ISSN 2186-5647 −日本大学生産工学部第49回学術講演会講演概要(2016-12-3)− 1-19 主筋に格子鋼板を用いたコンクリート梁部材の主筋応力性状 日大生産工(院) ○松永 竜治 師橋 憲貴 日大生産工 1.はじめに を作製した。実験では梁部材中央が純曲げ区間 昨年度の学術講演会では主筋に格子鋼板を 用いたコンクリート梁部材の付着性状につい となるように 2 点集中荷重による正負繰り返 し載荷を行った。 ての報告を行った 1)。その結果、鉄筋を使用し たコンクリート梁部材と比較すると、主筋に格 表-1 試験体詳細 子鋼板を用いた梁部材の付着割裂強度は低下 試験体名 主筋 1) 00C D19 (SD345) することが判明した。しかし、主筋に格子鋼板 2) 00A1 を用いたコンクリート梁部材の曲げひび割れ 展張格子鋼板(SS400) 3) 00A2 性状及び、主筋の応力性状の検討を行っていな 4) 00B1 い。長期許容応力時の最大曲げひび割れ幅は鉄 格子鋼板(SS400) 5) 00B2 筋コンクリート部材の耐久性を考慮するうえ 重ね継手長さℓs=570mm 共通 継手方法は全て縦重ね継手 で重要な要因である。そこで本報は、主筋に格 子鋼板を用いたコンクリート梁部材の長期許 表-2 コンクリートの調合 容応力時における最大曲げひび割れ幅と主筋 のひずみを報告するとともに、鉄筋を主筋に使 W/C (%) 水 74.0 195 単位質量(kg/m3 ) 細骨材 セメント 天然砂 砕砂 264 627 269 粗骨材 砕石 888 用した梁部材との比較検討を行った。 2.実験概要 表-3 フレッシュ性状 表-1 に試験体詳細を示し、図-1 に実験で用 スランプ (cm) いた格子鋼板の形状を示す。格子鋼板は 2 種類 空気量 (%) コンクリート温度 (℃) 20.5 3.7 22.0 の加工方法によって製作されており、この加工 方法の違いから展張格子鋼板と格子鋼板に分 展張格子鋼板 A1 格子鋼板 B1 展張格子鋼板 A2※ 格子鋼板 B2 類した。展張格子鋼板は縞鋼板の軸方向にレー ザー光線でスリットを挿入し、軸直角方向にジ ャッキで均等に展張し、格子状に加工したもの である。一方、格子鋼板はレーザー光線で縞鋼 板を切り抜き、格子状に加工したものである。 試験体には主筋に D19(SD345)を使用した試験 体(00C)1 体と展張格子鋼板を主筋に使用した 試験体(00A1・00A2)2 体、格子鋼板を主筋に ※ A2 は骨材を通すために一部格子部分を切除した。 使用した試験体(00B1・00B2)2 体の、計 5 体 図-1 展張格子鋼板及び格子鋼板形状図 Stress Properties of Main Reinforcement on Concrete Beams using Expanded Metal Grid Ryuji MATSUNAGA and Noritaka MOROHASHI ― 69 ― 2.1 調合とフレッシュ性状 表-2 にコンクリ は、厚さ 12.0mm と厚さ 9.0mm の 2 種類の縞鋼 ートの調合を示し、表-3 にフレッシュ性状を 板を使用した。図-2 に示すように、展張格子 示す。セメントは普通ポルトランドセメントを 鋼板及び格子鋼板は軸方向の断面積を 使用した。細骨材は天然砂と砕砂、粗骨材は砕 12.0mm×32.0mm を 3 本とした A1・B1 と、 石を使用した。調合は、スランプ 18±2.5cm、 9.0mm×25.0mm を 5 本とした A2・B2 の計 4 種 空気量 4.5±1.5%を目標として行った。 類を計画した。本研究では付着に有利と考えら 2.2 試験体形状 表-4 に実験に使用した材料 れる鋼板の縞部分がコンクリートに接するよ 特性値を示し、図-2 に試験体断面、また図-3 うに配筋した(重ね継手接触面に縞はない) 。 に 試 験 体 形 状 を 示 す 。 試 験 体 は 300mm×300mm×3000mm の梁部材とし、梁部材 表-4 材料特性値 中央部下端筋に重ね継手区間(重ね継手長さ 材料種類 降伏点 σy 使用部位 引張強度 ヤング係数 σ max E (N/mm 2 ) (N/mm 2 ) 展張格子鋼板 A1 上端・下端筋 270 406 570mm)を設け、付着性状を検討する形式とし た。主筋には鉄筋、鋼板筋をそれぞれ用い、横 補強筋は全梁部材共通で D10(SD295A)を使用 展張格子鋼板 A2 上端・下端筋 304 441 上端筋 格子鋼板 B1 下端筋 上端筋 格子鋼板 B2 下端筋 D19 (SD345) 上端・下端筋 D10 (SD295A) 横補強筋 270 278 304 289 366 375 406 416 441 422 556 518 した。