魔大王の元へと走り出す。ただ愛する人の元へと行きたい
?
!
﹁すいません、仰っている意味がわからないです・・・って閻魔様∼⁉
﹂
今の一言で、閻魔様の補佐は思う。﹃なんでこんな神が閻魔様になれたんだろう・・・。﹄
﹁私の果たすべき事は周桜君に会いに行く事だも∼ん。﹂
ら・・・。﹂
﹁そ ん な 事 を 言 う も の で は あ り ま せ ん よ。貴 女 に だ っ て 果 た す べ き 事 は 有 る の で す か
?
39
﹂
?
愛さえあれば関係有りませんから
﹂
!
この一言で大王様は思う。﹃こいつには何を言っても駄目だな﹄と。
﹁大丈夫です
やったぁ∼
﹂
﹂
﹁はぁ・・・分かった、行くが良い。﹂
﹁本当ですか
﹁えっ・・・良いんですか⁉
!
﹁そんなことで良いんですか⁉
﹂
﹁ただし条件がある。一つはその男、死んだ時は余が直に裁こう。﹂
?
?
﹂
あんなに良い人の子、今まで居なかったじゃないですか 閻魔史上初です
﹁構わぬ。そもそも、うぬは何故ゆえにその男に肩入れするのじゃ
﹂
﹁だ、だって
よ
!
﹁それに関しては余も賛同しよう。だが彼とて所詮は人の子、うぬとは釣り合わぬぞ
!
!
!
?
!
事。﹂
そんな願っても無い
!
﹁えっ・・・、それってつまりは・・・。﹂
良いんですか
!
﹁左様、その男と契れという事じゃ。﹂
﹁ええっ
!
﹁閻魔は嘘を吐かぬ。分かったら早よう行け。﹂
﹂
﹁話 は 最 後 ま で 聞 け。そ し て 二 つ 目、そ の 男 が 十 と 八 つ に な る ま で に 男 女 の 仲 に な る
入学式は大体暇を持て余す
40
﹁はいっ
有難うございます
﹂
!
行ってしまう。
﹁・・・あの、大王様、宜しかったのですか
﹂
閻魔様は大王様に向かって敬礼すると、そのまま光に包まれて周桜のいる世界へと
!
﹂
?
﹁えっ・・・。﹂
﹁周桜さんは結構閻魔様といい感じでしたので・・・。﹂
﹁それは何故じゃ
﹁あの、残念ながら閻魔様が振られる事は無いかと。﹂
﹁どうせなら思いっきり振られた方があやつの為になるだろう。﹂
?
41
再会した時に真っ先に思う事は﹃何で此処に居るの
﹂
教科書も買い終わり、一人で帰宅しようとすると突然声を掛けられる。
この後暇
?
﹄
?
を考える。
んと言うかテンションや会話が噛み合わないからだろうか。そんな訳で断る為に理由
たり。まあ早い話がギャルという人種だろう。正直ギャルはあまり好きではない。な
三人が三人共、髪を染めて制服のタイを着用していなかったり、変な結び方をしてい
この三人は特に俺に嫌な視線を向けてくる三人だ。
後ろを振り向くと、さっき俺を質問攻めにした石井、剣崎、そして真崎の三人がいた。
﹁天海君、天海君
!
﹁兎に角今日は無理
そんじゃ
!
﹂
そう言って真崎は身体を密着させようとしてくるが、身体をよじらせてそれを躱す。
﹁まあまあそう言わずにさ∼、カラオケ行こうよ∼。﹂
実際探す予定ではあったから嘘はついていない。
﹁悪いが今日は無理。剣道の同好会探すから。﹂
再会した時に真っ先に思う事は『何で此処に居るの?』
42
!
* * *
なったカバンは書斎の机の横に置き、書斎を出る。
カバンの中から教科書を取り出して書斎の空いている本棚へと収納していく。空に
い。
あの後、ギャル三人組を撒いて俺は一度自宅に戻っていた。教科書の山はやはり重た
* * *
二人が再会するまであと僅か・・・。
それを思い出し、彼女も剣道の同好会を探すために歩き出す。
﹁そういえば周桜君は剣道やってたっけ。﹂
癖が付いているわけでもない。単純に、彼女が浮世めいた美しさを持っているからだ。
彼女も彼女で道ゆく人たちの視線の的になっていた。別に服装が変だったりとか、寝
そう呟きながら閻魔様は星見ヶ丘をぶらぶらしていた。
﹁周桜君どこかな∼。﹂
43
その後、私服に着替えて六畳間から剣道の道具一式を持ち、玄関を出た。
元々何処へ行くかは目処をつけて置いたのでそこに向かって歩き出す。
マンションの前にある駅から電車に乗る。
北高前駅の二つ手前にある第一市営体育館前駅で降車し、体育館へと向かって歩き出
した。
体育館に向かって歩いていると、ふと頭の中に声が聞こえて来た。
︶
﹄
まさか閻魔様だろうか。まだ何か伝える事が有ったのだろうか。取り敢え
ず閻魔様はどこにいるんだろう。
君こそ今どこにいるんだい
︵閻魔様・・・今どこにいるんですか
﹃おぉ、周桜君
?
?
︶
︵俺 は 今 第 一 市 営 体 育 館 に 向 か っ て い ま す。も し 良 け れ ば そ こ で 待 ち 合 わ せ ま せ ん か
!
?
・・・
﹃周桜君どこかな∼。﹄
再会した時に真っ先に思う事は『何で此処に居るの?』
?
閻魔様を待たせる訳にもいかないので、俺は彼女より先に到着するべく走り出した。
﹃おっけ∼。私もすぐそっちに向かうよ。﹄
44
* * *
﹂
閻mグボェア⁉
﹁す∼お∼う∼くーん‼
﹁お久しぶりです
﹂
?
まった。
!
﹁閻魔様は何でここに
﹂
﹁ひみにあいふぁふへほっひひひはんあよぉ∼﹂
君に会いたくてこっちに来たんだよ
﹁・・・すいません、離れてからもっかいお願いします。﹂
﹁む∼っ・・・ぷはぁ
大王様にちゃんと許可もらったから。﹂
﹁えっ・・・でも、それ職務怠慢じゃあ・・・。﹂
﹁大丈夫大丈夫
!
?
!
閻魔様にも休暇はあるのか・・・。結構俗っぽいんだな、向こうの仕事も。
!
﹂
イ。服の上からでもその存在感が分かってしまう。というかモロ当たっている。
引っぺがすのも少し可哀想だと思ったのでそのままにしていた。それにしてもデカ
俺の胸に顔を埋めてスリスリしている閻魔様。
﹁会いたかったよぉ∼
﹂
再会するなりいきなり飛びついてきた閻魔様。衝撃を殺し切れずに変な声が出てし
!
?
45
﹁それよりも周桜君
君こそ何でここに
﹁俺はこれのためです。﹂
﹂
﹁やっぱり剣道かぁ∼。私の考えは間違ってなかったみたいだね
そう言って後ろの防具と竹刀が入った袋を見せる。
?
