グループ法人税制外しと連結納税外し

Transaction M&A News
グループ法人税制外しと連結納税外し
Issue 94, November 2016
In brief
グループ法人税制下においては、100%資本関係にある内国法人間で行われる一定の資産の譲渡により生
じた譲渡損益は繰延べられることとなります。一方で 100%子会社の株式を従業員等の外部株主に一部保有
させることで、形式上は完全支配関係が外れた法人間の一定の資産の譲渡について譲渡損失の計上が可
能となります。今般、完全支配関係を外すことを企図した従業員への第三者割当増資及び増資後に行われ
たグループ内での固定資産の譲渡にかかる譲渡損失の計上について、増資の経済合理的な理由が見当た
らないとして法人税法第 132 条(同族会社等の行為又は計算の否認)を適用し否認する国税不服審判所の
裁決事例が確認されています。一方、連結子法人の時価評価課税や欠損金の切捨てを回避するためのい
わゆる連結納税外しについては現在のところ否認事例は確認されていません。
このように、グループ法人税制外しにかかる否認事例が確認されたことや昨今の組織再編にかかる法人税法
第 132 条の 2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)の適用状況を勘案すると、グループ法人税制及び
連結納税の適用判断についても、より慎重な対応が必要になると考えられます。
In detail
1.
グループ法人税制外しについて
(1)グループ法人税制の概要
グループ法人税制は、100%の資本関係にある内国法人間で行われる一定の資産譲渡、寄附、配当、株式
の発行法人への譲渡等につき、税務上は損益を認識しない仕組みであり、平成 22 年度税制改正により導入
されています。本制度導入前は 100%グループ内の内国法人間での資産の譲渡取引であっても、一般的な
グループ外への譲渡取引と同様に資産を譲渡した法人は譲渡時に損益を認識する必要がありましたが、本
制度導入後は資産を譲り受けた他の内国法人において資産の譲渡等の事由が生じる時点まで課税が繰り
延べられることになっています。
グループ法人税制は、「完全支配関係」を有する内国法人に適用されます。ここで、完全支配関係とは、一の
者が法人の発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する関係として政令で定める関係(親子関係)
又は一の者との間に当事者間の完全支配関係がある法人相互の関係(兄弟関係)と定義されています。ただ
し、この発行済株式 100%を保有しているか否かの判定にあたっては、次に掲げる株式又は出資を当該発行
済株式等から除外して行うことになります。
① 自己株式又は出資
② 発行済株式総数(自己株式を除く)のうち、次の株式の合計数が 5%未満である場合の当該株式
(ア) 従業員持株会(民法上の組合方式)の所有株式
(イ) 役員又は使用人に付与された新株予約権の行使により役員又は使用人が取得した株式
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以上を前提とすると、たとえば従業員持株会が 5%以上保有している状況、外部株主が一部保有している状
況、第三者割当増資により役員や従業員が一部株式を保有しているような状況の場合には形式的にはグル
ープ法人税制の対象外として取り扱われることとなります。
(2)グループ法人税制外しにかかる法人税法 132 条の適用
(1)に記載したような手法により形式的にはグループ法人税制の対象外とした場合であっても、意図的なグル
ープ法人税制外しを企図したものとして法人税法 132 条が適用された事案が以下の通り裁決されています。
従業員数約 1,000 名の同族会社 X 社と不動産業を営む Y 社は、グループ法人税制適用前は完全支配関
係(一の者及びこれと特殊の関係のある個人が法人の発行済株式等の全部を直接又は間接に保有する関
係がある法人相互の関係)を有するグループ法人であったのですが、グループ法人税制適用後に X 社の総
務経理部長 1 名に対して第三者割当増資により取得条項付株式を発行しています。これにより形式上は X
社と Y 社は完全支配関係を有しない会社同士となり、以後数回にわたって X 社は Y 社に不動産を譲渡、譲
渡損失を計上することとなります(譲渡損失のみではなくて譲渡利益が計上された取引もあったようです)。
原処分庁は、本第三者割当増資について、他の従業員に募集等も行わず、特定の 1 名のみに対して行った
少額の増資であったこと、発行された株式が取得条項付株式であったこと等から、従業員の士気高揚や資金
調達といった、本来従業員に対する増資の際に見出される経済合理的な目的は認められない等の理由によ
り、法人税法第 132 条第 1 項を適用し、第三者割当増資を否認し、X 社と Y 社との間には完全支配関係が
あるものとして、譲渡損失、譲渡利益を否認しており、国税不服審判所も原処分庁の更正処分を適法として
います。
かねてから形式的なグループ法人税制外しに対しては警鐘を鳴らす声も多い状況でしたが、裁決事例が出
てきたことにより今後より慎重な対応が求められると考えられます。
2.
連結納税外しについて
連結納税制度を採用する場合、連結納税開始時や開始後に子法人が連結グループに加入する際に一定の
子法人(5 年超保有法人や適格株式交換により子会社化した法人等)以外の法人については、一定の資産
についての時価評価や欠損金(法人税)の切り捨てが必要となります。連結納税は外国法人を経由した
100%子法人は連結子法人に該当しないこととされており、たとえば一部株式を外国法人経由で保有させるこ
とで形式的には当該子会社は連結納税グループとしないこととし、時価評価課税や欠損金の切り捨ての回避
といったいわゆる連結納税外しを行うことが可能となります。
公表情報によれば、現在のところ連結納税外しについての法人税法第 132 条(あるいは第 132 条の3(連結
法人に係る行為又は計算の否認))が適用されたとする事例は確認されていないものと理解しています。しか
しながら、上記グループ法人税制外しにかかる否認事例が確認されたことから、連結納税外しについても今
後厳しい視線が注がれることが予想されます。
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