ISSN 2186-5647 −日本大学生産工学部第49回学術講演会講演概要(2016-12-3)− 6-5 量子ウォーク 日大生産工 粒子のランダムな運動を表わすランダムウォーク は,様々な現象を記述することができ,多方面で応 用されてきた.ランダムウォークの量子版である量 子ウォークも量子コンピュータの基礎理論構築と関 連し,その応用が考えられている.一例として,量 子探索アルゴリズムが挙げられる.Grover の探索ア ルゴリズムは完全グラフ上の量子ウォークと考えら れる.その他にもいくつかのグラフ上の探索アルゴ リズムに量子ウォークは応用されている 1, 2) .量子 ウォークは 2000 年頃より活発に研究され始め,各モ デルに対する様々な定理の導出とともに,これまで ◦ 町田 拓也 √ t でスケーリング 変換した確率分布は,中心極限定理により,t を十分 大きくしたとき,正規分布 (ガウス分布) で近似され る.一方,量子ウォークの確率分布は,t で空間をス ケーリング変換することで,逆正弦則の確率密度関 数のような,ある確率密度関数で近似される.量子 ウォークの確率分布がもつ大きな特徴は,ゆらぎと鋭 いピークをもつことである.粒子が原点から出発し √ たとき,確率分布はランダムウォークの場合 O( t ) で広がるが,量子ウォークの場合は O(t) となる (図 3 参照). 分布は二項分布であり,空間を に興味深い性質が明らかにされてきた.日本語の解 0.03 0.04 説書として,今野 3, 4) ,町田 5) がある. 0.03 0.02 以下,ランダムウォークとの比較を交えつつ,量子 ⏕₸ ⏕₸ 0.02 0.01 ウォークについて簡単に説明する.今回注目する 1 次 0.01 0 -100 元格子上の量子ウォークに対応するランダムウォーク は,時刻 t ∈ { 0, 1, 2, . . . } で,Z = { 0, ±1, ±2, . . . } -50 0 ⓨ㑆 50 100 (a) ランダムウォーク 上の,ある場所 x に存在する粒子が,時刻 t + 1 に確 0 -500 -250 0 ⓨ㑆 250 500 (b) 量子ウォーク 図 2: 確率分布の例 率 p で x − 1 に,確率 q ( = 1 − p) で x + 1 に移動す るようなモデルである (図 1 参照).量子ウォークで は確率 p, q の代わりに,2 × 2 の確率振幅行列 P, Q るものとする. 50 1 0.8 40 0.8 30 0.6 30 0.6 20 0.4 20 0.4 10 0.2 10 0 ⓨ㑆 p 0 -40 -20 q 0 20 40 ⓨ㑆 (a) ランダムウォーク ᤨೞ ᤨೞ ⏕₸ ᤨೞ 1 40 ⏕₸ を考える.但し,P + Q はユニタリ行列になってい 50 0.2 0 0 -40 -20 0 20 40 ⓨ㑆 (b) 量子ウォーク 図 3: 確率分布の時間発展 さて,量子ウォークは,一般にグラフ上で定義でき 図 1: ランダムウォーク るが,ここでは 1 次元格子上で定義される量子ウォー クの標準的なモデルを説明する.まず,時刻 t におい 2 量子ウォークとランダムウォークの違いの 1 つは, て各場所 x(∈ Z) に,2 次の複素ベクトル |ψt (x)i ∈ C 粒子の空間的な分布 (確率分布) である (図 2 参照). を考える.但し,C は複素数全体の集合である. 量 よく知られているように,ランダムウォークの確率 子ウォークの分野では,これらのベクトルは確率振 Quantum walk Takuya MACHIDA ― 575 ― 幅ベクトルと呼ばれる. 0.03 0.02 ⏕₸ 0.01 ⏕₸ 0.01 0 -1000 -500 0 500 0 -1000 1000 x 0 500 1000 x √ √ (a) α = 1/ 2, β = i/ 2 図 4: 各格子点上の確率振幅ベクトル -500 (b) α = 1, β = 0 図 6: 時刻 1000 の確率分布 P(X1000 = x) (a = b = √ c = −d = 1/ 2) 量子ウォークの時間発展を定義するために,以下 の 2 つの行列 " # a b P = , 0 0 # 0 0 Q= , c d ここで紹介した量子ウォークに対しては,次の極 " (1) を導入する.但し,P + Q はユニタリ行列になって いるものとする.量子ウォークの時間発展は,以下 で定義される (図 5 も参照). |ψt+1 (x)i = P |ψt (x + 1)i + Q |ψt (x − 1)i . (2) 限定理が Konno6) により導出されている.実数 x に 対して, µ ¶ Xt ≤x t→∞ t p Z x 1 − |a|2 p I(−|a|,|a|) (y) = 2 2 2 −∞ π(1 − y ) |a| − y " ( ¡ ¢) # aαbβ + aαbβ 2 2 × 1 − |α| − |β| + y dy. |a|2 lim P (6) 但し, ᤨೞ t x Q x x ( I(−|a|,|a|) (x) = P 1 (−|a| < x < |a|), 0 (otherwise). (7) ᤨೞ t 参考文献 図 5: 時間発展のダイナミクス 1) S. Venegas-Andraca, Quantum Walks for Computer Scientists, vol.1, Morgan & Claypool Publishers, (2008). さらに,初期状態が ¯¯2 X¯¯¯¯ ¯¯ ¯¯|ψ0 (x)i¯¯ = 1, (3) x∈Z を満たすもとで,ウォーカーが時刻 t で場所 x に観 測される確率を ¯¯ ¯¯2 ¯¯ ¯¯ P(Xt = x) = ¯¯|ψt (x)i¯¯ , cessing, vol.11, no.5, (2012), pp.1015–1106. 3) 今野紀雄,量子ウォークの数理,産業図書,(2008). (4) で定義する.ここで,Xt は時刻 t におけるウォーカー の位置を表す確率変数である.初期状態を ( T [ α, β ] (x = 0), |ψ0 (x)i = T [ 0, 0 ] (x 6= 0), 2) S.E. Venegas-Andraca, “Quantum walks: a comprehensive review,” Quantum Information Pro- 4) 今野紀雄,量子ウォーク,森北出版,(2014). 5) 町田拓也,図で解る量子ウォーク入門,森北出版, (2015). (5) 6) N. Konno, “Quantum random walks in one dimension,” Quantum Information Processing, vol.1, no.5, (2002), pp.345–354. ととると,図 6 のような確率分布が得られる.但し, α, β ∈ C は,|α|2 + |β|2 = 1 を満たすものとする.T は転置作用素である. ― 576 ―
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