主筋から側面及び底面までのかぶり厚さ は 30mm とした。主筋に鉄筋の D19 を用いた梁 部材の軸方向の主筋断面積と近似させるため (N/mm 2 ) 2.05×10 5 1.86×10 5 鋼板筋はメーカー証明書より縞鋼板(SS400)の値とした。 に、本実験で用いる展張格子鋼板及び格子鋼板 3) 00A2・5) 00B2 フラッシュバット溶接 フラッシュバット溶接 A1・B1 (厚さ12.0 幅32.0) A2・B2 (厚さ9.0 幅25.0) 240 300 30 30 240 300 30 30 30 4-D19 30 240 300 240 300 240 300 フラッシュバット溶接 30 30 30 2) 00A1・4) 00B1 1) 00C 30 30 240 300 図-2 試験体断面 30 単位 mm 300 300 重ね継手区間 pw=0% ひずみゲージ 取り付け位置 700 700 215 215 570 570 3000 3000 215 215 700 700 ▲・▼:正荷重時 300 300 △・▽:負荷重時 図-3 試験体断面 1200 1200 570 570 ― 70 ― 1200 1200 300 300 単位 mm 46 46104104 10410446 46 300 300 CL h 3.実験結果 ひび割れ観測面 8 1 g 度略算式より求めた主筋応力度σ t 2を下回って 7 e f 3.1 主筋長期許容応力度時の曲げひび割れ いたが、それ以降はσs がσt を上回った。 d 表-5 に実験結果一覧を示し、図-4 に主筋長期 6 3 5 4 b a 許容応力度時の最大曲げひび割れ幅 Wmax を示 表-5 285 実験結果一覧 285 す。主筋に展張格子鋼板及び格子鋼板を用いた コンクリート 最大曲げ 付着割裂 570 最大荷重 強度 強度 ひび割れ幅 試験体名 P max σB τ u exp. W max (kN) (mm) (N/mm 2 ) (N/mm 2 ) 1) 00C 23.1 233.0 0.10 2.62 2) 00A1 23.6 189.5 0.20 1.91 CL 3) 00A2 23.6 175.0 0.20 ひび割れ観測面 1.36 4) 00B1 23.6 182.5 0.20 1.84 f 6 1 5) 00B2 23.6 175.0 0.24 1.36 Wmax が平均約 0.11mm 大きくなった。また、主 筋に鋼板筋を用いた試験体は、RC 規準 2) に定 められる制限目標値 0.25mm に近い値を示すも のがあった。これは、展張格子鋼板及び格子鋼 板の付着が劣化し鋼板の変形にコンクリート d b が追従できなかったため、曲げひび割れ幅が大 きくなったものと考える。なお、各鋼板の長期 5 Wmax (mm) 試験体は鉄筋を使用した試験体と比較して 0.3 4 c 単位:mm e 2 c 3 a 制限目標値(0.25mm) 285 単位:mm 285 570 0.2 許容応力度に関する明確な指針がないため、鉄 筋と同じ荷重時(P=150kN)で比較を行った。 0.1 3.2 主筋ひずみ 図-5 に試験体 00C, 00A1, ひび割れ観測面 1 h 00B2 00B1 00A2 10 00A1 j 0 00C CL 00B2 の主筋ひずみゲージ位置を例示する。ひ ずみゲージは、図-3 が示す pw=0%の重ね継手区 h 間位置の主筋ごとに番号を定め取り付けた。図 3 CL d図-4 主筋長期応力度時の最大曲げひび割れ 7 4 ひび割れ観測面 -6 に主筋応力度-荷重関係を示す。式(1)に 示す曲げ強度略算式により算定した主筋応力 度σt(曲げ略算式)と図-6 に示した式(2)よ り、ひずみ測定値により計算した主筋応力度 σsを比較した。図-6 では主筋とコンクリート 9 f 8 b h 68 d h b f 285 1) 00C 6 285 f の場合はゲージ番号 1 と 3 にあたる)のひずみ d を使用した計算値による結果を示した。