俺たちはそそくさと体育館の中へと入っていった。
貴重な男と絶世の美少女がくっついていたら当然だろう。
さっきから俺たちの事を周りが見てくる。
﹂
﹁ははは・・・。それよりも中に入りましょうか。ちょっと周囲の視線が痛いです。﹂
!
!
* * *
﹂
?
﹁何でしょうか。﹂
﹁ふむ・・・、分かった。但し一つだけ条件がある。﹂
聞いているだけだ。
今は剣道同好会の会長にこの会に入会出来ないかを聞いている。閻魔様は隣で話を
﹁はい。俺の通っている高校には剣道部が無くって・・・。﹂
﹁剣道をしたい
再会した時に真っ先に思う事は『何で此処に居るの?』
46
﹁私と勝負してくれ
﹂
どう言う事でしょう。﹂
!
周桜君。︶
?
﹂﹂
!
お互いに構える。
﹁﹁はい
﹁一本先取で宜しいですか。﹂
会長さん、もとい宮本さんは俺が来た時には既に位置についていた。
袴と防具を装着して位置につく。
* * *
こうして、俺と剣道同好会の会長で試合をする事になった。
︵勿論受けますよ。俺も久しぶりにやりたいですから。︶
︵どうするの
会長さんはそう言って目を輝かせている。好戦的な人なのだろう。
多にないからな。﹂
﹁言った通り、私と君とで試合をするのだ。何せ、男と一戦交えるなど、貴重な経験は滅
入会を許可する代わりに試合を申し込まれた俺。何それなんて少年漫画だよ。
﹁・・・え∼っと
?
47
﹁始め
﹂
﹂
﹂
面に一撃を叩き込む。宮本さんはそれを防げずに面に竹刀が当たってしまう。
﹁面‼
俺の剣道のスタイルは﹃やられる前にやれ﹄なので、速攻で取りに行く。
!
?
!
た。
﹁宮本さん、ありがとうございました。﹂
﹁こちらこそありがとう。貴重な経験だったよ。﹂
その後俺は正式に同好会に入る事が決定した。
因みに月 水 土の週三回だ。
* * *
?
﹁いやぁ∼、凄かったねぇ周桜君。それに袴姿も格好よかったよ。﹂
﹁ありがとうございます。それより閻魔様はこの後どうするんですか
﹁実はね、私がここに来た時、ある条件を出されたの。﹂
﹂
蹲踞の姿勢を取り、竹刀をおさめる。そのあと立ち上がり、お互いに下がって礼をし
﹁勝負あり
再会した時に真っ先に思う事は『何で此処に居るの?』
48
﹂
唐突に何かを話し始める閻魔様。
﹁条件
﹁えっ・・・
付き合うって俺と閻魔様がですか
﹂
?
﹂
?
﹂
?
﹁閻魔様・・・。﹂
﹁良いの。君じゃないと・・・嫌なの・・・
﹂
閻魔様はちょっと涙目になって俺の事を見つめ返してくる。
かもしれないじゃないですか。閻魔様は・・・それでも俺なんかで良いんですか
!
﹂
でも、いくら男が少ないからって言っても・・・俺より良い男だってもしかしたらいる
﹁俺も閻魔様の事は・・・その、魅力的だと思います。俺なんかには勿体無いくらいに。
閻魔様を真っ直ぐに見つめて俺の気持ちを吐露する。
﹁ふぇ
﹁でも・・・俺なんかでいいんですか
ばならないという条件を出されたのか。
・・・これは凄いことになってきた。閻魔様は下界に降りる為に俺と付き合わなけれ
﹁うん・・・。﹂
?
途切れ途切れだが、とんでもない爆弾発言をした閻魔様。
﹁そう。それは・・・君が・・・その、18になるまでに君と恋人になる事・・・。﹂
?
49
?
﹁それに君こそ、私みたいな仕事投げ出して来る女なんかでもいいの
﹁周桜君・・・
るから。﹂
﹂
﹂
﹁俺は良いんです。そういう悪い所を全部含めた上で、俺は貴方の事が魅力的だと思え
?
何・・・
﹂
?
﹂
きっと泣いているんじゃ無いだろうか。
閻魔様はそのまま俺に抱きついてきた。顔は見えないけど、時々聞こえる嗚咽から、
!
?
﹁はい・・・
此方こそ、よろしくお願いします
﹂
!
です。
時々行動が読めないし、抜けているところもあるけれど、それでも、俺の一番の彼女
初めて出来たガールフレンド。
!
﹁閻魔様、不甲斐ない俺ですが、これから宜しくお願いします。﹂
最初のキスはあちらからだった。だから今度は俺から彼女へと。
覚悟を決めて、俺は閻魔様にキスをする。
﹁え・・・
?
﹁閻魔様、ちょっと良いですか・・・
再会した時に真っ先に思う事は『何で此処に居るの?』
50
﹂
閻魔様だって女の子なんです
﹁周桜君、起きて
んん∼・・・。﹂
?
日だ。
﹁閻魔様ぁ、どうしたんですか・・・
今日は学校ありませんよ
﹂
?
﹁今日は君と買い物に行く日だよ
早く準備しないと
﹂
!
﹂
﹁それにほら、この前の事思い出すたびに、私の心臓がこんなになっちゃうんだよ・・・
すっげえ柔らかい。
そう言いながら閻魔様は俺の左手を両手で包んで彼女の胸に当ててきた。ヤベェよ、
?
ジャマの中から見えていた。朝から眼福です。ありがとうございます。
そ う 言 い な が ら 俺 の 左 側 で 横 に な っ て い る 閻 魔 様 の 事 を 見 や る。見 事 な 谷 間 が パ
?
閻魔様が俺の事を横からつついて起こしてくる。現在は6時半。そして今日は日曜
﹁ん
?
51
そう、つい4日前の事だ。俺が閻魔様に告白して、OKをもらったのは。あの後閻魔
左手から閻魔様の心臓の鼓動が伝わってくる。少し脈が早くなっていた。
?
様を俺の自宅に連れて帰ってきたのだ。
因みに俺と閻魔様が一緒にベッドで寝ている理由は、最初俺は床で寝るつもりだった
のだが、閻魔様が半ば強引に俺の事をベッドに引きずり込んでくる物だから、今はこう
して2人でベッドを使っている。
そして同じ布団で寝てから気づいたのだが、閻魔様の寝相は恐ろしく俺の身体に悪
い。何故かと言うと、俺の事を抱き枕にしてくるからだ。あんな存在感のあるものを寝
ている間ずっと押し付けられるなんてある意味一番酷い拷問だ。やはり可愛くても閻
魔様は閻魔様だった。
﹁ではそろそろ起きますか。朝飯作ってきますね。﹂
なんだかんだ言っても、閻魔様との生活は楽しいです。
﹁あっ、私も手伝う∼。﹂
* * *
裕が出来たので話をしていた。
二人とも朝食を食べ終わり、食器を片付ける。そして着替えも終わり、少し時間に余
﹁﹁ご馳走様でした。﹂﹂
閻魔様だって女の子なんです
52
閻魔様は閻魔様じゃないんですか
﹂
﹁そう言えば周桜君には私の真名を教えなきゃ駄目だね。﹂
﹁真名
?
﹂
?
﹁むぅ∼
様付けちゃ駄目
﹁うんうん
なあに
呼び捨て
!
