2016 年 11 月 日 本 銀 行 調 査 統 計 局 消費者物価の消費税調整済み値の試算方法 日本銀行では、消費者物価の基調的な動きを把握するために、一時的な物価 押し上げ要因となる消費税率引き上げの直接的な影響を除いた計数を試算し、 1 「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」などにおいて公表している(図表1) 。 2 以下では、2014 年4月の消費税率引き上げを例にとり 、日本銀行調査統計局に おける消費者物価の消費税調整済み値の試算方法について説明する3。 (図表1)消費税調整前後の消費者物価の比較 <総合除く生鮮食品> <総合除く生鮮食品・エネルギー> 4 (前年比、%) (前年比、%) 4 2015年基準 3 3 消費税込み 2 消費税込み 2015年基準 2 消費税調整済み 1 1 0 0 -1 -1 -2 消費税調整済み -2 11 年 12 13 14 15 16 11 年 12 13 14 15 16 (注)総合(除く生鮮食品・エネルギー)は、日本銀行調査統計局算出。消費税調整済み 系列は、総合(除く生鮮食品)、総合(除く生鮮食品・エネルギー)ともに、日本銀 行調査統計局の試算値。 (出所)総務省 1 日本銀行が公表している国内企業物価指数および企業向けサービス価格指数については、 消費税を除いたベースの指数を参考指数として公表している。 2 1989 年4月の消費税導入および 1997 年4月の消費税率引き上げにかかる消費税調整につ いては、「経済・物価情勢の展望(2012 年 10 月) 」の図表 63 を参照。 3 本稿における消費者物価指数の品目名称やウエイトなどは、2010 年基準に基づく。 1 1.課税状況による品目分類 (1)課税品目・非課税品目 日本銀行調査統計局の調整方法では、2014 年4月の税率引き上げ(5%→8%) が当時の課税対象品目のすべてにフル転嫁されると仮定して、消費税の直接的 影響を計算する。したがって、最初に、消費者物価指数を構成する 588 品目(2010 年基準)を、課税品目、非課税品目に分類する必要がある。 非課税となる品目としては、消費税法で定められた非課税取引に該当する品 目(27 品目)、価格の対象となる役務の大部分が国内取引ではない品目(1品目)、 対価性がない4と考えられる品目(1品目)が挙げられる(図表2)。これら非課 税品目全体のウエイトは、総合除く生鮮食品においては 29.1%となっている(末 尾の参考図表)。 (図表2)消費税非課税品目 消費税法で定められた 非課税取引に該当 民営家賃、公営等家賃、持家の帰属家賃、教科 書、各種私立学校等授業・保育料、国公立学校 等授業・保育料、出産入院料、診療代、介護料、 各種保険料、各種取得・手数料(印鑑証明、戸 籍抄本、パスポート、自動車免許) 価格の対象となるサービスの 大部分が国内取引ではない 外国パック旅行 対価性がない PTA会費 (出所)総務省、国税庁 (2)課税品目のうち経過措置品目 課税品目の中でも、制度要因などから実際に消費税率の引き上げが消費者物 価に反映されるまでにはある程度の時間を要する品目もある。具体的には、総 務省の公表情報5を参考に、電気代、都市ガス代、プロパンガス、固定電話通信 料、水道料、下水道料、し尿処理手数料については、4月は5%の税率が適用 され、5月に税率が8%になると考えて計算を行っている。また、携帯電話通 4 消費税は、事業者が「対価を得て行う取引」に課税されることとなっている。ここでいう 「対価を得る」とは、財やサービスの提供に対して代金などを受け取ることをいう。この 点、PTA会費については、サービスの提供との間に明確な対価関係がないことから、消 費税の課税対象にはならないと考えられる。詳細については、国税庁ホームページを参照。 5 総務省統計局ホームページ上の「消費者物価指数に関するQ&A(『消費税の取り扱いに ついて』)」を参照。 2 信料については、一部の通信事業者が経過措置の対象とされていたことを勘案 し、4月は全体の半分に5%の旧税率が適用され(残り半分は8%の新税率)、 5月からは全ての事業者に対し8%の新税率が適用されると仮定して計算して いる(図表3)。これら経過措置品目のウエイトは、総合除く生鮮食品において は 10.1%となっている(末尾の参考図表)。 (図表3)消費税課税品目のうち経過措置品目 2014 年4月は税率据え置き 2014 年5月は税率引き上げ 電気代、都市ガス代、プロパンガス、固 定電話通信料、水道料、下水道料、し尿 処理手数料 2014 年4月は部分的に税率据え置き 2014 年5月は完全に税率引き上げ 携帯電話通信料 (出所)総務省 2.