全試験 体においてひずみ測定値により計算した主筋 応力度σs の値は、荷重の低い段階では曲げ強 式(1)曲げ略算式による主筋応力度σt σtt= Muu M 0.9 ・a t ・d 0.9・a t・d 2 (N/mm ) 31 d 5 285 CL 46 d 5 b 4 4) 00B2 (1) 285 単位:mm ひび割れ観測面 285 285 単位:mm 2 ひび割れ観測面 c 31 ea 2 CL 285 570 8 d 7 b j 6 10 at:主筋断面積 (mm ) h 9 2 f 8 d:梁有効せい (mm) d j b h h 2 f 3 e 4 ひび割れ観測面 c 5 1 a h 単位:mm f 8 7 b 6 285 285 570 285 285 570 f 3 ひび割れ観測面 4 1 5 2 c h a f 3 e 6 図-5 主筋ひずみゲージ取り付け位置 9 d ― 71 ― 285 570 7 10 a 1 CL c 単位:mm ひび割れ観測面 f CL 単位:mm 3 9 285 c a e 10 2 e 3 1 j P :荷重 (kN) a 4 h ここで、Mu:最大曲げモーメント(N・mm) c g a e ひび割れ観測面 570 285 e c 2 570 bf c 単位:mm 3 1 CL 5 2) 00A1 4 6 CL 285 570 6 b f 285 570 5 の付着による影響が大きい部分である重ね継 単位:mm ひび割れ観測面 42 285 e ga 2 285 75 b 手部の主筋端部における両側面のゲージ(00A1 CL 570 86 d f 15 7 f 2 単位:mm e 4 c 5 a 単位:mm σt σs1 400 2) 00A1 500 σt σs1 400 3) 00A2 500 300 300 200 200 200 100 100 100 0 0 50 100 150 200 σ (N/mm2) σt σs1 400 0 0 250 300 P (kN) 4) 00B1 500 50 200 250 300 P (kN) 200 100 100 0 0 150 200 100 150 200 250 300 P (kN) (2) ここで、ES : ヤング係数 (N/mm2) ε:真のひずみ量 ε= 0 250 300 P (kN) 50 σS= ES・ε (N/mm2) σs5 200 0 式(2) 主筋応力度σs σs1 400 300 100 150 σt σs3 50 100 5) 00B2 500 300 0 σs1 σs5 300 0 σt 400 σs3 σs4 σ (N/mm2) σ (N/mm2) σ (N/mm2) σ (N/mm2) 1) 00C 500 50 100 150 200 250 300 P (kN) ×εi(×10-6) εi : 測定ひずみ度 KS : ゲージ率 KS=2.14 図-6 主筋応力度-荷重関係 これは、荷重の低い段階では、梁部材下端筋に 本研究では展張格子鋼板と格子鋼板を用い 作用する引張力と主筋とコンクリートの両方 た梁部材の主筋応力性状を検討した結果、展張 によって負担していたが曲げひび割れ発生以 格子鋼板及び格子鋼板を使用した梁部材の長 降はコンクリートの引張力を負担分が低下し、 期許容応力時の最大曲げひび割れ幅及び主筋 鉄筋、展張格子鋼板及び格子鋼板のみが引張力 応力度は鉄筋を使用したものより大きくなっ を負担していたためと考える。特に展張格子鋼 た。今後は、コンクリートの種類の違いによる 板と格子鋼板はこの現象が著しく、梁部材内部 展張格子鋼板及び格子鋼板の付着性状及び付 の曲げひび割れが鉄筋を使用した梁部材に比 着割裂強度の検討を行い、本報告と比較しさら べ大きいものであったと考える。 なる検討を行いたい。 4. まとめ 謝辞 主筋に展張格子鋼板及び格子鋼板を用いた 本研究を遂行するに当たり、JFE シビル株式会社に 梁部材の主筋応力性状を検討した結果、本報告 は展張格子鋼板及び格子鋼板の手配で大変お世話にな の範囲内で以下の知見が得られた。 りました。また、本学部土木工学科の阿部忠教授には 1) 主筋に展張格子鋼板及び格子鋼板を使用し 貴重な御助言をいただきました。ここに記して感謝の た梁部材の主筋長期許容応力時の最大曲げ 意を表します。 ひび割れ幅は鉄筋を使用した梁部材と比較 参考文献 し、大きくなる傾向が明らかとなった。 1) 松永竜治、師橋憲貴:主筋に格子鋼板を用いたコン 2) 主筋に展張格子鋼板と格子鋼板を用いた梁 クリート梁部材の付着性状,日本大学生産工学部第 部材の主筋応力度の上昇は鉄筋を使用した 48 回学術講演会講演概要,2015 年 12 月,pp.835-838 梁部材より大きくなる傾向が認められた。 2) 日本建築学会:鉄筋コンクリート構造計算規準・同 解説,2010 年 ― 72 ―
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