周桜君
?
﹂
?
﹂
!
* * *
反則だ。
とても眩しい笑顔でそう呼ばれて、顔を真っ赤にしてしまう。この可愛さはやっぱり
﹁うん、分かった。周桜♪﹂
此方が呼び捨てなのに摩夜だけ君付けは少し不平等だ。
﹁摩夜も俺の事は周桜で良いよ。﹂
!
﹁え∼っと、じゃ、じゃあ・・・摩夜。﹂
!
やはり閻魔様は閻魔様なので、どうしても様付けで呼んでしまう。
﹁摩夜・・・様
摩夜︵まや︶って言うの。﹂
﹁それは役職名みたいな物だよ。私の真名はね、
?
53
そんな訳で、俺と摩夜は大型のショッピングモールに来ていた。ここはこの前俺が調
理用具や剣道の道具を買った所と同じ場所だ。
逸れてはいけないので、俺は摩夜と手を繋いで歩いている。一人で来た時よりも視線
﹂
の量が多く感じるのは気のせいではない筈だ。
﹁まずは何処へ行こうか
因みに摩夜は俺の服を着ている時はずっと
のだ。
で回していたのだ。俺の服を着せるのも彼女に悪いので、今日こうして服を買いに来た
と女の子と言えども臭ってしまうので、摩夜の服↓俺の服↓摩夜の服とローテーション
今の摩夜の服装は、摩夜が初めて此方は来た時と同じ格好だった。一日毎に洗わない
﹁やっぱり服が欲しいなぁ。これとパジャマくらいしか持ってこれなかったから。﹂
?
﹂
?
﹁駄目だよ周桜、これじゃ胸が入んないもの。﹂
俺は彼女に似合いそうな服を何着か見繕って彼女の元へと持ってきた。
﹁摩夜、これはどうかな
服飾店に到着すると同時に、摩夜は服を見ていく。
と言っていた。摩夜は結構ナチュラルに変態だ。
﹃周桜君の匂いがする∼♡﹄
閻魔様だって女の子なんです
54
﹁あっ・・・そうか。﹂
彼女の胸はかなりでかい。元の世界なら間違いなくグラビアアイドルとしてやって
いけたであろうプロポーションを持っているのだ。
そして彼女の﹃胸が入らない﹄の発言で店の中の何人かがピクリと反応していた。コ
ンプレックスなんですね、分かります。
﹂
俺は持ってきた服を所定の位置に戻して彼女の元へと戻る。
いた。
﹁どっちも似合う・・・は駄目
方が嬉しいんだよ
﹂
﹁う∼ん、それはそれで嬉しいんだけどね
?
こっちも似合うんだけどなぁ。
そう言って摩夜は試着室に入っていく。
﹁はぁい、ちょっと待っててね。﹂
﹁じゃあ、右手のワンピースで。﹂
女の子は﹃どっちが良い﹄って言ってくれた
そうなのか。今まで碌に女子と話してこなかったツケが回ってきた。
?
?
﹂
彼女の両手には、それぞれ白のカットソーと同じく白のレースワンピースが握られて
﹁ねえねえ周桜、どっちが良いかな
?
55
そう思った俺は彼女が着替えている間にこっそりとこれを購入した。家に帰ったら
プレゼントしよう。
どうかな周桜
似合ってる
﹂
カットソーを購入して、カバンに仕舞うと同時に摩夜は試着室から出てきた。
﹁ジャジャーン
?
?
ドコートで少し早めの昼食を取っている。
そう言いながら某Mのつくハンバーガーショップのポテトを頬張る摩夜。
﹁下界の食べ物も中々美味しいねぇ。﹂
﹁そりゃあもう
時々下界の事を見ていると食べたくなるんだよね。﹂
?
﹁あれ、天海君
こんな所で何やってるの
﹂
?
後ろを振り向くとそこには俺のクラスメイトの荒垣ともう一人バレーボール部の・・・
?
そんなことを話していると、後ろから声を掛けられる。
﹁ああ∼分かるわそれ。テレビとかで人が食ってる物って結構美味そうだもんな。﹂
!
﹂
その後も色々と服を見て回り、気づけば11時半になっていた。今はモール内のフー
な表情をして、また元の服に着替えた。
彼女の問いかけにとてもいい笑顔でサムズアップする俺。摩夜はそのまま嬉しそう
﹁ああ、すっげえ可愛い。﹂
!
﹁向こうのは和食ばかりだったからな、こう言うのも摩夜にとっては新鮮なのか
閻魔様だって女の子なんです
56
﹂
確か眞鍋だったか、と三人程見慣れない女子がいた。
﹁俺はこいつと買い物していた所。そっちは
初めまして、1│3の加藤だよ。こっちは同じ1│3の佐藤と前園。﹂
?
﹂
?
俺の発言遮るなよ・・・。﹂
摩夜が少しだけ語気を強めて挨拶する。もしかして怒ってる
周桜。﹂
?
﹂
?
﹁それは何に対して
﹂
﹁・・・・・・ごめん。﹂
これはやばい、完全に怒ってる。目が笑ってないもの。
﹁なあに
﹁あの・・・摩夜
その後、摩夜の気迫に押されたバレー部達と別れ、俺はまた摩夜と話しを続ける。
?
﹁ああ、こいつは俺の彼z﹁初めまして、周桜の彼女の摩夜です。どうぞよろしく。﹂ちょ、
﹁それで天海君、そこの女の子は
新垣の後ろにいた背が小さい童顔猫目の女の子が挨拶してきたので俺も挨拶を返す。
﹁君が天海君
そう言うと荒垣は﹃うん。﹄と少しだけ頬を赤らめて頷いた。
﹁へえ、楽しんでこいよ。﹂
﹁私はバレーボール部の皆とちょっとね・・・。これから新入生の歓迎会なんだ。﹂
?
57
?
﹁お前への配慮が足りなかった事に対して。﹂
﹁・・・はあ、もう良いよ。私もちょっと大人気なかった。﹂
何とか仲直りも出来て、俺は内心でホッとしていた。
女の子って怒らせると怖え。
* * *
ゲーセンでも行く
﹂
その後は特にやる事も無く、ただ適当に店内をぶらついていた。
﹁どうする
﹁う∼ん、私あそこはちょっと苦手・・・。﹂
?
やっぱりゲーセンは人を選ぶ。
﹂
入れた本数に応じて豪華景品をプレゼント
﹁そうだな、やってみるか。﹂
﹄
と書いてあった。場所はこのモールの屋上にあるコートで行われているそうだ。
!
摩夜が指差した先にあるディスプレイには、
﹁ねえ、あれはどうかな
?
﹃フリースロー10本勝負
!
?
﹁そう、じゃあどうしようか・・・。﹂
閻魔様だって女の子なんです
58
バスケは前の世界でも偶にやっていたため、スポーツの中では割と得意な方だ。
俺と摩夜は、そのまま屋上へと向かった。
* * *
どなたか参加しませんか⁉
﹄
﹃さあ次のチャレンジャーは、何と男の子だぁ 彼はこの重圧に耐えられるのかぁ⁉
!
