世界のビジネス潮流を読む AREA REPORTS エリアリポート World 世 界 外国人材を生かすには ジェトロ海外調査部国際経済課 米山 洋 日本で働く外国人が増加している。少子高齢化に伴 年に 1.6%と主要先進国の中では最も低いグループに う人材不足が企業経営にとっての重しとなり始めてお 属する。他の主要国を見ると、同比率が 1980~90 年 り、日本企業は外国人留学生など国内の外国人材活用 代にかけて緩やかに上昇を続けた後、2000 年ごろか への関心を高めている。今後は、企業が組織を挙げて ら拡大に転じた国が多い(図 1)。ドイツのそれは 00 「言葉の壁」を解消し、外国人材を生かす視点が重要 年以降も停滞を続けたが、10 年からは上昇し始めた。 になろう。 外国人就業者が増えてはいるが… また、一貫して日本を下回ってきた韓国でも 08 年に 初めて日本を上回り、13 年には 2.0%まで拡大した。 日本は外国人のストック(13 年 207 万人)、フロー 厚生労働省によると、日本国内で就労する外国人労 (同 31 万人)ともに、図 1 に掲載した主要 7 カ国中第 働者は、2015 年に前年比 15.3%増の 90 万 7,896 人と 6 位。人口比だけでなく、絶対数においても低水準に なり、3 年連続で過去最高を更新した。業種別では製 とどまっている。 造業の約 30 万人が最多で、次いで約 12 万人のサービ ス業(他に分類されないもの) 、卸売業・小売業(約 日本企業は外国人留学生採用に意欲的 11 万人) 、宿泊業・飲食サービス業(約 11 万人)、教 日本企業の間では、国内の教育機関に在籍する外国 育・学習支援業(約 6 万人)、情報通信業(約 4 万人) 、 人留学生への関心が高い。日本と母国双方の事情に通 建設業(約 3 万人)の順。近年は製造業への就労者数 じ、かつ日本人学生同様に新卒で採用して自社内で育 が横ばいである一方、卸売業・小売業、宿泊業・飲食 成できるためだ。近年、在日外国人留学生数は増加傾 サービス業などが伸びている。 向にあり、15 年度には前年度比約 2 万人増の 20 万 外国人労働者のうち、いわゆる「専門的・技術的分 8,379 人と、過去最高を更新した(図 2)。日本語教育 野」に区分される労働者は 16 万 7,301 人と、全体の 機関を除く高等教育機関に在籍する留学生に限定して 18.4%を占める。同分野の在留資格には、 「技術・人文 見ても 15 万 2,062 人と、これまでのピークの 10 年度 ケティング業務従事者などが含まれる「技術・人文知 識・国際業務」の在留資格保有者の 12 万 1,160 人。同 資格保有者数は、11 年(8 万 5,091 人)比 42.4%増加し た注。同資格保有者は、情報通信業(21.1%) 、製造業 (17.6%)、卸売業・小売業(16.8%)で働く比率が高い。 国内で働く外国人は増加傾向にあるが、日本の就労 人口全体に占める外国人の比率は、世界的に見て低水 準にとどまっているとみられる。人口に占める外国人 (母国の国籍を有する者)の比率を見ると、日本は 13 70 2016年12月号 図1 主要国の人口に占める外国人比率 (%) 14 ドイツ 韓国 スペイン 12 10 イタリア 英国 日本 米国 8 6 4 2 0 84 ある。うち最多は、日本企業で働くエンジニアやマー 19 知識・国際業務」 「企業内転勤」「経営・管理」などが 85 90 95 00 20 注:米国とスペインは2000年以前の値なし 資料:OECD「International migration database」を基に作成 05 10 11 12 13 (年) AREA REPORTS 図2 日本国内における外国人留学生数の推移 (万人) 25 20 学部・短大・高専 大学院 専修学校 準備教育課程 日本語教育機関 高等教育機関計 外国人留学生数 15 10 5 表 日本企業による「言葉の壁」への対処方針(複数回答) 日本語、外国語ともに堪能な人材を採用 26.6 40.5 23.5 25.8 27.7 外国人社員に対する日本語研修の実施 20.8 23.4 20.2 22.1 18.8 日本人社員に対する外国語研修の実施 14.7 30.4 11.2 16.0 12.7 マニュアル整備によりコミュニケーションを効率化 9.3 7.0 9.9 10.8 7.2 通訳を活用 8.5 8.9 8.4 11.2 4.6 昇進・昇給の条件に一定の外国語能力を設定 4.8 15.2 2.4 6.1 2.9 社内の英語公用語化を推進 2.7 4.4 2.3 3.3 1.7 自動翻訳などの情報システム投資を推進 1.8 3.2 1.4 1.8 1.7 36.3 22.8 39.3 33.9 39.9 その他 1.9 1.9 1.9 2.0 1.7 無回答 9.2 7.6 9.6 7.8 11.3 特別な取り組みは実施していない 0 1998 99 2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 (年) 注:①2011年以降は日本語教育機関在籍者も含めた留学生数を計上。