調整方法 次に、具体的な調整方法について説明を行う。調整の流れとしては、まず、 消費税率の引き上げによって物価指数がどの程度上昇するかを計算する。次に、 前節で説明した課税対象品目のウエイトを用いて、各種の集計された指数(総 合や総合除く生鮮食品など)において、どの程度、消費税率引き上げの影響を 勘案する必要があるかについて計算を行う。本稿では、この消費税率引き上げ の影響度合いを「調整係数」と呼ぶことにする。最後に、各種の集計された指 数の消費税込みの前年比から「調整係数」を差し引くことによって、消費税調 整済みの前年比を算出する。以下では、それぞれのステップの詳細について説 明を行う。 なお、日本銀行では、原則として、個別品目ごとに消費税調整済みの指数水 準や前年比を計算していない。あくまでも、 「総合」、 「総合除く生鮮食品」など の集計された指数の前年比について計算を行っている。 (1)税率引き上げによる指数上昇率の計算 課税される品目については、最終的に約 2.857%(5%課税→8%課税: 108/105×100-100)分だけ上昇すると考える。これにより、税率引き上げ月に おける価格変化のうち、どの程度が税率引き上げによるもので、どの程度がそ れ以外の要因によるものかを識別できる。 3 (図表4)4月課税品目の消費税調整のイメージ 消費税込み系列 指数水準 消費税率引き上げによる値上げ率 = 108/105×100-100 ≒ 2.857... 消費税調整済み系列 2014/2月 2014/3月 2014/4月 2014/5月 (2)課税品目のウエイトと調整係数の計算 次に、 「食料工業製品」や「一般サービス」といった消費者物価のカテゴリー ごとに、課税される品目のウエイトを算出する。具体的なウエイトは、図表5 に示されている。例えば、非課税品目を含まない「食料工業製品」は、100%課 税されていると考えているのに対し、家賃などの非課税品目を多く含む「一般 サービス」は、46%程度しか課税されていないとみなしている。 (図表5)カテゴリーごとの課税品目ウエイト(2014 年5月) 課税品目のウエイト(%) 総合 72.0 総合除く生鮮食品 70.9 総合除く生鮮食品・エネルギー 68.3 食料工業製品 100.0 一般サービス 46.0 外食 100.0 エネルギー 100.0 続いて、値上げ率(約 2.857%)とカテゴリーごとの課税品目のウエイトを掛 け合わせて、カテゴリーごとの「調整係数」を計算する(図表6)。さらに、各 カテゴリーの消費税込みの前年比から、 「調整係数」を差し引くことで、各カテ ゴリーの消費税調整済みの前年比が計算されることになる。 4 (図表6)調整係数計算のイメージ(2014 年5月) 値上率 (%) 課税品目 ウエイト(%) 調整係数 (%ポイント) 総合 72.0 2.058 総合除く生鮮食品 70.9 2.025 総合除く生鮮食品・エネルギー 68.3 1.953 食料工業製品 2.857 × 100.0 = 2.857 一般サービス 46.0 1.315 外食 100.0 2.857 エネルギー 100.0 2.857 経過措置品目については、2014 年4月においては5%の旧税率が適用される と想定してウエイトを算出し、 「調整係数」を計算する。2014 年5月以降は、全 ての課税品目に8%の新しい税率が適用されると想定してウエイトを算出し、 「調整係数」を計算する。税率引き上げから1年が経過した 2015 年4月につい ては、経過措置品目が存在しなければ、消費税率引き上げの影響は消え去り、 前年比について何ら調整を行う必要はなくなる。しかし、経過措置品目が存在 する場合には、2015 年4月の税込み価格の前年比は、一部の品目が税率据え置 きであった前年の水準と、全ての課税対象品目に課税された当年の水準の比較 していることになり、消費税の影響がなお一部で残るかたちとなる。このため、 こうした経過措置品目の存在によって残存する消費税率引き上げの影響を適切 に取り除いた前年比を計算するには、2015 年4月についても、 「調整係数」によ って修正を行う必要がある。具体的には、2014 年5月以降の「調整係数」から、 2014 年4月の「調整係数」を差し引いた分だけを、経過措置に由来する 2015 年 4月の「調整係数」と考えて、各種の集計された指数の前年比から差し引くと いう計算を行っている(図表7)。 (図表7)実際の調整係数 (%ポイント) 2014 年4月 2014 年5月~ 2015 年3月 2015 年4月 総合 1.9 2.1 0.2 総合除く生鮮食品 1.7 2.0 0.3 総合除く生鮮食品・エネルギー 1.9 2.0 0.1 総合除く食料・エネルギー 1.5 1.7 0.2 5 (3)前年比の調整 計算された「調整係数」の小数第2位を四捨五入し、小数第1位までの表章 としたうえで、当該カテゴリーの「調整係数」とする。これは、総務省が公表 している各種の集計された指数の前年比が小数第1位で表章されていることと 平仄を合わせるためである。その後、消費税込みの前年比から、 「調整係数」を 差し引くことにより、小数第1位で表章された消費税調整済み系列が得られる。 (図表8)調整係数を用いた消費税調整例(総合除く生鮮食品) (前年比、%、%ポイント) 消費税込み 系列 調整係数 消費税調整 済み系列 2014/3 月 1.3 ― 1.3 2014/4 月 3.2 1.7 1.5 2014/5 月 3.4 2.0 1.4 2014/6 月 3.3 : : 2015/3 月 2.2 2.0 0.2 2015/4 月 0.3 0.3 0.0 2015/5 月 0.1 ― 0.1 2.0 ― : = 1.3 : (出所)総務省 3.留意点 本稿で説明した消費税の調整方法にはいくつかの留意点がある。 (1)出回り時期 衣料品などの季節性商品については、出回り時期(価格調査時期)が品目別 に異なることから、消費税率引き上げが消費者物価指数に計算上反映される時 期も異なる。例えば、「婦人Tシャツ(半袖)」は夏季(4~8月)に調査され るため、4月の消費税率引き上げ時に、消費税率引き上げ分が指数に反映され る。よって、4月から消費税率引き上げの調整を行うことで問題はない。一方、 冬季(11 月~1月)に調査される「婦人コート」は、調査対象期間以外(2月 ~10 月)は指数水準を前調査期間の平均価格で横ばいとする「保合(もちあい) 処理」が行われるため、11 月に初めて消費税率引き上げ分が指数に反映される。 この結果、当該品目について、4月時点で税率が引き上げられたものとして前 年比を計算すると、実勢対比で前年比を過大に押し下げている可能性がある。 6 個別にみれば、こうした影響はみられるものの、物価全般を表す「総合除く 生鮮食品」や「総合除く生鮮食品・エネルギー」といった集計値でみれば、こ うした季節性商品の影響は小さいと考え、特別な調整を行っていない。 (2)小規模事業者 消費税納税義務のない小規模事業者の影響については、勘案していない。し たがって、小規模事業者による販売が多くを占めている品目については、税率 引き上げ分がフル転嫁されると仮定して計算する本稿の調整方法は、実勢対比 で、前年比を若干過大に押し下げている可能性がある。 (3)他の間接税 本稿では、消費税以外の間接税がかかる品目について、全ての品目で、間接 税を含む調査価格に消費税率がかかっているとみなして、消費税の調整を行っ ている。しかし、実際には、間接税を含むベースで消費税が課税される品目(揮 発油税が課されるガソリンなど)と、間接税を除くベースで消費税が課税され る品目(入湯税が課される入浴料など)がある。このため、間接税を除くベー スで消費税が課税される品目については、実勢対比で、前年比を若干過大に押 し下げている可能性がある。 以 7 上 (参考図表)非課税品目と経過措置品目のウエイト (1) 非課税品目のウエイト 区分 具体的な品目 財(除く生鮮食品) 教科書 一般サービス 公共料金 総合除く生鮮食品 に対するウエイト (%) 0.04 民営家賃、持家の帰属家賃、外国パ ック旅行、各種私立学校等授業・保 育料、PTA会費、出産入院料 公営等家賃、診療代、介護料、国公 立学校等授業・保育料、各種保険料、 各種取得・手数料(印鑑証明、戸籍 抄本、パスポート、自動車免許) 合計 21.7 7.3 29.1 (2) 経過措置品目のウエイト 区分 具体的な品目 財(除く生鮮食品) プロパンガス 一般サービス 公共料金 総合除く生鮮食品 に対するウエイト (%) 0.8 携帯電話通信料 2.2 電気代、都市ガス代、水道料、下水 道料、し尿処理手数料、固定電話通 信料 7.0 合計 10.1 (注)以下の分類は組み替えて定義(「」内は総務省公表ベース)。財=「財」-「電気・ 都市ガス・水道」、公共料金=「公共サービス」+「電気・都市ガス・水道」 (出所)総務省 8
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