レーンに立ち、ボールを手に取りルーティンを取る。
そのまま一本目を放つ、成功だ。
﹄
コートの周りには既に人だかりが出来ており、ここからじゃあコート内の様子がわか
﹂
?
らなかった。
﹃さあ商品も残すはパーフェクトの景品のみ
﹂
パーフェクトのみって事は一本も外せないのか。
﹁周桜、行ける
俺やります
!
周囲の視線の集中放火も何のその、俺はコートに入ってルールの説明を受ける。
ハーイハーイ
﹁やれるかどうかはわかんないけど、やってみるよ。
?
!
その調子のまま、9本目までをノーミスで決め、遂にラスト。手のひらが汗で湿って
?
!
59
おめでとう御座います
滑るが何とかぬぐい取り、10本目を放つ。
パーフェクト達成です
﹄
!
﹃なんとー
!
﹁ふぅ、やっと帰ってこれたねぇ。﹂
* * *
グモールを後にした。
周囲も大歓声をあげている。景品の現金5000円をもらい、俺と摩夜はショッピン
!
なあに
﹂
?
﹁お前にプレゼント、今日は楽しかったよ。ありがとう、摩夜。﹂
俺は午前中に購入した白のカットソーを彼女に手渡す。
﹁んん
?
﹁なあ、摩夜。ちょっといいか。﹂
タグを素早く切り取って部屋のタンスへとしまっていく。
少し予定より遅くはなったものの、何とか無事に帰ってくる事が出来た。摩夜は服の
﹁ああ、結構疲れた・・・。﹂
閻魔様だって女の子なんです
60
﹁えっ・・・、いいの
私の買い物だったのに。﹂
?
﹂
!
こうして週末の買い物は終わりを迎える。明日は忌々しい月曜日だ。
﹁ありがとう、周桜
﹁良いんだ。これとっても似合っていたから。﹂
61
﹂
実際4月は大した行事が無い
﹁気をつけ、礼
﹄
﹂
?
﹂
?
当。
﹁じゃあ改めて、高山先生、なんの御用でしょうか。﹂
男性保護機関の佐々木さんとかだろうか。
﹁ああ、実は君に用事があると言う外部の方が見えているのだ。ついてきてくれるか
外部の方・・・
﹁分かりました。﹂
?
その言葉に従って付いていく。まさかこの後あんな事が起こるなんてこの時の俺に
?
﹂
声の主は試験の時に会場に案内してくれたジャージの先生だ。因みに体育の科目担
﹁ジャージ先生じゃないですか。どうかしましたか
そう思っていると、廊下から俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
﹁すいませ∼ん、天海君まだいますか
今日も一日が終わる。今日は月曜なので、これから市営体育館で剣道だ。
﹃ありがとうございました
!
!
﹁ジャージ先生・・・私は高山だ。﹂
実際4月は大した行事が無い
62
は思いもよらなかった・・・。
* * *
そこにかけて頂けるかしら
﹂
高山先生に連れて来られたのは高価そうなソファとテーブルが備え付けられた応接
室だった。
﹁校長、天海君を連れて来ました。﹂
﹁有難うございます、高山先生。貴方が天海君ね
?
先ず先に口を開いたのは、校長とキャリアウーマンに挟まれる形で座っている眼鏡の
丁寧に説明して下さる校長先生。校長の横に座っている二人の女性の方を見やる。
で決める訳にもいかないから、こうして来てもらったのよ。﹂
﹁貴方に来て頂いたのはね、この二人が貴方に頼みたいことがあるそうなの。私の一存
こには無い。
校長先生と来賓の二人に一礼して椅子に座る。荷物はまだ教室に置いているのでこ
﹁では、失礼致します。﹂
キャリアウーマンっぽい女性がいた。
応接室には淑やかな雰囲気の校長先生と、あと2人、眼鏡を掛けた女性とやり手の
?
63
女性だ。
﹁初めまして、天海さん。私はこういう物です。﹂
そう言って渡された名刺には
は俺・・・じゃ無い私にどう言ったご用件で此方にいらしたんで
﹃夕日新聞の金森佐和子︵かなもりさわこ︶﹄︵要約︶
と書かれていた。
﹁えーっと、金森さん
しょうか。﹂
﹂
取材か・・・。前の世界ではそんな事に縁は無かったからなぁ。
す。﹂
﹁はい、実は貴方の事を取材したくて。許可を頂くべく、こうしてここに参上した次第で
?
?
無礼を承知で言わせて頂きますが、まるで意味がわかりません。﹂
?
曰く、国が、世界が存在を把握出来なかった男。
そう言ったら金森さんは少し興奮した様子で俺の﹃特異性﹄を説明してくれた。
だって本当に分からないんだもの、仕方ないじゃないか。
﹁特異性・・・
﹁それはですね・・・貴方のその特異性故にです。﹂
結果的にこういう疑問を正直にぶちまけてしまう。
﹁何故私を取材しようなどと
実際4月は大した行事が無い
64
曰く、世界中のどの男性よりも優れている容姿。
曰く、過去存在しなかった、女性を嫌わない男性。
そして極め付けに、この世界では最早絶滅したとすら言われる本物の﹃大和男子﹄と。
三つ目について幾つか補足をすると、この世界では男性の人口が極端に少ない為、女
性が男性を︽自主規制︾する事が珍しくないそうだ。そして男性はそんな女性という﹃種
族﹄を嫌うらしい。これは長い歴史の中で形成された溝のような物であり、最早修復の
できないレベルの深さになったのだとか。
そんな中、ひょっこりと現れ、女性に対して忌避の感情を向けず、社会に溶け込む﹃天
海周桜﹄という男性は、全女性の憧れの的・・・らしい。
こんな事を金森さんは説明してくれた。
ただ、別に俺の容姿は決してイケメンではない。精々中の上がいいとこだ。摩夜とい
う絶世の美少女、というか閻魔様が側にいるせいで余計そう思ってしまう。
﹄という事だろう。
少し脱線してしまったので、話を戻そう。詰まりは﹃世界が貴方の事を知りたがって
いるから取材させてくれ
!
します。それでも構いませんか
﹂
﹁・・・いいでしょう。唯一つだけ、周囲に迷惑をかけた時点でこのお話は無かった事に
65
?
