救急車の適正利用

62
救急車の適正利用
~大判焼きを買いたかっただけ~
村上保健所長 佐 々 木
綾
子
県職員として保健所に勤務して、あっという間
ありました。平日の外来を中断し、お昼前に村上
に15年目を迎えました。病院勤務医を辞めるとき
総合病院を出発して、救急車には妊婦さんの夫も
に、もう救急車に乗る機会は、自分や家族が患者
同乗してもらいました。車の中でもし生まれてし
になったとき以外は無いだろうなあ、そして、搬
まったら、その場で新生児に挿管しなければ救命
送されてくる患者をドキドキしながら病院で待つ
できないような低体重児が予想されました。よう
こともこれからはなくなるのだなあ、としみじみ
やく目的の病院に到着し、すぐに分娩室に入り、
思いました。
産婦人科医と小児科医に立ち会ってもらい、出産
村上総合病院で産婦人科に勤務していた頃は、
となりました。その時は、入院から分娩まで1時
時々新潟市内の病院へ重症合併症の妊婦さんや、
間くらいだったので、救急車と隊員に待っていて
低出生体重児と一緒に救急車に乗る機会がありま
もらうことができました。でないと帰りは一人で
した。切迫早産でお産になりそうな妊婦さん、分
電車を使って村上まで帰ることになります。ほっ
娩後に子癇発作を起こして意識不明になった産婦
として戻った救急車はもちろんサイレンは鳴らさ
さん、早産で生まれてしまい人工呼吸器につなが
ないで、ゆっくりと村上に向かいます。ふと我に
れた未熟児などを搬送しました。サイレンを鳴ら
返ると、お昼時はとっくに過ぎており、お腹はぺ
しながら救急車を走らせても、一般車両はなかな
こぺこです。疲労感がどっと押し寄せてきて、あ
か道を譲ってはくれません。高速道路がまだ村上
あ何か食べたい。そういえば、この先の岩船に美
まで開通していない時は、新潟までがとても遠く
味しい大判焼きのお店があったはずと思い出し、
感じられました。その時の事を思い出すと、今で
突然「運転手さん、大判焼きを買って食べたい」
も緊張感と恐怖感がよみがえってきます。間に合
と救急隊に告げた私。
「何を言っているんですか、
わなかったらどうしよう、もう駄目なんじゃない
救急車が大判焼きの店の前に止まるわけにはいか
か?助からないのでは?と考えると背中に冷たい
ないでしょう!」とのご返事。
「エー、だってサ
汗が流れました。病院からの救急搬送は昼夜、深
イレンも鳴らしていないし・・・」残念無念。
夜関係なく、必要とあれば出動しなければなりま
もちろん大判焼きを買うことは出来ませんでし
せん。
たが、翌日産婦人科外来に大量の大判焼きが届け
あ る 時、 切 迫 早 産 で 陣 痛 が 始 ま っ て し ま い
られました。ありがとうございました。
NICU のある新潟市内の病院への母体救急搬送が
新潟県医師会報 H28.11 № 800
(村上市岩船郡医師会だより 平成28年7月号より)