高い生残性を期待できる マナマコ中間育成・放流技術 東海大学 生物学部 海洋生物科学科 教授 櫻 井 泉 1 マナマコとは? • 分類 – 棘皮動物門、ナマコ綱 • 生活型 – 表生性、懸濁物・堆積物食性 • 分布 – 北海道〜九州、朝鮮〜遼東半 島、サハリン〜千島沿岸 – 水深40m以浅の砂底・岩礁底 • 生活史 – 夏季に産卵 – 受精後20日は浮遊幼生 – その後変態・着底 – 2〜3歳で成熟、寿命は7〜8歳 • 漁業 – 日本全国で漁獲 – 各地で稚ナマコの 人工種苗生産・放流を 実施 – 愛知県や佐賀県では 養殖も開始 2 技術の背景 • 中国市場で食用ナマコの 需要が高まり、価格が急騰 • 日本各地でマナマコの人工 種苗生産・放流を実施 安定した漁獲量を目指しているけれど・・・ マナマコ人工種苗の放流(赤池2015) 放流後の分散、外敵からの食害による減耗により 回収率が低い。 稚ナマコを一定の大きさで放流し、分散・食害防止 を可能とする中間育成方法の確立が喫緊の課題 3 従来技術の概要 (株)西村組では、ウニをターゲットとした匍匐性動物 制御施設の特許を保持している(特許第4859556号) 拡大 拡大 ポケット部 ↙ 空 空 気 気 ←障壁部 特徴 ・匍匐性動物は空気を嫌うため、ポケット部に空気充填することで 移動を制御することが可能 ・ポケット部が長くなると、波による動揺で空気が漏出 →仕切りにより空気層の動揺を抑制 4 従来技術の問題点 • 仕切りから逃避する恐れが懸念 • 上部が開口しているため、稚ナマコを食害する魚類 の侵入は防止不可 • 海水交換が行われにくく、堆積物分解による貧酸素 化により生育環境が悪化 • 稚ナマコを回収する際、ハンドリングで減耗 拡大 拡大 仕 切 り 仕 切 り 5 中間育成施設の開発 • 問題解決のため、以下の特徴をもつ中間育 成施設を開発! 1) 稚ナマコを収容する収容箱本体 2) 収容箱本体を安定させる錘 3) 内部に海水を導入する海水交換手段 4) 稚ナマコの付着のための飼育マット 海水交換手段 ↘ 飼育マット ↙ 収容箱本体→ ↖ 錘 外観図 断面図 6 収容箱の特徴 1.四方を包囲する障壁部 • 形状は正方形のほか長方形・多角形・円形など必要に応じ て適宜選択 • 仕切りがなくても空気が漏出しないことと、陸上からのク レーン施工を想定し、一辺を5m程度に設計(設置環境に応じて 適宜選択) • 部材は、錆止め加工した鉄板・ コンクリートブロック等を連結し て構成(素材は限定しない) 効果 施設内にナマコの確保が可能 クレーンでの吊り上げ設置可能 費用削減 障壁部→ 7 収容箱の特徴 2.障壁部両面に設置されたポケット部 • 必要に応じて障壁部片面or両面に設置 • 空気を漏れにくくするため、40cm程度の深さに設計 (設置場所の波条件を考慮して適宜選択) 効果 ポケット部に空気を入れることで ナマコの移動を制限できる 仕切りをなくしたことで、逃避の 可能性がゼロに! 40cm ↖ ポケット部 8 収容箱の特徴 3.上面が開放した開口部と海水交換手段を設置 • 波・流れにより海水を内部に導入、浮泥の堆積を抑制 • あらゆる方向から導水するように複数配置することも想定 • 傾斜面に当たった海水が内部へ流入 • 配置位置は、流向・流速に応じて 適宜選択 海水交換手段 ↙ 流れ 効果 開口部をネットで覆うため、魚など の外敵の侵入を防ぐ 静穏な場所でも海水交換可能。浮 泥が抑制され水質悪化を抑える 9 収容箱の特徴 4.2層敷設した多孔質マットを設置 • 上を大目合、下を小目合にすることで、 上に大型ナマコ、下に小型ナマコが付着 • 浮泥は下層底面に沈降 飼育マット ↙ • 生分解性素材の使用によりマットごと放流 効果 食害されやすい小型ナマコを保護 マットごと放流することで、放流時の 減耗を抑制 (上層のみの移設で大型のみを放流可) 10 模型実験 空気ポケット無 空気ポケット有 11 模型実験結果(残存個体の推移) 12 実験(調査場所・施設) 古平 ↘ • 縦2.4m×横2.4m×高さ1.1mの施設2つを用意 • ポケット部に空気充填した試験区の施設と空気充填し ない対照区の施設を準備し、古平漁港内の水深6m域 に沈設 