帰った。
その後は、取り敢えず二人にお引き取り願い、普通に同好会に顔を出して自宅へと
* * *
る。
剣道の同好会に顔をだして、その後テレビ局で特番の収録をするそうだ。ハードすぎ
因みに、学校の無い土曜日に両社の取材を受ける事となった。午前中に新聞の取材、
こうして俺は、世界のゲスな要求に応える事となった。
流石にそれはちょっと恥ずかしいし、摩夜の事もあるので丁重に断った。
ただ一つ違う点は、俺の自宅を見たいとの事。
此方も要求は金森さんと同じだった。
あおば︶さんだ。
例によって名刺をもらう。こっちはテレビ局だ。そしてこの女性は田中青葉︵たなか
金森さんの方はオッケー。次はキャリアウーマンの方だ。
﹁有難うございます。そのような事が無いよう、尽力致します。﹂
実際4月は大した行事が無い
66
そして、取材の件を摩夜に話すと
﹄
そして運命の土曜日。俺は金森さんに連れられ、近くの喫茶店で取材を受けている。
* * *
けやすくなる。俺は既に摩夜と二回しているので、かなり恩恵をうけているそうだ。
けで良いのだとか。しかも、キスの回数が増えれば増えるほど、眷族は加護の恩恵を受
そして寝る前に、摩夜に眷族になる条件を聞くと、マウストゥマウスでキスをするだ
既に連絡済みだ。
程手間はかからないらしい。それを聞いて、俺も摩夜に同行する事になった。学校には
りと、凄い手間がかかるそうだ。ただ、俺は転生の時に既に一度経験している為にそれ
俺も一応、摩夜の眷族として行くことには行けるのだが、肉体を一度精神体に変えた
けないらしく、そのせいで体調を崩していないかどうかを検査する為だそうだ。
なんでも、超常の存在がこの世界に来る為には、能力にいくつもの枷をしなければい
に帰らなければいけないらしい。
と怒られた。そう言えば、摩夜は俺が取材を受ける次の日から一週間、一度上の世界
﹃受ける前に私に言ってくれても良かったのに
!
67
摩夜には家で上の世界へ向かう為の準備をしてもらっている。
そ し て テ レ ビ 局 へ と や っ て く る。局 内 に 入 る と、何 人 か テ レ ビ で 見 た 事 が あ る か
* * *
景を写真やビデオに収めているだけだったので、ちょっと肩透かしを食らった気分だ。
そして取材も終わり、次は剣道の同好会活動をする為に体育館へと向かう。練習の風
奴は一回ボランティアにでも行ってこいと答えた。
満は無い。これ程の待遇を受けて﹃こんなんじゃあ満足出来ねえぜ﹄などと言っている
後者に関しては、格段なんて言葉じゃあ生ぬるい程の好待遇を受けているので特に不
ならジロジロ見るのをやめて欲しいと答えた。
前者は基本的にこの世界の女性は美人なので悪い印象は持っていない。強いて言う
のかなどを聞かれた。
通り聞いた後、この世界の女性についてどう思うか、社会のシステムには満足している
取材は順調に進んだ。生年月日、身長、体重、血液型、趣味などのプロフィールを一
そう言って金森さんはテーブルの上のボイスレコーダーのスイッチを入れる。
﹁では、始めましょうか。﹂
実際4月は大した行事が無い
68
も・・・
って人を見かけた。あまりテレビ見ないからね。
などと思考を巡らせるが、ADさんが移動を知らせてくれる事を思い出し
﹁ねえねえ、そこの君
﹂
そして移動していると、ふと後ろから声をかけられる。
真っ赤になってしまった。
れた。労いの言葉をかけると元々赤かった顔が茹でられたタコもびっくりなレベルに
ドアをノックされて、開けると何故か汗まみれになっているADさんが呼びに来てく
押しかけていたことを。
だが周桜は知らない。彼を一目見るために局の中の女性が一斉に彼の部屋の前へと
た俺は、そのままお茶を飲んで時間を潰していた。
いるのか
控え室で待っていると、何やら部屋の外がガヤガヤと騒がしい。もしやもう移動して
そして控え室につくなり、衣装と思われる服装に着替えさせられ、メイクを施される。
?
?
何でしょうか。﹂
?
ドルグループか何かだろう。
振り向くと、そこには似たような格好をした17、8くらいの女性が四人いた。アイ
﹁はい
!
69
ああ。﹂
﹁君がテレビでやってた天海君
﹁テレビ・・・
﹂
?
﹁やっぱり
写真で見るよりいい男だわぁ・・・。﹂
そう言うとその子達は手を叩いて喜んでいた。
﹁まあ、そう・・・ですね。﹂
入院していた時にニュースでそんな事をやっていたなと思い出す。
?
ドル達の頭をクリップボード︵縦︶で殴っていた。痛そう。
居心地の悪さを感じ、戸惑っていると彼女らの後ろから、田中さんがやってきてアイ
リした視線だけはいつになっても慣れない。
アイドルと思われる四人組にこれでもかと言う程視姦される。正直こういうネット
!
その後収録も終わり、自宅へ帰ってきたのは夜の12時を回った頃だった。眠い・・・。
* * *
突然の救世主の登場に心の中で両手を挙げ、スタジオへと向かった。
﹁いえいえ、慣れっこですから。﹂
﹁ごめんなさいね、天海君。﹂
実際4月は大した行事が無い
70
実は今日は夜の10時頃には帰れるはずだったのだ。だったのだが、収録終了後に出
演者の女性の質問に丁寧に答えていたのと、あのアイドル達に控え室に行く寸前までベ
タベタと身体を触られながら歩いていたので、局から出るのが遅れてしまった。
﹁流石にもう寝てるよな・・・。﹂
そう思いながら玄関のドアを開けると、まだリビングの電気がついていた。
まさかと思い、リビングへと向かうと、ソファに座ったまま眠っていた摩夜の姿が
あった。
﹁帰ってくるまで待っててくれたのか・・・。﹂
その健気さに心を打たれ、ちょっと目頭が熱くなってしまった。その後摩夜をベッド
へ運んでシャワーを浴びた後、俺も寝る事にした。
余談だが、俺がベッドに入った瞬間に待っていたかのように摩夜は寝たまま抱きつい
てその双丘を俺の身体に押し付けてくる。本当に寝ているのだろうか
さらに余談だが、俺が出た特番は、視聴率が40%を超えたらしい。
?
71
﹂
﹃限度﹄って言葉知ってます
﹁じゃあ周桜、準備はいい
?
た。
﹁はあっ
﹂
ような感覚だ。前と違うのは意識が薄れない事か。
すると俺と摩夜の身体が輝き出して、だんだんと影が薄れていく。転生した時と似た
?
の補佐が着用する服装らしい。摩夜の補佐は女性しかいなかったので、今初めて知っ
因みに俺も、全身黒の袴に、真っ赤な羽織を着ている。どうやらこれが男性の閻魔様
には冠を被っているといった感じだ。
俺が初めて彼女に会った時と同じ格好をしていて、赤を基調とした道服に笏、そして頭
今日は摩夜が上の世界へと帰る日だ。俺も眷族として同行する。今の摩夜の服装は
﹁ばっちこい。﹂
?
だが、閻魔様って仏教の存在なのになんで補佐は袴と羽織を着用するんだろう
﹂
?
そう言って差し出される摩夜の右手を俺の左手でしっかりと掴む。
﹁はい、手繋いで
『限度』って言葉知ってます?
72
!
摩夜の掛け声で俺たちの身体は完全に元の世界から消滅した。
﹂
こ れ か ら 語 ら れ る の は、俺 と 摩 夜 が 上 の 世 界 で 過 ご し た 一 週 間 を 記 し た も の で あ
る・・・。
* * *
﹁はい、とうちゃーく
﹁おー
面白れぇ
﹂
!
?
﹁お待ちしておりました。閻魔様、周桜様。﹂
﹁ありがとう茜ちゃん。朱︵しゅー︶ちゃんと紅ちゃんは
﹂
暫くそうして遊んでいると、摩夜の補佐と思われる方が此方に来た。
!