②外国人留学生数 は各年5月1日時点 資料:日本学生支援機構「外国人留学生在籍状況調査」を基に作成 (単位:%) 全体 大企業 中小企業 製造業 非製造業 (n=857)(n=158)(n=699)(n=511)(n=346) 注:母数は、外国人社員の採用・雇用の課題について「日本人社員とのコミュケーションに支障が多い」 「日 本語能力が求める水準に達していない」と回答した企業 資料:ジェトロ「2015年度版日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」を基に作成 (14 万 1,774 人)を上回った。高等教育機関における 学生支援機構によると、外国人留学生が日本企業への 外国人留学生は、中国出身者が全体の約半数(7 万 就職に当たって不安に感じる項目としては、「自分の 4,921 人)を占め最も多く、ベトナム(2 万 131 人) 、 日本語が通じるかどうか」が最多で、「職場で良い人 韓 国(1 万 3,397 人)、 ネ パ ー ル(8,691 人)、 台 湾 間関係をつくれるかどうか」「希望する仕事に就ける (5,610 人)がこれに次ぐ。 ただ、国内における外国人留学生の規模は、世界的 かどうか」などを上回る。現状では、日本企業と外国 人材の双方にとって、言語が大きな障壁となっている。 に見ると少ない。経済協力開発機構(OECD)による では、「言葉の壁」の解消に向けた日本企業の取り と、外国人留学生は、国内の高等教育機関に在籍する 組みは――。前出のアンケート調査で言語関連の課題 全学生の 3.5%にとどまり、OECD 加盟国平均(8.6%) を指摘した企業に対処方針を尋ねたところ、全体の を大きく下回る(13 年時点)。これは、英語を母国語 36.3%が「特別な取り組みは実施していない」と答え、 としないフランス(9.8%)やドイツ(7.1%)におけ 対策が手付かずの企業が最も多かった(表)。一方、 る外国人留学生比率と比べても開きがある。日本政府 何らかの取り組みを行う企業では、「日本語、外国語 や大学などによる留学生誘致、あるいは受け入れ体制 ともに堪能な人材を採用」「外国人社員に対する日本 整備の本格的な取り組みは緒に就いたところであり、 語研修の実施」がともに 2 割を超えた。次いで多い 外国人留学生の今後の拡大余地は大きいとみられる。 「日本人社員に対する外国語研修の実施」(14.7%)も 「言葉の壁」解消を 日本企業は、外国人社員を雇用するメリットとして、 「新たな販路の開拓」や「対外交渉力の向上」を挙げ 含め、上位には社員個人のスキルに課題解決を委ねる 項目が並んだ。対照的に、「マニュアル整備によりコ ミュニケーションを効率化」や、「社内の英語公用語 化を推進」など、組織的な対応は限定的だった。 ている。ジェトロのアンケート調査で外国人社員を雇 国内労働力人口(15 歳以上)は 98 年(6,793 万人) 用、もしくは今後採用を検討する企業にそのメリット をピークに減少に転じ、15 年には 6,598 万人となった。 を尋ねたところ、上記回答の比率がともに 4 割を超え 国内の労働力人口が中長期的に減少に向かう中、日本 た。うち、 「販路の拡大」を挙げた企業の割合は、大 企業にとって、外国人材の活用は従来よりも身近な課 企業(41.7%)よりも中小企業が 47.6%と高い。 題となりつつある。社員個人のレベルにとどまらず、 一方、外国人社員の採用や雇用における課題として は、 「組織ビジョンの共有が難しい」 (20.1%)と並び、 組織を挙げて「言葉の壁」解消に取り組み、販路開拓 や対外交渉力向上に資する外国人材を活用する視点が、 「日本人社員とのコミュニケーションに支障が多い」 今後ますます重要になるだろう。 (19.0%)との回答が多かった。「日本語能力が求める 注:2011年は「技術」と「人文知識・国際業務」の両在留資格の合計。 2015年4月から新設の在留資格「技術・人文知識・国際業務」に移 行した。 水準に達していない」 (16.4%)も上位に入った。日本 71 2016年12月号
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