2016年11月25日 13084 ケベック州 チーフアナリスト シニアアナリスト 内藤 幾島 寿彦 真 長期格付 AA+ 見通し* 安定的 短期格付 ― (長期格付は、原則として外貨建長期発行体格付を表示) ※本件は20xx年xx月x日付で格付を変更しました。同日付のニュースリリースを御参照ください。 ※あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ で提供するための平衡支出金や社会保障や教育の充 実を目的としたものがあり、州政府の歳入基盤を補 完している。 1. 概要 ケベック州は、カナダ連邦の東部に位置し、面 積は166.8万平方キロと日本の約4.4倍に相当する。 15年の名目GDPは3,776億カナダドル、人口は約826 万人とそれぞれカナダ全体の約2割を占め、カナダ 連邦を構成する州及び準州の中では、オンタリオ州 に次いで大きい州。製造業や金融サービス産業が盛 んであり、経済は15年の一人当たり実質GDPが4万 カナダドルを超えるなど高度に発展している。財政 では90年代後半からの財政健全化の取り組みによっ て財政赤字はGDP比1%以内に抑えられているほ か、政府債務も財政赤字の抑制や返済基金の設立な どによって着実に縮小している。連邦からの独立問 題は、独立を問う州民投票が80年と95年に実施され たがいずれも否決されたほか、独立を党是するケベ ック党に対する支持も低迷するなど独立機運は大き く後退している。 3. 社会政治基盤 ケベック州は人種では9割がフランス系、宗教は 9割がカトリックであり、一般的に社会民主主義思 想が支持されており、比較的安定した社会を形成し ている。人口構成は他州と比べて高齢化が進んでい るが(65才以上人口割合:18%)、人口増加率は移 民の流入もあり過去3年平均の伸びは0.7%となって いる。政府は財務省、外務省、司法省、経済省、労 働省など20省庁から構成される。州議会は、事実上 自由党とケベック党による二大政党制となっている が、民主行動党も二党の不満を吸収し一定の支持を 集めている。現状では、14年4月の総選挙で勝利し た自由党の単独政権であり(全125議席中70議席)、 安定した政治基盤を確保している。自由党は中道 で、リベラルな政治を推進しており、州の連邦から の独立は支持せず、連邦政府と良好な関係を維持す ることを重視している。ケベック党は連邦からの独 立を党是とする左派であり、労働組合や地域住民が 支持基盤。過去2回の独立を問う州民投票の否決や 近年の総選挙の敗北などから、独立を政策の前面に 打ち出さなくなっている。連邦からの独立はケベッ ク党を除けばどの政党も支持しておらず、政治の中 心は経済や社会保障などに移行している。 2. 連邦政府と州政府との関係 カナダは連邦政府、10州及び3つの準州から構成 されている。連邦と州は独立関係を維持する連邦国 家であり、州の権限は憲法で規定されている。これ によると、州には直接税の課税権があるほか、教 育、保健、社会サービス、財産権及び公民権、天然 資源などを規制する広範な権限が与えられている。 債務の借り入れなども州独自の判断で行えることと なっている。州の歳入のうち約8割が所得税や消費 税などによる自主財源で占められ、残り約2割は連 邦政府からの交付金となっている。交付金には、州 の財政状況に関わらず同水準の公共サービスを全土 4. 経済基盤 経済は15年の一人当たり実質GDPが4万カナダド <1> Issuer Report ルを超えるなど高度に発展し、産業構造は二次産業 が中心であり、一次金属製造、航空、運輸機器、情 報・通信、バイオ薬品、金融・保険など多様化して いる。一次産業は、鉄、亜鉛、ニッケルを産出する が、石油は生産しておらず構成比は小さい。電力は 州政府が所有する水力発電会社(ハイドロ・ケベッ ク)が豊富な水資源を利用し州のほぼ全土に供給し ている。輸出はGDP比47%(2015年)と高く、輸出 構成比は8割以上が米国や州及び準州向けであり、 これら地域の経済の影響を受けやすい特徴がある。 また、高齢化の進展などから先行き労働力不足が懸 念されるが、政府による女性や高齢者の雇用促進策 が奏功し、近年労働参加率は上昇傾向にある。 世界的な金融危機の発生から09年の経済成長率 はマイナス成長となったが、それ以降は1-2%の成 長を続けている。15年の経済成長率は1.1%と14年 の1.5%に続いて緩やかな成長にとどまった。これ は、燃料価格安による購買力増や雇用改善から個人 消費は安定した伸びを続けたが、非住宅投資の回復 の遅れやカナダ他州向け輸出の落ち込みなどが影響 したとみられる。先行き経済は北米自由貿易協定の 見直しなど不透明要素もあるが、外部環境に大きな 変化がなければ、個人消費が底堅い動きとなる中、 投資や州向け輸出が増加に転じ、16、17年とも12%成長となる見通しである。 に比べて高水準にあるが、14年度の同55.1%からわ ずかながら低下した。政府は06年には債務削減に向 けて減債基金を創設し、25年度までに同比率を45% まで引き下げる計画を推進している。ハイドロ・ケ ベックや民間水力発電会社の電力使用料や投資収益 などを毎年財政から拠出して積み立てており、15年 度末残高は84.8億カナダドル(GDP比2.2%)となっ ている。政府は慎重な債務管理運営を行っており、 債務は分散した投資家に保有されているほか、償還 期間は12年と長く、為替リスクも取っていない。ま た、15年度末の流動性は111億カナダドルと政府の 16年度の年間資金調達金額の約8割に相当する充分 な金額を保有している。 6. 総合判断・格付の見通し 格付は高度に発展し多様化した産業構造、財政 収支均衡の達成と政府債務削減目標への固いコミッ トメント、カナダ連邦政府からの交付金を通じた財 政支援などを評価している。他方、格付は他の州に 比べて依然大きい政府債務などから制約されてい る。