何度かぴょんぴょんすると、着地するたびに地面から綿が舞い上がっていた。
﹁すげえ・・・。﹂
るような、ふわふわした綿のような何かで覆われていた。
上を見ると、雲ひとつないクリーム色の空が広がっており、地面はまるで雲の上にい
目を開くと、そこは下の世界とは全く違う世界だった。
!
73
﹁彼女らは本殿で待っています。﹂
﹁そっかー。行こう、周桜。﹂
俺は摩夜に手を引かれて茜さんと本殿へと向かう・・・筈だった。
﹁ああ、そうだな、摩夜。﹂
ああ、軽々しく真名を出したらやっぱり駄目ですか
﹂
﹁周桜様、こちらの世界では彼女の事は﹃閻魔様﹄とお呼びになって下さい。﹂
﹁え・・・
?
そういう事情ならここで真名を呼ぶわけにはいかない。
方にしか教えてはいけないので。﹂
﹁ええ。彼女の場合は特に・・・。此方側の世界では真名と言うものは生涯の伴侶となる
?
* * *
俺達は茜さんに連れられて、俺と摩夜が初めて出会った本殿へと向かう事となった。
のっとった方がいいだろう。
明らかに摩夜のテンションが下がっているが、今は此方にいる以上、此方のルールに
﹁うん・・・分かった・・・。﹂
﹁分かりました。では﹃閻魔様﹄、行きましょうか。﹂
『限度』って言葉知ってます?
74
﹁そういえば、閻魔様以外の閻魔様っているんですか
素朴な疑問をぶつける。
﹂
?
総務的な役割をしている閻魔大王様がいます。﹂
茜さんが丁寧に教えてくれる。そうだったのか。
﹁私は関東の担当だったんだよね∼。﹂
﹂
﹁閻魔様が任された場所は一番仕事が多い所なので、優秀な人しか出来ないんですよ
﹁ということは、閻魔様は優秀な人物って事ですか
?
女性で初めて、しかも一番忙しい部署を任されたのです。﹂
待てよ、だとしたら摩夜って相当凄い奴なんじゃ・・・。
心を読まれた。プライバシーも何も無いなこの世界は。
﹁ええ、だからそんな方と付き合える貴方は幸運ですね。﹂
﹁まあ、優秀過ぎるが故の問題もある訳ですが・・・。﹂
何だろうか・・・。俺が転生する前の職権乱用発言とかか
いた。しかも全員男性だ。
そんな事を考えているうちに本殿へと到着する。そこには何故か人だかりが出来て
?
﹁ええ、閻魔様は史上初の女性の閻魔様です。今まで男性しか出来なかったこの仕事を、
?
﹂
﹁ええ、この方以外にあと七人ほど。各地方毎に一人の計算ですね。さらにこの上には
75
﹁げっ・・・。やっぱりあいつらいるの
﹂
摩夜が明らかに嫌そうな表情を見せる。こんな顔を見たのは初めてだ。
?
え
え
何
誰か俺にも分かるように説明してくれ。
﹁ええ・・・毎回毎回懲りないんですよ・・・。﹂
?
?
結婚
やっぱり神様や仏様も結婚するのか。
﹁貴方の想像以上に、閻魔様は凄い人なんですよ
﹂
何せ大王様のお孫様ですからね。﹂
﹁あのね・・・あの男達は全員私と結婚したいって言っている連中なの。﹂
?
ここに来て衝撃の真実が発覚した。まさか摩夜が閻魔大王様の孫だったなんて・・・。
﹁ええええええええええええええ⁉
?
?
?
ね。﹂
?
そうだったのか。やっぱり大王様は忙しいんだろう。
待てよ・・・。もしかして閻魔様の歳って結構いってるのか・・・
?
﹁え・・・。閻魔様って何月何日生まれ
﹂
﹁厳密に言えば閻魔様の方が数ヶ月年上ですね。﹂
んで発言して欲しいな。まあ私は君とほぼ同い年だけどね
?
﹂
﹁失礼だね周桜は。そういう正直なところが好きなんだけども、偶にはオブラートに包
﹁ん・・・
﹂
﹁とは言っても直接会った事は下に降りるために許可を貰いに行った時だけなんだけど
『限度』って言葉知ってます?
76
!
一応聞いてみる。因みに俺の誕生日は8月3日だ。
﹁3月25日ですよ。﹂
﹁じゃあ同じ年に生まれたけど、学年的に言えば一つ上なんですね。﹂
こちらにきてから驚きの連続だ。一週間もいて俺の身体はもつのだろうか。
* * *
﹂
こんな奴よりも私と
ぜひ俺と結婚して下さい
﹂
是非俺と永遠の仲に
﹂
本殿の前に降りると、摩夜の存在に気づいた男の神様達が一斉に此方に群がってき
た。
﹁閻魔様
﹁引っ込んでろ三下
!
!
はそう遠くない。
!
こんな状態が7、8分続いた頃、事態は動き出す。
茜さんも俺と同じようにして摩夜を守っている。
﹁頑張って周桜君
﹂
群がる男達の魔の手から我が身を盾にして摩夜を守る。とは言え、俺一人じゃあ限界
!
!
!
﹁いいや、貴様ら等よりも俺の方が相応しいに決まっている
!
77
﹁ああもう邪魔なんだよ
使用人風情が
﹂
!
﹁す、周桜
﹂
でくる。それを見た他の神様も髪やら羽織の裾やらを握ってきた。
いい加減うざったらしくなって来たのか、そう言うなり、神様の一人が俺の腕を掴ん
!
!
﹁皆して何⁉
﹂
そんなに私との結婚が大事なの⁉
結ばれたいの⁉
?
?
他人を傷つけて、そうまでして私と
?
留まっている。
だが、摩夜の大声で今までの喧騒は嘘のように静まった。振り上げられた拳も空中で
﹄
骨が折れてでも受け止める覚悟でいた。
避ければ摩夜に当たってしまう。元々避けれないし、避ける訳にもいかない。ここは
拳を入れようとしてくる。
是が非でも退けようとしない俺にいい加減キレたのか、遂に神様の一人が俺の顔面に
何が男だ
それでも俺の意識がある間だけは絶対にこの場は譲れない。女の子一人守れないで
!
!
﹃いい加減にしてよ
『限度』って言葉知ってます?
78
﹂
それに私は周桜が好きなの
もう放っておいて
我慢の限界が来たのか怒鳴り散らす摩夜。目は既に真っ赤になっている。
よ・・・
﹁そ ん な 人 と 結 婚 な ん て し た く な い
!
認めない
﹂
そんなのは認めない
方が優れているというのに・・・
﹁なっ・・・
!
そんな使用人なんかより・・・この俺の
!
﹃優れてねぇから選ばれなかったんだよ阿呆が。﹄
!
!
摩夜は顔を上げると、そのまま俺の首に腕を絡ませてきた。いつも以上に強く。
﹁すおぉ・・・うぅぅ・・・。﹂
んと泣き止んでくれるまで、ずっとこうしていよう。
そういって赤ん坊を宥めるように背中を優しくさする。まだ嗚咽が聞こえるが、ちゃ
い・・・。﹂
して俺自身に誓います。だから、もう泣かないで下さい。貴女には涙なんて似合わな
﹁大丈夫です。これから何が起ころうとも、俺は貴女の側を離れません。貴女自身に、そ
俺は摩夜の元へ行き、思いっきり抱きしめる。
﹁閻魔様・・・。﹂
呆然としている。
そう言った瞬間に、くずおれて両手で顔を覆い泣き出してしまう摩夜。周りの神達は
!
