保険E R M 基 礎 講 座 《 第 連載 応は、リスクと不確実性 保険会社としての基本対 う不確実性に直面して、 が、ケインズの言う「ア 合わせている、というの なことを試す能力を持ち われわれは新しい革新的 な機会を確信したとき、 たとき、何か有望で新た しかし、そのやり方で うまくいかないと分かっ しようとする。 方(ルーティン)で対処 過去にうまくいったやり 人は慣れ親しんだ手順や ても同じである。結果、 に影響を受ける者にとっ く、起こさない者、それ れるタイミングや、その 故に、社会に受け入れら 密接なものである。それ 金融や保険サービスも われわれの生活に極めて た。 ションが引き起こされ 殺到し、破壊的イノベー なると、顧客がATMに ードが配布されるように った。磁気ストライプカ 幅広く利用されていなか 1980年代初めまでは ドの値段が安価になった だ、磁気ストライプカー の が 最 初 だ と い う。 た クレイズ銀行が設置した はなく、最も適切に変化 力な者や最も賢明な者で 「生き残るのは、最も強 チャールズ・ダーウィ ン は、 自 然 界 の 法 則 を てきた。 て、社会は成長・発展し るという歴史を繰り返し 御のための対策が打たれ 明らかになり、規制や制 革がもたらす負の側面も していった。その後、変 できなかった企業は衰退 然、この動きに十分適応 スの変革が生まれた。当 の仕組みや商品・サービ と利点に触発され、既存 技術が持つ新たな可能性 役割を果たしてきた。新 る。しかし、これらの仕 ま、今でも続けられてい いった仕組みは当初のま ビスである預金や保険と の場合は、伝統的なサー が、金融・保険サービス ていくのが通常である しいものに洗い替えられ 淘汰(とうた)され、新 一般事業会社の商品サ ービスは、時代とともに んである。 ローチが必要となるゆえ 要がある。社会学的アプ 容性)にも関心を払う必 るかといった点(社会受 う変化を社会が受け入れ めない状況では、どうい い事態や技術の進歩が読 ものにとどまった。 ら、その影響は限定的な が起きなかったことか ーンや商品の抜本的変化 ピードで顧客の行動パタ 余裕を与えないほどのス に変化へ対応する時間的 当時は、既存プレーヤー 入者が登場した。ただ、 た保険募集による新規参 後の保険自由化時、電話 本邦の保険市場に目を 転ずると、1996年前 きた。 の中身は大きく変化して いったサプライチェーン 例えば、流通・仲介プ ロセスやクレーム処理と 例えば、消費者がリス クを共有したり、グルー ルの変革を予想させる。 変化を含むビジネスモデ イチェーンの基本要素の の形成や、保険のサプラ いる。新たな保険プール 可能性を孕(はら)んで 範で根本的なものになる ての変化とは異なり、広 デルの誤差範囲を縮小す 定し、現在の保険数理モ 密なリスク・クラスを設 は、保険会社が、より精 がもたらす全体的な影響 込まれる。こうした進歩 評価を採用するものと見 高度かつ実証的なリスク 回》 に対処する目的で構築し ニマルスピリッツ」であ 受け入れる環境というも 組み自体は技術の発展と 有限責任監査法人トーマツ ディレクター エマージングリスクのモ フォリオの変化に対して 表1)。 後藤 茂之 アイスブレイキング (その1) たERMをいかにフォワ る。 のに留意が必要となる。 を管理できる者だ」と説 やインターネットを使っ ードルッキングに活用す 今日われわれが日常的 に利用しているATM これまで、技術革新は社 しかし現在進行中のデ ジタル技術革新は、かつ サイエンス アート 将来の考慮点:経済的リスク/社会的リスク、リスクの量的側面/リスクの質的側面から、リスク構造の 再定義、新しい技術の活用・人と機会の役割分担の検討 を受けて、生命保険会社 トネス・デバイスの進歩 るウェアラブル・フィッ わる健康データを追跡す リアルタイムで生命に関 また、ヒトのゲノム配 列決定(遺伝子検査)や などが挙げられる。 ライン仲介業者)の登場 う、新しいタイプのオン 人として保険の交渉を行 の消費者グループの代理 安全運転ドライバーなど ル・ブローカー(若年の イト、さらにはソーシャ づく比較を行うウェブサ 格中心ではなく価値に基 (注1)保険の登場、価 げ る ピ ア・ ツ ー・ ピ ア ・ネットワークを立ち上 たり、自身のソーシャル ・ネットワークに参加し オンライン・ソーシャル 購入したりするために、 プとして第三者の保険を (5面へつづく) の新しい技術が開発され タを管理・分析するため た。