(社)東洋音楽学会 東日本支部第 93 回定例研究会 要旨 未来に文化をつなぐための協働 − ブータンの遊び歌ツァンモの展開− 伊野 義博(新潟大学) 加藤 富美子(東京音楽大学) 権藤 敦子(広島大学) 日本・ブータン民俗音楽研究会(代表伊野義博)は、日本及びブータンの民俗 音楽研究を推進し、それらの結果を両国に還元するとともに、日本とブータンの学 校や社会における文化継承の課題に寄与することを目的として設立された。これま で、主に日本及びブータンにおいて伝承されてきた「掛け合い歌」の調査研究活動 を行い,これらの成果をもとに、文化継承を目的とした交流活動を行ってきた。 ブータンには,古くから人々の生活のなかで歌われてきたツァンモ tsangmo という遊 び歌が全域にみられる。ツァンモはブータンの宗教的背景を母体とし、歴史と風土 の中で培われ、放牧をはじめとした日々の労働の合間、あるいは親戚縁者が集まる 法要などにおいて楽しまれてきた。本研究会では, 2010 年より 2015 年まで5次にわ たりパロ、プナカ、トンサ、タシガン、メラ、ティンプーなどの地におけるツァンモの調査 研究活動を行ってきた。 一方、文化継承を目的とした交流活動としては、2004 年より交流演奏会、音楽 交流をパロ、ランゴなどで行ってきた。2015 年にはサムテガン・セントラルスクールで 生徒たちによるツァンモ大会、パロ国立教員養成カレッジでは大学生たちによるツァ ンモのデモンストレーションに接し、現代に生きるツァンモの伝承と本研究会による調 査活動ならびに交流活動の関わりを感じとることができた。 これらをふまえ、2016 年9月 24・25 日にブータンの首都ティンプーにて,「ブータン の宝石ツァンモ− 未来につなぐ」と題した催しを企画した。企画内容は、1)二つの 高校間によるツァンモ大会の開催、2)現代におけるツァンモの伝承をテーマとする シンポジウムの開催である。ツァンモ大会については、日本側の働きかけにより高校 側の伝統文化についての意識が大きく変わったこと、シンポジウムでは、日本側から の調査報告,ブータン側からの大学教育での実践,放送文化における新たな展 開等を広く交流し合う機会をつくったことで、存続が危ぶまれている民俗音楽の継 承発展に新たな光が投げかけられた。本報告では、日本とブータンの協働による 企画がもたらしたものは何かについて報告していきたい。
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