!
79
俺を殴ろうとした神が髪を掻き毟りながら言ったその台詞に、間髪入れず返した天の
声。
上を見ると、袖のない黒の袴を着て、首に勾玉のネックレスをかけているボサボサ頭
の男性が浮いていた。
その男性は此方の側に降りてくると、さっきの騒ぎを起こしていた神たちに向かって
こう言い放つ。
﹁さっさと帰れ。仕事の邪魔になる。﹂
えっ、それだけですか
何故こんな場所に
﹂
﹂
?
* * *
まさかの日本神話最メジャーな神様の登場に俺は驚きを隠せなかった。
﹁って、スサノオ様ぁ⁉
茜さんがそう言う。
!
な・・・そんな帰り方だ。
だが、神達は渋々と散らばり出す。まるで絶対に勝てない人を相手にしたかのよう
?
?
﹁スサノオ様
『限度』って言葉知ってます?
80
﹁へぇ、オメェがあいつの眷族かい
は思ってもいなかった。
﹂
﹂
﹁そんなに固くなんなって・・・。それよりスオウ、さっきは中々のガッツだったぜ
﹁あ、ありがとうございます
﹂
かなり緊張した声でなんとか挨拶をする。まさかスサノオ様にこんな所で会えると
﹁は、初めまして。天海周桜と申します・・・。以後お見知り置きを。﹂
?
﹂
﹁面白ぇ奴だなぁお前さん。さっきまでのイケてたお前さんはどこへ行っちまったんだ
思いっきり頭を下げる。それを見たスサノオ様は腹を抱えて笑いだした。
!
!
81
﹂
!
﹂
!
で・・・。﹂
﹁あらまあ、あんなにかっこ良かったのに・・・まあでも、こっちの周桜君もこれはこれ
﹁いや、あれはその、本心を言っただけなんです
そう言ってくるのは、摩夜の補佐をしている三人の内の一人の紅︵べに︶さんだ。
た・・・
﹁で も さ っ き の は 本 当 に 格 好 良 か っ た で す わ。私 も 貴 方 み た い な 殿 方 に 出 会 い た か っ
思わず口ごもってしまう。
﹁いや・・・あれは、その・・・主人を守るのは眷族の務めと言いますか・・・その。﹂
?
ジュルリ、という音が聞こえてきそうだ。紅さんの服装は基本的に摩夜と同じ、赤い
道服なのだが、摩夜と違ってこちらは着崩しており、摩夜以上のプロポーションの持ち
主のため、かなり目のやり場に困る。因みにもう一人の朱︵しゅ︶さんは、眼鏡をかけ
﹂
た大人しそうな人で、今は摩夜と一緒にいるため、ここにはいない。
﹁おいおい、人の旦那を寝取る気かい
?
その後、摩夜が帰ってくると、検査を受ける為に移動を始めた。
りの人間は個性的すぎる。というかその返答はちょっとヤバいんじゃないですかね。
スサノオさんがそんな事を言い、紅さんはそれに対して上のように答えた。摩夜の周
﹁寝取るなんて人聞きの悪い。ちょっと試食するだけですわ。﹂
『限度』って言葉知ってます?
82
勉強会って結局喋るだけで終わる事の方が多い気がする
俺たち閻魔様一行+スサノオ様は摩夜の検査をする為の施設に来ていた。ごくごく
﹂
普通の和式の民家にしか見えないが、ここにはオオクニヌシ様が住んでいるらしい。
﹂
﹁オオクニヌシは俺の子どもって事は知ってるだろ
﹁はい。確かスサノオさんの六世でしたっけ
いった。
そ う い っ て ス サ ノ オ 様 は 中 へ と 入 っ て い く。俺 た ち も 後 を 追 う 形 で 中 へ と 入 っ て
﹁そんじゃ、入ろうぜ。話はつけてあるから。﹂
なれた。
そうだったのか。俺が知っているのは﹃因幡の白兎﹄くらいだったのでまた一つ賢く
は医者としてやっているのは、そういう理由だ。﹂
﹁スクナビコナと協力してまじないや医薬の道を開いたとされている。あいつがここで
スサノオさんは一拍溜めてまた口を開く。
いるんだが・・・。﹂
﹁ああ。下界では﹃因幡の白兎﹄が有名だな。まあ、それ以外にも国を造ったり色々して
?
?
83
* * *
﹁・・・ふむふむ、身体にも精神にも特に異常は無し・・・と。流石は閻魔大王様の孫で
すね。丈夫な身体と精神を持っていらっしゃる。﹂
﹁そこの貴方は・・・
見かけない顔ですね。﹂
最早テンプレの流れだ。
それは素晴らしい
!
君も良い眷族を持ったね
!
!
ど起こった婚約者騒動の話をし始めた。
﹁ほお
﹂
スサノオ様は俺の身体を寄せて、背中をバシバシと叩きながらオオクニヌシ様に先ほ
!
﹁初めまして、オオクニヌシ様。閻魔様の眷族の天海周桜と言います。﹂
忘 れ て た 忘 れ て た。オ オ ク ニ ヌ シ、こ い つ は 中 々 見 所 の あ る 人 の 子 だ
!
せ・・・。﹂
﹁お お
なん
オオクニヌシ様に声を掛けられて、俺たちは足を止める。そしてその場で自己紹介。
?
摩夜の検査も一通り終わって、帰ろうとする。だが・・・。
﹃ありがとうございました。﹄
勉強会って結局喋るだけで終わる事の方が多い気がする
84
﹁はい
私の自慢のボーイフレンドなんです
﹂
!
﹁あのぉ・・・そろそろ話を切り上げませんか
周桜様が真っ赤になってますよ
﹂
を忘れないでほしい。聞いててすっごく嬉しいけど、居心地が悪くなってしまう。
褒めてくれるのは嬉しいのだが、その話題の中心なっている人間がすぐ側に居ること
し始めてしまった。
それを聞いたオオクニヌシ様は摩夜へと話をふる。すると摩夜も、スサノオ様達と話
!
?
﹁ん
ありゃあ、ウズメとタヂカラオか⁉
何でこんなところまで・・・。﹂
?
アメノウズメ様とタヂカラオ様は、昔アマテラス様が岩戸に隠れてしまった時に、外
?
﹁なんか二人いますね。さっきの人達ではなさそうですけど・・・。﹂
つい上半身裸の男性と、華奢な女性だ。
本殿へ帰ってくると、また本殿の前に人がいる。顔までは分からないが、すっごくご
* * *
その後、オオクニヌシ様と別れて、俺たちは再び本殿へと戻った。
かったら恥ずかしさで取り乱していた所だった。
この状況に見かねてか、茜さんが話を切り上げるように促す。有難い、もう少し遅
?