こうしたビッグデー ッグデータ時代を創造し を飛躍的に増加させるビ 通・蓄積されるデータ量 ルデバイス、安価なセン インターネット、ソー シャルメディア、モバイ てみた。 可能性を図表2に整理し ジネスプロセスに及ぼす ション系の技術が保険ビ 在進行中のコミュニケー の変化を予測させる。現 いったサプライチェーン レーム処理、保険募集と スクプールの変化)、ク 価の切り口の変化(=リ ク主体の変化、リスク評 リスク自体の変化、リス 運転やIoT技術による 性がある。さらに、自動 定戦略の変化を生む可能 時に、最終的には価格設 サーの普及は、生産・流 や医療保険会社は、より ることを可能にすると同 るかが問われている(図 (現金自動預払機)は、 共に変化している。 図表3 デジタル技術との協働 明する。また、前例のな コア・コンピタンスの再定義が急務 会の中で、変化の先発的 ■ 個人保険、小規模企業保険の収益率は減少する 1967 年に英国のバー 2. 保 険 サ ー ビ スの変革 保険会社のバリューチェーンへの影響 ばならない。 将来に向けてのパラダ イムシフトが進行中であ ニタリング機能を既に組 に対し、変化を先取りし 経済学の分野に、進化 経済学という領域があ 図表2 保険バリューチェーンの変革 1. パ ラ ダ イ ム シフトへの対応 る。会社価値の枠組みの み込んでいるからであ 着実な対応が図れるかと る。シュンペーターが説 いたイノベーションによ ERM の実効性とフォワードルッキング性の強化 ただ、ERMにとって この事態は目新しい視点 変化、規制改革の進行、 た時間軸で見た場合、保 いうERMの実効性にあ 不確実性の高まり ではない。リスクポート ビジネスモデルの変革で 険経営の前提を変える可 る。つまり、現在の延長 る創造的破壊に経済変化 未だデジタル置換できない領域 における人の行動の必要 る。しかし、ここでの真 能性がある。このような 線上の発想ではなく、新 の原動力を置いている。 未だデジタル置換できない領域 における人の判断の必要 ある。これらは、数年先 変化の進行の下では、戦 しい価値観の下で対応す イノベーションの進行を 正確に予測することが難 行動領域 意思決定領域 の課題は、今後現実化す 略もリスク管理も中期的 るといった新たな発想 ■ バリューチェーンが拡散されていく傾向のため、 アンダーライティング能力が差別化領域として 重要になってくる には大きな変化を生まな 視点、動態的視点を強化 (アイスブレイキング) ■ オンライン業者が保険会社と顧客の距離を遠ざ けるため保険会社へのロイヤリティが減少する るであろう根本的な変化 していく必要がある。つ しいのは、イノベーショ ■ 中期的に保険のビジネスモデルを変革 年と い っ まり、動態的なビジネス が必要となる。 ンを起こす者だけではな ■ テクノロジーのスピードと規制とのタイミン グの問題、事業環境の変化と既存規制権限の ミスマッチの問題 くても、今後 戦略とリスク管理が可能 パラダイムシフトとい RM関連パネルに参 加。現職にて、ERM ■ 自動運転やセンサー技術の進化により車や家の リスクは減少し、また共有社会の発達により均 一化されていくため、個人のリスクは標準化・ コモディティ化されていく ■ 既存の販売チャネルにおける優位性(ブランド 力、代理店パワー)が変化する 保険交渉、合併・経営 統合に伴う経営管理体 高度化関連コンサルに 従事。 ■ スマートマシンが世の中に普及 することによるリスクの変化と 保険ビジネスモデルの変化 ■ 不確実性の介在したリスクや先 例・データの少ない不確実性に 対する洞察力、類似経験を活用 した対応(定性的アプローチ) 語処理を活用した意思決定領 域のさらなる変革 ■ 統計学的処理によるリスク量の 計測に基づく管理(定量的アプ ローチ) 制 の 構 築、 海 外 M & 大阪大学経済学部卒 業、コロンビア大学ビ ジネススクール日本経 済経営研究所・客員研 ■ ビッグデータと AI(ディープ ■ AI を搭載したマシン(スマー ラーニングを活用した機械学 トマシン)の活用による将来 習)技術の応用 プロセスの置換(e.g. 