政府は15年度の財政収支均衡目標を達成してお り、16年以降も中期財政計画に基づいて収支均衡の 維持と政府債務の削減に取り組む方針である。16年 度から経済成長を促進するため小規模な経済支援策 を本格的に導入するが、財源は同計画で既に確保さ れている。緩やかな経済成長が見込まれる中、これ までの慎重な財政運営や財政健全化実績などを踏ま えれば、計画通り財政収支は均衡を維持し政府債務 もGDP比で低下していくとみられる。 5. 財政基盤 世界的な金融危機の発生による歳入減や経済対 策などから、09年には小幅な財政赤字となったが、 政府は「財政収支均衡法」に基づいて、慎重に財政 健全化を進めてきた。これにより、15年度(2015年 4月∼2016年3月)に収支均衡目標(財政収支均衡法 上の財政赤字)を達成した。減債基金への拠出や偶 発準備金をそれぞれ14億カナダドル、3億カナダド ル計上しており、これらを除けば、実際にはGDP比 0.5%の黒字となった。政府は中期財政計画に沿っ て16年度以降も財政収支均衡及び政府債務削減を進 める中、政策の軸足を徐々に経済支援に移行させて いく計画である。経済支援策は20年度までに総額 36.5億カナダドル(GDP比1%)を計上しており、 主に家計や企業の税負担軽減、民間投資促進策、さ らには労働市場対策などを実施する予定である。こ れらの財源は既に確保されている。中期財政計画は 慎重な経済見通しの前提を置いており、歳出の伸び を歳入以下に抑えているほか、債務削減に向けた減 債基金への拠出、準備金も計上されている。 15年度末の政府総債務残高はGDP比55.0%と他州 <2> Issuer Report 13084 ケベック州 ●主要経済財務指標 単位 名目GDP 2011 十億カナダドル 人口 2012 344.7 2013 354.0 2014 361.2 2015 370.1 377.6 万人 800.8 808.5 815.5 821.5 826.4 一人当り実質GDP カナダドル 40,167 40,198 40,349 40,670 40,889 実質GDP成長率 % 1.9 1.0 1.2 1.5 1.1 消費者物価上昇率 % 3.0 2.1 0.7 1.4 1.1 失業率 % 7.9 7.7 7.6 7.7 7.6 歳入/GDP % 24.8 24.7 25.7 25.8 26.1 歳出/GDP % 25.3 25.4 26.2 25.8 25.7 利払費/GDP % 2.7 2.8 2.9 2.8 2.7 基礎的財政収支/GDP % 2.2 2.1 2.5 2.8 3.1 財政収支/GDP % -0.5 -0.7 -0.5 0.0 0.5 財政収支/GDP(財政収支均衡法) % -0.8 -0.5 -0.8 -0.2 0.0 自主財源/歳入 % 80.4 80.1 80.1 80.7 80.8 純政府債務/GDP % 53.2 54.2 54.8 55.1 55.0 ※直近期は、速報値をもとに指標などを掲載する場合があります。 (注)会計年度は4月∼3月 (出所)ケベック州統計局、ケベック州財務省 ●格付明細 (単位:百万円、%) 象 格付 見通し* 発行額 利率 発行日 償還期限 公表日 外貨建長期発行体格付 AA+ 安定的 - - - - 2016.09.09 自国通貨建長期発行体格付 AA+ 安定的 - - - - 2016.09.09 対 <3> Issuer Report ●長期格付推移 (長期発行体格付またはそれに準ずる格付) 日付 格付(外貨建) 見通し* 格付(自国通貨建) 見通し* 1997.07.01 AA - - - ケベック州 1998.07.31 AA - - - ケベック州 1999.09.10 AA - - - ケベック州 2000.08.22 AA - - - ケベック州 2001.10.16 AA - - - ケベック州 2002.11.28 AA - - - ケベック州 2003.12.12 AA 安定的 - - ケベック州 2004.11.09 AA ポジティブ - - ケベック州 2005.10.13 AA+ 安定的 - - ケベック州 発行体名 *「見通し」は、長期発行体格付の見通し。クレジット・モニターの場合は、見直し方向を表示。 本ウェブサイトに記載された情報は、JCR が、発行体および正確で信頼すべき情報源から入手したものです。ただし、当該情報には、人為的、機械的、またはその他 の事由による誤りが存在する可能性があります。したがって、JCR は、明示的であると黙示的であるとを問わず、当該情報の正確性、結果、的確性、適時性、完全性、 市場性、特定の目的への適合性について、一切表明保証するものではなく、また、JCR は、当該情報の誤り、遺漏、または当該情報を使用した結果について、一切責 任を負いません。JCR は、いかなる状況においても、当該情報のあらゆる使用から生じうる、機会損失、金銭的損失を含むあらゆる種類の、特別損害、間接損害、付 随的損害、派生的損害について、契約責任、不法行為責任、無過失責任その他責任原因のいかんを問わず、また、当該損害が予見可能であると予見不可能であるとを 問わず、一切責任を負いません。また、JCR の格付は意見の表明であって、事実の表明ではなく、信用リスクの判断や個別の債券、コマーシャルペーパー等の購入、 売却、保有の意思決定に関して何らの推奨をするものでもありません。JCR の格付は、情報の変更、情報の不足その他の事由により変更、中断、または撤回されるこ とがあります。格付は原則として発行体より手数料をいただいて行っております。JCR の格付データを含め、本文書に係る一切の権利は、JCR が保有しています。JCR の格付データを含め、本文書の一部または全部を問わず、JCR に無断で複製、翻案、改変等をすることは禁じられています。 <4>
© Copyright 2024 ExpyDoc