85
へ出す役割を果たした神様達だ。
﹂
遠くから様子を伺っていると、ウズメ様が気づいて此方へと向かってくる。
﹁おっ帰りー
危ないじゃないですか
!
だって一回も受け止められなかった事ないもん
﹂
受け止め切れなくて怪我したらどうするんですか⁉
そう言うなり、ウズメ様は摩夜へと抱きついてきた。摩夜は避けようとせず、そのま
!
ま受け止める。
﹂
!
﹁大丈夫だって
!
?
﹁周桜君って君のこと
﹂
こちらを向いて唐突に話を振られる。取り敢えず聞かれた以上は答える。
﹁はい。俺が周桜です。﹂
!
?
﹁へぇ∼。なんかパッとしないなぁー。なんてゆーかこう、面白く無さそう
と
君何かヒョロっとしてて頼り無さそうだし、いざって時に駄目な人って感じ
!
﹂
﹁こうさぁ、男だったらタヂカラオ見たいに牛一匹担いで歩けるくらいに豪快じゃない
グサッ
﹂
見た目は女性用の赤い着物と紺色の袴、そして金色の髪留めをしている女の子だ。
!
﹁も ぉ
勉強会って結局喋るだけで終わる事の方が多い気がする
86
?
ドスッ
﹂
?
﹁ち ょ っ と 待 て ぇ
﹂
それ以上言ってやるな
それ以上言ったら本当に死んじまうから
!
* * *
﹂
﹁本っ当にすまなかった
く言っておくから
!
今の状態はと言うと、大王の孫に抱きついた女神、アメノウズメの容赦ない口撃に
スオウが精神的にやられてしまったので、ここからはこの俺、スサノオが話そう。
﹁いや・・・いいんですよ・・・俺も似たような性格ですから・・・ははは。﹂
!
こいつは昔からこうで・・・今後はこんな事がない様にキツ∼
いきなりの容赦ない一言に、俺は打ちひしがれてしまった。もういやだ・・・。
!
!
﹁もっと言うと・・・﹂
へんじがない。ただの しかばね のようだ。
頃から友達居なかったっしょ
﹁かといって容量が良さそうかって聞かれるとそうでも無いっぽいんだよねー。小さい
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よって抜け殻になっているスオウに、タヂカラオが平謝りしている。
まあ、ウズメは昔からああだったから、俺たちは慣れているんだが、スオウはあまり
そういう事に慣れていないのか、さっきから目が死んでる。
スオウ自身、自分にも似たような所はあると言っていたから、自覚はしていたようだ
﹂
が、他人にああまで言われたのは初めてなのだろう。それにスオウはあそこまで弩スト
﹂
周桜様
﹂
レートには言わないし。
頑張って
﹁しっかりして下さい
﹁周桜君
!
!
!
大王も深刻な表情となる。程度の重さを知っているからだろう。
﹁そうか、あやつの口撃をまともに・・・。﹂
﹁よぉ、大王じゃねえか。実はな、カクカクシカジカで・・・。﹂
そういって本殿へと入って来たのは我らが閻魔大王だ。
﹁どうしたのだ。騒がしい。﹂
上から順に閻魔、茜、紅、そして朱だ。
閻魔とその補佐達が元気付けているが、あいつの再起動にはまだ少しかかりそうだ。
﹁・・・頑張れ。﹂
!
!
﹁周桜、元気出して
勉強会って結局喋るだけで終わる事の方が多い気がする
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﹁どれ、ここは余が一肌脱ぐとしよう。﹂
﹂
﹁これ、そこの人の子よ。﹂
﹁・・・何ですか・・・
﹁うぬの心はその程度で挫けるのか
?
?
﹂
?
﹂
﹁まあ、こんなものじゃよ。﹂
おお、流石は大王だ。もう再起動させやがった。
!
?
﹁はい
﹂
﹁ならば顔を上げよ。前を向け。これしきで躓いていては、閻魔の眷族など名乗れぬぞ
﹁・・・そうですね。﹂
訳無いと思わぬのか
﹁うぬは余の孫が心を開いた数少ない存在。その程度で終わってしまっては、孫に申し
おっ、早いな。少しだけ目に光が戻って来た。
﹁・・・。﹂
そんな事では余の孫を任せる事など出来ぬ。﹂
スオウの再起動を大王に任せ、俺は後ろから様子を見守る。
﹁頼む、多分お前じゃないと無理だ。﹂
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* * *
﹂
スサノオ様たち三人が帰った後、摩夜は閻魔大王様へと質問する。
﹁そういえば大王様は何故ここにいるのですか
﹁なに。可愛い孫の顔と、ついでにその人の子の顔を見に来ただけじゃよ。﹂
俺はついでですか。食玩の食の方ですかそうですか。
﹂
?
﹁私に・・・ですか
﹂
﹁うむ、うぬ達の顔を見に来たのと、周桜君にちと用事があってな。﹂
﹁本題に戻しましょう、大王様は何故ここに
さっきの事もあるし、この程度ではもうどうと言う事はない。
﹁いえ、お気になさらずに。﹂
え。﹂
﹂
﹁ぬう・・・すまない。言葉のあやという奴じゃ。すまないな周桜君。許してくれたま
行った時よりも怖い。
にっこりと笑いながら後ろから真っ黒いオーラを出している摩夜。二人で買い物に
﹁いくら大王様とはいえ、私の部下や眷族を蔑ろにする様な発言は許しませんよ
?
?
﹃お爺ちゃん﹄とかじゃないんだね。大王様は仕事中だからだろうか。
勉強会って結局喋るだけで終わる事の方が多い気がする
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?
﹁うむ、君には閻魔の眷族として、地獄の事を勉強してもらう。﹂
* * *
﹂
?
﹁では今回はこれで最後にしましょう。十王にさらにその後の三尊を加えて十三王と言
覚えなくてはいけないのだ。
これだけではなく、他の宗教の方がここで死んだ時の為に、他宗教の地獄についても
で覚えなければいけない。
にしても覚える事が多い。上の様な地獄の種類や六道、さらには十王の名前と本名ま
﹁天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、そして地獄道。﹂
﹁では次、六道を全て答えてください。﹂
る。
そんな訳で、俺は摩夜達に手伝って貰う形でこうして地獄についての勉強をしてい
と・・・あっ、妄言だ。﹂
﹁え∼っと・・・。名前は確か・・・大叫喚地獄で・・・罪状は殺生、窃盗、邪淫、飲酒
いった罪を犯した者が落とされるか
﹁では問題、八つある地獄のうち、五番目にランクの高い地獄はどういう名前で、どう
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いますが、その三人を答えなさい。﹂
﹁え∼∼っと・・・。蓮華王と祇園王・・・そしてあと一人は・・・。﹂
そうだった・・・。﹂
﹁はい、時間切れ。正解は法界王でした。﹂
﹁ああ∼‼
は寝れないな・・・。
摩夜達に教えて貰いながら、少しずつだが覚えてきた。でもまだまだだ。こりゃ今日
?
覚えるしかないのだ。
﹂
完全には程遠い。加護の力はここでは使えないようにしてもらっているので、自力で
?
﹁周桜、焦らずに・・・ね
勉強会って結局喋るだけで終わる事の方が多い気がする
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