自動走 行車、ドローンロボット) ■ 画像認識、音声認識、自然言 ■ 保険制度の成立➡大量データに 基づく大数の法則の成立 A、 保 険 E R M の 構 築、グループ内部モデ ルの高度化、リスクア ペタイト・フレームワ ーク、ORSAプロセ 究員、中央大学大学院 総合政策研究科博士課 程修了。博士(総合政 ■ その要求レベルは、ムービングターゲット化 30 策)。 デジタル革命の進展 保険 ERM における アプローチ リスクのコモディティ化 ■ オンライン商品販売業者やテクノロジー企業が 販売チャネルとして出現し、他業種に顧客リレー ションの所有が奪われていく傾向が強くなる チャネル機能の分離 リスク資本 &資産運用 クレーム処理 保険引受 保険募集 R&D /商品開発 な態勢へと移行しなけれ 【後藤茂之氏プロフィ ル】 ス整備に従事。IAI S、Geneva A ssociatio 大手損害保険会社お よび保険持ち株会社に て、企画部長、リスク n、EAICなどのE ■ 金融危機以降、保険会社を取り巻く規制は、 量・質両面で変化 10 管理部長を歴任。日米 図表1 パラダイムシフトと ERM 強化 2 0 1 6 年(平成 2 8 年)1 2 月 8 日(木曜日) ( 4 ) (第 3 種郵便物認可) 命令を必要とせず、入力 体的にプログラムされた に、機械学習の領域で具 が 進 め ら れ て き た。 特 ヒントを得たAIの研究 替するため、脳の構造に 言語翻訳などの機能を代 性下の意思決定、学習、 認知、音声認知、不確実 れていた、例えば、視覚 従来、人間の知性を必 要とするタスクと見なさ 進歩も著しい。 工知能(AI)の領域の ンピュータを意味する人 それ以上の知識を持つコ と同じくらい、あるいは るに至り、今日では人間 (4面からつづく) 世界が既に目の前に実現 争力を発揮するかという から、いかにサービス競 ル技術と人との共生の中 新たな発想に立った思 考の一つとして、デジタ である。 理すると、図表3の通り 今後の可能性について整 る。保険ERMにおける いて検討課題になってく 保険サービスの領域にお I、さらにはスマートマ き た。 今 後 は、 人 と A して不確実性に対処して 験値(アート)を総動員 補完する人の洞察力、経 (サイエンス)とそれを 処 す る た め、 統 計 技 術 シンとの協働の世界が、 データのみによりパター しようとしている。 知能力の改善が期待され ングの技術によって、認 特定するディープラーニ 信をすることを特徴とす ( 注 1 ) 対 等 の 者( P eer、ピア)同士が通 ◇ (つづく) ている。 能性もある。2013年 AIに置き換えられる可 ーライティング業務が、 の引受判断を担うアンダ 度において、そのリスク いる。 一歩近づいたといわれて 入ってきて、人工知能に にディープラーニングが われてきたが、機械学習 ( 注 2 ) 従 来、 特 徴 量 の設計は人の職人技で行 る通信方式、通信モデル のこと。 のオックスフォードの論 20 e m y o l p m e f o e r u t u f e l b i t p e c s u s w o h : t n る業務の例に挙げられて e t u p m o c o t s b o j e r a 不確実性への対処に は、よく「サイエンスと ものではありません) であり、所属する組織の (文中の意見に当たる 部分は執筆者個人のもの " ? n o i t a z i r アート」の双方が必要で にも正確に予測できない 将来に対して合理的に対 ◆この連載は隔週木曜 日に掲載します。 あるといわれている。誰 いる理由であろう。 e h T " y e r F B C 年で な く (注 3 ) が今後 10 なる上位に位置付けられ 年、 文(注3)で、保険業務 険商品を設計する保険制 過去の損失データを基 礎に確率分布を描き、保 ビッグデータから自動で ン(特徴量〈注2〉)を (第 3 種郵便物認可) 2 0 1 6 年(平成 2 8 年)1 2 月 8 日(木曜日) (5)
© Copyright 2024 ExpyDoc