13 • 底面に飼育マットとしてヘチマロンを敷設 実験(調査方法) • 平均体長4.5mmの人工種苗4,000個体を使用 • 2014年11月に各々2,000個体ずつ収容後、翌年10 月に回収するまで計5回の追跡調査を実施 • 各区4定点のヘチマロンを潜水で陸上げ、稚ナマコ の個体数と体長を計測 • 施設内外の水温・流速を連続観察、施設内の堆積 14 物量・硫化物量を測定 実験(ナマコの成長結果) 40 試験区 体長(mm) 30 対照区 20 10 放流時 0 0 (11月) 101 (2月) 185 (5月) 経過日数 332/335 (10月) 回収時 • 平均体長:11月から2月は海水温が低いため、101日 目まで成長は見られない。その後伸長し、回収時に 24.4〜27.9mmに成長 中間施設がない場合とほぼ同程度、マナマコは空 気ポケットにより移動制限がされていても、通常の 15 生息域と同程度の成長が見込まれる 実験(ナマコ回収率の結果) 試験区 対照区 率 生 2,000 放流個体数 336 回収個体数 回収 残 (%) 16.8 2,000 155 7.8 • 中間施設がない場合(13mm種苗の6か月後の回収率=0.7%;酒井2015)に 比べいずれも顕著に高値 • 中間施設内の半閉鎖的環境により分散抑制 • 空気が充填されている施設では更なる分散抑制効果 当該施設は稚ナマコの成長に支障を来たすことなく 回収率向上に有効 更に施設内外での水温は差がなく、流速も半減、 16 施設内の堆積物は1cm、硫化物も未検出 期待される効果 • 稚ナマコの分散を抑制するとともに、外敵から 守ることができるので、高い回収率での中間 育成・養殖が期待 • 蓄養用として大型個体の出荷調整に利用可能 であり、高価格・安定供給が期待 • 陸上施工が可能、設置費の節約が期待 • 静穏域への設置により本体の軽量化が可能 であり、安価な製作が期待 17 想定される用途 • マナマコを含む匍匐性動物の種苗放流 のための中間育成施設 • マナマコを含む匍匐性動物の蓄養・養殖 施設 • 陸上飼育施設を持たない地域における 匍匐性動物種苗の短期飼育施設 ナマコ ウニ アワビ サザエ 18 実用化に向けた課題 鋼材(錆止め加工)の施設で稚ナマコの健全な成育と 高い回収率は検証済み 1.利用者の要望に合った施設規模が設定できる ようコンクリートブロックによるユニット化の検討 →公共事業への採択を目指して 2.ブロック継目の気密性確保の検討 3.生分解性マットの開発 19 企業への期待 • 現在、漁港整備では、本来機能の維持・創出とともに、水産 生物の生息環境や蓄養等に配慮した施設整備が要請 • また、市町村では、ナマコ増産のための中間育成施設の整 備を国・道府県に要望 1.本技術を利用(プレも可)する企業・団体を募集 匍匐性動物の養殖などを検討している漁港漁場整備 を手掛ける建設会社には本技術の導入が有効! 2.生分解性素材の技術を持つ企業との共同研究 を希望 20 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称(出願番号) 1) 匍匐性動物の放流施設(特願2015-118204) 2) 稚ナマコの中間育成施設及び放流方法 (特願2016-067569) • 出願人 1) 株式会社 西村組・学校法人 東海大学 2) 株式会社 西村組・学校法人 東海大学 • 発明者 1) 山田俊郎・高橋伸次郎・櫻井 泉 2) 山田俊郎・櫻井 泉 21 お問い合わせ先 • 株式会社 西村組 – 〒099-6404 北海道紋別郡湧別町栄町133番地の1 – 研究開発室事務局 高橋伸次郎 – TEL:01586-5-2111 FAX:01586-5-2700 – E-mail : [email protected] • 東海大学 – 〒259-1292 神奈川県平塚市北金目四丁目1番1号 – 産官学連携センター産官学連携推進課 – TEL: 0463-59-4364 FAX: 0463-58-1812 – E-mail: [email protected] 22
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